東へ進め!リュールのお誕生日・中
翌日にリュールのお誕生日を控え、ウキウキそわそわ。水汲みや洗濯にも鼻歌交じりで、そんな様子を見てご近所さんが微笑む。
仕事の都合で当日は遊びに来れないから、と昼過ぎにテオールが花束とお菓子を届けに来た。
砦の人達から、と言って渡された花束は絢爛豪華で甘い芳香が部屋に満ちる。部屋全体が花束一つでパッと華やぐ。
「無難にフツーの菓子で悪いな、来年はちゃんと考えるからよ。とにかく、誕生日おめでとさん」
テオールはそう言うが、リュールは嬉しさのあまり頬を真っ赤に染めて何度もお礼を言っている。不意打ちでのお祝いもプレゼントも嬉しいが、当然のように来年も祝う気でいてくれる事が何よりも嬉しい。
テオールと入れ替わりで訪れたのは、驚いた事にエルディオンとマリリオン。お忍び?らしくエルディオンは護衛風の変装をしているが、マリリオンはそのままの格好だ。初めての外出で少し疲れているようだ。
「誕生日が近いんだろ?貴族じゃねーなら俺達からも贈り物しても問題ないよな、って事でプレゼント。エルダの誕生日はもう少し後なんだよな、そっちも楽しみにしておいてくれて良いぜ」
エルディオンの身も蓋もない口上にマリリオンが顔をしかめるが、少女達は揃って薔薇色の頬で礼をのべる。その弾んだ声に喜びの深さを感じ、マリリオンが祝いの言葉を向けた。
お祝いのついでにして申し訳ないがと断りつつ、少女達二人分の【新規納品許可証の選考会参加整理券】とその説明書きもプレゼントとは関係ないと念押しの上でくれた。
兄弟を見送ると、今度は顔見知りの青年が訪れた。こちらは領主館の文官部屋からの贈り物だそうで、退勤後にわざわざ訪ねてきてくれたそうだ。顔を綻ばせるリュールに、いつもお手伝い有り難う、誕生日おめでとうと残して青年が帰って行った。
その夜、我慢の限界!と言ってプレゼントを開封するリュール。エルダとともに喜びの声ではしゃぎ、くるくると小躍りした。
テオールは普通のお菓子と言ったが、綺麗な包装紙を剥がせばリュールの好きな干菓子の詰め合わせだった。
エルディオンからは紅茶の葉と、かなり上質と分かる砂糖が愛らしい白磁の壷ごと贈られた。
マリリオンから医薬品に関する書籍と、栞。貴重な書籍なのではと心配したが、抜かりなく『どうぞ気にせず受け取ってください』という旨のメッセージが挟まれていた。
文官部屋からは実用性重視の筆記具がたくさん。どれも消耗品ばかりなので、かなり有り難い。
喜びで興奮状態の二人だが、夜更かしはせずにそれぞれ早々に寝床へ入る。明日は家事も仕事も朝のうちに済ませ、リュールの誕生日を全力で祝う所存である。
少女達もご近所さん方も寝静まった真夜中に、玄関で何やら人影が幾つかうろうろしていたのだが。満月だけがその光景を見ているのみだった。
翌朝一番にソレに気づいたのは、早起きなご近所さん。砦の朝番の仕事の為に夜明け頃に早起きした彼が発見したのは『玄関前に薪が入った木箱が三つ並ぶ』というよく分からない光景。
とりあえず、あれでは少女達が玄関から外に出れないだろうと思い、嫁を呼んで静かに場所をずらしてあげる事に。その際に書き置きを見つけた。まだ薄暗い中で読みにくいが、どうやらこれは少女達へのプレゼントらしい。
〖悪い酔っ払いばかりじゃないですよ、お誕生日おめでとう!リュールちゃんの健康と幸せを祈って乾杯。陽気な酔っ払いのオジサン達より〗
なぜ木箱、なぜ薪?とは思ったが、よく見たら薪の一本にはリボンが巻かれている。酔っ払いの考えは分からないが、祝う気持ちは確かなようだ。
少女達が起きてプレゼントに気づいたら面白い反応をするのだろうな、と想像しながら、登りゆく朝陽に急かされて彼は仕事へと向かった。