東へ進め!エルダの力作とお金
リュールは美顔軟膏と毒消しの丸薬、初夏の葉を使った薬茶を納品した。
エルダは紐細工とコツコツと作り溜めていた品々を胸を張っての納品。
使い易さ重視だが、見た目の可愛らしさも追求した箒が3本。所々に精緻な飾り彫りや、無骨な金具を上から飾り紐で覆う繊細な配慮。3本とも全て同じ意匠だが、飾り紐の色は赤・青・緑とそれぞれ違う物。
同じ意匠に色分けの小さな箒が三つ。片手で使えるサイズの箒だが、短い持ち手の部分にはそれぞれの色の紐がきっちりと巻かれていて持ちやすそうだ。
「私が欲しいわ、これ…」
主婦の目でリュスカがうっとりと見つめている。
「この意匠は実に素晴らしいのぅ。コロンと可愛いピュアチの実と雛鳥と微笑ましい限りじゃよ~」
「可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい…はっ!?…オホン、失礼。さて、此方が控えになるわ」
ちょっと怖かったが、元のリュスカに戻って何よりだ。
新規の納品許可証の選考会について、細々とした説明を受ける。既に参加整理券をエルディオンから貰っており、エントリー登録の手間は無い。
これは、既に納品許可証を保持している者ならば希望者全員に配布されるそうだ。身辺調査の手間を省く為らしい。
「この後、お手伝いが済んだら帰る前にエルディオン様の所を必ず尋ねてね。お忙しい方だけど、その頃には執務棟内にいらっしゃると思うわ」
エルダが元気いっぱいに返事をして、二人仲良く文官部屋へと向かった。
エプロン姿でまずは誕生日の贈り物の礼を述べると、ワズラーンが少しだけ照れた様子を見せた。夏祭りを前にまた忙しい文官部屋でクルクルと働きモリモリと昼食をとる。
あっという間にお手伝い終了の時間となり、お片付け。
「君達、帰る前に忘れずにエルディオン様の執務室に寄っていくようにね。エルディオン様の執務室は半地下の最奥にあるよ」
青年文官に教えられた通り、半地下のエルディオンの執務室へと向かった。
「よぉ、来たな。スマンが少しだけ待ってくれ。そこら辺に適当に座ってくれて構わんぜ」
ガリガリガリガリとペンの音が速いし、全く顔を上げない様子から相当忙しいのが見て取れる。
「悪ぃな、待たせて。んーと、選考会の話なんだけどピュアチの喉飴以外で何か出せるか?」
「はい。幾つか考えておりますわ」
「じゃ、そっちで勝負してくれ。ピュアチの喉飴はもう特産品として決定できそうでな。勿論、リュールさえ良ければの話だけどな」
「問題ありませんわ」
「…早ッ!マジかよ。利益の話とかすっ飛ばしたけど良いのかよ」
「この地に利益があると判断なされた故の決定でしょうから、問題ありませんわ」
「え?」
「え?」
エルディオンとリュールが顔を見合わせる。
「あー、スマン。ちゃんと説明したいから、もうちょっとだけ待ってくれるか?そこの棚に菓子があるはずだから、良かったらそれでも食べながら待っててくれ」
棚を覗いたエルダが神を崇める勢いで『待ちます頂きます』とエルディオンを拝んでいた。
リュールは菓子には手を出さず、エルダが岩クッキーと悪名高い焼き菓子を頬張るのを眺めていた。