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東へ進め!夏祭り②午前

ギーコさんは大丈夫なのかしらと心配したが、酒場宿の息子さんの『あの辺の人達はその手のトラブルに慣れてるから問題ないし、自衛で済まなきゃまた騎士団を呼ぶから平気』という落ち着いた言葉にホッとした。


「ご親切に有り難うございました」


「どう致しまして。じゃあね」


さっさと立ち去ろうとした青年が、思い出したように振り返って付け足した。


「良い1日を。せっかくの夏祭り、楽しんで」


「ありがとー、 お兄ちゃんも良い1日を!」


エルダにお兄ちゃんと呼ばれた青年は控え目に笑顔を浮かべると、小さく手を振って去った。



流石に懲りたのでなるべく大通りを選びながら、中央広場のほうへと向かって歩く。



日が昇ってきたのもあって、道行く人の数も増えてきた。やはり普段よりも少しお洒落している女性は圧倒的に多い。


「わぁ、見て!あの子達とっても可愛い。昔読んだ絵本のお姫様みたいよ」


「ホントだね。でも、今日の為に一生懸命準備してくれた君も凄く可愛いよ。僕だけのお姫様だね」


年上のカップルの甘い会話に少女達は「お幸せに~」と心の中でエールを送る。


その後も時々「可愛い」だとか「あら素敵」という声に照れたり喜んだりと忙しく、おめかしして良かったね!と二人でクスクスと笑いあって歩く。


中央広場に近づくにつれて、人の流れが増えて行く。また、楽しげな声や楽の音も聞こえるようになってきた。



「あ!お店みーつけた。リュール、行こっ」


ぴょんぴょんと跳ねるエルダの髪が揺れて、肩の上でふわふわと舞うのをニコニコと眺めてリュールが頷く。


「らっしゃー。あ、カワイコチャンズご来店あざーす」


エルダが回れ右しかけたのを見て、出店の青年が「いらっしゃいませー、怖くなーい怖くなーい。ほーらおいでおいで。チーチッチッチ」と妙な客引きをする。


「高価な書籍が売り物ですの?」


リュールが顔に『警戒中』と書いてあるかのような顔で尋ねるが、青年は胸を張って威張る。


「俺の最大の売りはこのイケてる顔!残念ながらこの俺は売ってやれないが、かわりに俺の自伝的詩集を夏祭り特価で売り出し中さ。試し読みもあるぜ、どれにする」


「あ、結構です。じゃ、頑張って~」


そそくさと逃げ出す少女達。青年は『照れないで!帰っておいでー』と叫んでいるが、二人はすたこらさっさ。

イケてる顔と言っていたが、何のことだろう。ごく普通の顔立ちをしていた気がする。そんな美的感覚で綴る自伝的詩集と言われては試し読みする勇気もわかない。


「お店にも色々とあるんだね…」


「つ、次に参りましょう。ほら、あちらに何やら人集りがありましてよ」


リュールが示した先には、確かに出店に列ができている。何のお店かしらと最後尾の客に尋ねてみた。


「シッ!人が余計に増えちまう。あのな、ここは幻の毛生え薬があるっていう有り難いお店なんだ。お嬢ちゃん達には用が無いだろ、あっち側の通りにお菓子やジュースの出店が並んでるから行った行った」


しっしっと追い払われてしまった。どうも、今朝から何だか微妙についてないような気がする少女達だが気を取り直して教えて貰った通りへと向かう。



「あら二人とも。全然見ないと思ったら、どこをほっつき歩いてたのよ」



三人娘と遭遇して、少女達が今朝方からの経緯を話す。三人娘は呆れを通り越して、憐れみの目で少女達を見る。


「選んだのかと思うぐらい、時間のムダになるトコばっかり行ったのね…朝っぱらからお疲れ様。ま、ここで会えて良かったじゃない。方向修正して、真っ当に夏祭りを楽しんでよ」


「オススメの場所は皆が教えても、そうじゃない場所って逆にわざわざ話題にしないから盲点だったね。来年からはその辺はもう行かない方が良いよ」


他にも幾つか情報を伝授してもらって、三人組と別れる。彼女達はこれから男の子三人組と『お試し公開デート』なのだと聞いている。


「三人とも、すごーく可愛いね!行ってらっしゃい、良い1日を」


エルダの言葉に三人とも、頬をピンクに染めてはにかむ。誰からも誘われないとヤキモキしていた三人なだけに、三人纏めて男の子達と一緒に夏祭りを楽しめるのは相当嬉しいらしい。


「ありがとう。二人も良い1日を!」


三人組の地から若干浮いているのかと思うような軽やかな足取りを見送って、少女達も『気を取り直して、真っ当な夏祭りを楽しみましょ』と張り切って歩き出した。


暫く歩くと、見慣れた顔の店主が居る屋台を見つけて少女達は安堵する。ごく普通のピュアチのジュースが売り物だが、夏祭り初のマトモなお店だ。


「染み渡りますわ…」


少々ババ臭いリュールの言葉に、店主が笑う。エルダもゴクゴクと飲み干して『ふぃー、生き返った』と伸びをしている。早朝から歩き続けており、日が登りきった今は暑い。


井戸で良く冷やされたピュアチのジュースは、知らぬうちに水分の抜けていた二人の身体を癒やして冷ましたようだ。


先へと進むと、他にも色々な出店や屋台が並んでいる。


「わぁ!いっぱいあるね、楽しいね」


「えぇ、本当ね!目移りしてしまいますわ」


無邪気に夏祭りを満喫しはじめた少女達だが、迷子にならないようにとしっかり手を繋いでいる光景に道行く人々が『綺麗な子と可憐な子なのだが、妙に微笑ましい』だの『エルフと妖精が夏祭りに来ているのかと思った』だのと言われていた。

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