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東へ進め!手紙と特産品

リュスカに急かされて納品を済ませるなり、『ルゴール伯がお待ちです』と待機していた騎士に連れられて客間へ。


「急に呼びつけてすまんの。息災にしておったか?」


「はい、御陰様で」


客間にはルゴール伯と少女達の他、マルスとアルス、見覚えのない男性と青年がいる。口調は普段通りだが、いつもより堅い雰囲気のルゴール伯にリュールが簡潔に答える。


「王城からの早馬がアーガンダ侯爵家が滅亡したと報せてきた」


重々しく告げ、ルゴール伯が黙る。部屋には重い静寂が満ちた。


「…そうでございますか」


返事が必要なのかと思ってリュールが答える。


「え、それだけ??」


見覚えの無い男性に問われ、エルダが「はい」と答えるとルゴール伯とマルスが笑い出した。アルスは「ほらね、言った通りではありませんか」と苦笑いしている。


「なんかこうさ、もっと他にないの?やったぁ、とかざまぁ、とか色々。あ、俺達が居るからって変に遠慮しなくて良いんだけど」


「いえ、別に」


「特に、何も」


「えー、本当に?だってさ、学園追放、貴族籍剥奪、東への配流、全部もとはアーガンダ侯爵に無理矢理ヤーシュカ嬢のお供にされたせいだろ?」


理解できない、と青年が重ねて問う。


「そうではありますが、私達はその事に対して不満はございませんの。この地での平民生活に非常に満足しておりますが、別にアーガンダ侯爵に感謝はしておりませんわ。私達を受け入れてくださったのはルゴール伯様ですもの」


「興味も関心もないので、アーガンダ侯爵様へ何か思うかと聞かれても困ってしまいます。ふーん、へぇ。としか感じません」


二人の回答に見慣れぬ男が吹き出している。


「実にお嬢さん方らしいの。さて、こちらがお嬢さん方を呼んだ本題になる。……受け取るが良い」


「……!!??…あ、ありがとうございます!!」


「お手紙!ありがとうございます、ルゴール伯様!」


「まだ表立って遣り取りするのは難しいだろうが、家族が恋しかろうとの宰相なりの配慮だそうだ。油断ならぬ男だが、この手紙だけは他意のない善意と受け取ってやって良いだろうよ」



後は、再三の強気な牽制に対する『分かりました!!』という返事としての行動もあるだろう。


リュールは薔薇色の頬で手紙を胸に抱き、エルダは手紙に頬擦りしている。ついさっきまでの素っ気ない感想を述べていた少女達の変わりように青年が驚いている。



「さて、紹介がまだであったな。リュール、エルダよ。これは儂の三番目の息子のクルス、こっちはマルスの息子で儂の孫のエルディオンだ」



すっかり上機嫌で笑顔満開の少女達が紹介を受けた事で自分達も名乗り、丁寧な礼をする。だが、よほど嬉しかったようで楚々とした令嬢らしさは無く、微笑ましい程に喜びようの伝わる弾んだ声だった。



「ワズラーンには伝えてありますので、本日のお手伝いはお休みで結構ですよ。予定が空いているのなら、明日以降に振り替えても構いません」


「まぁ!ありがとうございます、アルス様。ご配慮頂きました事、深く感謝致します」


「早く読みたいだろうからの、これで話は終わりだ。馬車を用意するから暫し待つがよい」


感謝を伝える少女達に、クルスがごく軽い口調で問い掛けた。


「ねぇ、お二人さん。西から来た君達がこの地で他にはない特産品を、と考えたら何か思いつく?」


エルダは『うーん』と首を傾げるが、リュールは即答した。


「パッと思いつくのは、ピュアチの喉飴でございますわ」


エルディオンが怪訝な顔をして説明を求める。ルゴール伯やマルスとアルスは興味津々。クルスは驚きつつも何度も頷いている。


「私、蜂蜜の種類や養蜂に造詣はございませんが、お店で『ピュアチの蜂蜜』を求めた折に普通の蜂蜜飴を作ったにも関わらず、ごく仄かにピュアチの香りが致しました。なので更にピュアチの果肉と果汁を足しましたら、周りの皆さんに好評でした。王都より西はピュアチの名を高級果実とは知っていても食べた事の無い者が殆どですので、生のピュアチより遥かに安い喉飴ならば皆さん買いやすいでしょう」



リュスカ先生の素敵なスパルタ経済教育もあって、中々の考察力である。滔々とリュールが語る間にエルダも案を捻りだせたようでニマニマしている。


「二人の話をしっかりと聞かせて頂きたい。明日にでも時間を貰えないか?」


マルスの懇願に少女達は笑顔で快諾した。

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