東へ進め!楽しいお茶会
お招きされて、いざ領主館へ。小綺麗な服を着て、髪は少し凝った結い方にエルダお手製の飾り紐。
「おや、今日は随分と可愛いねぇ。そうしてるとお人形さんみたいじゃないか」
家先でアマンダに褒められて、ニコニコと上機嫌な二人が迎えの馬車に乗り込んだ。
馬車の中で先日の侍女と話すが、今日は本当に『貴族とか平民なんて気にしなくて良いのよ、おばあちゃんと孫のお茶会だもの』で良いらしく安堵する二人。
「この地の貴族の方々は王都ほど『貴族らしさ』には拘りをお持ちではないから、そんなに固くならなくても大丈夫よ」
「そうなんだー、それでルゴール伯様も『ざっくばらんに』とか『楽にしてよい』って仰ってくださるのかな?」
「皆様は領地内では気楽にお過ごしになるけれど、王都に赴かれたり他領の方々とお会いになる時は皆様きちんと『貴族らしい振る舞い』をなされているわ。でもね、失礼な言動は絶対にしないようにね」
「心得ましたわ、ありがとうございます」
領主館へと到着し、侍女がそのままお茶会の席まで案内してくれるとの事なのでトコトコとついて行く。
「まぁ!…なんて、素敵なお庭なんでしょう……夢の世界のようですわ……」
「花が主役じゃあなくて緑色との調和に空の青とも館の外壁とまで色彩の妙技…主役はズバリ『コントラスト』だね!ホントに凄いお庭だよね!」
庭の入り口でその壮観に圧倒されて立ち尽くしてしまう。
咲き誇る花々の見事さもあるが、エルダが言うように色彩の調和が美しい。
「いらっしゃい、二人とも。このお庭を気に入ってくれたようでとても嬉しいわ。このお庭はね、私の一番のお気に入りだから、あなた達をお招きするならココだと思ったのよ」
ルゴール辺境伯夫人のエルディナが立ち尽くしている二人の背後から声をかけると、少女達が揃ってエルデイナへと向き直って礼をする。
だが、エルダはまだ夢見がちに茫洋としている。
「本当に素敵なお庭です。私、初めてお邪魔した時のお部屋にも感動したけど、この感激は、衝撃的です…」
とつとつと語るエルダに、リュールが補足説明する。
「あの客間ね!嬉しいわ、あそこは私の自信作の一つなのよ。私、お庭いじりもそうだけど、色の組み合わせを考えるのが趣味なの。ふふ、変かしら?」
「素敵なご趣味です!!」
エルダが食いついた。キラキラと瞳を輝かせるエルダに微笑みながら、三人で席へ向かう。どこに消えたのかと思っていたら、侍女は貴族の少年のお供をして再登場。
「はじめまして、こんにちは。ようこそ、我が家へ。僕はマリリオン・ルゴール。ルゴール辺境伯の孫で、マルスの息子です」
線の細い青白い顔の少年は、リュールとあまり変わらない背丈。見るからに病弱そうだが、澄んだ温和な目が印象的。
初対面の挨拶の後は楽しいお茶会となった。
エルディナはエルダと趣味嗜好が共通するようで、大いに盛り上がっている。特に、エルディナの語る色彩への情熱はエルダの創作意欲を刺激するようだ。
マリリオンはリュールと医薬品の話で夢中になっており、医師を介してリュールの作った薬茶や喉飴のお陰で昨年の冬はかなり楽に過ごせたと感謝された。
侍女が控え目に『そろそろお時間です』と告げると、四人とも名残惜しさを露わに渋々と別れの挨拶を交わす。
「また遊びに来てね、絶対よ」
念押しするエルディナに少女達は「是非!」と答えてニッコリ笑って少女達は帰っていった。