東へ進め!エルダのお菓子と緊急召集の鐘
夏祭りでの選考会の準備もある為か、納品部が普段よりもバタバタしているようだ。
納品物を抱えた少女達が建物に入ると、普段なら笑顔で出迎えてくれる老爺は不在でリュスカのみだった。
「トラブルがあったみたいでね、そちらの応援に行ってるわ。さて、リュールちゃんからで良いかしら?」
今回の納品を済ませ、前回の納品分の代金を受け取る。すっかり慣れた遣り取りを済ませると、老爺が戻ってきた。
トラブルは無事に解決したそうだが、老爺は見るからにお疲れの様子だ。
「ワシも結構なお年頃じゃからのー、今年の暑さでちとグッタリなんじゃよ。リュール嬢ちゃんが若返りの薬を納品したら即買いなんじゃけどなぁ」
冗談を言うが、その声の張りの無さにドキリとする少女達。もとより枯れ木のような老爺だが、一層細くなっているのは気のせいではない。
気遣わしげな少女達の顔に老爺が目尻の笑い皺を深め、心配はいらないと告げる。若い頃から暑さに弱く、夏場は食が細くなるのが常だと言う。
「じゃあ、これ良かったら食べてみて!」
エルダが手籠から自分の昼ご飯のデザート用に持ってきた、小さな包みを老爺に手渡した。
「ほう?ありがとうさん、エルダ嬢ちゃんのお手製かの。どれどれ…」
早速包みを開く老爺の手元を覗き込むリュスカが、老爺とともに首を傾げる。
細長い指のような形の、乾燥された……?
「何かの?芋では無さそうじゃし、特に匂いもないのー」
「食べてみたら、分かるよ!」
キラキラした瞳のエルダに促されて、小さく千切った欠片を口に入れる。思いのほか柔らかいそれは、ふわりと口の中でとろけてゆく。歯の少ない老爺でも難なく食べれる。
「え、ピュアチなのこれ!?」
同じように一口食べたリュスカが目をまん丸にする。老爺も驚き顔で包みをしげしげと見ている。
「そうだよー、ピュアチ入りのお菓子。リュールのピュアチ茶の材料の余りで作ったんだけど、美味しいでしょ?」
「凄く美味しいわ、エルダちゃん勿論コレを登録したんでしょうね!?」
してないよー、だってそれ余り食材で作ったもん。とにこやかなエルダに老爺が『もったいないのぅ…』と呻くが、作り方を聞いて納得した。
「成る程の、それならばコレ単品での登録はちと無駄が多いのう。ピュアチ茶が無事に選考会で通った暁には、これも日の目を見るじゃろうて気長に待つかの」
老爺はすっかりお気に入りの様子で、ぺろりと一本を食べ終えてしまっている。
ピュアチ茶に使った加工ピュアチの残りを蒸かした芋と混ぜ合わせて、滑らかになるまでよくすり潰す。それを細長く伸ばして日陰で1日干せば完成。
老爺の夏場の食の細さに毎年気をもんでいたリュスカは、ピュアチ茶の副産物のお菓子に感謝感激している。
リュールも自分用のお菓子をリュスカに贈呈して、納品部の建物を後にした。
多忙を極める文官部屋で仕事に励んでいると、カロフが駆け込んできた。開け放たれたままの扉の向こうでは、カロフの部下や騎士が奔走しているのが見える。
「リュール嬢はいるか!?おい、ワズラーンお前も来い。それにエルダ嬢もだ。緊急召集がかかるぞ!!」
カロフの言葉に被せて緊急を報せる鐘の乱れ打ちが鳴り響いた。
遠く、砦からも同じ鐘の音が聞こえる。文官達の顔に一気に緊張感が走り、ワズラーンが「聞いていたな。皆、後は任せるぞ」と言い残して部屋を大股で出て行く。
カロフがリュールを、ワズラーンがエルダを乗せて馬を砦へと走らせる。
馬車を用意させる時間すら惜しむ程、切迫した何かがこの辺境伯領地で起きたのだろうか。
いつもは長閑で平和な空気の砦に緊張感が無言で漂っている。




