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東へ進め!夏祭り⑥伝言と目撃

今朝のあれは何だったのかしらね、と首を傾げながらブラブラと通りを歩く少女達。


夏祭り中日の目玉になる催しは、夕方から始まる各種コンテスト。午前中は大通りの露天を巡りながら、公園広場でお昼を食べてそのままコンテスト見物をするつもりだ。



「おはよーさん、あれれ。今日はおめかししてないのかい?コンテストまでにはちゃんと着替えるんだよ」


「え?コンテストの見物にドレスコードがあるのですか?」



顔見知りの主婦の言葉に面食らうが、勿論見物にドレスコードなど無い。

主婦はてっきり二人が「美少女コンテスト」に参加するのだと思っていたと笑っていた。



「私、出るならパンの大食いコンテストが良いなぁ。でもあれって男の人しか出れないんでしょ?不公平だよー」


「女はダメって事も無いと思うが、やめときな。どうせ優勝は毎年決まってるんだしね。参加費が高くつくだけだよ」


「むー。かわりに女子限定のピュアチ大食いコンテストとかお菓子の大食いコンテストがあれば良いのにぃ」


「聞いてるだけで胸焼けしそうだぜ。よ、ちょっと久しぶりだな」



さらっと会話に加わったテオールに、少女達も久しぶりとにこやかに返す。主婦は「んまぁ、騎士様のお出迎えかい?あんた達も隅に置けないね!」とテオールが夏祭りのお誘いに来たと勘違いしていた。



「ギーコって女を知ってるか?」


「存じておりますわ。ギーコさんがどうかなさいましたの?」


昨日の朝、出会った女人の白い顔を思い出す。そう言えば、何やら不穏な気配が迫っていたような気がする。


「ん、その女が脱走者が居るって騎士団に通報したお蔭で1人捕まえれたんだよ。で、あー…うー」


何やら口ごもるテオール。かなり言いにくそうに続けた話によると、ギーコの居た花街は後ろ暗い人々が多いので騎士団と関わる事を厭う。


にも関わらず、今回はギーコが騎士団を呼んだ。


花街でも鼻つまみ者の捕縛になったが、ギーコを『裏切り者』だの『仲間を売った』と謗る声もある。

今後のギーコの身を案じて騎士が捕縛協力の礼に保護を申し出たが、それを断ってかわりに伝言を頼んで来たという。


テオールは花街について口にするのが気恥ずかしいようだったが、少女達は全く意に介していない様子でギーコの事を心配している。



「伝言?ギーコさんが私達に?」


「そう。えーと…『お嬢ちゃん達のお蔭で踏ん切りがついたから、村へ帰ってのんびり畑を耕すよ。ありがと』だってよ」


ギーコの透けるような白い肌を思い出したが、本人がそれを望むのならば畑作業で日焼けするのも承知の上なのだろう。

帰る、というならば実家がある村だろうから、安心だ。


「…お前らみたいに平民を満喫するお気楽人生が一番の贅沢だって、ギーコって奴も気付いたんじゃねえの?じゃ、伝言はちゃんと伝えたから俺は帰るぜ」



テオールの遠ざかる背中を見送り、少女達は「ギーコさんは日焼けしている方が健康的で美人さんかもね」と微笑みを交わした。




昼が近いものの、まだ買い食いする気の起きない二人。ふらっと覗いた露天で思わず二度見するものが売られていた。



「これは…買うしかありませんわ!!止めないでエルダ、止めても買いますわよ、買いますとも!」



財布を握り締めて興奮状態のリュールに、エルダが諦めの表情で力無く頷いた。好きにして、とか細い声で答える。


「そちらの黒焼きと、この蛙さんの干物と、それは?白蛇の姿焼きでしょうか?…白黄斑蛇ですの?うーん。ではそれは結構ですわ、あら、白蛇の燻し焼きもありますの!?では燻し焼きは是非とも買わせて頂きますわ!!」


ゲテモノしかないお店だ…と、虚ろな瞳のエルダがイキイキと買い物するリュールの背中をぼんやりと見詰めている。


「まいど!!いやー、毎年ここに店を出すけどこんな可愛いお嬢ちゃんのお客さんは初めてだよ」


ほくほく顔の店主だが、呪いや民間療法目的ではなく、リュールがライセンスを持った医薬品作りを生業にしていると聞いて大喜びでオマケを追加してくれた。


「ウチは此処の隣の領で細々と薬種問屋をやってるからね、医薬品の作り手と知り合えて嬉しいよ。王都の高慢なお医者様なんぞより、可愛いお嬢ちゃんに使われる方が薬種も喜ぶだろうからねぇ」


隣の領に来たら是非遊びにおいでと店名と場所を教わり、ご機嫌なリュールがくったりしたエルダと手を繋いで歩く。



「エルダ、あれはもしかして…ワズラーン様ではないのかしら?」



リュールが示した先には、いつも顔色の悪い青年のワズラーン。今日は見慣れた仕官服ではなく、白いシャツにカーキのズボン姿で地味だがサッパリしている。

休日を満喫中のワズラーンが、頬を赤らめてギクシャクと歩いている。



「うわ、ホントだ!あっ、あの女の人ってマリリオン様のお世話係りのお姉さんだよね。髪を下ろしてるからいつもと少し雰囲気が違うけど、多分あのお姉さんだよ」



普段はお団子頭でキッチリしている、マリリオン付きの侍女がワズラーンの隣に居た。

背の高いワズラーンに隠れてしっかりと姿が見えないものの、チラチラと見えた侍女は本日は若草色のワンピースで裾にはクリーム色のフリルという余所行きと思しき装いだ。


「お邪魔しては悪いですもの、私達はこのまま公園広場へ向かいましょうか」


ワズラーン達とは距離があるが、何となく足音を忍ばせてそっとその場を後にした。



公園広場の木陰は既に埋まりつつあり、どうしたものかとブラブラしていたら三人娘+三人の少年達が少女達を見つけて『コッチにおいでよ』と声をかけてくれた。


用意の良い彼等は敷物の上で寛いでおり、そこにお邪魔して長閑な昼下がりを満喫。

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