東へ進め!街は広いな大きいな
階段を上がると、そのまま広いスペースがありその奥に同じサイズの部屋が二つ。
「部屋二つ分と同じくらい広いわね。ここ、道具や材料を置くのに良さそうかしら」
「木箱を重ねて棚がわりにすれば良いかもな。木箱の上に少し厚い板を渡せばちょっとした机になるしよ」
「名案ね!私、さっきからずっと、どうやって寝台や机を運び込もうか考え込んでたの!一気に全て解決するなんて素晴らしい、鮮やかな手腕ですわ!!」
手を叩いて大絶賛され、テオールが狼狽える。家具がわりに木箱を使うのは農民としては常識なので、ここまで喜ばれると思わなかった。
部屋を覗くと、寝台はあった。
「良かったな、ちゃんと使えそうだぜ」
酷い劣化や傷みなども無いようなので、一安心。部屋には寝台の他には何もないが、ちょっとした机と椅子なら置けそうだ。
「家の中はこんなかんじ。何か質問はあるか?」
「いいえ、有り難う。お陰様で大丈夫そうよ」
時間があるので家の周りの簡単な案内をしてくれるという。一番先に外に出たテオールが苦笑いして玄関の施錠を促し、一番最後に家から出たエルダがペロリと舌を出す。
「騎士団の見回りもあるし、ここら辺は治安が悪い訳でもないんだけどさ。おじょーさん達の二人暮らしなんだから、ちょっと危機感持っておいた方がいいぜ」
「はーい」
「気をつけますわ」
素直な返事だが、底抜けに呑気そうな二人にテオールが心配そうな顔をする。危機感、皆無にしか見えない。
魔物にパンを投げてスタコラさっさ、だしなぁ…。危機感が0でも、危機回避能力はあるのだろうか。
「ところで騎士様、この通りは他にどんな方々がお住まいですの?昼間にしては閑静すぎませんこと?」
「テオールでいい。ああ、ここは館や砦で働いてる奴が多いかな。他は通いの職人だとか引退した老夫婦とかだな」
同じサイズの家が並ぶ通りの中心広場公園寄りの端っこの家が少女達の新居。
「ここら辺に食品関係の店がまとまってるな。あの赤い屋根のパン屋は結構うまいぜ。昼過ぎには閉まるけどな。その隣にあるのは食堂……あまりおすすめは、しない」
最後は小声で真顔になるテオールに、小声だがストレートに『まずいの?』と聞くエルダ。
「いや、味はまぁまぁだけど微妙に高いし酒も出るから夕方以降は止めておけ。あそこ、月に何回かは酔っ払いの騒動で騎士団が呼ばれるんだよな。あのパン屋はもう閉まってるが、もう少し先のパン屋なら開いてるはずだ。寄って行くか? 」
町のパン屋で餞別にパンを貰ったので、辞退する。その後もちょろちょろと歩き周り、家の近くの店や雰囲気はなんとなく分かった。
他にも役場やギルド、教会の説明を聞く。
家に向かう途中の店でテオールが声をかけると、店主はテオールと二人を交互に見て『持ってけ持ってけ、カワイコちゃんに良いとこ見せてやんな!』とニヤニヤしながらも快く木箱を分けてくれた。
二人の少女がニッコリと木箱の礼を言えば、店主が『よし、オレの良いとこも見せてやろう!』と機嫌よく自ら木箱を担いで玄関まで運んでくれた。
木箱、計6つゲット。かなり頑丈な木箱にホクホク顔のリュールと何やら工芸品に使えないかと思案顔のエルダ。
後日になるが、休みで暇な時に厚い板を運んでくれるというテオール。では、その時は今日の分も含めてお礼にお食事をご馳走させてくださいね、と約束した。
「じゃあな、俺は普段は砦にいるから困った時は声をかけろよ。戸締まり忘れるなよ」
丁寧に礼を述べる二人に、戸締まりを念押ししてテオールは帰っていった。