3話 世界的えくすぷれいん
タイトル通りおおまかな世界観の説明回です。
こういうのって大抵流し読みされるよね!
でも、わたしもそれでいいと思っています。
「うわぁ、早くもそこきちゃうかぁ。核心つくような質問がふたーつ、君もよくばりだねぇ」
「最も重要なことだからな。なるべく早めに聞いておきたい」
もちろん答えられない場合は…この話は無かったことになる。それだけではない。同時にこの半透明の人型を敵と見なすことにもなる。答えられないということはそれなりの黒い理由があるということだからな。
「うわわ、そんな怖い顔しないでよぉ。別に悪い話じゃあないんだからさぁ」
どうだか。大抵の悪人はそのセリフから始めるのだ。気づいたら時すでに遅し。逃げられない、抜け出せない場所まで来てしまっているものなのだ。
「話すと長くなるんだけどさぁ、それでもいろいろと大丈夫ぅ?」
なにがいろいろなのかはわからないが、俺は問題ない。
「じゃあ始めようかぁ。まず、世界はこの地球一つだけではない」
「ちょっと待った、タイム」
いきなり跳躍しすぎだろ。もっと前置きとかさ、いろいろ用意するべきだろ。
「おや、さっそくかい?これだと先が思いやられるんだけどぉ」
てっきり魔法のことを話すかと思いきやいきなり異世界の存在カミングアウトされたんだぞ。そりゃ混乱するわ。
「でも、このことから説明しないと魔法の説明が難しくてねぇ」
それならたしかにしょうがないが。さすがに不意打ちはやめてくれ。
だが確かにこのままだと時間がかかりそうなので、頼み込んで質問は無しにして大まかな概要を話してもらうことにする。
「じゃあ、話していくねぇ。もうわかってると思うけど、僕って説明するの苦手だからわかりにくくっても怒らないでねぇ?」
それは先ほどの会話でよくわかった。あまり期待はしていないので問題はない。
そして、彼は語り始める。
この世界は一つだけではない。
これは言葉通りのもので、地球という世界の他にもう一つの世界が存在している。その世界の名はティアと呼ばれていて、地球とは別の次元に存在している。もちろん別次元なので宇宙上の全てを探索しても見つからない、完全なる異世界だ。
大昔に、地球とその異世界とがつながるゲートが開いた…らしい。原因は不明だがゲートは安定し、異世界と地球の行き来が実質可能となった。一部の人間がそれを発見し、調査へと向かう。
調査するにおいて、未知の世界で一番優先されるのはなにか。
文明と文化である。その世界の人々がどのように日々を生き抜くのか。なにを使用して、この理不尽な現実に立ち向かうのか。
それが、魔法だった。異世界の人間は魔法を使い、日々の生活を営んでいた。走る、持つ、遊ぶ、火をおこす、戦う。余すところなく魔法が使用されたその暮らしは、地球の人間には魅力的に見えた。もちろん地球人はその魔法文明を自分達の暮らしに取り入れようと動き始める。こうして異世界と地球の異文化交流が始まったとされている。
だが、魔法は才能による能力の差が大きすぎた。それがいけなかった。
魔法は極めると国に影響を与えるほどの力を単独で身に着けることができる。そうなると、当然才能溢れる者が国を支配するようになるのだが、それをよく思わない者がいた。
魔法が地球にもたらされる前より続く代の王達である。彼らは王だからといって特別魔法の才能があるわけでもない。中には才を見出した者もいたが、それはごく少数だった。もちろん王達自らが築き上げてきた国を素性もわからぬ、ただ魔法の才能があるだけの人間に任せるわけがない。それどころか、王達は魔法自体の排除に動き出した。自分の立場を脅かす者は徹底的に消してゆくのだ。
それは仕方のないことだとは思う。自分の暮らしを脅かされてまで抵抗しない人間はいない。王制盛んな時代に魔法の文明を取り入れたのは失敗だった。あまりにも時期が悪すぎた。地球における魔法は一転して邪悪なるものとして扱われ始めた。そして魔法を使う者を虐殺する政策が行われる。ある時代に、魔女狩り、とも呼ばれていたそれは深く根付き、今も国によっては行われている。これが地球における魔法。
もちろん、魔法文明を完全に根絶できるわけではなかった。今も姿を隠し、体系を変え、ひっそりと魔法文明は生き続けている。異世界との交流も秘密裏に行われていて異世界からこの世界に移り住んだ者もいれば、その逆もいる。そしてこの僕もその一人、異世界生まれの魔法使いなのである。最後に彼は、まあ僕はかなり昔から地球に住んでいるけどね、と付け加えた。
「ふぅー。語った語ったぁ。こんなに話したのはほんとひさしぶりだねぇ、ちょっと疲れちゃったよぉ」
彼が話をしている時、どこか悲しげな顔をした時があった。忌み嫌われる魔法を使う者として、彼にも様々な物語があったのだろう。少し同情するが、ここで話を終わるわけにはいかなかった。もう一働きしてもらおう。
「で、その魔法使いさんが魔法を継いでほしい理由はなんなんだ?」
「そうだった、それを忘れてたねぇ」
彼は遠くを見るような目をして、
「その異世界の様子を見に行ってほしいんだよねぇ。たまにでいいからさぁ」
と言った。
「それって、自分でやればいいことなんじゃないのか?」
「それがねぇ、できないんだよねぇ。僕もう死んじゃってるからさぁ」
おや、幽霊かと思ったが本当に死んでいたのか。
「あれ、でもその体で動けるんじゃないのか?実体もあるし」
「たしかにこの姿は実体があるんだけどねぇ、実はこれ君の目の前にある青い宝石からでてる魔力の塊みたいなものなんだよぉ。死ぬ前になんとかして宝石に魂ごと自分を閉じ込めたんだけどさぁ、これ魔力の消費すごいしぃ、この体出してない時は無防備そのものだしぃ、外をうろつくのは危なすぎるんだよねぇ」
「で、魔法を継いだ俺にお前の入った宝石持って異世界に行けというわけか」
「そうそう!ほんと君物分りよくて助かるねぇ!で、魔法なんだけど継いでくれるかなぁ?」
少し待っていただきたい。
「肝心なことを聞いてないぞ。魔法を継ぐことによるデメリット、例えばとある組織に狙われるようになるとか、そういうのないか?」
「それは心配いらないと思うよぉ。神経痛とかそういうのが起こることはないしぃ、魔法のない人間が魔法を感知することはできないしぃ、それに近い組織は今から数百年前にみんなでぶっつぶしてやったしねぇ。少なくとも今はそのような組織があるって噂はきかないよぉ?あとは異世界だけど、僕の魔法を継げばそうそう危険なことにはならないと思うよぉ」
おっさん、結構派手なことやってたんだな。組織ぶっつぶしたとか。
「というかいまいった通り情報を持ってくる人物がいるのか?そいつと連絡を取ることはできるのか?」
「いやぁー、たまに来て伝えることだけ伝えたらすぐに去ってくからねぇ。まあこの家にいればそのうち会えるんじゃないかねぇ?」
そうか、それなら問題ない。情報源がこいつだけじゃなんとも頼りなかったのだ。
「じゃあ、最後にひとつだけ質問いいか?」
「ほいほい、まかされたよぉ」
「あんたの名前は?」
と言うとおっさんは黙り込んでしまった。なんだ、そんなに言いたくない内容なのか。
「べつに言いたくないわけではないんだけどねぇ」
彼は物思いに耽るようなしぐさをしながら言葉を紡ぐ。
「名前、忘れちゃったんだよねぇ」
……忘れた?自分の名前を忘れるなんて、ありえることなのだろうか。
「ま、何年も何年もいきてるからねぇ。短い年月を生きる人間じゃあ思いもしないことだろうけどさぁ。僕らにとって名前なんてそんなものさね。といっても不便だからねぇ。たしかだけど、ちょっと昔にダンとかいう名前で呼ばれてたはずだから、とりあえずはそれでいいかねぇ?」」
そんなものなの……か?というより、いまこいつ、ダンは聞き捨てならないことを言った。それについて確かめねば。
「お前……その言い方だとまるで自分が人間じゃないみたいな…」
言いかけたところでダンが言葉を切るように両手を広げ。
「ああ、僕は人間じゃあない。一応君達の言葉を借りて言うと、悪魔、かなぁ」
不敵にほほ笑み、そう言った。