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東へ進め!葉っぱのスープ

元貴族のご令嬢の筈なのだが、引っ越しても相変わらずのお気楽のんびり平民生活満喫中の二人。


10日に1度の納品とお手伝いの日以外は採取やら家事やらをマイペースにこなす。積極的に周りに溶け込もうという意識は無いが、のほほんとした二人は違和感なく街に溶け込みつつある。




「街でも変わりないようで何よりだ。ワズラーンも気に入ったようだし、あとは納品の方だな。エルダの査定は済んだらしいが、リュールの方は明日まで無理だったか?」


「そのようですね。因みに、エルダの編み紐は母上が個人的に購入予定だそうですが宜しかったのですか?」


ルゴール伯はうむ、と肯定。


「構わん。儂は見ておらぬがあれが気に入ったなら、それなりに良い出来なのだろう。値段付けに問題はないか?」


「王都の平均的な値段よりは安いですが、妥当でしょう。いかに腕がよくとも実績も無い子供の作品としては高めですから。リュールの方は査定後に砦で買い取り予定です」


医薬品の査定は医師が行うが、薬茶は医薬品ではないので既に査定済み。品質的にも問題なく、値段もほんの小銭程度なので今回は纏めて公費での購入になった。


「それにしても、お嬢さん方には期待外れでもあったな」


ルゴール伯の意外な発言にアルスが怪訝な顔で続きを待つ。


「いや、深刻な話ではないが。むさ苦しい文官部屋に花を二輪飾ったのに特に変化がないからな」


「まだまだ蕾ですからね。私としては変に仕事そっちのけになられるより遥かに有り難いです」


苦笑いのアルスにルゴール伯も『それはそうだがなぁ』とぼやく。

騎士団のワイナーや文官のワズラーンを筆頭に、優秀なのに仕事一筋過ぎて婚期を逃している者達をどうにかしてやりたいと思っているのはアルスにも分かる。しかし、あの二人にはそれを望むのは酷というか無理というか…。まだまだ無邪気なお子様風の二人には向かない。そうだお子様と言えば…と、アルスが思い出した事を口にする。


「確か、今日は非番のテオールが二人の家に遊びに行くのだとビアールから聞いておりますよ」


「ふむ、成る程。それならば儂も少しは安心だ。テオールもいつぞやの功労賞を役立てておるようで何よりだな」




領主館でそんな会話が交わされているとは露知らず、テオールは少女達の家で呑気に昼食を囲んでいた。


「へぇ、結構旨いな!葉っぱが浮かんでるから最初はどんなモノかと思ったけど」


「その葉も食べれるのよ。エルダには前にも言った気がするのだけど、なぜよけてしまうのかしら?」


「私は『食べれる物』と『食べ物』の違いも、その時に言ったよ?なのになぜ、またこの葉っぱが浮かんでいるの?」


三者三様にスープを味わうが、葉っぱをモシャモシャと食べたのはリュールだけであった。


「ホント変わってるな、あんた達。元お貴族様って聞いてるけど全然気取ってないし、庶民的?っていうのかな」


エルダの愛する平民パンは今日の食卓にも上るが手を伸ばすのはやはりエルダのみ。テオールとリュールは普通のパンを食べている。


今日の昼食はリュールが魚のスープを作りエルダが蒸かした芋と鶏肉のチーズ焼きを作った。棚や作業テーブル作りに大活躍のテオールへのお礼なので奮発している。


「リュールの話し方が丁寧なのは昔からだけど、私は学園に入る前に必死で特訓した付け焼き刃のお嬢様だもの。気取っても似合わないの。話し方もすっかり元通りになっちゃったけど平民だから問題なしよ」


「え?そうなのか、へぇ…貴族にも色々あるんだな」


「私も話し方と最低限のマナーだけなのよね。学園に入るまでは殆ど領地の屋敷住まいだもの、王都育ちの方々からしたらただの田舎娘よ。学園では貴族らしくないと二人揃ってよく叱られましたわ」



二人がどことなく牧歌的な雰囲気を醸すのは、育った環境の影響もあるのだろう。二人のように小さな領地の屋敷の使用人は使用人教育こそ経ていても領地の平民が大半を占める。

主一家のご令嬢に対して丁寧な振る舞いはするが、やはり王都の使用人達ほどではない。

おまけに、二人の実家の家格では専門の令嬢教育よりも家業の修得に比重が偏る。


…似たような立場のご令嬢方も多いが、それでもこの二人のような底抜けの楽天的な性質は珍しいのだが。


そんなことは知る由もなく、テオールは『なーんだ。元から庶民的なごれーじょーがただったんだ!』と素直に納得していた。



二人の少女達により一層の親近感を抱いたテオールは機嫌よく帰って行った。

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