(9)
3 ファミコンとビデオの福袋
『ファミコンとビデオの福袋が届いた。来て!』
……シンプルだな。
今日は土曜日。学校もなく、ただ家でマンガなど読んで過ごしていた。そして、このみほのメール
いいじゃねぇか、行ってやるぜ。行かせて下さいだ。
ここしばらく刺激がねぇ。それは福袋を開けていないからだ。……と言っても五日前にはみほの開けるところを見ている。そう、五日福袋を開けていないと落ち着かない。そういう体になっちまった。……恐ろしいよな。これが深みにはまるというやつだ。
楽しい、福袋が楽しくてもう抜け出せねぇ。ま、買ってるのは俺じゃないが。
ということで俺はさっそく行くという返事をして、身支度をした。
親が、「最近、よくみほちゃんのところに行っているわね。なにかあったのかしら? フフフ」なんて言っているが、福袋目当てで行っているとしか言えねぇ。
――さて、みほの家まで徒歩圏内にあるので散歩がてら行く。
会えば、「よう」「おう」という簡単な挨拶のみだ。お互いやることは決まっている。それは福袋を開けること。
「その小さいのがファミコンで、大きいのがビデオだな。……お前、ファミコンの本体ないし、ビデオデッキもないじゃん。マジ開けるためだけに買うんだな。転売目的もあるんだろうが」
「いやぁ、ビデオはさすがに無理っしょ。これはもう好奇心を満たすためだけのもの。さ、まずどっちからいく?」
どっちでもいい……が、ファミコンかな。ロックマンの金色カートリッジが高いって噂だ。何十万もするらしい。ロックマンのカートリッジ来い! ……なんて、世界に数本しかないんだ。そんなのこんなところに入っているわけねぇ。
「開けるよ」
ビリィィ……。
駿河屋にしては珍しく、箱ではなくブックオフオンラインのように紙袋に包まれている。
ちなみにこの福袋、二十本で九百八十円だ。まあ普通に安い。状態は保証できないがな。
そして、中身のほうはと……。
ほう、やはり裸か。いや、待て。一つだけ箱入のソフトが入っている。もしかしたらもっとあるかもと期待したがしょせんジャンクだ。仕方ない。
「ロックマンないかな、ロックマン……あるわけねーか」
「あっ、これ知ってる。北斗の拳でしょ? 魔界村も知ってる」
「ツインビーに、ワイワイワールド……けっこう知っているのが多いな。これ面白いって噂だぜ。わっ、スパルタンX! これ、動画で見たよ。ニコ動で」
「当たりなんじゃない、これ」
「だな。くにお君もあるし、格闘なんとかってやつ。……おいおい、北斗の拳が1と、2が二本だって? どんなけ北斗の拳プッシュだよ」
「じゃ、次はビデオのほう開けよっか」
「おう、頼む」
ビデオはカオスだよな。どう考えても。想像もできん。
――開けると、中にはギッシリとビデオが詰まっている。まあ、当たり前なんだが。
「でけぇ! やたら目立つのがあるな。普通のビデオのサイズの四倍はある。なにかの限定品か?」
確認すると、音楽系のビデオだった。本来ならこの中に特典が入っているのだろう。特典なしというシールが貼られていた。でも……。
「知らねぇな。やっぱりビデオだと、俺たちほとんど知らねぇわ」
時代はもはやDVD、そしてブルーレイでもある。ビデオは古すぎた。
「市販のビデオじゃないやつが多いな。……これは進研ゼミ系のビデオか? 五本も入ってやがる。レンタルものも多い。なんだ、これ? ビニールが破れているぞ」
やはりカオスだった。どれもほしいものなんてない。
「アダルトビデオ? よくわからん。盗撮っぽいのも一本入ってた。新体操のやつだ。企画ものか、それとも普通に盗撮したもんなのかわからん。ラベルも手製だ。古い」
「レンタル仕様だとどこにも売れないよね。箱だって変色してるし」
「箱がないやつも多い。これは即ゴミ箱行きだ。そういうのがけっこうあるな。十本はいらねぇ」
「残り十本はブックオフオンラインか……」
「で、残った十本はヤフオク。……つっても売れねーと思うが、これはマジで」
「まあ、二百円だったしダメ元で出したらいいんじゃない。どれ売る?」
「うーん、強いて言うならばこれかな。トミカのビデオ。外箱がないがな。あとはコナミなんとかインフォメーションってラベルがしてあるビデオだ。これだけじゃあなにがなんだかさっぱりわかんねぇ。もしかしたら会社の極秘資料かもしれない」
「もしそうだったらやばいよね。なんで駿河屋の店にあるんだって」
「そう言えば聞いたことがある。発売前のゲームソフトがヤフオクで流れたことがあったみたいだ。コナミじゃないぞ。そいつが四十万以上で売れたんだって。まあ確かにレアだわな。ただ、そんな高値を出してまで試作品を欲しがる気持ちがようわからんが」
「これはどう? 社労士の教材」
「教材か……資格系のやつだろ。五万ぐらいで教材を買うやつ。何年のやつだ? ……どこにも書いてないな。だったら傾向とかわからん。せめて三年位内にしてほしい。そうしたら売れるかもしれないのに。仮に十年もたっていたら、今の時代とはマッチしていないだろうな。ここ数年の間で変わりすぎた。特に年金なんかはな。払う金が増えて、もらえる金が増えて、これどういうこと? 状態だからな」
「じゃあ……捨てる?」
「八本セットか……売ろう。売れなくてもペナルティはなにもない。リスクは時間だけだ。いいぜ、それぐらいやってやる」
さて、恒例の写真撮影だ。最初にファミコンだな。……まとめて写すか。後ろや真上からの写真も撮っておきたい。ヤフオクで載せられる画像は三つまでだ。まとめて二十本撮るしかない。
裏技でもっとたくさんの画像をアップできる方法もあるらしいが、今回はパスだ。ファミコンだ、三枚でいいだろう。
ソフトを裏返すと名前の書かれるものも少なくない。
「誰だよ、この山下って。さすがのファミコンクオリティだな。自由な時代だよ」
「でも、今もDSのカートリッジに名前書いてる子、いるんじゃない? ファミコンの時代よりは少ないと思うけど」
「当時、これらが一本六千円ぐらいしたんだよな。それにマジックで名前を書くか? 裕福な時代だよな」
パシャ、パシャ……。
そして、ビデオも一応パシャ。こんなの買ってくれる人、まずいないだろうけど、なにが起こるかわからないのがヤフオクだ。実験的に出品してみよう。世の中は広い。
「さ、次にアップしようか。またパソコン借りるぜ」
「どうぞ♪」
これも慣れたものだ。さっさと目的の画面まで行く。
「タイトルか……『ファミコン二十本セット』でいい?」
「えー、ソフト名も書いてよー。画像に映ってるソフトも小さくしか映っていないんだからさー」
「はいはい。んじゃ、ソフト貸してみ」
今回は出品数が少ないからな。特別サービスだ。
「魔界村……ドラクエⅢ……ツインビーっと。影の伝説……ん? あれ?」
「どうかした?」
「いや、なんだ。左上に邪魔なシールが貼ってやがる。剥がしてやろうかって思ったが、見ろ。ヤマキめんつゆサマープレゼントだって」
「なにそれ?」
「ん、ちょっと待ってな。調べる……もしかしてレアものか。だとしたらマジでこの駿河屋袋、貴重なもん入ってんな。あ、出た出た」
んー、限定品みたいだな。なになに、一万名限定だと?
この数は多いのか少ないのかよくわからんな。でも、駿河屋は通常でも限定版でも区別しないらしい。値段はどうだ? プレミアついてたりする?
某中古ショップで九千九百円の値段だった。ショップによっては一万円を超えるところもある。
「おいおいおいおい~、マジかよ、駿河屋。しかもショップに映っている影の伝説より、俺たちの影の伝説のほうが状態が若干いいぜ。ヤフオクでも見てみるか。誰か出品しているかもしれない」
すると、ちらほらあった。箱説付きで五万というのもあったし、裸の即決で五千五百円というのもあった。
「しかしこれはあくまで出品時の開始価格。この相場でスムーズに現金化できるとは考えられん。……とは言っても三千円ぐらいなら売れそうだな。他のソフトも付けたらさらに可能性は大だ。送料無料で確実だろう。おい、やったな。また当たり、しかも大当たりだ」
「一万いく?」
「いや、一万は無理だろ。影の伝説以外にもレアなソフトが入っていたら別だけどな。北斗の拳はどうだ。2なんて二本もあるぜ……あぁ、ダメだ。さすがにそれは夢を見すぎか。普通に三百円ぐらいで出品してる」
「じゃあ、セットで三千円でいこうよ、ね!」
「うん、いいと思うよ。送料はこっち持ちだからな。それでも売れたら千円は儲かってるぜ」
えっと、本数確認だ。もし現物に十九本しかなくて二十本セット! なんて書いたらクレームにつながる。かと言って、セットだけではややパワー不足。ここは本数を明確にすべし。
「一、二、三、四……」
丁寧に数える――が。
「十九、二十、二十一、二十二……あ? あれ?」
二十二? マジでか?
「えっ、ちょっと待てよ。一、二、三……」
「どうしたのよ? 何回も確認して」
「いや、その……もしかして二十二本ある?」
「えぇ~? それはないんじゃない。だって二十本で九百八十円なのよ。まさか二十二本なんてそんなサービスしてくれるわけ?」
「だってあるんじゃないか。俺の数え間違い?」
「とにかく今度はわたしが数えるから。一、二、三……」
たぶんあるぞ。マジで二十二本。
「十九、二十、二十一、二十二……あるね」
「だろ? 北斗の拳2がかぶっているから一本サービスするってのはわかる。でも二本だぜ? 影の伝説の限定版も入って二十二本ってどうよ?」
「これ、他の人たちもそうなのかな。二十二本……」
「たぶん万が一足りなかったらってことじゃない。二十本っていって十九本ならクレーム。でも二十一本や二十二本だとしてもクレームにはならない。クレーム防止のためにちょっぴり多く入れてる感じなんだろ。起動ができないゲームがあったらってことかもしれないけどな」
「親切すぎでしょ、駿河屋さん……なんだか申し訳ないな」
「感謝だよ。売ってくれてありがとう。二十本なのに二十二本入れてくれてありがとう。限定版入れてくれてありがとうってな」
――というわけで二十二本セットとして出品完了。オークション終了日の六日後が楽しみだ。
「これで終わりっ!」
「ごめん、修一。もう一つだけ出品してもらっていい?」
「なんだ? もう売るものは全部出しただろ。もしかしてゴミみたいなビデオでも出すってわけ? あれはな……」
「違う。今回はプレイベートなやつ!」
「へぇ、いいよ。なに出すんだ?」
「ラノベ。廃盤になったやつマメにコツコツと集めてきたのよ」
「集めた? ……何冊? 同じやつだろ」
「三十冊集めた」
「アホか? よく買ったな。中古価格で一冊百円としても三千円か。投資目的?」
「うん、そう。でも売りどきをミスったら最悪だから今売るの。ちょうど同じ本が一冊入札されてた。しかも五百円で」
「他のショップでは買えないのか、その廃盤の本って」
「いや、実は買えるのよ。それが」
「だったら……売れないんじゃ」
「三十冊よ。こんなの一度に一気に放出する奴なんていない。誰かがわたしのあとを引き継ぐの。そして三十冊を倍の六十冊……いえ、もうそこまで来たらキリのいい百冊まで揃える。プロのコレクターならきっとそうする」
「そんなプロいねーよ。でも、まあ出すならいいぜ。乗りかかった船だ。やってやる」
しかし、変わった投資だな。目のつけどころはいいかもしれないが、マジでよく三十冊も集めたよ。
「帯とかは? 全部初版でいいの?」
「帯は画像を参考に、でいいんじゃない。初版と再版があるからわたし、今から数える」
福袋から始まって、いつの間にか商売する楽しさを覚えてきているな、俺たち。バイト代じゃなく、自分たちで稼ぐ。この発想はいい。たくましい大人になっているようなそんな気持ちになる。
――しかし、これは残念ながら入札はされなかった。オプションまでつけて目立たせたというのに。
そういうこともある。売れるだろうと自信のあるものが売れなくて、逆に自信がないものが売れたなんてよくあることだ。そこがオークションのおもしろいところでもあった。