■東へ帰る■クルスとエルディオン
大陸の北東に位置するデルロード国。未開拓地から最北端の孤島まで含めた国土は『まぁまぁ広い』程度。
東隣の国とは魔物越しに睨み合うが、膠着状態。
西隣の国とは山脈越しに暗黙の不可侵状態、南方面の国々とはそれなりに円滑な関係を築いている。
「気乗りしないけど、仕方ない。一度帰るか」
デルロードは退屈な国だけど、東の我が家には大切な家族がいる。国自体は『どうでもいい』のだが、生まれ育った領地への愛情は結構強いと自負している。
それは、この甥っ子も同じはずだ。
「明後日には出るからな、そのつもりで支度しておけよ」
「りょー…」
了解、のはずが後半は欠伸に変わった。相変わらずコイツは朝が弱い。まぁ、用件は伝わったようだから良いか。
「もう帰るのかー…あふ」
「お袋がわざわざ二回も連絡してきたからな」
「えー…ふぁあ」
どんだけ眠いのかコイツは。そんなに夜更かしさせた覚えはないのだがな。
朝日に眩い金の髪をガシガシと掻き乱して背伸びするエルディオンは長兄夫婦の宝の一つで可愛い可愛い、次男坊。…次男だが跡継ぎでもある。
長男は病没、三男もあまり丈夫ではない中で次男坊のコイツは頑健に育っている。ともすれば過保護になりかねないからと俺に任せて領地から送り出す決断は、さすが次期辺境伯と長兄の器のデカさを改めて認識した。
ついでとばかりにアレコレソレドレと面倒な仕事を山盛り与えた次兄もある意味、さすがだなー…とは思うが。
「ばーちゃんがわざわざ連絡してきた割に、あんま切羽詰まってないカンジ?」
顔を洗って漸く目が覚めたエルディオンが金の髪から雫を垂らして尋ねる。おう、正に『水も滴る良い男』だな。
「ああ。お袋が妙にはしゃいでるから切羽詰まって何かあった訳ではないだろう。その割にアルスの為に早く帰れってのが微妙だが、政治方面ではしゃぐお袋じゃあないし…」
「うん?ばーちゃんがはしゃいでるの??」
老婆がキャッキャしてる訳ではないが、俺が上手く表現出来なかったせいでエルディオンが変な顔になっている。
「風がクルクルしてたから、そう思っただけだ。すまん、説明しにくい」
魔法関連は感覚的な要素が強く、魔力の無い者への説明は難しい。俺の言語能力の問題かもしれんが。
「ふぅん。ま、いーや。それよりどのルートで帰る?」
「早く帰れ、でもアルスの為に王都を必ず経由してこいルート」
「なんだそりゃ」
「辺境の独身美形男二人で王都のご令嬢方に流し目を…冗談だから睨むなって!だが、俺達の帰還をアピールする目的みたいだから王都ルートは外せない」
エルディオンは王都ルートに乗り気ではないが、それは俺もだ。濁ったぬるま湯のような王都はなるべくさっさと通り過ぎるようにしよう。




