東へ進め!ピュアチ茶とぬいぐるみ
非番のテオールがふらりと遊びに来たので、リュールが特産品の新規納品許可証の選考会に出す品の味見をしてほしいと頼んだ。
テオールはどんな物かも聞かずに気軽に了承した事を後悔している真っ最中。
「ピュアチのお茶…?」
奇異な物を見る目で、テオールがリュールを見る。
ピュアチは甘く濃厚な果汁たっぷり。食べ頃の果肉は歯応えが良く、完熟すればトロトロと口の中で溶ける。熟す程甘くなる一方で、後味には爽やかさも感じるのが特徴だ。
そこら辺にペッと種を吐き出すと翌年には芽が出る。皮は食べないが、乾かしてから燃やすと良い薫りなので、便所の汲み取り後などによく焚かれる。
お茶、とはまさか。皮を乾かして茶葉に…?
それともピュアチの葉そのものが茶葉か…?
幼少の砌に、乾かした皮をかじりそのまずさに大泣きした記憶が蘇るテオール。
「ほら、さぁ、ぜひぜひ。グビッといってくださいな。テオールの為に淹れましたのよ」
にじり寄るリュールに、テオールが椅子ごと後退りする。
「大丈夫だってば~、私も飲んだけど美味しくて飲みやすいよ」
「いやでもだって、ピュアチだろ?何をどうすりゃ果物が茶になるんだよ!」
「それは秘密ですわ」
真顔で迫るリュールに、観念したテオールが溜息を大きく吐いてピュアチのお茶に口をつける。
「………あれ、うまいぞ?」
ピュアチのジュースとは全く違う。果汁を絞り入れたのではなさそうだ。しかし、仄かにピュアチの甘みがある。しかし、お茶としての風味も確かにある。
「ホントにこれ、どうなってんだ??お茶だけどピュアチだし、ピュアチだけどお茶だな!」
混乱気味のテオールだが、確かめるように飲んでは首を傾げたり頷いたりと忙しそうだ。その様子を見て、エルダはニマニマしているし、リュールは『いけますわね!』と小さくガッツポーズをしている。
「ピュアチ茶と名付けようと思うのだけど、どうかしら?既に似たような名前の商品などはありますの?」
「いや、聞いた事が無いぜ。切ったピュアチを薬茶に浮かべる程度ならあるかもしれないけど、ピュアチで茶を作ろうと思うヤツも多分いないと思うしな」
凝った名前を考えるのは面倒だし、分かりやすさ重視で『ピュアチ茶』に決定した。
エルダは魔物部門に出品するべく、魔物のぬいぐるみを作り始めているそうだ。
「ぬいぐるみ??魔物の??子供は泣くだろ、そんなもん」
「大人向けに作るつもりだよ。知ってる?魔物って高く売れるんだよ。牙とかだけでも高いけど、剥製なんて国宝になるんだもん。それっぽく作れば王都の貴族は面白がるんじゃない?」
成る程、と納得するテオール。ワイナーやビアールが幼い頃は、魔物ハンター達がこぞってこの地を訪れていたと聞いた事がある。
「この地の魔物自体も減っているそうですが、魔物ハンターさんも絶滅寸前だと聞いておりますわ。でしたら、魔物の剥製の価値は高騰しますわよね。本物は高過ぎて買えないけど
、ぬいぐるみなら買えるでしょ」
そもそも、剥製を欲しがる事が理解しがたいテオール。魔物でなくとも、普通の剥製でも欲しいと思った事はない。
「ま、気負わずに頑張れよ」
緩い声援を残してテオールは帰っていった。