東へ進め!リュールのお誕生日・前
町の雑貨屋がミルタから預かった素材を届けに来たり、新規の納品許可証の件についての報告の手紙をテオールが届けに来たりする。
他にも、ご近所さんが遊びに来たりもする。
来客がある度に、問われる事がある。
「お嬢さん方、今度は何をするつもりだい?」「夏祭り、どーするんだ?」「あんた達が次に何をするのかって楽しみにしてるよ」
少女達にしてみれば『ごく普通に平民生活を楽しんでいるだけ』なので、そもそもこれまでに何かした覚えすらない。
「皆さん、私達に何を期待なさっているのかしら?新規の納品許可証の告知は明後日だと言うから、その事では無いはずなのだけど」
「さぁ?でもなんか、みんな期待してる感があるよね。私達は夏祭りの出店許可証も無いし、特に何かするつもりも無いのに、変だよねぇ」
二人揃って首を捻るが、特に思いつかない。
町ではリュールが美顔軟膏を作る噂や、その素材集めを医薬品の素人でも出来る事が大きな話題となっている。純粋に少女達の無自覚な活躍ぶりを楽しみにしている者達も多い。
騎士団ではこれまでに魔物や酔漢相手に斜め上の対応をする少女達なので、夏祭りにも何か有るだろうと踏んでいる。
少女達の行動が事前に把握できるなら警護体制にも反映しようとの考えだ。
街の人々も噂の少女達が納品日以外にも領主館へ赴くので、きっと何かあると思っている。何もなくても普段の言動が何かと面白い少女達なので、見ていて飽きない。
それに、少女達に内緒で『企画中』なのでウキウキしているご近所さん方が多い。
周囲の考えと自己評価に多大なズレがあることに気づかない少女達は不思議に思いつつも、それぞれ作品作りや日常生活に没頭して過ごす。
二人の目下の最大の関心事は『互いの誕生日』なので、そちらの準備にも余念がない。
エルダは数日後に迫ったリュールの誕生日の準備の為に毎晩部屋でゴソゴソしているし、リュールも今からエルダへのプレゼント作りに励んでいる。
お手製のご馳走作りに張り切るエルダが一人での買い物中に店で『リュールには内緒ね!お誕生日のお祝いで、リュールをビックリさせるんだよ~』と楽しそうにあれこれ予約や取り置きを頼んだ事から『それならウチの調理場で仕度すりゃあバレないよ』だの『あら面白そう、私も一枚噛もう』だのと想定外に大掛かりになりつつある。
脳天気なエルダは『みんな優しい!リュール、きっとビックリするよね~』としか思っていない。
ご近所さんの中には領主館や砦に勤める家族を持つ者も多い事をエルダは失念しているし、その様子にご近所さん達がニヤニヤしているなどとは夢にも思わない。
そのご近所さん達にしてみても、まさか自分達の『企画』を掌握済みのルゴール家の人々がほっこりしているとはつゆ知らずで準備は順調に進む。
唯一の懸念事項は、何も知らないリュールが『ケーキは無理ですが、お菓子は自分で用意しますわ。この葉っぱ、食べれますのよ』と言っていた事。勿論、エルダが厳重に禁止令を言い渡してはいる。