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第二章 福袋


  1 とにかく買いたい!


 学校ではみほが俺のところにやってきて話をする機会が増えた。

 それは別になにも問題がないのだが、その内容に問題があった。話の内容はたいていが駿河屋だった。

「知ってる? 駿河屋っていつもは千八百円買うと送料が無料じゃない」

「……あぁ、そんな感じだったかな。たぶん」

「でもね、たまにキャンペーンで千五百円になるよ。で、究極は千円! 千円買うだけで送料が無料になるのよ。これって駿河屋、マジで送料赤字だよねぇ」

「あぁ、そうだな……」

「代引きが半額になるとか無料になるとか、けっこう2ちゃんで話題になってるけどさぁ。あれってクレジットカードで決済するんだったらあんまり関係ないよね。ってか、まったく関係ないか」

「そうだろうな、たぶん」

「決済方法といったらクレジットカードが一番早いのかな。あ、発送までの時間がってことね。わたしたちは注文から到着まで五日かかって遅いって言ってたじゃない。でも、これが銀行振込だったらもっと遅くなるんだって。一週間とか十日間……すごいよねぇ、駿河屋って! やっぱりいろんな意味で普通のお店じゃないよ」

「あぁ、だな……ってか、2ちゃんとか見てるんだ」

「キャンペーンって言えばさ、駿河屋ってホントにいろんなキャンペーンやってるよね。それもしょっちゅう。毎日キャンペーンやってるんじゃないかしら?」

 この駿河屋トークが延々と続くんだ。……たまんねぇぞ。

 俺も駿河屋のことが好きだが、みほの場合は少し異常だった。

「まとめ売りって知ってる?」

「駿河屋のキャンペーンのことか? ……いや、知らないけど」

「知らないの? まあそのまんまなんだけど。まとめて買っちゃえば割引になるのよ。それもたくさん買うほど割引の率が高くなる。例えばマンガの場合だと……」

「おい、ちょっと。待て。落ち着け。お前な、ここのところ最近、駿河屋の話ばかりじゃないか。どうした?」

「……別にいいじゃない。好きなんだから」

「好きにも限度ってもんがあるだろ」

「そうだ。ねぇ、修一! 今日さ、予定では駿河屋から商品が届くのよ。昨日発送メールがあったから」

「あ、あぁ。そうなの? なに買ったんだよ?」

「パソコンソフト三十本セットと、ホビージャパン二十冊セットとムック本五十冊セット! なにが届くか楽しみだわ」

「全部福袋じゃねぇか。……あのな、そんなかでマジで欲しいものってないだろ。そういう金の使い方ってなんだなかな……金で遊んでるみたいであまりよくないぜ」

「悪いかしら? お金で遊ぶ? じゃあ修一は映画にも行かないんだ? 映画ってお金払って作品を見て、楽しんでいるんでしょ? ゲームソフトは? あれもお金を出して買って楽しんでるわけじゃん。なんで福袋買って楽しむのがいけないわけ?」

「いや、それはだな……金を無駄使いすんなってことを言ってんだよ。パソコンソフト三十本っていくらするんだ? 五千円か? 一万円か? そんなに散財して、あとのこと考えてんのかよ。いざ、本当に欲しいものが見つかってそのとき金が足り――」

「千四百八十円」

「安ぅ――――ッッ!!!! マジで? 三十本も入って? ……一つ五十円かよ。チョコボールより安いじゃねぇか。まさか! それもネットオフに売るってのか? 確かネットオフはパソコンソフトも買い取ってくれる。でも、それは普通のソフトじゃなくて……あの、エロゲーとかじゃないの?」

「うん、エロゲー入ってる」

「女子高生がエロゲー入ってる福袋買うなよ!」

「むっ!」

 おっといかん……。つい、学校にいることを忘れてしまった。

「すまん、失言だった。悪い」

「ま、ジャンクなんだけどね。箱説なしかもしれない。エロゲーも入ってないかもしれない」

「なにが入っているかわかんないんだな。その、状態も……」

「うん♪ だから楽しいんじゃない!」

 なんでもいいんだな、こいつは。ただ福袋を開けたい。その欲求でいっぱいなんだ。

「放課後、わたしの家に来なさいよ。どうせ暇でしょ?」

「あぁ、わかった。行くよ……」

 みほが少し壊れかけてきた。


 ――放課後、俺はみほの家に行った。

「これが例の商品か。マジで届いたんだな。おばさん、なにか言ってなかったかな。お前の買い物依存症について」

「依存してないってば。安いからいいじゃない。世間ではパチスロにはまって、とんでもない生活を送っている高校生や一般人がいるわ。駿河屋で福袋買いまくるぐらいどうってことないわ」

「ちなみにホビージャパンとムック本のほうはどうなんだよ。安かったのか?」

「ホビージャパンは安かった。四百円」

「一冊二十円か……安いな。普通に新品のコミックス一冊買うより安い。しかも送料無料か」

「でしょ。あぁ、ちなみにホビージャパンっていうのはガンプラとかフィギュアの紹介がメインの雑誌ね」

「お前、そういうの興味あったっけ?」

「ないわよ!」

 間髪入れずにか……だよな、部屋に一つもそういうの飾ってないもんな。

「ムック本ってのはなんだ。前から気になってはいたんだが」

「たぶん一般の雑誌とかじゃないかしら。大きな本。単行本や小説とは違う……」

「なるほど。まあ開けてみたらわかるか」

「楽しくなってきたでしょ? これが駿河屋の福袋マジックよ」

「いや、よくわかんねぇよ」

 まずはパソコンソフトのほうから見ていくことにした。ダンボール箱はけっこうでかい。

「さあ、第一発目! いくよっ!!」

 ノリノリだな。すっげぇ生き生きしてる。さて、内容のほうはどうだ。

「でかい箱だな。パソコンソフトの箱ってこんなんなんだ」

 CDケースのようにコンパクトに収まっているものもあったが、図鑑ぐらいでかいものもあった。たぶんこれは初回とか限定とかで豪華な仕様になってるんだろう。エロゲーだったがな。

「会計のソフトとかも入ってるな。ジャンルはごっちゃか。まずはエロと非エロに分けないか?」

「うん、いいと思う」

 ――その結果、約二十本がエロで、残りの十本が一般ソフトということがわかった。

「あー、おもしろかった」

「開封してからたったの五分ぐらいだろ、おもしろいの。で、こいつらすぐにネットオフ行き?」

「そう、なるのかな。あっ、いいこと思いついた!」

 いいことぉ……? なんだ、俺は思いつかなかったけど。

 突然、みほがケータイをいじりだす。

「なにか検索してんのか?」

「うん、駿河屋でこのエロゲー売れないかって」

「売れるわけないだろ。だって駿河屋から買ったんだぜ。そんな買ったものを同じ店で売って、それでプラスになるとかそんな……」

「うん……やっぱり買取価格わかんないや」

 駿河屋ではそれなりの値段で買い取ってもらえる場合は商品ページに購入価格と買取価格が同時記載されていた。

 みほが調べたソフトにそれがないってことは売っても十円とか、買取不可を意味していた。

「な? そう甘くないって。これで高額買取の商品が出てきたら駿河屋、おかしすぎるだろ」

 でも内心では、「駿河屋だったらあるかもしれないな」なんて思ってしまう。

「――あ、あった。八百円買取」

「ウソぉぉぉ――――――????」

 八百円買取かよ。じゃあ、それ売ると実質パソコンソフト二十九本で六百八十円?

 なんでそんな当たりソフト入れてんだ? やっぱり意味わかんねぇよ、駿河屋。

「想像を超えるな、駿河屋は……」

「でしょ? そこに痺れるでしょ?」

「あぁ、少し痺れた」

 駿河屋マジックか。確かにこりゃすげぇ。俺も油断してるといつの間にか駿河屋大好きになってしまいそうだ。俺も駿河屋大好きになったら、誰がみほの暴走を止める?

 俺だけは駿河屋大好きになってはいけない。

「次、いこうか。次……」

 一発目でこれか。刺激が強すぎるぜ。次はホビージャパンの箱を開けることにした。

 でかい箱とそれより小さい箱があった。冊数的に小さい箱がホビージャパンだろう。

 みほが開封する。さて、中身は?

「お……ホビージャパンだ」

「ホビージャパンね。一冊一冊がすごい分厚い」

「重いな」

「重いね」

 終わってしまった。特にこれとってホビージャパンに思い入れはない。二人共。

 勢いで買ってしまったの典型的だ。なんか開けるワクワク感すらなかったし。

「勢いで買うな、アホ」

「なんかノリで……」

 次はムック本五十冊。ダンボール二箱で来やがった。かなり重たい。

「これはちょっと楽しみかも。なにが入ってているのかまるで想像できん」

「ホビージャパンの失敗は想像がついたからだと思う」

「よし、開けてみなさい」

「がってん!」

 ……カオスだな、これはもう。

 大きなサイズの本が多いな。変わったサイズの本も多い。なるほど、これらをムック本と呼ぶのか。

「パソコン裏技? ……おいおい、何年前の本だよこれ」

 パソコンは日に日に進歩している。こんな十年前のパソコンの裏技なんて教えてもらってもどうしようもない。ブックオフがパソコン系の本を買取対象外にしているのを思い出した。そういうわけか、当然こんなの需要がないな。

「お菓子作りの本……いいじゃん」

「当たりかな?」

「三角ってところか。状態は悪くない。パソコン本と比べたら使い道はある。料理のレシピは古くても問題はない。」

 次、東京の地図。オススメのショップや観光地の写真あり。……だが数年前の。

「いらねぇ……な。はずれに近い三角だな。使い道はなんとなく写真を見て楽しめることができる。五年も前も以上も前の風景だが」

 次、エロ本。

「おい、これ買うとき十八禁指定なかったじゃねぇか。なんでこんなもん紛れてるんだ? しかもSMふうだし」

「そんなこと言っちゃって、本当は好きなんじゃないのぉ~?」

「表紙を見ろ。まるっきりおばさんじゃないか。全然心ときめかん!」

 次、お笑いのコンビニ本。

「悪くはない……暇つぶしにはいいかもしれん。だが、これもだいぶ前のものだ。十年ほどたっている。俺らはお笑いの研究家か」

 次、パソコン関連本。……もういいって、こういうのは。

 次、猫のペット本。

「あっ、これ当たりだ! どう見ても」

「やーん、かわいい! マジだね、当たりだね!」

「くれ!」

「やるか!」

 次、京都の地図、ホラーのコンビニ本、ジャニーズ本、サッカー、東京観光、パソコン。

「地図? っていうか、観光本が多い印象だな。しかも東京ばっか。あと、パソコンも多い。パソコンなんて発行の一年以内じゃないと全部はずれだ。……サッカーは好きな人ならたまんないんだけど、俺らはいらないな」

「今のところ当たりは一冊。残りは三十七冊」

「あぁ、先は長い。いくぞ! ……憧れの輸入住宅? ……ああ、こういうのはけっこ面白いわ。うん、読んでいて楽しそう」

 あとで読もう、うん。

「なんじゃ、これ? メイクしてる女の人が映ってるけど、なぜか口元だけだ。ようわからん。次、かわいい西洋系の女の子が表紙だ。かわいい。カフエ系の本か、当たりかもな」

 新撰組の本。当たりだ。土方歳三、好きだし。

 パソコン本。……ノーコメント。

 インテリア系雑誌。……うーん、これはいまいちかな。古い。

 パソコン、いらん。野球、いらん。お笑い、いらん。

「いらんのが多すぎる。ほとんど読まないぞ」

 しかし払っている金は八百五十円。ここらにある本の一冊分の値段だった。ブックオフに普通に売っていそうな雑誌だ。地図とパソコン関連を除けば。

「格闘技の本キタ! ちょっと珍しい。自分ではまず買わないが、手元に置いてあるなら読んでもいいかって感じだ」

 東北、仙台、オーストラリア……旅系が充実してるな。あっ、またサッカーか。サッカーいらねぇ。

「アニメのカードの特殊本もあるな。ドラゴンボールか。くっ、また東京……いや違う。東京の美術館の本だ!」

「けっこういいんじゃない。専門書って感じで」

「うん。こういうのヤフオクで売れそうだな。手続きとか面倒だが、やってみる価値はあるかも。……あぁ、ファッション系はいらねぇ。どれも時代の流れについていけていない」

 サッカー本がマジで多い。連続で出てきた。

「だから、パソコンいらねぇって! エクセルぅ? もうだいぶ仕様が変わってるよ。リーマンショック以前の株の本なんてなんの参考にもならねーだろうが。おっと、ディズニー本! これはちょっと嬉しいかも。行ったことないから、その場の雰囲気味わえるし。……まあ、古いけど。ネットでいつでも最新の画像が見れるじゃんっていうのはなしだぜ」

「あは、なんだかんだいって修一、ノリノリじゃん!」

「うはっ、ノッてきた。これ中毒性あるな。ツッコミの連続で頭がおかしくなってくるわ」

 ラスト一冊! ダイエット本!

 ……んー、俺もみほも太ってないからいらないか。友達にあげるのもちょっと失礼だしな。使い道なし。


「終わった、五十冊……ジャンルの幅が広すぎて疲れた」

「男の人でも女の人でも、それなりに楽しめる分配だったね」

「あぁ、それは見事だったな。しかしパソコンとサッカーがいらねぇ」

「さっき言ってた本、ヤフオクで売る?」

「美術館のやつな、あれはヤフオクのほうがいいだろ。他の雑誌はほとんど価値がない。ブックオフで売るか。ネットオフじゃあ雑誌は買取対象だからな」

「わたし、ブックオフで売ったことないや。宅配買取?」

「――のほうがいいだろ。近くにブックオフの店舗はねぇし。電車代も回収できないと思うよ。宅配買取のほうがいいって、絶対。……もしくは人にあげるか、捨てるかだな。パソコン本なんて絶対いらないし」

「……まとめてブックオフに売る」

「そのほうがいいな」

 これでみほの奴もだいぶ満足しただろう。そして、もうそろそろ飽きただろう。

「な、だから福袋って最後は後悔しちゃうんだ。美術館の本は高く売れそうだが、他の奴はまとめて百円いくかいかないかだと思うぜ。売るのには手間もかかるしな。もう福袋は卒業できそうだろ?」

「……うん。たぶんホビージャパンとムックの福袋は買わない」

「じゃあ、他の福袋は買うってか?」

「うん。全部の福袋買ってみたい♪」

 こいつ、マジでやべぇ。

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