◆壊れた鍵と魔物◆開拓地・テオール
魔物に襲われ開拓地へ行った。
「…無理すんなよ」
そんなに情けない顔、してねーと思うけど。ビアールのオヤジが俺の頭をグリグリ撫で回してきた。
「んー、平気」
壊れた建物、散らばる生活道具、地面のどす黒い染み。焦げた臭いや漂う生臭さ。…思い出して胸が苦しい。
それでも俺は、顔を上げて胸を張る。いつも脳天気そうに上を向いてる、あの二人のように。
「開拓地の周りを一周したら、輪を広げてもう一周。その後は、近くの村も同じように頼む」
クルス様に、声を掛けられた。
「ハッ!承知致しました」
まだ見習いだけど、騎士の礼をすればクルス様が笑った。嫌な笑い方じゃなくて、暖かい笑い方だ。
「良い騎士になるね、お前は。頼りにしているぜ」
ふわっと風が頬を撫でて、ピュアチの香りが広がった。あ、これはクルス様の魔法だ…。
「村の見回りが済んだら、一旦こっちに戻ってくれ。じゃあな、テオール」
見回り中に開拓地から割と離れた場所で魔物を3体発見、その全てを無事にビアール達が討伐した。
近くの村は念入りに周ったが、魔物の気配はない。他の討伐騎士達も、魔物の痕跡は見当たらないという。
開拓地へ戻って報告すると、クルス様から労いの言葉を貰った。ビアールのオヤジやクルス様達が話し合いをする間に、開拓地のど真ん中からごく微かだが魔力を感じた。
魔物とは違う…けど、コレって魔力だよなぁ?
剣を抜いたまま、ジリジリと魔力の方へと進む。うん?何か変てこりんな物を見つけた。なんだこりゃ!?
「テオール!点呼に遅れるとは…どうした!?」
怒鳴りかけたビアールたが、俺が「クルス様は!?」と尋ねるなり大声でクルス様を呼んだ。すげぇ声だ。
「直ぐに案内してくれ!ビアール、ワズラーンを守れ。ワズラーン、念の為お前は俺達から少し離れて記録しておけ。弓兵、構えて待機せよ!」
報告を聞いたクルス様の顔が、怖いくらいに真剣なものになっている。
俺が感知したごく僅かな魔力。それは、確かに魔物の放つモノではない。もちろん、人間でもない。
「…これ、何ですか?」
緊張感のない間抜けな質問に聞こえるのは分かってるけど、でもホントに何なんだ??
「それこそ、【鍵の壊れたドア】ってヤツさ。よく見つけたな、テオール。これで次の被害は防げたんだ。お前の手柄で何十人もの生命が守られる」
やべぇ、全然意味が分からん。ビアールのオヤジは…あ!目ぇ逸らした!!オヤジも絶対分かってねぇな!
後でワズラーン様に教えてもらお。
あの二人に影響されて、呑気になってたんだろうか。
俺は至近距離でクルス様の魔力を浴びてひっくり返っちまった…。うう、情けない。オヤジや皆は慰めるけどさ、騎士見習いがこんな重大な任務中に女の子みたいに気絶なんて………恥ずかし過ぎて悔し涙が出るぜ。
クルス様は「テオールの感知能力が向上しているのに気付かなかったよー、スマン!」って爽やかに謝ってくださったけど。
俺、別に感知能力は変わってないんだよな。うう…。