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■西の家の滅亡■

過酷を極めて圧制に血の涙を流していた領民達が、こぞって歓喜の声をあげている。


アーガンダ侯爵は怒りに顔を赤紫に染め、歯軋りをしている。その妻は半狂乱で金切り声で喚き散らしている。


王家の紋章入りの旗を掲げた頑丈な牢仕立ての檻馬車に二人を乗せて、領地内はゆっくりと、それから先は中の二人が跳ねる程に馬を走らせて進む。




アーガンダ侯爵令嬢の事件を突破口に、当初は肥大化したアーガンダ侯爵家危の権力の縮小を狙っていたのだが。

追い落としに掛かった宰相のもとへ、アーガンダ侯爵家の上級使用人数名が不正の証拠を抱え保護を求めてきた。



王城の門番は侯爵家の罠かと警戒したが、彼らは異様に怯えきっているし動きが奇妙にぎこちない。身体を改めて愕然とした。彼らはアーガンダ侯爵夫妻のストレス発散の捌け口とされており、身体中痣だらけ。


「お願いです、どうか早く侯爵家から残りの者達を救い出してください。彼らは命がけで私達を送り出し、その不在を隠しているのです」


足元にひれ伏して嗚咽混じりの嘆願に、情報は異例の早さで宰相のもとへと届けられた。証拠はどれも信憑性が高いと判断され、即座に裏付け捜査を開始。


すると今度はそれまでアーガンダ侯爵家に媚びていた商人達が悪事の証拠を握ってたれ込みに雪崩れ込んだり、保身に走るべくアーガンダ派政治勢力の貴族達がこぞって宰相派へと寝返った。


これに泡を食ったアーガンダ侯爵家の腰巾着や、共に各種悪事に荷担していた貴族達は『脅されて仕方なく』などと嘯きながらもアーガンダ侯爵家にとって致命的な情報や証拠を提供してきた。



斯くして宰相はアーガンダ侯爵家の根絶を王へと上申し、王は重い腰をあげるに至った。




そして、アーガンダ侯爵家は歴史からその名を消した。



「長く悪徳の限りを尽くしたアーガンダ家もこれで終わりか。そなたの頭痛の種が一つ減ったかの」


「左様でございますな。」



これまで日和見主義を決め込んでいた王に、宰相は『貴方様が一番の頭痛の種でございます』と言いたいのを堪える。



「糸口となったアーガンダの娘の事件、余波で無辜の少女二人が東の地へ流されたのは憐れではあるが、当機立断にささやかな犠牲はやむを得まいよ。幸いにも二人ともルゴール伯に気に入られたようだからの、不便はしておるまい」


「……左様でございますな」


言外にたかが下級貴族の娘二人、人生を台無しにしたとて問題ないと言っているようなものだ。それに、ルゴール伯の『再三の牽制』の意味を『気に入られた』と解釈するとは。宰相は頭も痛いが、胃も痛い。


「余の息子は東に捨て置くのは憐れと言っておるが、ルゴール伯が領民にしたのであれば諦める他ないのであろう?」


当たり前だバカ、と言いそうになる宰相。


「余とてルゴール伯を敵にするような愚はせぬものを、何故に息子もそなたの娘も執心するやら」


「若さ故の潔癖さではございませんかな?無辜であると承知での政治的判断で東へ配流という名目の処置ですが、二人はまだ青く甘い部分があるのでしょうな」


本当は全く違うが。少なくとも宰相の娘は手駒として二人を欲しているのを宰相は把握している。


だが、こちらの都合で貴族社会から放り出した彼女達を、再びこちらの都合で貴族社会へ戻すなど愚劣極まりない。



彼女達も復籍は望まぬと聞いているし、ならば王に彼女達の利用価値を教えて余計な興味を持たせる必要はない。下手に辺境伯の機嫌を損ねられても困る。宰相は王子と娘の首根っこを掴んで、国政を切り盛りしながらアーガンダのアホの後始末があるのだからもう手一杯だ。



それでも、己も人の子の親として。


彼女達の親から内密にこっそりと、手紙を彼女達へと届けてやれないものかと思案する。

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