東へ進め!襲撃者には遠慮しませんの
二度目の納品とお手伝いを無事に終えて、帰りは徒歩。
夕暮れ迫る道を仲良く手を繋いでトコトコ歩けば、丘の砦が目の前に。領主館と街の間に聳えるこの砦には、多数の騎士や従事者が居るそうだ。
「よぉ、帰るのかー?」
砦の出入り口脇で見張りの騎士と何やら話していたテオールが、少女達に気付いて声をかけてきた。
「えぇ、帰るところですわ」
「テオールはお出かけするの?したの?」
「するとこ。街へ降りるから途中まで一緒に行こうぜ」
見張りの騎士に軽く会釈したり、手を振って街へ向かう。
行きは荷馬車に揺られるが、帰りは徒歩になる。丘を道なりに降りて行くので、遮る物がなく遠くに山や森、眼下には街が広がる。
景色を楽しみ、三人の会話も楽しみながら歩けば街へ。石垣を通り過ぎて石塀の内側へと進む頃には、街の賑わいや家々からの夕飯の美味しそうな匂いがする。
「あ、俺はこっちだから。じゃあな」
テオールと別れて少女達は家を目指す。夕暮れの街は通りに面した家々から漏れる灯りで柔らかな雰囲気だ。
リュールが玄関の入って直ぐにある蝋燭に火を灯して、エルダは手早く暖炉に火を熾す。春とはいえ、夜はまだ冷える。
明かりも兼ねた暖炉の火が落ち着いたところで、蝋燭は消してしまう。
「今日も1日、よく働きましたわ~」
「うん、ホントいっぱい頑張ったよね!」
作り置きのスープとパンの夕飯を済ませたら、程良い疲労感で椅子から動くのも億劫。それでも、テーブルの上を片付けて今日の収入を確認。
「では、半分は此方のお財布で良くて?」
「うん。でも、思ったより納品で貰えたからもう少し入れても大丈夫じゃないの?」
「それもそうね。あ、でもこの機会にオイルランプを買ってしまいましょうか?夜も細工を出来ましてよ」
お金の話が終われば、直ぐにまたテーブルの上を片付けてしまう。個人の財布はそれぞれの手籠にしまわれ、生活用のお財布は定位置に。生活用とは別のお財布は一番たくさん入っていることもあり、二人の秘密の隠し場所へ。
「明日からまた頑張りましょうね」
「うん!」
一階の戸締まり確認を既に終えており、寝る前の一時にまったりと白湯を飲む少女達。
すると、玄関をけたたましく叩く音が響く。二人は顔を見合わせ、そろそろと玄関へ。
「おーい、居るんだろ?金持ちのガキ二匹!うひひ」
下卑た声に激しいノック。しっかりと戸締まりをしておいて良かったわ、とリュールが呟く。
「居るのは分かってんだから、さっさと開けろ!!ご主人様のお帰りだ、早く開けろ!うひひ」
誰が誰のご主人様ですの、とリュールが眉根を寄せる。エルダは薄暗い土間で武器になりそうなモノを物色している。
「くそガキども、ドアを破られたいのか!畜生、どいつもこいつも人を舐めくさりやがって!」
ドォンと激しい音がして、閂と扉がたわむ。
リュールのこめかみに青筋が浮かび、エルダは無表情で包丁を握り締めている。
「宜しくて?」
「ばっちり!」
二人がドアの左右で壁に背をくっつけて、そーっと閂を外してドアを開けた。
酒臭い中年が転がり込むようにして土間へ顔からダイブしたところを、リュールが無言で一撃必殺の蹴りを入れる。
四つん這いの男の、とある急所に見事な蹴りが炸裂したところに騎士が二人駆け付けた。
騎士達の背後の野次馬達が、泡を吹いて気絶する酔っ払いと華奢な少女達を見比べて微妙な顔をしている。
酔っ払いは騎士に回収され、野次馬は散る。
騒がしい酔っ払いの一声目で『あいつだ!』とピンと来たご近所さんが騎士を呼びに走ってくれたそうだ。また、他のご近所さん達はいざとなったら捨て身で助けようとしてくれていたらしく、各々手には鍋や棒が握られていた。
ご近所さん達に丁寧に礼を述べ、二人揃って深々と頭を下げる。ご近所さん達は二人の無事を喜び、それぞれ帰って行った。
もう一度しっかりと戸締まりをして、二階へ上がる。
どちらからともなく、頷きあって。
今夜は二人、一つのベッドでくっついて眠りについた。