東へ進め!夏祭り③午後
屋台であれもコレもと食べ歩き、ぽっこりお腹で木陰の下でちょっと一休み。
時刻はまだ昼下がりで、陽は高く気温も高い。だが、祭りの陽気な空気で人々は弾けるような笑顔ばかりだ。
「お腹は苦しいけど、楽しいね」
エルダが手籠を膝に乗せて、うーんと背伸びしながら言う。リュールも、拭ってもすぐまた額に滲む汗を拭き拭き「そうですわね」と朗らかな声で返す。
「つい、浮かれて買い過ぎてしまいましたわ。今日は食べる物はもう買わなくて良さそうですわね」
互いの手籠にみっちり詰まっている食べ物を見比べ、苦笑いする。今夜の夕飯分まで賄えてしまう量だ。
「えへへ。あ、でもさ持ち歩いて傷むと勿体ないから一回帰って置いてくる?ちょっと腹ごなしも兼ねて」
「確かに、そうですわね。一度お家に帰りましょ」
トコトコと帰って、テーブルに買った物を一旦並べる。高いものはないが、衝動買いの多さに二人してペロリと舌を出して笑う。これもまた、夏祭りの醍醐味ということで小さな散財には目を瞑る事にした。
「おーい、居るかー?…ま、居ないよなぁ」
玄関がノックされたので、土間の近くに居たリュールが「居りますわ、どうぞお入りになって」とドアを開いて招き入れたのはエルディオン。
「うわ、びっくりした。ダメ元で来たとは言え、ホントに居るとは思わなかったぜ!」
「荷物を置きに戻っておりましたので。入れ違いにならなくて良かったですわ」
「エルディオン様、その格好って凄く暑そうだね~」
エルダは暑苦しい変装姿に呆れ顔だが、そのままの格好で街を歩けば黄色い声で騒がれたり群がられるのが煩わしいらしい。
「領民に好かれるのは、煩わしい事ですの?」
含み笑いのリュールに、エルディオンが白い目でジロリ。
「未来の領主として慕われるなら喜ばしいが、珍獣扱いで持て囃されるのは煩わしいだろ。分かってて聞くなよ、また魔王って呼ぶぞ?」
街の女性ならば、エルディオンの貴公子な外見に見惚れたり、きゃあきゃあと頬を染めては感嘆するのが殆ど。ごくたまに熱烈なアピールをしようと大胆不敵な事をしでかそうとする者が居るが、周りが止めるので大事には至らない。
「夏祭りは近隣の領の貴族もたまにお忍びで来るからなぁ、迂闊に邪険にもできねーし。あ!そうそれな!!本題!」
本題と口にしたエルディオンが蕩けるような最上級の笑みを浮かべ、少女達に『良い知らせ』を伝えに来たのだと言う。
「今すぐ領主館に来い!超特急で、だぜ!!」
来たら分かる、とにかく来いとしか言わないエルディオン。二人にとって凄く良い事だから、変な心配は要らないとニコニコしている。
夏祭り中は馬車の使用が制限される為、街の外れまでは徒歩。そのまま歩いて領主館に向かうのかと思っていたら、そこからは馬だった。
領主館の生活棟前、エルディナの庭へと通された少女達が目玉がこぼれ落ちそうな程に見開く。
「リューちゃん!エルちゃん!」
「リュール、エルダ」
二人の女性が、そらぞれ立ち上がって少女達の名を呼ぶ。
「お母様!?」
「おかーさーーん!!」
エルダは無邪気に母へと突進してタックル…抱きついた。
リュールは逆に猛突進してきた己の母を一度ひらりとかわして、勢いの削がれた母へと一礼してから抱きついた。
「積もる話もあるだろ?堅苦しい礼儀は後だ、後。二時間ぐらいしたら、来るからそれまで親子水入らずでどーぞ。なんかあったらそこのベルで呼べば誰か来るから」
じゃあな、と言ってエルディオンが生活棟の外へと去った。
まさかの再会に、親子二組がしばし無言の包容。母達は、娘達の無事に成長している事に涙を浮かべているし、娘達はこの突然の邂逅を無邪気に大喜びしている。
しばし後、漸く落ち着いて四阿で話をする。
この再会劇の絡繰りを聞いて、少女達は唖然としながらもルゴール辺境伯への感謝の気持ちを口にする。母達も、後程お目通りが可能ならば、己達も重々礼を述べておくとの事。
また、もう一人の恩人はリュールの祖父なので、 リュールの母が『今度里帰りしたら、ちゃんとお礼しておくわ~』と軽く言っていた。
「大きくなったわねぇ、リューちゃん。ちょっとクルッと回ってみて?キャー!可愛い、可愛いわリューちゃんたらそのお洋服凄く素敵よ!ヤダ、よく見たらエルちゃんと同じ布じゃないの?エルちゃんもクルッとして!いやぁん、最高!ここなんて天国なの!?」
主に一番はしゃいでいるのはリュールの母で、同じテンションとノリが4人の中で一番年若いエルダであった。
両家の話、少女達の話。聞いて笑って、話して笑って。絶えず明るい声に満ち溢れた二時間は、あっという間に過ぎてしまった。
「フォルベール子爵夫人、マヌエル男爵夫人。当主が戻りましたので、このまま中へご案内致します」
「じゃあ、また後でね!」
「はい、お待ちしておりますわ。私達の分もルゴール伯様にお礼をお願い致しますわね、お母様方」
「勿論ですよ」
夏祭り1日目は夜の催しは無いので、お忍び・他言無用という約束で『貴族のご婦人方』である母達はこっそりと少女達の家へとお泊まりすることになっている。宵闇に乗じてこっそりと送ってくれる手筈になっていると聞いて、母達と別れた少女達は走り帰って出迎えの準備を始めた。




