東へ進め!二人の本音、兄弟の敗北
鬼気迫る勢いで何やら書類を纏め上げたエルディオンに促されて、生活棟のエルディナの庭へ。
出迎えた侍女にマリリオンを呼びに行かせる間に、エルディオンから『領の利益になるのは勿論だが、リュールの利益の話が先だ』と説明されて少女達は仰天していた。
「お待たせ致しました。こんばんは、お二人ともお勤めご苦労様でしたね。ところで、兄上もご一緒ということは、リュールさんはピュアチ喉飴の件、承知して頂けたのでしょうか…?」
「利益の話を振る前に即承知されて、今からその利益の話をお前がするところだ」
マリリオンが目を丸くしながらも、利益の説明をする。
「レシピという程の立派な物は御座いませんから、そのような大金を頂く訳には参りません。それに、私が出した案に有用性を見出して頂いただけで光栄ですわ」
謙遜しているようにも聞こえるのだが、顔に『なんか面倒臭そう』と書いてあるかのようだ。
「この地に受け入れて頂いた恩を少しでも返せた気がしますの、それで充分ですわ。ねぇ、エルダ」
「うん。リュールが作る訳じゃないんだから、売り上げの一部でも貰い続けるのは重いよね!変な恨みとか買うのもイヤだし」
スパッと言われて兄弟が呆然としている。
「ぶはは!流石、お嬢さん方だな。エルディオンにマリリオンよ、お前達が諦めるべきだろうよ」
いつから居たのか、ルゴール伯が登場した。慌てて礼をしようとした少女達にヒラヒラと手を振って遮る。
「さて、リュール嬢にエルダ嬢よ。ピュアチ喉飴の生み出す金より、それを受け取った末を想定できているのであれば、何も受け取らない事が何を生じるのであろうな?」
問い掛けられた少女達が半目で考え込む。その答えを待たずに、ルゴール伯はエルディオンに落とし所を問う。
「…文官部屋の一人からの案として扱い、個人名を伏せての報奨金を出す。今後、ピュアチ喉飴の出す利益は辺境伯領地の領民達へと還元する…かな。二人とも多分、毎年帳簿を見る権利とかはいらんだろ」
「「いりません」」
「だろうな。さて、マリリオン。エルディオンの示した落とし所に付け加える物はあるかね?」
「リュールさんの名前を伏せる以上、領外や国外に出る際にフォルベールの名にも触れぬと誓いましょう。また、商品化に際してリュールさんの意見を尊重すると供に、アドバイスなどには都度の謝礼…金銭以外も含めて、誠意有る対応を致します」
真摯な顔の兄弟に、少女達はにっこり笑って『お任せ致します』と答えた。ルゴール伯が呵々大笑して『相分かった。お嬢さん方の信頼は裏切らん』と約束した。
送ろうと申し出てくれたのを、まだ明るいから大丈夫ですと断って少女達は帰ってゆく。
遠ざかる背を見送り、ルゴール伯がニヤニヤ顔を孫達へと向けた。
「まだまだ青いな、二人とも」
ぐぅの音も出ない孫達だが、それでも随分と大きくなったものだとルゴール伯は目を細めて珍しく孫達を優しく慰めた。