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 さて、データの送信が終わりここからが本番だ。

 ヤフオクで出品するのだが、これが一番の労働! 特にカテゴリを決めるのが面倒だ。

「くそ、なんてシステムだ、これは。カテゴリ? そんなの必要あるのかよ。むしろ多すぎて、出品者側には面倒でしかならない。絶対これで出品するのが面倒になってやめる奴出てくるだろうな、俺みたいに」

「ちょっと、中途半端なところでやめないでよ。最後までやって!」

「じゃあお前がやれって」

「やだ。面倒だもん」

 俺も嫌だぜ、ちくしょう。なんて言っていたが……。

「キーワードとかカテゴリを決める? なんだ、これ? こんなの前にあったか?」

 新しくできたのか、しかも最近? ……使ってみるか。なんか、すげえ簡単にカテゴリが決められる。そんな予感。そんな願望!

「ていっ! ……お、おぉ!」

 思った以上だ。キーワードを入れるだけで、それに関連する出品物が出てきやがる。その中で今回出品する商品と似たようなものを探すだけ。あとはチェックを付けるだけで、カテゴリが決定する。楽だ……。

 次は商品の説明欄だった。

「どう書く? なにせ十品もあるし、元々売れたらラッキーってもんだ。超簡潔でいいか?」

「超簡潔で」

「わかった……助かる」

 送料の計算なんてまだるっこしいぜ。


『メール便の場合は送料が無料になります。中古品です。よろしくお願いします。』


 これで十分だろう。

 メール便の費用はかかっても百六十円。値段はそれ以上でつけたらこちらに損はない。実際に落札されたら手数料として売上の五パーセントが引かれるが百円で五円。千円で五十円だ。そんなに痛くもないか。

「値段は?」

「オール三百円で。でかいフィギュアとかは千円以上の値段をつけて」

「あいよ!」

 三百円、三百円……おぉ、こりゃ楽だ。サクサク進む。

 ここでみほが、「これは六百円。こっちは千五百円。ここの文書はもっと変えて、売れる感じにして」なんて言うものであれば俺は即、この部屋、この家から出ていただろう。付き合いが長いというのはいいものだな。俺の性格をよく把握していてる。――だが、把握しているが故にギリギリのラインで俺を操作することも可能。そう言い換えられる。……ちくしょう、やはり俺はみほに操られる存在なのか。

「……なにやってんのよ、早くぅ!」

 アホらしい。こんなの思ったより時間がかからない。慣れてきた。もう一出品に一分程度しかかからねぇ。ここまで来たら考えるより手を動かすだ。ちょっと報酬でももらおうかなんて頭によぎったが、どうせこんなもん売れねぇよ。らんま1/2の件が大当たりだっただけだ。結局、なにも売れねぇ。そう考えると、みほに同情したくなってきた。これぐらいのことはやってやるぜ?

「ちょっとまた! また手ぇ止まってるよ。なに考えてんのよ? ……もしかしてエロいこと?」

「いや……こんなことして売れなかったらかわいそうだなって。在庫抱えて、最後は捨てるんだろ。お前もこいつらもかわいそうだよ」

「いいんだって、売れなくても。福袋を開けるのが楽しいし、オークションに出品するだけでも楽しい。趣味やってるんだから」

「だったらその趣味を俺に手伝わすな」

 ……そんな会話をしながら、すべての出品作業が終わった。

「ありがとっ! 疲れたでしょ? なんか持ってきてあげるよ。なにがいい? オロナミンCあるよ。ボスもある」

 おぉ、気が利くじゃないか。さすが、みほだぜ。

「じゃあ、オロナミンC……」

「はいよ!」

 トタトタと音を立てて、部屋を出るみほ。……正しく出品されてるかな。ちょっと見てみるか。マイオークションをっと。

 出品中のボタンを押すと、ウォッチリストと入札件数が見られる。さらに商品をクリックすればアクセス数もわかる。

「まだ誰もウォッチリストに入れてないか。当然か、さっき登録したばっかだもんな」

「――お待たせ。はい、オロナミンC!」

「おう、サンキュな」

 ……ふと思い出す。昔、読んだマンガでオロナミンCに生卵を入れて飲むと栄養満点とか。……しねぇよ。なんで混ぜる必要がある。確実に味が落ちるだろう。どうしても玉子が食べたいんだったら、目玉焼きでも作ればいい。なんでオロナミンCに混ぜる必要がある?絶対うまくねぇぞ。

「……修一、あのさぁ」

「ん、なんだ?」

「あんた、よく時間停止してるよね。それ、なに仕様?」

「別に。俺は常に考え事をだなぁ……」


 ――時間を潰すこと約十分。もう俺のすることもないだろうと、最後に出品中の画面を見て帰ろうとした。そのときだった。

「ん? ……おい、これって」

 わずか十分の間にウォッチリストが三。早くねぇか?

 商品タイトルは『BROTHERS CONFLICT ブラザーズコンフリクト 写真? カード?』

 なんて書かれてある。

 ……なんだよ、こんなアホみたいなタイトル付けたのは。って、俺か。

「これ、なんだっけ? ちょっ……クリック」

 写真? カード? ……俺の思った言葉がそのままタイトルになってやがる。ちょっと、よく見てみるか。

 自分の撮った写真をじっと見つめる。

 画像が小さかったので実物を見たほうが早い。あれは確かここらへんに……あった。

 商品を手に取って見てみると、やはり写真、カード。俺の感想なんてどうでもいい。ググるか。しかしそれをする前に、質問欄のところにコメントが書いてあったことに気づく。

「いきなり質問だと? ……やべぇ、俺なんかまずった?」

 確認すると、即決はできないかという内容だった。

 即決か……別に俺としてはまったくかまわないんだが、即決の設定はしていないからな。これ、途中で変えられるんだっけ? ……あぁ、でもダメだ。すでに複数のウォッチリストがついてるんだ。

 いきなり即決しましたなんてすると、他の人に悪印象を持たれかねない。

 にしてもなんでこの商品、こんなに注目されてんだ。俺にはまったくわからん。

「みほ、これなんで注目されてんの? わかる?」

「ん? いや、わかんないけど」

「これって乙女ゲーってやつじゃないか。そういうのやらない?」

「いや、わたしは格ゲー専門だから」

 だよな。聞いた俺がアホだったぜ。じゃ、調べるか。


 ――調べるとどうやらゲームの特典らしい。予約特典というか、それほど世に出回っていないようだ。

「ふぅん、なるほどね。買いそびれたってわけか。まあ価格が九千円だからな。通常版を安く買って、特典をこういうオークションなんかで買うのが利口だろうよ……ん?」

 目を疑った。過去のオークションでこれが一万近くで落札されていたのだ。

「マジかよ……ソフト付きだったらこんな値段で売れるのか。一年も前に発売されたやつだぞ。珍しいな」

 珍しい珍しいと説明文を読んでいると、自分が大きな勘違いをしていることに気づく。

「あれ? これ、ソフト付きじゃねぇ。特典単品の価格だ」

 ということはまさに今、出品してるこれ。これが一万?

「マジかよ! あるのかよ、そんなこと……これに一万の価値があるってか?」

「なによ、そんなに騒いじゃって。なにかあったの?」

「やべぇよ、これ一万の価値がある」

「一万? ……またぁ、ウソでしょ。だってそれほとんど捨てる直前だったやつよ。それに四百八十円の福袋に一万円の価値がある品物が入っている? そんな夢物語、この現代に起こりうるはずがないじゃない」

「いや、見ろ。見ればわかる。すべてが……」


 ……みほの奴、見て固まりやがった。マジでこんなことってあるんだな。

「な? すげぇだろ。よかったじゃねぇか。元を取ったうんぬん、それ以上。五倍か。こいつだけで資金が五倍になったな。まるで宝くじ、株だ」

「で、でも、本当に一万で売れるかなんてまだわかんないよ」

「よぉ~く見てみ。これ一か月半前の落札情報だ。わずか一か月半に暴落するとは思えない。それに見ろ、このウォッチリストを。もうすでに三……」

 三じゃない。九人もウォッチリストに入れてくれている。しかも入札ありだ。……いきなり三千百円かよ。

「三百円で出したのにな……それが一時間もたたないうちに三千百円か。ドリームだよ」

「は、はは……これでまた駿河屋で福袋が買える。一万円……ってことは二十箱も買える」

「もしよ、もしすべての福袋に今回のような一万円で換金できる品物が入っていたとする。だとすれば、二十箱……二十万か!」

 まあ、それはさすがにないと思うが考えてみればたった四百八十円の福袋だ。それが一万……一万の魅力はとてつもなく大きい!

「俺が買っていればよかった。一万……」

「修一」

「なに?」

「売れたらあげるよ。三分の一……」

 嬉しい。普通に嬉しかった。半分でなく、三分の一というのもリアルだった。

「ありがとう、みほ。これからもお前の応援するよ。福袋、二十箱買うんだったら買ったらいい。またヤフオクの手続きしてやるからな」

「うん……」


 なんでいい感じになってんだ。

 福袋から生まれる恋愛物語か。いやいや、ないって。ウケないって。

「しかしだ、これだけいいものが入っている金袋……いや、福袋! 売り切れるってことはないのか? なぜ皆、この超ド級のお得さに気がつかない?」

 駿河屋のページを開いて確認するものの、まだ四百八十円の福袋は売っている。試しに購入ボタンを三回押したが、普通に買えるみたいだ。

「商品ストックは無限か。店舗に雑貨が溢れかえっているのだろう。じゃなかったらこんな値段はあり得ない。四箱買うと送料が無料になるんだぞ。箱に詰めるスタッフも時間をかけているというのに。お得すぎるんだよ、この福袋はっ!」

 ストレス社会に悩む今の時代にオアシスがあった。そこは駿河屋。


  2 発送はとても気を遣うもの


 らんま1/2のカードが異常に高く売れた。さて、こいつを発送しようとするか。

 この日、俺はみほの家に来ていた。

「振込ってあったの?」

「うん、あったよ。……マジで、ホント六千円」

「ビックリだよな。世の中わかんねぇわ。じゃ発送しないとな。えー、準備どれぐらいまでできてる?」

「いや、全然」

「おいおい~、六千円タダでもらったようなもんだぞ。その人にちょっとでも早く、丁寧に発送しようと思えよな」

「だから修一を呼んだんじゃん。あと、やってくれるんでしょ?」

 エヘヘ♪ って感じでニコニコするみほ。

 ……まあいい。やるか。ちょっとグッときたし。

「じゃあまずは取引ナビを確認。初めの挨拶ややり取りはすでにしているようだから、落札者の初めのコメントを見てみよう。そこに住所が載っているはずだ……うん、あった。これだな」

 封筒……いい封筒はないか。カードを入れるいいサイズの封筒もあるが、あまりにもピッタリすぎる。これだとプチプチも入れられないし、『なんて窮屈な詰め方だ』なんて思われてしまう。相手は六千円もくれた人だ。慎重に、丁寧に……。

「発送はメール便だから今日か明日の朝に出しておけばいい。メール便はコンビニで送れるからな。だからもう少し手間をかけよう。これからもまた出品することだし、その都度調度品がなかったら困るもんな。百均に行って封筒買ってこようぜ」

「封筒……そうね。あったほうがいいかも」

「いろんな大きさの封筒があったほうがいいよな。行くか? ……って、行かないパターンだよな。仕方ねぇ、行ってくるよ」

「あ、ちょっと待って! 行かないって言ってないじゃない。行く!」

「ほぅー、どういう風の吹き回しだ?」

「久しぶりに百均行ってみたいの。ポケットティッシュとか、コロコロのシールも欲しいし」


 ――というわけで二人仲良くショッピング。

 百均というのがなんとも色気がない。

 この地域で大きな百均の店があるのは一軒。シルクという店だ。

 建物は四階まであり、一階はスーパー。二階は衣類。三階に百均。四階がスタッフルームと少々ワケのわからない配分になっている。

 昔は四階がゲームコーナーだったようだが、もはやその影もない。

「広い! 楽しい!」

 まあこんなにでかい百均は少ない。自転車で二十分ぐらいのところにもっとでかいところもあるが、あそこまではちょっと遠いからな。ここなら歩きで十五分かからないお手軽さだ。

「わたし、ちょっと見てくる。封筒は修一がテキトーに買っててよ」

「おーぅ」

 さっそく封筒コーナーを探す。たぶん文具のところだな。どこだと……あ、あった。

 けっこう奥にありやがるぜ。んー、さすがに種類が豊富だな。使い勝手のよさそうなサイズを選ぶか。

 ちょっとしたものを送るには長形3号がいいな。これは八十円切手で送れる最大のサイズだ。もちろんメール便にでも使える。用途はカード一枚とか二枚とか、そういう小さくて薄いものを送るにはちょうどいい。

 次はこれだな。角形5号。らんまのカードを入れるときはこれを使おう。大きすぎるこもないし、小さすぎることもない。八枚入ってことは一枚十三円ぐらいか……。

 次はメール便で送れる最大のサイズ。角形2号だな。これはA4サイズ対応だ。六枚入か。ほとんど一枚二十円だな。高いと言えば高い。でも、それ以上儲けているんだ。例えこれがどこかのデパートの包装紙だったらなんかせこいぞ。送るときぐらいちゃんとした封筒に入れて送ろう。

 ……あとは、メール便で送れないけど大きな封筒も買っておこう。包むときに便利だ。こっちは宅急便になるな。もしくはゆうパック。

 普通郵便という手もあるが、その場合は商品の追跡ができないからな。それにクロネコの宅急便だと夜でも送れる。それもどこのコンビニでも利便性についてはやはりメール便、クロネコ宅急便に軍配が上がるな。

 二枚ずつ買っていくか。プチプチも売っていたが、これはいらない。駿河屋で福袋を買うときにいつもついているからだ。本の福袋だと新聞紙がクッション代わりに入っているんだけど、雑貨の福袋だとプチプチになるのはなぜだろう。ま、どっちかというと嬉しいんだけど。もろに再利用できる。あの大きなダンボールも品物の整理をするには最適だもんな。ホント、駿河屋さまさまだ。

「――みほ、買うもん決まったかー?」

 みほはカゴを持って、ある場所で膝をついていた。……なに見てるんだ?

「修一、これ見てよ。発見したんだ」

「発見って……なに?」

「キューピーと犬夜叉のコラボボールペン。ちょっとウソくさいところがいいでしょ」

「あぁ、確かにウソくさいな……。キューピーと犬夜叉か、自由すぎるだろ。――で、それ気に入ったのか? 買うの?」

「いや、これ転売できないかなって。ほら、らんまがすごく人気あったじゃん」

「犬夜叉も同じ作者だから人気がある……確かにあるが安易だな」

「他にもめぞん一刻やうる星やつらもある。すごいコラボだよね」

「一応、版権のマークというかシールは付いているな。ま、本物なんじゃないか。でも、売れるかぁ? ペンの尻についているマスコットがでかすぎてメール便で送れないかもしれないぞ。そうなったら送料は高くなる。それほどまでして欲しい人っている?」

「あぁ~、そうか。厚みは二センチまでだったもんね。……これ、楽に二センチいちゃってるわ」

「あとな、それ一本で百五円だろ。でも駿河屋だとダンボールいっぱいに雑貨が入って四百八十円だ。さあ、どっちがお買い得か?」

「そりゃあ、もち駿河屋じゃない! ……あ」

「そいつを五本買ったつもりで、また駿河屋の福袋買ったらいいんじゃないか。そっちのほうが楽しめるぞ」

「ホント! ありがとう、修一!」

 そんな、大したこと言ってねーよ。ショッピング、けっこう楽しかったし。


 ――買い物から帰って、俺たちはみほの部屋に戻ってきた。

「封筒は買えたから次は住所を書こう。相手の住所と名前。それに電話番号もあったほうがいざっていうときにはいいよな。差出人の名前はどうする? オヤジさんの名前か?」

「うーん……だね!」

「じゃ、書いてくれよ。相手先の情報とお前の情報。……ほら、なにしてんだ?」

「わたしね、けっこう字が汚いのよ」

「知ってるよ。俺もそうだ」

「こういうのってプリンターでちょちょいって印刷できないの?」

「そういうのはやったことがないからな。印刷するときなんていつもA4のただのコピー用紙だからな。封筒もできるんだろうが、したことがないから自信は今一つない」

「じゃあ新たな挑戦ってわけね。ファイト!」

「本当、面倒がりだよなぁ、もう慣れたからいいけど。じゃあやってみるか。いろいろしているうちにできるだろ」

 まずは用紙サイズの変更か。

 えー、この封筒のサイズはっと……角形5号なんて表示ねーよ。じゃあA5対応っていうのがあるからそれでいいか。物は試し。ミスってもいきなりプリンターが壊れるってことはないだろ。

「印刷するぞ」

「いいよ」

 住所と名前をコピペしてと……まあこりゃあ楽だ。

 プリンターの電源も入ってる。いざ、印刷!

 ……ピーガガ、グチャッ。


 うわ、変な音したし。百パー、詰まったじゃん。

「ちょっとー、なに詰まらせてんのよ?」

「あれ、なんでだろ。もう一回やらせてくれ」

 どこでミスった? もう一度封筒をよく見てみよう。封筒の入っているビニールの袋に詳細っぽいのが書かれている。

 クラフト封筒、角形5号、A5サイズ対応、百九十ミリメートル、二百四十ミリメートル、八枚入。

 ん? A5サイズ対応? 対応か?

 A5サイズではない。そういうことか。

「わかった、みほ。サイズの指定のやり方が間違っていた。だとすると、サイズ指定だな。角形5号がない以上こうするしかない」

 サイズの幅を百九十ミリメートル、高さを二百四十ミリメートルにした。これでいけるはず。

 幸い、詰まった封筒はそれほどクシャクシャになってない。もう一度、この封筒を使って印刷してみよう。

「行くぞ……!」

 ――次はうまいことできた。ん?

 できてない? なんで封筒の向きが横になってんだ?

「あぁー、また失敗したぁー!」

「いや、違うって。ちゃんと指定した。縦で指定したって」

「本当にぃー?」

「ほらほら、見ろって」

 ちょっと慌てて『サイズの向き』のところをみほに確認してもらう。

「あら、ホント」

「だろ? このパソコンかプリンターに問題あるんじゃね?」

「んー……どうなんだろ。そういうのわからないよ」

 だな。みほも俺もそんなにパソコンに詳しいってことでもない。

「ちょっと待ってな。もうちょっとやってみる」

 試行錯誤の結果、ようやく縦向きで印刷することができた。

「これ、ある意味進化だよな。そろそろ本番印刷するか」

 すでに練習用として一枚の封筒が犠牲になった。もう失敗はしたくない。

「よし、印刷だ。今度こそうまくでき、ん?」

 あれ? ちょっとおかしい。

「あー、これ逆向けに印刷してるじゃん。上と下ぁ!」

 ……あぁ、またミスか。本当面倒くさい。封筒に印刷するのって。

「でも、これはプリンターの性質上無理なんじゃないか。封筒の向きを変えて印刷する。そうしたらできるかもしれない。でもそれはのりしろのところを下に向けて印刷するってことだ。そんなことしたら、それこそ中で詰まるだろ」

「やってみなよ。それでもちゃんとプリンターが印刷してくれるって」

 うっ、なんの根拠もないのによく言える。……大丈夫かな。また紙詰まりになる可能性だぞ。こんなに紙詰まりばっか起こしてたら、マジで壊れるぞ。

「壊れるリスクは……わかっているな」

 首を縦に振るみほ。だったら奇跡を信じるしかないじゃないか。印刷!

 ……ピーガガ、グチャッ。


 ――終わった。二枚の封筒を犠牲にして、さらに紙詰まり二回目。ちっとも進歩していなかった。

「……なぁ、もう疲れたよ。プリンターを使ってから一時間以上にもなる。そんなに手間かけて印刷するべきことか? もう手書きでいいんじゃね?」

 話し合いの結果、送り先の住所はボールペンで手書き。封筒の裏に書く差出人等の記載はあらかじめコピー用紙で印刷したものをはさみで切って、それを透明のでかテープで貼り付けることにした。たぶんこれが一番効率がいい。

 ……あー、解決したのはいいが、その答えを導くための時間と犠牲が思ったより大きかった。

「字が汚いって思っててもそれほど不快感はないだろう。いいじゃないか、世の中字のきれいな人ばっかりじゃない」

「小、中と習字の授業をおろそかにした罰ね。二人共……」

「そうそう」

 いろいろ時間はかかったが、これで発送準備は終わった。あとは送るだけ。

「コンビニ、どこ行く? セブ? ファミ?」

「セブでいいんじゃね。あそこ、店員が二人の率高いし。行こうぜ」

 そして二人はセブンイレブンへ……。


 店に入ってすぐにカウンターへ。みほが一緒にいてと言ってきたので、俺は隣から見守ることに。

 ついでに三百円で売れた腕時計もメール便で送ろう。送料無料だから儲けはほとんど皆無のやつだ。カードのほうは二センチで時計は一センチでいけるだろう。二つで二百四十円でいけるかな……。

「これとこれ、メール便でお願いします」

「あ……じゃあこれに」

 店員はクロネコメール便の出荷票をみほに渡した。……でもなんで一枚?

「あの……二つ送るんですけど。この用紙一枚だったら無理ですよね?」

「はい?」

「二つ送るんです。二つ……」

「あー」

 店員は面倒くさそうにもう一枚とろとろと出荷票をみほに渡した。

 ……気に入らないな。目を合わせようとせず、言葉も足りない。マスクをしていて風邪気味かどうかは知らないがそれはないだろう。

 ちょっとイラッとしたが、こんなことで怒るのはよくないか。短気な男だと思われてしまうな。

 みほも少し変だなと思ったのか、一瞬動きが止まった。そして店員からペンを受け取り記入をする。

 品名欄。該当するものにチェックする。これっていつも思っていたんだが、書く必要なんてあるのか。万一紛失したときの手がかりになる?

 書類もカタログもパンフレットも本も……なんか同じに思えるな。

「三百二十円……」

 ボソっと言うな、ボソっと。……ん? 三百二十円?

 カードはともかく、時計も百六十円? ウソぉ? こんなに薄いじゃん!

 真ん中らへんがちょっと盛り上がってるかもしれないけど、これ普通に八十円だろ。

 俺とみほは顔を見合わせた。信じられない……言葉に出さなくても思っていることは同じ。

 この店員、マジで大丈夫か? イカレてんじゃねーだろうな?

「八十円でしょ?」とここまで出そうになったが、「ダメですね」とか言われたら余計に腹が立つし、クレームをつけたということで中のものが壊されるかもしれない。

 ヤマトのドライバーが来るまで、荷物の扱いをできるのはここの店員のみだ。このアホそうな店員が報復という形でフライヤーの油をこぼしたり、爪でぎゅっと跡をつけられる恐れもある。機嫌を損ねてはいけない。

 本来ならヤマトの関係者に渡すことができれば一番なのだが、そういうわけにはいかない。……こいつに荷物を預けるのか。嫌だなぁ。

 夜勤がこの店員でないことを祈ろう。ヤマトの収集は一日に二回と言われている。朝の九時に一回。昼の三時に一回。計二回だ。早く回収まで十時間以上……長い。その間、なにもないことを願おう。機嫌を取る。そして機嫌を損ねない。それがメール便を出す客の暗黙のルール。なぜか金を払うほうが弱い立場になる。それが宅急便、メール便だった。

 こいつも送る手続きをしてやっているのだぞ、というふうに思っているのだろう。嘆かわしい。

「みほ。ここは……な。我慢しようじゃないか」

「うん……」

「はい、えっとじゃあこれ。控え……」

 こいつ! 控えを二枚ごちゃまぜにして渡そうとしやがった!

 この封筒はこの出荷票。こっちの封筒はこの出荷票と、みほがわかりやすくカウンターに置いたものをまったくの無視で。

 これには俺も口に出さざるを得なかった。

「あの! そうされるとどの控えがどっちの封筒のものなのかわからないです。確認します」

「あぁ……はぃ」

 まったくなんて奴だ。普通、一枚ずつ手渡すだろ。オークションに出す荷物だぞ。あとで取引ナビで問い合わせ番号を書くんだ。そのとき、ごっちゃになったら困るだろ。わかれよ! せっかくこっちは二度、レジをさせたら悪いと思って一回で済ませようとしているのに。

 

「……はい、いいですよ」

「三百二十円です」

「三百二十円? ……三百二十円、ちょうどあります」

「はい。レシートです」

「……お願いしますね」

「はい」

 本当に大丈夫か。今からでもやめてファミマにするか?

 セブンイレブンの指導は徹底しているって聞くが、そうでもないようだ。そりゃあ店舗によってある程度の差は出るだろうが、ここはダメだな。今回は我慢するとしても、もうここでメール便を出すことはやめよう。いや、ここの利用は一切やめてやる。

 店を出て、みほと歩いて帰るとぽつりと彼女が呟いた。

「時計のほう……高かったね。百六十円」

「あぁ、俺も思ったよ。普通八十円だろ。八十円が普通だと思ってた。まったくの想定外。不意を突かれたよ」

「それにあの店員、態度悪かったし」

「ひどかったな。……もうここはやめよう。俺な、前にCDをメール便で送ったんだよ。百六十円かかるわぁと思って財布から百六十円用意してたよ。でも、請求された金額は八十円だった」

「お店や店員によって全然対応が変わってくるのね」

「そうだ。俺の利用したコンビニはファミマだ。ここからそう遠く離れてないし、今度からそっちを利用したらいいよ。八十円は勉強代と思って諦めるしかないな」


 部屋に帰って、取引ナビにて連絡。

 ――ふうっ、これで一応終わりだ。無事に品物が届けばいいんだけどな。

 あとは相手の連絡待ち。連絡がないってこともある。それは無事に届きました、問題ありませんって意味だからな。

 もしなんらかの不手際があったら、取引ナビや評価でそれが書かれるだろう。

 メール便が届くまで三日から五日。その間は休むなり、新たな福袋を買って仕入れるなりしよう。ホント、駿河屋とヤフオクだけで商売ができるな。下手なバイトより稼げるかもしれない。


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