東へ進め!お土産にどうぞ
夏祭りは中止か延期になると思っていたら、予定通りに開催するとの公式発表が出た。
「ん?誰も死んでないから別に不謹慎じゃないし、毎年夏祭りを楽しみにしてる奴らが大勢いるからな。あんな大惨事があったからこそやる意味ってのもある」
金貨の詰まった袋を押し付けあって一悶着した後、折れた少女達が有り難く『お礼とお詫びと買取金とか色々てんこ盛り』なお金を受け取ったのに安心したエルディオンが、夏祭りに関する公式発表を一足先に教えた。
「ほんとに一足、ですわね。告知板が来ましたわ。聞いた通りの内容だからそのままお隣に回してしまったけど、良かったかしら?」
「うん、ありがとー」
砦の方はほぼ元通りの業務に戻り、執務塔は数人の高位役職者以外は通常業務へと戻っている。どちらも期日の迫った夏祭りの開催に向けて多忙ではあるが、皆、楽しそうな顔をしているのが救いだ。
「クルス叔父貴が、夏祭りが済んだら魔力や魔法について教えてくれるってよ。そのかわり、お前らが知ってる事も教えてくれたら有り難い、だってさ」
「ご教授願えるのは有り難いのですが、私達がクルス様に教えて差し上げられる事なんてあるのかしら??」
「無いねぇ。私達、火種と飲み水を出した事しかないもん。クルス様みたいに風を纏うのとかカッコイイから憧れちゃうよね~」
無邪気に笑うエルダだが、エルディオンが『あれ?』と疑問を口にした。
「叔父貴が風の魔法を使うのを見たことあるのか?」
「ございませんわ、でも風の子をいつも傍に連れておられるようですもの。風の気配がいつも傍にありますでしょ?」
「それがカッコイイよねぇ。風の加護って、魔力や魔法と関係あるのかなぁ?前にクルス様に借りたご本には魔法と精霊の関係は書いてなかったんだよねー」
「………叔父貴、夏祭り終わるまで我慢できるかな………」
この二人は無邪気で脳天気そのものだが、かなり凄い事を言っているような気がする。
エルディオンが遠い目をして、これを帰宅したらクルスに直ぐに言ってよいものだろうかと思案する。
「夏祭りといえば、マリリオン様はお元気ですの?」
「ん?ああ、元気だぜ。そう言えばお前らに会いたがってたな。最近は毎日執務塔まで通えるようになったけど、魔物襲撃のゴタゴタで納品部を縮小してたからお前ら来なかったもんな」
「五日後にはまた納品に行くんだよ。昨日、わざわざリュスカさんがウチまでお知らせに来てくれたの」
タイミングよく、午前中にリュールがピュアチ茶を作っていたのでその材料の余り、加工ピュアチであのおやつを作っていた。
手土産に渡すと、リュスカが大喜びしてくれた。
「これ、その残りだよ。食べる?」
「貰うかな。……おっ!?なんだコレ…うまっ!!え、まじかうまっ!ヤバッ!怖いぐらい中毒性があるなこれ。なぁ、マリリオンにちょっと持って帰ってやりたい」
「いいよー、リュールがピュアチ茶をかなり作ったからこれも量産できたもんね」
なぜそんなにピュアチ茶を作ったのかと言えば、ミドリーロに熱烈に勧められたからだ。
新規納品許可証が出れば作った分を納品すれば良いし、出なかったら全て買い取らせてくれ!!
と、普段はおっとりしているミドリーロが目を爛々と輝かせて迫ったので、気迫負けしたリュールは昨日1日延々とピュアチ茶を大量生産していた。
「ごちそーさん。今度なんかお礼にいいもん持ってきてやるから、楽しみにしててくれよ」
エルディオンはほくほく顔で帰ったが、マリリオンと一緒に祖母と母がお茶の席にいた。興味津々な二人に、少女達から貰ったお土産だと答えたら目の色が変わった。
「けっこーな量を貰った気がしたんだけど、な…」
皿はあっという間に空になった。
エルディオンが館でションボリしている頃、少女達はアーカイネの所に行っていた。
店先をのぞいたらちょうどアーカイネがおり、先日の材料のお礼にと加工ピュアチを使ったお菓子を渡した。
「お菓子?ふーん、ありがと」
躊躇なくその場でパクリといくアーカイネ。もしゃもしゃと咀嚼しながら店奥の祖母の元へ。
「アーちゃん、何だい?」
「これ、すごくおいしいの。リュールとエルダがくれたお菓子」
少し耳が遠い祖母の口に、アーカイネがお菓子を突っ込む。歯の少ない老婆になんてことを!と店主であるアーカイネの父親が真っ青になった。
「ほー、なんとも優しくね美味しいお菓子だろ。柔らかいからババには有り難いねぇ」
「でしょ。あとではんぶんこね」
孫と祖母の微笑ましい遣り取りを見て、少女達は店主に会釈してそーっと店を後にした。