東へ進め!緊急依頼①
砦の入って直ぐの玄関広間で、緊急召集を受けて駆け付けた人々が所属に応じて行くべき先に割り振られてゆく。
「騎士団環境衛生班トネルとトールです、地下広間で宜しいか」
「そうだ、班長は来ている。指示に従ってくれ。ミャマ!お前さんもトネル達と一緒に行ってくれ。カロフ!ワズラーン、お嬢さん方を円卓の間へ」
人々は一様に緊張した表情だが、不安そうな顔をしている者は少ない。指示通りの場所へと速やかに移動し、私語が一つも聞こえない統制ぶりに少女達は驚いた。
マルスの指示に従い、円卓の間に急げば見慣れた顔が幾つか並んでいる。入室するなりルゴール伯の方から大股で歩み寄り、リュールに一枚の紙を手渡した。
「リュール嬢、説明は後だ。まずはこれを見てくれ」
「…今朝方納品した中にここにある医薬品が幾つかございます。残りの数点は家にあるものをかき集めれば間に合いますが、後は材料から集める事になります」
走り書きを受け取り目を通しながら答えると、ルゴール伯がエルディオンを呼びつけた。
「材料の確保、医薬品作りの全面をバックアップしろ」
「了解。リュール、エルダ行くぞ!俺は先に納品部に寄ってからお前さん達の家に向かう。お前さん達はまず、家にある分をかき集めておいてくれ」
円卓の間から出ると少女達を家に送るように砦の騎士に指示を出して、エルディオンは領主館へと向かった。
「私達の備蓄分の化膿止め、毒消しの丸薬、止血剤ですわ」
「火傷用軟膏は納品部から回収できたが、数が足りない」
「ただいまー!火傷のお薬の材料、揃ったよ!」
エルディオンが回収してきても足りないのは書付を読めば分かっていた事なので、帰宅直後に送ってきた騎士に頼んでそのまま材料集めの足になってもらった、事後報告になって申し訳ないと謝る。
「いや、良い判断だ。問題ない」
「残りの不足分の毒消し丸薬ですが、町の皆さんにお裾分けした分を皆さんがそのまま備蓄しておられれば分けて頂けるかもしれませんわ」
「!!」
一番重要かつ、1から作れば時間がかかると聞いていただけに、これは朗報だ。
外に控えていた騎士にエルダを託し、毒消し丸薬の買取回収に送り出す。
「私は火傷用軟膏を作りますわ」
「頼む。何か手伝えることはあるか?この非常事態だ、使い走りでも雑用でも構わん」
「では…アーカイネさんの乾物屋でコルチネの葉を二束とモーヒネ草、ジコタコリスの実を一笊買ってきて下さい」
それならば私が、とリュールを乗せて来てくれた騎士が土間に汲んだ水を置くなり飛び出して行った。
「あの方の善意に甘えて水汲みをお願いしておりましたの。申し訳ありませんけど、そこの暖炉と竈でお水を沸かして頂けます?薪はそこの山と、足りなければ納屋にもございますわ」
二階の作業スペースから必要な材料や道具を下ろしてリュールが大掛かりな医薬品作りの下準備を始める。
「戻りました!アーカイネ嬢も一緒です」
「リュール、おばぁちゃんががもしかしてゴアマヒ油とかエホー脂が必要なんじゃないか?って……!?…え、エルディオン様!!??」
乙女の憧れ、エルディオンの存在に気付いたアーカイネが失神しかけてふらりと傾きかけたが、カッと瞠目して踏みとどまる。ゴアマヒ油はかなりの高価な品だ、倒れて瓶を割るなど論外。
「ありがとう、必要ですわ。おいくらになりま「俺が払っておく。リュールは続けてくれ。他に居るものがあるなら遠慮するな」ではお言葉に甘えて、油紙一括りと軟膏を入れる容器…コレに似た物を15ほど」
真っ赤なアーカイネに代金を渡し、騎士に幾らか渡して油紙や容器の買い出しに走らせる。
「…エルディオン様……ではなく、リュール!その工程、ミドリーロなら手慣れてる。呼ぼうか?」
「確かに…お願いしますわ」
ゴリゴリゴリゴリと薬研から目を逸らさず、リュールが答える。つい先日のお茶の時にミドリーロが石臼や薬研に詳しい事は聞いている。個人の趣味で茶葉のアレンジに使っているそうだ。
アーカイネがミドリーロを呼びに向かった。