東へ進め!それぞれにお買い物
美顔軟膏の材料を揃えるべく、街へ買い物に出た二人。途中、二手に別れてエルダは細々とした日用品の買い足しへ。
夏祭りまでまだまだ日があるにも関わらず、街の人々はどこか少し浮き足立っている様に見受けられる。
「あら、いらっしゃい!エルダちゃん、良いところに来たねぇ。ほらこれ、夏祭りの出店でウチの目玉にするつもりなんだよ。味見してみるかい?」
「わぁ!可愛い、味見する~」
「ちょいとあんた、私らには味見無しでエルダ嬢ちゃんだけ贔屓するのかい?その気持ち、分かるけどね。まー、こんなうまそうに食べるんじゃあげた甲斐もあるねぇ」
「えへへ、凄く美味しい。夏祭り、絶対これはリュールと食べなきゃ!今から楽しみ~」
「二人とも、来てくれたらオマケするからね。それにしても、やっぱりあんた達は二人で夏祭りを回るんだねぇ。仲が良くて何よりだよ」
「おや、じゃあウチの出店にも顔を出しておくれよ。ま、ウチはよくあるピュアチのジュースだから目新しさは無いがねぇ、その分、オマケは太っ腹だよ」
エルダが餌付けされている一方、リュールはといえば。
「ホントのホントに、夏祭りはあの子と一緒に回るのね?抜けがけとか嘘は許さないわよ!」
三人娘の一号に店先でしつこく質問されていた。見かねた店主が娘の頭に軽く一撃、娘がいつも済まないね、と謝罪をのべる。リュールはのほほんと『いつも仲良くお話して貰っておりますの。私達、学園では話しかけてくれる方も少なかったからとても嬉しいですわ』と答える。
「…!」
少女達の身の上は大まかに知っている。それに、街へ来てからの少女達のことは、よく見てきた。だから、リュールが何気ない事のようにさらりと言った言葉に娘は衝撃を受けた。
「あ、あたし達も三人で回るから。別に、誘われないのはあんた達だけじゃないんだからねっ!」
娘は早口でまくし立てて店の奥に引っ込んでしまい、リュールが商品を片手にキョトンとしている。一連の遣り取りを見ていた常連客の主婦が微笑ましいものを見たと笑う。
「あの子ももうそんな年頃なんだね。夏祭りに男の子に誘われないのは、ちょいと気になっちまうのさ。だから、あんた達が男の子に誘われなくても、気にするな、自分達も女三人で回るから一緒だ、そう言いたかったんだよ」
主婦の声が聞こえたのだろう、店奥から「も、もう!おばちゃんたら!」という声がした。しかし、否定の言葉は聞かれなかったので彼女なりの配慮の言葉だった事は分かった。
「ありがとうございます。まぁ、そうなのですね。でも、いつもお三人とも一緒なので個別には誘いにくいだけなのでしょうね。一人だけ誘うと、残りのお二方に悪いと思える程にお三人の仲の良さは私でも見て分かりますもの」
顔は主婦に向けて、言葉は店の奥に向けてリュールが言えば店主がそっと頭を下げた。主婦も、ニコニコと頷いている。
「さて、すっかりお邪魔してしまいましたわ。こちらの品をくださいな。ちょっと数が多めに欲しいのですが、他の方のご迷惑にはなりませんか?」
「毎度!いや、大丈夫だよ。奥にまだ在庫もちったぁあるし、それはそんなには出ないからね。足りないなら出してこようか?」
まだあると聞いて、リュールが遠慮なくお願いする。店主が取りに行っている間、不思議そうな顔で主婦にそんなにたくさん何に使うのかと聞かれる。美顔軟膏を作るつもりだと簡潔に答えると、主婦の目が光った。
…あら、これはミルタさんの時と同じ、目のような…?
ガシッと手を掴まれ、質問責めになるところまで同じだった。尤も、こちらの主婦は小皺が気になるという違いはあったのだが。
在庫を片手に店主が戻るも、主婦の手に捕らわれたリュールの説明が済むまでお会計はお預けとなった。
「ほぉ、美顔軟膏とはね。リュール嬢ちゃんはほんとに何でも作れるんだねぇ。それなら、ヴィーテンに面白い店があるのは知ってるかい?ガラスの道具を取り扱う店でね、薬作りに使えるかは知らないが、香水を作る道具なんかを売ってるそうだよ」
香水、と聞いた主婦の目がまた光る。リュールは香水は作り方も知らないがガラスの道具には心惹かれるものがある。
それぞれに買い物を済ませ、待ち合わせ場所で合流。二人仲良く並んで帰る姿に、街の男の子達がチラチラと目を向けている。二人は呑気にお喋りに夢中で、そんな視線には全く気付いていない。




