東へ進め!緊急依頼④
約束通り、翌朝早くにエルディオンが訪れた。
一晩ぐっすりと眠って元気溌剌なエルダと、朝が弱めで少し眠そうな顔のリュール。
僅かな仮眠しかとっていないエルディオンに熱い薬茶を振る舞って、話を聞く。
ルゴール辺境伯領地北部は殆ど未開地で、その面積は領地全体の三分の一と広大。長年コツコツと開拓を行っており、今現在は二つの開拓地に人員や資材、資金などを注ぎ込んでいる。
その内の一つに、魔物の群れが来襲したのだという。
開拓地には討伐騎士をはじめとする在駐の騎士達がいるが、魔物の群れの規模を見て即座に非戦闘員の避難を開始。
同時に、早馬で領主館と近隣の村や町へと報せを出した。早馬から報告を聞いた後、ルゴール伯とメレンガート医師の判断であの緊急召集の鐘が打ち鳴らされる前から少女達の召集が指示されていた。
「魔物の群れについての詳細はまだ入ってないが、報せの時点で『火炎・鎌鼬・毒』の被害者が既に結構な数になってたらしくてな。砦や館の備えだけじゃ足りないだろう、ってんでリュールに緊急依頼を出す事になったワケだが…」
ぺこりと頭を下げるエルディオン。
「本当にスマン、呼びつけて説明どころか依頼のいの字も言わないまま容赦なくこき使って申し訳なかった」
エルディオンとしては、身分差のある己から言えば平民の少女達が逆らえない事に気付いた時に激しく己の迂闊さを悔やんだ。表立って口にはできなくとも、これで少女達にはさぞ落胆なり嫌悪されたと思えば……驚くほど、へこんだ。
「緊急事態ですもの、そんな些細な事は気にしておりませんわ。それよりも他に私達でもお役に立てる事はございまして?」
「毒消し丸薬はもう町にも無いけど、食糧とか色々な支援物資を集めたりとか…怪我人のお世話とか、色々あるよね。町や街の皆に声をかけて集めるぐらいなら出来るよ!」
え、とか、あ、とか。ポカンとしたエルディオンが間抜けな声を発する。
「あー…ホント、まじでありがとな。物資類の運搬や怪我人の看護なんかの手配は一通り済んでるがまだ向こうの詳細な情報が届かないから、今は待機中ってとこだ」
少女達を交互に見詰めて、エルディオンが微笑む。
「…お前達が寛大な心を持っている事に、感謝する。お前達の献身的な尽力がなければ、これほど素早い対応は出来なかった。届けた薬でどれほど多くの者達の生命が救われるか…」
キョトンとしてエルダが『私達、当たり前の事しかしてないのに大袈裟ですよ?』と声をかける。リュールは『昨日から寝てないのでは?』と言って頭のスッキリする薬茶を淹れようかと尋ねた。
「当たり前の事って……」
「私達もここの領民ですもの。領地の一大事に、出来る事があるのならば全力でやるのみですわ」
「困ってる人がいたら、助けようとするのは当たり前っていうか考えるまでもないごく普通の事だもんね。エルディオン様は難しく考え過ぎだよ」
「そっか、ありがとな。…緊急召集は一般市民を守る役職や身分の者が対象で、本来は召集義務の無いお前達に『緊急依頼』である事を説明してから医薬品の制作と提供をして貰うのが筋だったんだが。お前達の底抜けのお人好しと、俺のとんでもない間抜けぶりでこんなドタバタ劇になっちまった」
開拓地からの報告次第では、また改めて協力要請をするかも知れないとエルディオンが言えばにこやかに『いつでもどうぞ!』と答える少女達。
疲労感はあるが、晴れやかな気持ちで砦へと戻るエルディオン。この未曽有の大惨事すら、辺境伯領地全体で一丸となって乗り越えてみせると胸に誓った。




