東へ進め!故郷は遠くに在りて
家族それぞれの近況報告に領地の様子、少女達の生活を案じた注意書などなど。便箋一枚にみっちりと書かれ、それが家族一人に付き一枚ある。
「皆、元気にしているようで安心ですわ」
「うん!本当に良かった~」
フォルベール家もマヌエル家も、皆で元気に楽しく暮らして居ることが分かった。長年住み慣れた家や家族が恋しく感じるが『これが郷愁の念というものかしら?』と笑いあう。
「いつまでも家族みんなとずーっと一緒、なんて無理だもんね。人よりもちょっと早くお嫁に行ったみたいなものだと思えば悲しい事でもないし」
「えぇ、そうね。でも、国外に嫁がれる方は文の遣り取りも適わぬ事が多い事を思えば、私達はまだこうして手紙を頂けるだけ幸せですわ」
読み終えた手紙を丁寧に畳んで封筒に戻し、いつでも見えるようにと暖炉の上のスペースに並べて飾った。
「一つだけ残念なのは、モリーナが仕事を辞めてしまったことですわ。なんでも、結婚して他の領へと出るそうで。私、彼女にはとてもお世話になったからお祝いしたかったわ」
「え、モリーナもなの?ウチも庭師のボールスが余所からお嫁さんを貰うから、新天地目指して旅立ったって。ボールスには小さい時にいっぱい遊んで貰ったし、恩返しとお祝いしたかったなぁ…」
両家とも線引きはしっかりとあるものの、主一家と使用人達との距離は近い方だ。フォルベール家とマヌエル家は家族ぐるみでも仲が良く、互いの家をよく行き来するのである程度はお互いの家の使用人の名を知っている。
「ふふ、モリーナとボールスが結婚していたりしてね」
「それで新天地目指してこっちに来たりしてね!あはは、本当にそうだったら楽しいよね~」
その後も二人でキャッキャとはしゃぎながら、実家の話や思い出話に花を咲かせた。また、何年かしてすっかりほとぼりが冷めたら実家に遊びに行こうと約束をする。
「そういえば、特産品のお話やらお手伝いの振り替えの件、どうしましょうか。手紙のことで頭がいっぱいで、いついつと日取りを決めずに帰ってきてしまいましたわね」
「あー、ほんとだ。私達としては、お話もお手伝いもいつでも構わないけど、あちらの都合が分からないもんねぇ」
さて、どうしようかと考える。ムダ足覚悟で、明日の昼過ぎにお邪魔しようかと決めたところで来客。
「よぉ、遊びに来ちゃった!と、言うのは冗談で。ギルドに顔を出すついでにお嬢さん方に明日の都合を聞けたらと思って寄らせて貰ったよ」
「まぁ、クルス様にわざわざご足労願いまして、ありがとうございます。私達ならばいつでも構いませんので皆様のご都合の良い時に参上させて頂きますわ」
それはとても助かると、クルスが提示したのは昼前。
リュールの案を少し聞いただけではあるが、どうも使えそうなアイデアなのでお礼も兼ねてお昼ご飯を領主館でご馳走してくれるそうだ。
「失礼でなければ、リュールのピュアチの喉飴をお持ちしましょうか?皆様も、聞くだけより見て味わう方が分かりやすいと思うのですが」
エルダの提案に「是非!!」との力強い答えを返し、明日を楽しみにしていると言ってクルスは去っていった。
「クルス様って不思議なお方だよね、なんだろ。近くに居ると吹いてないのに風が吹いたような気がする」
「私も全く同じ事を先ほど感じておりましたのよ、本当に不思議ですわよね。ああ、そうですわピュアチの喉飴!食べて頂く方が説明が簡単ですし、分かりやすいですもの。本当に賢いですわ、エルダ」
「えへへ~、ピュアチの喉飴はホントにすごーく美味しいから自慢したかったんだもん。食べたら絶対、ビックリするからね!!ねぇねぇ、また作ってくれる?」
「エルダがそんなに気に入ったのなら、喜んで作りますわ」
ぴょんぴょんと跳ねて喜ぶエルダに、リュールが「せっかくですから、今から一緒に作りましょ」と誘う。
二人で協力したピュアチの喉飴は艶々と輝くような美しい仕上がり具合だった。