■フォルベール家の団欒■
我が家の可愛いリュールは、貴族籍を抜かれて今はその身を東の辺境へと置いている。
リュールとエルダは『無実・無関係』にも関わらず、『退学・除籍・配流』を食らったので我が家とマヌエル男爵家は世間から注目の的である。
ただの下級貴族の娘を『無実』と明白にも関わらずここまで強引に司法の手で『除籍・配流』とくれば王族や上級貴族が絡んでいる事が分かる。
下級貴族の身分をただの平民に下げてから、別の上級貴族の家名を与えて王族の配下におくパターンは珍しくない。
配流先が東の辺境なのが、世間から注目される原因だ。
未開の地とも言われるので辺鄙で不毛と誤解されがちだが、領土が広大なので未開拓地が多いだけだ。
そもそもルゴール辺境伯領地は『王家不可侵の土地』として扱われる。国防を担う限り、与えられる権利は莫大。
そんな土地へ配流されるということは、何を意味するのか………。
「リューちゃんもエルちゃんも呑気だから魔物と野生の動物の見分けがつくか心配だわ」
「母さんじゃあるまいし、大丈夫だろ」
「んもう!お母さんでもそのくらい見分けはつくわよ!これでも若い頃は魔物ハンターさんだったんですもの」
「母さん、バレバレの嘘は笑えないよ」
「いや、本当だよ」
「父さん!?えぇっ!?本当なんだ…ちょっと意味が分からないんだけど。なんで伯爵令嬢だったのに魔物ハンターしちゃうようなお転婆で頭のネジがゆるめの母さんと結婚しちゃったの?政略結婚?」
「母さんの事貶してますわよね、それ」
「恋愛結婚だが何か?」
「ワォ、父さん男前だね」
「伯爵家から内密に大量の傷薬を頼まれるうちに、伯爵当主から結婚してやってくれと頼まれてどんなアマゾネスかとドキドキしていたら普通に美人だったから嬉しかったのをよく覚えている。初対面はちょうど今のリュールと同じ歳だったな」
「リュールは嫁にやらん!俺の目が黒いうちは誰にも渡さん!!」
「落ち着きなさい、リュールの結婚はリュールが決めるものですわよ。親の私達だって助言までしかしませんもの。それに、貴方の目は緑色ですわ」
「母さんがマトモな事言ってる、辛い。あ、でもさリュールは一応貴族籍抜けてるから我が家からお嫁に出してあげれないんだろ?」
「ふむ、貴族の男に惚れたならそこは考えねばならんな。籍が抜けてはおるが家族には変わりないのだから、親が娘を嫁に出して何が悪い。そこはしれっとやった者勝ちだな」
「相手が貴族の男なら、リュールが欲しければ自力でなんとかさせればいいか。じゃあ、概ね問題ないね」
「そうね、愛に障害は付き物ですし。スッキリしたところで薬茶にしましょ」
今日も我が家は平和だ。遠く離れたリュールを思い、きっと元気にしているだろうと話す。
あの子達の事だから『平民生活、楽しいですわ~』なんて言ってるんじゃないだろうか。
王家だの公爵家だの、雲上の世界の企みなんて我が家のような下っ端貴族には分からないからこそ。俺達は自分にできる範囲の事に専念するのみだ。
使用人達と、領民。それぞれ小さな領地だけど、預かる命がある限りは妹可愛さにフォルベール子爵家とマヌエル男爵家を投げ出して駆けつけることはできないけれど。
俺達が早く家督を継げば、両親達は引退できる。引退後にどこの辺境に旅行しようとこちらの勝手。
それより先に、弟達が国内の遊学に出るかもしれない。マヌエル男爵家はもともと剣の家だから、魔物の出るような土地へ行っても不思議はないよな。
さてさて、何をするにしても先立つ物は必要。
せっせと薬作りに励んで小銭稼ぎに精を出すとしますか。