東へ進め!街歩きと子供市
春の陽気に誘われて、昼下がりの公園広場へ。
食後の眠気で作業が捗らないので『たまにはのんびりと街歩きでもしましょう』と、二人仲良く外へ出たのだ。
「おや、お買い物かい。…散歩?そういえば、公園広場に面白い子供市が出てたよ」
ご近所さんにそう教えられて、それならばと公園広場へ向かう。子供市、とは子供が店主の市場。
広い公園の中で、子供が自由に市を出して良い一角へと向かう。どれがご近所さんの言う面白い子供市なのかと二人でキョロキョロ。
敷布や茣蓙の上にチマチマと商品を並べるだけの、ままごとのような子供市。焚き付けに使う小枝の束や、おやつ代わりの木の実などが並んでいる。
「リュール、あのお店じゃない?」
エルダが示したのは、一角の最奥で目立たない場所。可愛いらしい客引きの声を楽しみながら、そちらへと進む。
「いらーっしゃい、おねぇちゃん!」
一瞬天使かと見紛う、愛らしい笑顔満開の幼女が舌足らずに出迎えの言葉を述べる。
亜麻色の髪に、斑な黄緑色の円らな瞳。健康的にふくふくとしたほっぺは薔薇色。か、可愛いですわ…とリュールが呻く。
「どれかうます?…かえます??」
「違う。どれを買います?だろ」
幼女と同じ顔立ちに同じ色を宿す少年は兄なのだろう。
「これ、この鉢ごと売ってますの?」
「そう。でも、それは一回収穫したら終わるよ」
片手で持てるサイズの素焼きの鉢はやや歪、植わっているのは実をスープに入れたりと食用できる植物。
この辺りでは雑木林によく自生しているし、お店でも冬場以外ならいつでも手軽に買える。
「これは?」
「しろいおはながさくのよ、ゆまがおみずあげたの」
少年が親の工房で手習いに焼いた鉢に花や植物を植えて商品としているらしい。
ご近所さんの言う通り、面白い店だ。
「コレとコレとコレをくださいな」
値段も聞かずに買おうとするリュールに、少年が驚く。
幼女の方は「あーい」と返事して指差された鉢を危なっかしい手つきで抱える。
支払いを済ませると、少年がオマケに花を1鉢くれた。
「どうぞ。もう店じまいだし、花と違って全然売れないから買ってもらえて嬉しかったし」
花の方は1鉢を残して順調に売れたらしいが、食用の方は4鉢用意して1鉢しか売れなかったそうだ。これで帰りは荷物が少なくて楽だよ、と少年が笑った。
「私も嬉しいですわ。この鉢、これが終わっても使えますもの」
「それ、苗木を育てる時に使い捨てにするヤツだけど。園芸店にいけば小さい鉢でもしっかりしたのや綺麗なヤツは売ってるよ?」
「えー、使い捨てなんて勿体ないよ。形は歪んでるけど、これヒビとかないよ。しっかりできてるもん」
エルダが不満そうに言えば、少年が瞠目する。
暫し間を開けて、少年がとつとつと言葉を紡ぐ。
「あのさ、僕…俺はレオ。こっちは妹のユマ。お姉さん達はリュールさんとエルダさん、だよね?ぼ…俺達は子供市にはあまり来ないけど、もしまた店を出してる時に二人が来たらサービスするよ」
「まぁ、それは嬉しいですわ。私達、子供市に来たのは初めてですが、またお二人に会えると良いですわね」
「でも、なんで私達を知ってたの?ご近所だったかな?」
「………色々と有名、だからね。通りは違うけど、近所っていえば近所だよ」
少し話し込んでしまったが、仲良くなれそうな兄妹と出会えた上に使い勝手の良さそうな鉢まで手には入った少女達はご機嫌で帰っていった。
「にーちゃ、うれし?」
ボランティアの老人に店じまいを告げて帰宅する道すがら、背負ったユマが尋ねる。
「うん」
手習いの作品の焼き上がりを見た父に『卸す先もないから好きにして良い』と言われた時、酷く落胆した。
苗木用の鉢に殆ど需要がないせいだと後から気付き、知恵を捻って子供市で売ったのは、使い捨て前提とはいえ丹誠込めた作品を誰かに手にして欲しかったから。
それを、『使い捨てには勿体ない』と言われたのがとても嬉しい。作品が、自分が認められた気がした。
まだまだ工房の下働きだけれど、明日からまた頑張ろうとレオは心に誓った。