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1話 もしかして:幽霊屋敷

初投稿ですが、みなさんどうぞよろしくお願いいたします。

ある程度書きためてあるので、最初は早い更新をしていこうと思います。

「もっと、勉強しておくべきだったかな…」


 ひとりごちながら、街道を歩く。まだ春になり切れていない、冷たい風が肌を刺激する。


「この町に住むのかぁ…」


 思わず立ち止まり、辺りを見渡す。見慣れない景色というものは、期待とともに不安も呼び寄せてくる。


 そう、俺、大江合喜(おおえあいき)は戦ったのだ。満足な武器も持たずして立ち向かうべき相手は強大、圧倒的格上。骨を拾う者すらいない血で血を洗う戦い、それは凄惨を極めた。


 敵の名は……大学受験という。満足な武器を持っていなかった(勉強ほとんどしていなかった)彼は、あっけなく討ち取られた。


 だがしかし、一矢報いることができたとは言えよう。志望したものよりランクはふたまわりほど低いものの、合格することができたのだから。少なくとも本人が一矢報いたと思っているのでそうなのだろう。彼の中では。


「どっかいいアパートないかなー」


 再度、ひとりごちながら町を練り歩く。来月から大学に通うことになるのだが、実家から通える距離ではなかった。当然、アパートの一室を借りて一人暮らしをすることになる。その費用は大学の授業料と合わせるとなかなかのものだ。生活に慣れてきたらバイトをする、という条件付きではあるが承諾してくれた親に感謝する。


 現在、掘り出し物件を絶賛探し中なわけだが。


「やっぱもうどこも埋まってるよなあ…」


 遅すぎた。遅すぎた。失敗した。もう3月ということもあり、だいたいの物件は埋まっている。あるとすれば、でもお高いんでしょう?と見るだけでわかってしまい、実際高いというものくらいだ。しかも半端ないくらい高い。現実は甘くはないのである。


「あとは北側だけか」


 歩き出す。歩き出すしかなかった。体力も気力もゼロに近い。たぶん見つからないだろう。だが、希望はゼロではない。さあ、行こうではないか。




 そして…






「やっぱり見つからなかったよ…」


 なかった。奇跡なんて起こらない。やはり現実は甘くない、非情なのだ。


「いやこれまじでどーするよ…」


 さすがにまずい。最初の一歩から躓きすぎだ。先が思いやられる。


「もう少し条件緩くするしかないのか……いや、それをすると……ん?」


 そこで通りにある借家が目についた。なぜか目が焼け付くほどに。どこか歴史を感じさせる少しさびれた一軒家だが、不思議と目が離せないでいた。これって…なんで……キュンッ!…なんでやねん。相手は家だぞ、俺にそんな属性はない。少し冷静になろう。


 なぜそこまで自分の気を引いたのかはわからない。

だが、その家は言葉にできないなにかを醸し出していたのだ。


 借家、入居者募集中!電話番号~~と簡潔に書いてある看板が立っている。いまどき珍しいスタイルではないか?まあ、素人目の俺がぐっとくるようなものなのだ。それでいまだ入居者がいない、つまりお高いのだ。というかそもそも借家ってどうなのよ。大学いく程度でやりすぎだろ。


 どーせ高い、高いんだ。値段を見すらしないぞ…。


 

……気になる。なんでこんなに気になるんだああぁぁ!!


 しょうがないな、わかったわかった。好奇心は猫を殺すぞ?殺しちゃうぞ?ついでに俺も殺すぞ?いいか、見るぞ!?見るからな!?いざ、オープンザプライス!!


 月3万(ドン!)


 「……ウソだろ?」


 月3万ってこの地区のどのアパートよりも安くないか…?いや、ウソだろ……?


 まじかよ、起こったわ、奇跡。甘かったわ、現実。神様ありがとう。


こうして俺の新たな学生生活は始まった…のだ。




 4月。朝。

 ついにこの時がきた。今日からスタートする新しい生活。オタク的な趣味も相まって女っ気がなかった高校時代。趣味をやめるつもりはないから可能性は低いかもだけど。少しくらいは…あるよな?うん、悲しくなってくるからやめよう。


 なにはともあれここからだ。引っ越し作業もギリギリではあるが終了し、落ち着いてきた。いまのところ残る問題は大学内のことだけだ。気の合う人いればいいんだけどなあ。そこまで話すの苦手じゃないし、そのあたりは大丈夫だと思うけど。では、いってみよう。




 結果。

話の合う人は何人かいたので助かった。うまくやっていけそうで、ひとまずは安心だ。……女子はいないけど!理系の大学だからね。しかたないね。





 そんなこんなで1か月後。前言撤回、家で問題が発生した。寝る時、なぜかタイミングを見計らったように音がする。しかも物音ではない。人が呻くような声だ。はっきりいって冗談じゃない。


 家賃安いからってやめとくべきだった。おいしい話には裏があるとは言うが、こういうことなのか。ああ、騙された。最悪だ。


 幽霊屋敷とかテレビで見ると逆に住んでみたくなるものだが。実際にやられるとたまったものではない。友人に面白おかしくではあるが相談してみた。結果、幽霊美少女とかだったらマジやばくね!?と羨ましがられてしまう。


 そういうものじゃないんだ。本当に怖いんだ。お前一回来てみろ。というわけで友人をご招待して泊まらせてみた。結果、声はしたのだがなぜか友人には聞こえていない様子。このままでは逆に俺が心配されてしまうので、勘違いだったことにしておいた。


 無視するという選択をしてみたが、一向に収まる気配はない。むしろ、いままでパターン化されていた呻き声が突然大きくなったり小さくなったりするなどレパートリーに富んできたおかげで驚かされる毎日である。機転の効くやっかいな幽霊である。


 そして今日、決心した。幽霊の正体とやらを突き止めてみせる!と。


 作戦開始は午前0時。いままでわかったことは寝ようとすると呻き声がする。実験で寝るフリでも声がすることがわかった。つまり、心は読まれていないということ。フェイントには弱いやつだ。寝るフリをして呻き声の場所を特定し、突撃をかける。装備は鉄の棒とナベのふた。しょうがないが貧弱だ。作戦は至極単純。あとは、なにが起こるか。



 時間だ。

 …作戦開始!


「……ゥ…ウゥ………」


 きた。ここまではいつもと同じ。さあ、場所を割り出さなくては。


「ゥ………」


 どうやらわりと近いようだ。耳を澄まし、さらに集中する。


「…ウ」


 なんとなくだがわかった。おそらく隣の部屋の物入れかと思われる。


 あとは突撃をかけるだけだ。でもやっぱり怖い。怖いものは怖いのだ。しかし、このままヤツに何年も苦しめることになるのは耐えられない!ええいままよ!


「いいかげんにしろおおぉぉ!!」


 日頃の恨みが100%配合された雄叫びを上げながら隣部屋の物入れに突撃する。ここまではよかった。よかったんだ。そこからがいけなかった。


 物入れにはなにもなかった。そう、なにもなかったのである。引っ越しの時に運んだ荷物も。…床すらも。


「おおおおおおおぉぉ!!!???」


 初めて味わう長時間の落ちてゆく感覚。さながら処刑される罪人。さながら太陽に近づきすぎた者。振り絞った勇気ポイントもさすがに足りなくなり。俺は空中であっさり気絶した。






 ひんやりとした石床の感覚。そして頭に僅かな痛みを覚え、目を覚ます。


 俺は確かに高い場所から落下したはずだ。物入れというありえない場所からではあるが。正確な距離はわからないものの、少なくとも落ちていると実感できる距離だ。通常の人間が生きているはずがない。床もこの通り、石作りなのだ。


 だが、俺はこうして生きている。もしかしたらあっけなく死んでしまい、死後の世界なのかもしれないが。辺りを見渡し状況を確認する。


 広い、とにかく広い部屋だ。壁には所狭しと本棚が並べられ、敷き詰められた本が自分こそが代わりの壁だと主張している。中央には一目でわかるほどのアンティークチックなイスと机。机には乱雑に宝石や開かれた本等が置かれている。


 ここで、天井に明かりの類がないことに気が付く。しかし、周りを見渡せるほどにはこの部屋は明るい。一体なぜなのだろうか。


 周りに動くものがないことを確認し、僅かに安堵する。だがその儚き平穏は次の瞬間簡単に砕かれたのだった。


「やあ、お目覚めはいかがかねぇ?」


 突然の声に、その主の方向へ顔を向ける。


 そこに立っていた、否、浮いていたのは一人の男だった。190cmはあるであろう長身、やせぎすな体。優しげな、というよりは人懐こいと形容するほうが正しい笑みを浮かべたその顔は皺が入り茶色の髪には僅かだが白髪が混じっている。全体の評価をするならば、落ち着いた雰囲気の40~50代の優しそうなおじさんだ。その体が浮いていなければではあるが。その体が半透明でなければではあるが。


 幽霊の正体、美少女じゃなかったよ…。そんな場違いなことを考えながら、俺は意識が再び失われる感覚を覚えていた。

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