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■東の砦■ルゴール伯

テオールの魔物発見の報告から一夜明けた翌日。


東の辺境伯こと、ルゴール伯と円卓に並ぶ配下達。


魔物の討伐は発見後すぐに完了しており、その後の調べにおいて他の魔物やその痕跡は発見されていない。今朝方、念の為にもう一度近隣の見回りを行ったが結果は同様。


「予備日の制限を一部緩め、外出が必要な者には護衛をつける。…ふむ、これで良いでしょうか?」


「当面は館の警備を巡回に回し、各自警団は村や町の内側の見張りに留めよ。予備日の解除対象のうち、医療従事者には各個随時対応しろ。領内の商人達は纏めて護衛でよい」


老齢の域のルゴール伯がサクサクと指示を出し、左隣に座る伯の次男がそれを書類にまとめてゆく。


「魔物出現による混乱もなく、テオールが真っ先に役場に報告した事から領民に被害は無し。2日間の行動制限による経済的な被害もほぼ皆無と言って差し支えなし」


ルゴール伯の右隣で長男がちらほらと白髪の交じる頭を掻きながら、ワイナーに目線を送る。


「で、その良い判断をしたテオールなんだけどさ。魔物出現時の報告、あれどうなんだ?」


尋ねられたワイナーがしかめ面で手元の該当書類を弄ぶ。


「事実なんでしょうね、恐らく。これまでの報告からも、件のご令嬢方は…その、そういう反応なり対応をしても違和感は無いかと」


居並ぶ男達が軒並み口々に「まさか」だの「有り得ない」などと呟くなかで、ルゴール伯が豪快に笑った。


「なかなか愉快なお嬢さん方じゃないか。うむ、これならば引き取った甲斐もあろうよ」


「愉快よりも厄介ですけどね?彼女達は『あの』アーガンダ侯爵家と関わりがあるのですよ」


次男が眉間を揉むが、長男は父親似の凛々しい眉をハの字にして筋肉質な肩を下げた。


「可哀相になぁ、まだ子供だってのに。我儘な侯爵令嬢のとばっちりでこんな事になって。親が恋しいだろうに」


自身も子を持つ親としてそう言われると、厄介といったはずの次男も頷く。官としての感想と、親としての感想は別。



「アーガンダが墜ちるまでの保護の筈だったが、さてどうなることやら。宰相の娘の手駒になるのか、第三王子の手駒になるのか。はたまた、自力で貴族に返り咲くのか、それとも…」



ルゴール伯がニヤリと笑って、円卓を見回す。



「箒と鎌で森に入り、魔物に悲鳴をあげることなくパンを投げつけてさっさと逃げる。我が領で他にこのような剛毅な判断ができる娘など他に居るか?」



普通の村人や農民ですら、魔物と遭遇すれば腰を抜かしたり失神するのが常。訓練を重ねた騎士でもあるまいし、よくぞ咄嗟にそんな対応ができたものだ。



「早々に不満を訴えに来るかと思ったが、根性のあるお嬢さん方のようだ。無闇に魔法を使う様子もない。手持ちの金も無駄使いはしていないようだな。当面は様子見を続けるが、結果次第では我が領に正式に受け入れても良いだろう」



そうなれば、彼女達に目を着けている宮廷の権力者達とやり合うのは私ですよねー…と、ウンザリ顔の次男からわざとらしく顔を背けるルゴール伯。



会議が終わり、男達はそれぞれの業務に戻る。部屋に残ったのはルゴール伯とその長男。


「テオールの働きぶりに不満はないが…あやつ、ワイナーから悪影響を受けておるようだ」


「真面目で働き者のワイナーから悪影響?」


「女心の分からぬ朴念仁になりそうだ。見よ、この報告書!年頃の娘を『ふわふわ』と『さらさら』としか形容できんとは呆れた。全くもって遺憾だ」


「…テオールはまだ子供だし、そんなもんだろ?」


「子供の内にどうにかせんかったからワイナーは未だに独身なんだろうが」



ルゴール伯の計らいにより、テオールは今回の功労賞として巷で話題の『恋愛小説』が贈られた。

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