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東へ進め!襲撃後日談

酔っ払いの襲撃から一夜明けて、ケロリとした様子の二人に改めて訪れている騎士二人が苦笑いしている。


酔っ払いについて尋ねると、騎士の瞳が翳る。


あの酔っ払いの男は驚く事に、元はこの辺境伯領の騎士見習いまで進んでいたのだという。剣の腕も認められつつあったそうで、順調に行けばいずれは正規の騎士へ…そう、誰もが思った矢先に魔物討伐で手酷い失態を犯してしまった。


それから、男は転落人生を酒とともに歩み続けた。


酒に溺れては暴れ、街の人達とのトラブルで騎士に連行されるのはこれでもう二桁を越えるそうだ。


元騎士見習いのした事とあり、青年騎士二人は年若い平民の少女達に向けるには深すぎる礼をしている。



「そもそも、あの方は何をしに来られたのかしら?」


「金持ちのガキ二人とかご主人様だとか、酔っ払いにしても変な事言ってたよね~」


「…昨日の今日で酷だと思うが、砦で詳しい話を聞かせて貰えるだろうか?」


「ええ、勿論ですわ」



砦の一室で粗方の話を終えると、ビアールがワイナーと二三言葉を交わして部屋を出た。


「逆恨みによる犯行、二人とも相応の処罰が下るだろう」


酔っ払いの襲撃は昨夜、現在はお昼。


鮮やかな解決ぶりにエルダが小さく拍手を贈るが、ワイナーは生真面目な顔のままトントンと書類を揃えるのみ。


酔っ払いの襲撃時の発言に疑問を感じつつ、少女達は『夜は寝るもの』とばかりにさっさと就眠したが、その間にも騎士達は働いていたそうだ。



酔っ払いの男を唆して二人を襲撃させたのは、とある青年。話を聞けば、少女達の初めての納品の日に建物で不躾な視線を寄越した男らしい。


彼もまた、元貴族の子息で家業で薬作りをしていたと聞いて複雑な顔になるリュール。



「お嬢ちゃん達が気にする必要はない。そんな暗い顔は似合わんぞ?全く、ワイナーは本当に気が利かんな。可愛いお嬢ちゃん方を慰める言葉の一つもかけれんのか?」



ルゴール伯がヤレヤレと首を小さく振りながら入ってきたので、少女達が立ち上がって礼をする。


「災難だったな。二人に怪我が無くて何よりだが、まずは座るがよい。気楽にな」


ルゴール伯の後にはビアールと侍女が紅茶と茶菓子を持って入ってきた。ちょっとした茶会のような雰囲気の中で、ワイナーが中断していた説明を再開する。


件の青年は元貴族の子息で冷や飯ぐらいの身から立身出世を夢見て実家を飛び出し、この地で平民からスタート。


しかし、ライセンスも取らずに飛び出した上に平民生活の知識もない。宿屋暮らしで実家から持ち出した金も底を尽きかけていたそうだ。


「まぁ!私達よりも呑気な方ですのねぇ」


金と一緒に持ち出した実家の医薬品を売ろうにも、ライセンスもない青年から買う店はない。街で噂のリュールとエルダの話を聞いた彼は『それなら俺も!』と納品部へ。


許可証が無いのに領主館へ入れたのには事情があるそうだがなぜかそこは歯切れ悪くぼかされた。


「うむ、子供には聞かせれんのぉ…」


納品部で青年の思うように話が進む訳がなく、建物を出てイライラしていたら少女達がきた。締め出しを食らった挙げ句二人を待ち伏せしていたら騎士に摘まみだされて…逆恨み、らしい。


「うわぁ…迷惑な人」


酒場で件の酔っ払いを見つけ、少女達を襲わせて溜飲を下げてやろうと、有ること無いこと言って言葉巧みに男を唆した。あわよくば少女達のお金を手に入れようとも思って納品日を狙ったそうだ。


「逆恨みされましても、ねぇ…」


「家名は伏せるが、リュールの実家とはまた違う方面の薬でな。我が領では必要ないから保護も援助もせんと言っておいたんだがな」


「…同じ元貴族でも自分は周りに『なぜか』嫌われるわ困窮するわで辛酸を舐める身なのに、お嬢さん達は上手くやってるのが許せなかったんだとさ。なぜかも分からないとは呆れるな」


ビアールの最後の呟きに少女達が揃って首を傾げた。


「性根の話だ、君達は気にせずそのままで良い」


「ビアールよ!!聞いたか、今の言葉!!堅物ワイナーにしては頑張ったと儂は感激したぞ」


ルゴール伯が高笑いで機嫌よくビアールに話し、少女達を街に送るついでに昼御飯をご馳走して来いとワイナーに命じた。

困ったワイナーはテオールを呼び、四人で昼御飯を食べることに。ちょっとお高いお店でドキリとしたが、ワイナーは『仕事の一環だから問題ない』と纏めて支払っていた。


そんなワイナーをキラキラした目で見つめていたのはテオールで、少女達二人は至福の余韻に酔いしれていた。



「あら?私達結局お昼ご飯を奢って頂いたのだもの、儲けたのではなくて?」


「あはは。確かに一食分浮いたね!しかも、すごーく美味しかったよねぇ」



呑気な二人は今日もニコニコと楽しそうにしている。

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