(4)
これですべてのダンボールを開封した。
正直、正直言うとあとの処理が大変そうだった。ちょっとみほが気の毒に思えてきた。
「これ、どうすんの? 今更だけど」
「よ、読むわよ。好きな作品だけ」
「だよな。全部は読めねぇ。あまりにも多すぎる」
「……売ろっか?」
「売る? どこに?」
「ネットオフ」
「そうだな、それがいいと思うよ。Tモール知ってるか?」
「Tモール……えぇ、もちろん知ってるわよ。基本じゃない」
「Tモールを経由して売ったら最低でもTポイントが四百五十付く。本の場合だと三十冊以上送って、買取金額が五十円以上いかなくちゃいけないがな。その福袋に入ってた古めのマンガでいけるかな?」
「試しに送ってみましょう。五十冊ぐらい詰めて」
五十冊……そうか。それなら一冊一円の価格でも合計五十円になるからな。Tポイントのもらえる条件はクリアしている。考えているな、みほの奴。
「これもお父さんの名義で売りましょう」
「一応、許可だけはもらっとけよ。あとで問題が起きないように直筆サインはちゃんとオヤジさんに書いてもらえ。それと、本人確認もあるからな。免許証とか保険証のコピーが必要だぜ」
「でも、一度本人確認をすると次回からはしなくていいんだよね?」
「あぁ、そうだ」
ネットオフに買取の申し込みをする。
これは非常に便利なサービスで指定した時間にヤマトのドライバーが集荷に来てくる。
売りたい本をダンボールに詰めて、ドライバーの人に持ってってもらうだけだ。超カンタンさ! 送り状を書く必要すらない。
……ん?
なんか変だぞ。おかしい。
「ねぇ?」
「ん? おう、なんだ」
「なんか……おかしくない?」
「おう。おかしいな、なにかが」
おかしいのはたぶん俺たちがさっきしていた話だ。さらっと話したが、その中に実はとんでもないことを口走っていた。
「ネットオフの買取のことなんだけど」
「おう……やっぱりそれか。俺も思った。おかしいな」
「うん、おかしいね」
小学生でもわかる計算だ。
駿河屋から買った例のコミック五百冊セット。ネットオフで五十冊単位で宅配買取に出すとしよう。すると十回送れるわな。
買取が一冊が一円としてみようぜ。かなりこれは低く見積もった。
すると五十円買取で、Tモール経由だとTポイントが四百五十ポイント付くよな。合わせて五百円分だ。×ことの十回。……五千円分になってないか?
「もし、一回の買取が百円、百五十円だったりすると……五千五百円、六千円になるのか」
「得してるじゃん」
「しかも細かいことを言うと、駿河屋で購入するときクレジットカードで決済している。だとしたら楽天カードで一パーセントのポイント還元があるな。少年コミック五百冊セットは四千五百円だから四十五円分のポイントが付く」
「ホント、細かいね……」
どう転んでもこちらが損することはない。タダでマンガが読めて、お金までプラスになるという計算だ。
「そんな都合のいい話があるのか……待て! Tポイントの使い道だ! そこに落とし穴があった」
「落とし穴ってなんのこと? 十回宅配買取をしたら四千五百ポイントもらえるんでしょ? なにがいけないの?」
「よく考えてみろ。Tポイントは現金じゃない。つまり、駿河屋で買ったものをネットオフで売るというループはできない。もし、みほが四千五百ものTポイントを持っていたらなにを買う?」
「えーと……そんなこと言われてもね。でも、ファミマとかで使えるじゃん」
「ファミマな……食品や飲料だとスーパーで買ったほうが安いからな。コンビニで買うのは割高だ。ポイントで決済したからといってもお得感がまるでない。なにか……もっとTポイントの有効な使い方はないのか」
「ポイントだったら……交換とかは? そういうのってできるでしょ」
「それだよ、ポイント交換だ!」
その手があったか。もしかしたらいろんなところを経由することによってループができるかもしれない。
する、しないではない。できるかどうかの確認がしたかった。
「みほ、すまない。またパソコン借りるぞ」
やっぱり俺はパソコン派だな。なにより画面が広いのはいいものだ。あと、キーボードが打ちやすい。
「うおっ! できる……が、千ポイントが八百五十円に減額されてしまう。ちくしょう!」
いやしかし、それでもすげぇよ。この駿河屋とネットオフ、Tモールのコンボは。
「格ゲーで例えたら、即死コンボってやつだな」
「うん……すごい、楽しかった。福袋」
「そうだな」
「また、買いたいな……」
この日を境にみほは少しずつ変わってしまった。駿河屋はすごい店だ。とても魅力がある。だから、一度はまってしまえば抜けることは難しかった。
福袋の誘惑。それから彼女は取り憑かれたように福袋を買いまくる。