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東へ進め!少女達の小さな野望

ぐっすり眠って、スッキリ覚醒したエルダ。隣の寝台でリュールは爆睡中だが、外はすっかり明るい。


「うーん。今日は多目に見て差し上げましょ」


肌寒さをこらえて寝台から出ると、重たい木枠の窓を開いて朝の空気と光を取り入れる。顔を洗って、身だしなみを整える。着替え終わる頃に、リュールの目が覚めた。


「おはよう、リュール。よく眠れた?」


「うん…おはよう。……あら、私ったら結構お寝坊してしまったのね 。ごめんなさい、エルダ」


構わないわ、と答えながら簡素な朝食を手早く用意する。昨日買ったパンを切って皿に置けば完成。


「さて、私はお洗濯に取り掛かりますわ」


「では、私も納屋の整理を始めますわ」


役割分担は昨夜の内に決めてあり、それぞれ取り掛かる。そんな様子を少し離れた物影から観察する者がいる。


「へぇ?元お貴族様のごれーじょーにしては庶民的な生活を理解してんだな」


危うい手つきではあるが、盥と板で洗濯するエルダを眺めて呟く。横顔には好奇心が浮かび、機嫌の良さが窺える。


「ふーん、外では魔法は使わないつもりか。馬鹿じゃないみたいだな」


鼻歌交じりに移動して、今度は納屋の見える場所へ。先日覗いた際に納屋にはガラクタと多少の農機具類しかないのは確認済みだ。


リュールは既に納屋からガラクタを運び出し終えており、検分しているようだ。使えそうな物を確かめ、それ以外は納屋の横の方に投げて分別している。


「お、おう。なかなかワイルドなごれーじょーだな。嫌いじゃないぜ」


使える物を納屋に戻し始めたリュールが、ふと彼の居る方へ顔を向けた。その手には鋸が握られており、彼の背中にヒヤリとしたものが流れる。


「勘が鋭いのか?……って、切れ味を試すだけかい!」


彼の居る場所の手前には雑木林があり、リュールは適当な枝をギコギコ切り出した。かなりぎこちないながら、数本の枝を切ると気が済んだのか飽きたのか、リュールは鋸を納屋に片付けて残りの作業に戻った。


昼の鐘がなり、エルダとリュールは家の中へ。


午後から日暮れ近くなるまで、二人は仲良く一緒に家の周りの草取りやささやかな畑作りに没頭していた。途中、エルダが洗濯物を取り込んだりリュールが図鑑らしき本を確認する以外は二人は離れていない。


「ホントに仲良しなんだな。ま、見知らぬ土地で二人きりっていうのもあるんだろうけどさ」


姉妹のような二人は、今日はもう外にでる事はなさそうだと判断して彼は二人の家からそっと離れる。


「おぅ、帰ったぜ。オヤジ達は居るか?」


「お帰りなさいませ、テオール様。ワイナー様でしたらまだお戻りになりませんが、ビアール様なら先程戻られましたよ」


侍女の答えに軽く礼を言ってビアールへ報告に向かう。


「テオールか。どうだ、お嬢ちゃん達の様子は」


「そうだな、普通に生活しようとしてるように見える。でも、まだ家の周りと近くの小川までしか出てないから何ともいえない。魔法は家の中で火種を起こす時と飲み水の確保にしか使わないみたいだぜ、今のとこは」


「ふむ…二人とも堅実な性格なのだな。しかし町の人間との関わり方も気になる。明日以降も頼んだぞ」


了解、と答えたものの。あの少女達が堅実か…?と若干の相違を感じたので少し報告内容を付け足すことにした。


「フワフワ頭の方は呑気そうだし、サラサラ頭の方はワイルドな感じだった、かな?」


「は?…お前、女にモテたければもう少し女心の勉強をした方が良いぞ?」


心底可哀想な眼差しの上司に、テオールは頬を膨らませてそっぽを向いた。

そんなテオールの態度に怒ることもなく、ビアールは笑った。


「お前がお嬢ちゃん達ぐらいの歳になったら、きっと分かるさ」


「俺、フワフワ頭と一歳しか違わないんですけど!?」





フワフワ頭ことエルダは13歳、サラサラ頭ことリュールは14歳。お年頃の二人は既に明かりを消してベッドの中でおしゃべりに夢中。


「人頭税と当座の生活費を差し引いても、まだ少し残りはあるでしょう?ですから、そこを元手に薬を製作販売するべきかしら?それとも、森の恵みを加工販売なり卸すなりして元手を抑えて利益をあげる方が無難かしらね?」


「今のうちに森で採取できる物は採取して、冬に加工して卸すのはどうかしら。運が良ければお薬の材料も多少はタダで手に入るから元手を抑えてお薬を作れますもの」


おしゃべりの内容は結構真面目だが、声音は明るい。二人とも方面は違えども、物作りを好む。

地方貴族や中流貴族は家ごとに様々な家業を持ち、子供には早くからその手伝いをさせる。



「そうですわね、ではその方向で行きましょう。幸い、貴族籍の削除とギルドカードは関係無いそうですもの。がっぽり稼ぎますわ!そして、街歩きでお美味しい物をいっぱい食べましょうね」


「リュールは医薬品、私は手工芸をメインに荒稼ぎして目指すは食い倒れツアーですわ。でも、ギルドのある街へ行く前にこの町の食べ歩きも楽しみですわね」


まだまだ色気より食い気の勝る育ち盛りの少女二人だ。


リュールの家では一般的の医薬品の製造や薬種の扱いを家業としており、リュールは特に医薬品作りを好む。


エルダの家はそもそも当代騎士爵が三代続いて男爵位に上がったので、家業と言うべきものはない。しかし、エルダとその母は手工芸が得意なのでそちらに明るい。


「明日は…森を少し歩きましょうかリュール」


「そうしましょ、晴れると良いわね。明日は貴方が起きたら私も起こしてね」


「分かったわ、お休みなさい」


「お休みなさい、エルダ」


簡素な寝台は今までの人生で一番寝心地が悪い物なのだが、一日中慣れない労働をしていた少女達はその疲労感から本日も早々に寝入った。

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