サリア
都合よく、テンポよく進んでいきたいと思います。お読みくださりありがとうございます。
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グレーのローブを纏った黒い髪の男が、冒険者ギルドに入るのを確認する。
「無事に依頼を終えたようですね。それとも、尻尾を巻いて逃げ帰ってきたのか・・・。」
後者では無いことを祈り、サリアはカーテンを閉める。今頃エリーナが対応しているだろう。フウッと静かに息を吐き椅子に座る。彼女の視線は部屋の扉に固定されていた。異なる世界から現れた、一人の男がこの部屋に来ることを願って。
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冒険者ギルドに入り、エリーナの下に向かい魔石と素材を渡す。
「2つ?」
出された魔石の数を数え、不思議そうな声を出す。
「ええ。依頼のモンスターかはわかりませんが、二匹いましたよ。」
「そうですか・・・。イヤ、此方が聞いた情報とは一匹多かったので。」
「そうなんですか?それにしても、依頼のモンスターはこのモンスターで間違いないですか?」
「恐らくは間違いないでしょう。情報を集め、ギルドが推測したモンスターで。」
よかった。これで違っていて、魔石も素材もゴブリン並の値段なら目もあてられない。
「報酬は依頼主から、直接お受けとりください。こちらです。」
エリーナは立ち上がり俺を2階へと誘導する。少し大きめの扉がある部屋の前に着き、エリーナは扉をノックする。
どうぞと若い女性の声が聞こえ、エリーナが扉を開け部屋に入るように促される。
部屋の中には、自分と同じかもしくは少し年下に見える女性が椅子に座り微笑んでいた。
「はじめまして、ヒロ・ミヤベ様。私はここのギルドマスターをさせていただいてるサリアと申します。この度は私の依頼を受けてくださりありがとうございます。」
金色の長い髪が、カーテンの隙間から射し込む陽射しで輝き、青い瞳はどこまでも澄み渡る空のようで吸い込まれそうだ。
「どうかされました?」
まるで絵画を見ているようで、みとれている俺にサリアが尋ねる。
「えっ、いやぁ、随分とお若くて美しい方がギルドマスターとは驚きまして。」
「あら。お上手ですこと。私はもう50歳ですよ。」
「いやいやいや、ご冗談を。どうみても僕より若く見えますよ。」
チラリとエリーナを見ると、真剣な眼差しで此方を見ている。どうやらマジらしい。
「どうぞ、お掛けになってください。」
椅子の一つをすすめられ腰を掛ける。そしてテーブルに俺の冒険者カードが置かれる。先程、魔石を売る際に提出したものだ。カードは裏側に置かれ、これまで俺が討伐したモンスターの名前と数が記されている。
「バジリスク。一番上に書かれているのが、今日貴方が倒されたモンスターの名前です。あら、2匹いたんですね。」
柔らかい微笑みを絶やさず、俺に説明をする。確かにそんな機能があることをエリーナが言っていた気がする。
「えっと、何か問題でもあるんですか?」
「問題ですか?大有りですね。」
えっ、何か不味いことをやったか?特に思い当たることがなく、俺はウーンと考えこむ。
「問題というのは、貴方の強さです。本来バジリスクは石化耐性付与のできる、ミスリル級の神官一人を含めたミスリル級冒険者5人で討伐するものです。」
ニコニコと笑みは浮かべているが、言葉は真剣そのもので僅かに緊張感が見られる。
「へっ?そうなんですか?」
エリーナに確認すると、エリーナも頷く。
「しかもそれを二匹倒すとは。私達が得た情報では一匹だったのですが。」
「えっ?と言うことはわかってて俺に依頼を出したんですか?」
「はい。失礼ですが貴方を試させて頂きました。異なる世界からやって来た、貴方の実力を。」
「なっ!?どうしてそれを!!」
俺が慌てて立ち上がると、エリーナが落ち着いて下さいと言い、サリアはテーブルに置かれた俺の冒険者カードを手に取り何かを呟く。するとカードの空白部分に、称号【渡り人】という文字が現れた。
「ギルド員の中でも上層部しか知らない魔法です。渡り人、勇者一行にもこの称号があったと聞いております。」
気になるワードを聞き俺は椅子に座り直す。
「それで?俺をどうしたいんだ?」
試された事に憤りを感じる訳ではないが、下手に出る必要もないだろうと考え普段の喋り方に戻す。
「一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」
俺は何も言わず頷く。
「貴方は勇者一行とはどういう関係でしょうか?」
「ああ、あいつらとの関係か。俺はただあいつらの召喚に巻き込まれただけで、あいつらとは面識もない。」
「もし、勇者一行が貴方に仲間になるよう言ってくれば、貴方はどうされますか。」
「質問は一つだったはずだけど?まぁ、いいや。断るよ、俺にもやることがあるんでね。」
「やることとは?」
答えるたびに質問が増えるな。少し脅してみるか。
「人族を滅ぼすこと。」
その言葉に流石に笑みも消え、サリアは目を見開く。いつも表情に乏しいエリーナも、これでもかと目を見開いている。
「何ていうのは(冗談)「そうですか。でしたら私達に協力頂きたいのですが?」・・・・へ?」
協力?なんで?サリアもエリーナもどう見ても人族だ。滅ぼすなんて言われたら兵士に突き出すとかするだろう。
「ええっと。話がよくわからないんですが?」
「人族を滅ぼされるのでしょう?ですから我らも協力させてもらいます。なにかおかしいでしょうか?」
「いやいや!十分おかしいでしょ!サリアさん人族でしょ?しかもギルドマスターが人族滅ぼすのに協力するなんて、おかしいでしょ!」
全力でツッコむが、当の本人は首をかしげながらあごに人差し指を当てている。とても50歳とは思えない。
「ああ!そういうことですか!私は人族と魔人族のハーフなんですよ。人族の血が濃いいので見た目は人族ですけどね。」
「じゃ、じゃあエリーナさんはどうするんですか!彼女は・・・。」
言いかけて言葉が止まる。目の前にいたエリーナは背中に蝙蝠の羽を生やし、瞳も紅く変わり牙も生えていた。
「ヴぁ、ヴァンパイア・・・」
「はい。私はヴァンパイアの魔人です。」
椅子からひっくり返りそうになるのを何とかこらえ二人を見る。
「私とサリア様は、ギルド員として人族に潜り込み人族の動向を伺っております。ギルドには情報が多く入りますからね。」
「い、いつからですか?」
「エリーナはこの街ができた3年前からですよ。私は元々、王都でギルド員として働いていましたがここのギルドマスターに任命されこの街に来たのです。」
「だけどなんで?」
そのまま人族として暮らせばよかったのでは、と俺は思う。
「いつからでしょう、我々は総じて魔族と呼ばれ人族から虐げられてきたのは。それはどこの街でも変わりません。私はいつか人族と分かり合える日が来ると思ってました。」
言葉と共に瞳が金色に変わっていく。
「ですがこの街にきて、その日が来ることは絶対にないのだと知りました。先住民である獣人の住処は見ましたか?この街でとれる鉱石は、すべて獣人達が不眠不休で獲っているのを知っていますか?そして今回召喚された勇者一行、その者達を使って魔族を全て殺すつもりです。」
「ああ。それは知ってるよ。俺はそれを止めるように頼まれたんだ。・・・それと人族を滅ぼすってのは冗談だ。本当はバランスを取ってくれって頼まれたんだよ。」
まあ、誤解は早めにといておく方がいいだろう。
「先ほどから頼まれたと言ってますが、一体誰に?」
エリーナがいつの間にか人族の姿に戻り聞いてくる。
「信じてもらえるかわからないが、神様だよ。」
「神ですか?そんな存在がいるなら、何故私たちはこのような仕打ちを受けるのでしょうか?」
「ああ。神様はこの世界に干渉できないらしい。だから、俺が任された。バランスをとれと言われてるから人を滅ぼすことはできないが、できる事はするよ。」
まあ、バランスをとれと言われたがどうすればいいかわからない。単純に人数を調整するのか、種族ごとの土地のバランスなのか考えれば他にもあるだろう。
「貴方の強さは神様から与えられたものですか?」
サリアも落ち着いたのだろう瞳の色は元の色に戻っている。
「質問が多いな。それは秘密だと言っておこう。」
まだ手の内を明かすには早いだろう。スキルはまだまだ吸収しないといけないからな。
「フフ、すみません。しかし、貴方はこれからどうするおつもりで?」
「まずは力を蓄えこの街を解放する。何かいい方法があれば教えてほしい。」
「わかりました。情報を集めておきましょう。」
一応の話はここで終わりだろう。俺は席を立ち部屋を出ようとする。
「そうだ。他にも強いモンスターが出る所を知らないか?・・・後、報酬は?」