■領主館・クルス■
人を喰らう魔力を帯びた害獣、それが魔物。
デルロード国では辺境伯領地に魔物が出没するように、他国でも魔物が出現する場所は限定されている。
出現後、獲物を求めて移動するので『この辺り』という大まかな場所でしかまだ分かっていない。
大まかであっても、その近辺を『封印』する事で魔物の出現を防ぐ事が出来ると分かって以降は急速に魔物被害は減っている。
封印の種類や方法は国や地域、施す者によって違う。
クルスは、魔物に関して調べて他国を旅するようになって長い。
愛する家族や領民の為、辺境伯領地の魔物被害をどうにか出来ないかと考えた少年時代。成長とともに行動範囲が広まり、辺境伯家の外交の仕事の傍らで情報収集を始めた。
封印方法の多様性を知るうちに、魔物そのものへの疑問は膨らんでゆく一方だ。
「魔物はどこから出現しているんだか」
特産品の案の話が済み、昼食までの空いた時間に少女達を母の自慢の庭へと案内していた時にクルスが漏らした呟き。
それまでエルダの提案した『散々被害を被った魔物で儲けてやれ!』の話をしていたので、魔物といえば、と、ここ数年間の疑問を何気なく口にしただけだった。
「きっと、鍵の外れた扉の向こうからですわ」
「壁の隙間からくぐり抜けて来ちゃったりとかね!」
少女達の答えは、その時は『意外と詩的な表現をする子達なんだな』としか思わなかった。
だが、しかし。よくよく考えたら、不可解な返事なのだ。
『魔物が特定の場所に出現する』この事実は国家機密にも等しい。にも関わらず、少女達の返答はその事実を知っている上での物なのはなぜか。
そんな事実は全く知らずに、適当に答えただけなのか?しかし、あの口振りではそれは無いと思える。だが、しかし。
ぐるぐると思考が定まらず、堂々巡りを繰り返す。
そういえば。あの子達は魔力がある事を秘匿したがっている。秘匿したがっているが、魔力があることは一部の者達にはバレている。バレている事を少女達は知らないようだが。
その辺りに、答えがあるのかもしれない。思い立ったら即行動、少女達に関する報告書類を調べた。
当主であるオヤジ殿には事情を説明し、少女達の名目上は配流という形の保護を打診する文書から全て読み調べる。
学園から提供されている資料の入学試験の結果に〖魔力:無し〗と書かれているが、配流前に留置された時の資料には〖魔力:微〗になっている。
おかしいだろ、これ。
魔力が微量では、火種を起こすような芸等は不可能だ。にも関わらず、テオール少年の報告書には魔法で火種を起こしたりした記録がある。
俺の知る限りでは魔力の有無や、保持者の魔力量は生まれつきのモノの筈だ。厳しい訓練だの修行だので、多少は増やせるらしいとも聞いた事があるにはあるが…。
宰相の娘からの手紙類を読んで、辟易する。典型的な高位貴族のご令嬢そのもの!といった手紙だ。異常なまでに二人に執着しているのが分かったが、魔力に関しては記述なし。
第三王子からも手紙があったが、教養はあれどもバカなのだと再確認するだけの内容だった。
宰相を始め、城関係からの手紙や文書からもヒントになりそうなものはない。
少女達の身内からも、特に無かったが。一つ、気になったのはリュール嬢の母方の祖父からの手紙。内容ではなく、その祖父の名に見覚えがある。
この人物は〖国宝レベルの魔物の剥製を献上した伯爵〗だったと記憶している。その人物がリュール嬢の祖父とは、もしかしたらその関係で国家機密レベルの情報を知っているのだろうか…?
調べれば調べるほど、深みにはまってゆく気がしてならない。あの、お気楽でのほほんとしたお嬢さん方は何者なのだろうか…。