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  3 中古コミックの相場破壊


 ――この日から俺たち高校生は冬休みに入った。真面目な奴ならこの時期に受験勉強なんかするんだろうけど、俺もみほもしない予定だった。

 受験なんて三年生になってからでいいのさ。そんな甘い考えをしていた。

 部活に入っていないし、最近コンビニのバイトを辞めてしまった。なのでマジでフリー。

 寒いし、これといってやることもない。コタツの中に入って、テレビをポケーっと見ているだけだ。なんという堕落した冬休み! 時間の使い方!

 そんなとき、みほから電話がかかってくる。

「――おう、みほか。暇してんだろ? コフでもすっか?」

「――デスノート……」

 おい……。

 なんだ? 死ねってか?

「おい、ふざけんな。失礼にもほどがあるだろ。いきなり死ねみたいなこと言うな」

「違うわよ。デスノート持ってないかって聞いてんの。冬休みに読みたいから。全巻あったら貸してちょうだい。いや、全巻じゃなくてもいいから」

「マジかよ、デスノート! ……むかぁーし、持っていたんだけどな。ほら、一時期デスノートブームあったじゃん。あのとき全巻持ってた」

「わたしも持ってた。……でも売った。それも二束三文で。もう読まないと思って。それならちょっとでも本棚のスペース空けたかったし」

「お前は俺か……まあいい。確かな、全巻売ったけど、それから一冊だけ買い直したんだ。えーと、ネットオフ? あそこって三冊買ったら送料無料だから、百五円のを数合わせのために買ったんだ。一巻だけだけど」

「はぁ? 一巻だけあってどうすんのよ。わたしはデスノートが全巻見ぃたぁい!」

「見たいって言われてもな……買ったらどうなんだよ。今だったら在庫過剰とかで全巻でも千五百円ぐらいで買えるんじゃねーの?」

「調べたけどさ、ネットオフで千五百九十八円だった」

「お前もネットオフ派か? Tポイント付くから?」

「うん……まあ」

「お、そんなこと言ってる間にあったあった。じゃあ、とりま持っていくよ。一巻だけだけど」

「ハチワンダイバーは? 持ってない?」

「ねぇよ。お前が買え」


 ――そして、みほの家に到着。

 部屋に上がるがさすがは冬休み。みほにはまったく覇気がない。


「楽よねぇー。冬休み……コタツ温かいし、焼き芋とかおいしいし……これでマンガとかだらだら読めたら最高ー」

「漫画喫茶とか行ったら? マンガ読み放題だろ。十二時間コースとかそういう長いのもあるし、八百円ぐらいで」

「いい。あれは落ち着かない。第一、コタツがないでしょ」

「まあ、普通ないわな」

「それにお金ないし。……ほら、前に駿河屋でプレイステーション2のセット買ったでしょ、あれで金欠よ」

「売ったらいいじゃん。――って、無理か。今のプレ2ソフトの相場って低いもんな。売っても二束三文か」

「どっかでデスノート一冊二十円ぐらいで売ってないかしら?」

「売ってるわけねーじゃん。あのブックオフでさえ、最低価格百五円なんだから。たまにセールかなんかでもっと安いのもあるけど。でも二十円はありえねー」

「普通はあり得ないけど駿河屋だったらあったりして。だってほら、壊れていたけど、プレイステーション2のセットってめちゃくちゃ安かったじゃない。だからあるかも♪」

「ないって……一応調べてやるけど」

 あるわけがない。二十円? どこの駄菓子屋だ。

 ケータイで駿河屋のページへ移動。まったく、みほの奴、あるわけが……あった。

「あったぞ」

「いくら?」

「二十……円?」

「は?」

「だから二十円だって。たぶん、全巻じゃないけど。でも、二十円で売ってた。一、三、四、五巻だけだが。あっ、でも他の巻も安い。三十円とか四十円の巻もある」

「バカにしてんの? 二十円とか三十円とか……駄菓子屋じゃないのよ?」

「いや、それ俺も思ったし、駄菓子屋。だからお前は俺かっての。信じてないようならほら、見ろよ」

 みほにケータイ画面を向ける。……えっと、これってデジャブ?

「やだ。マジじゃない?」

「だろ。ん……? いちいち一巻ずつ買っていかなくてもセットで売ってるぜ。こういうのって中古屋のいいところだよな。まとめ買いできるとこ」

 ネットオフで千四百九十八円だろ。だから駿河屋もよくて九百八十円ぐらいかなーって思った。これでも十分安いんだけど。

「六百円……? 全十二巻で六百円?」

「ウソ……六百、円?」

「なんだよ、これって……新品のマンガ二冊買うより安いじゃねーか。一巻から十巻までなら三百八十円じゃねーか。どういうこと? 買取? ……にしては高すぎるな。やっぱり販売価格か」

「これ、電子コミックなんじゃない?」

「そうじゃない……と思う。なぁ、試しに買ってみるか?」

「でも送料が高いんじゃないの? 一律五百円とか」

「そうか。……いや、千八百円以上の購入で無料だ。そっか、前に買ったプレ2のセット。あれも千八百円を超えていたから送料が無料だったんだな」

「千八百円まであと千二百円か……」

「いや、ちょっと待て! 今日はキャンペーンらしい。千円の購入で送料が無料になるそうだ」

「千円でいいの? 駿河屋さん、送料だけで損しない?」

「俺もわからん……わからんが損はしないだろう。でも、利益は薄いだろうな。こんなサービスしちゃうと」

「四百円……修一はなにか欲しいものない?」

「一緒に購入したらお互いにメリットがあるよな。みほは六百円。俺は四百円で送料無料で駿河屋から買える。……俺は金田一少年でも買うかな。おいおい、全二十七冊セットで千二百六十円も安すぎね? 今は四百円まででいいよ。それでもけっこう買えるぞ。とりあえず一巻から五巻まで百円で買えるし。うはっ! やばいな、これ」

「他のお店と比べたら次元が違う……」

「駿河屋はゲーム機販売のイメージがあった。でも、本もめちゃくちゃ安い。……なんなんだ、この店は。変わっているっていうか、異常だぞ」

 俺たちはデスノートと金田一のマンガを購入。これで楽しい冬休みを送ることができる。

 ……注文してから到着までが遅かった。今回は六日かかった。

 冬休みなので注文する人が多かったのだろう。


  4 福袋を知ってしまう


 ある日のこと。

 俺はこの日、みほの家でくつろいでいた。コタツの中で金田一少年を読んでいて、みほがパソコンをしていたんだ。すると……。

「うわぁー、なにこの人? マンガ五百冊も買ってるよ」

「マンガを五百冊ぅ? ははっ、物好きな人がいるんだな。そんなに買ってどうすんだよ。……羨ましい」

「どっちなのよ。わかりにくいから、そのリアクション」

「いや、羨ましいよ。普通にな。特にこんな冬休みを過ごしている学生には最高だろうよ、五百冊。しかし、そんなのズバッと買う金なんてねーよ。バイトは辞めたからな、今じゃあ残った金を細々と使う日々だな。プアな学生は冬が辛い」

「別に冬じゃなくてもねぇ……ん? は? え?」

 ……なに言ってんだよ、こいつ。狂ったか?

「ウソ……? だって、やだぁ」

「お前のほうこそわかりにくいから。……なに?」

 この変な反応が逆に気になってしまい、俺はコタツから出る。――瞬間、寒さで少し震えた。

「どっ、どりぇっ?」

 カミカミになりながらも、モニターを確認する。――すると、わかった。なぜ、みほがあんなワケのわからない言葉を口にしたのか。

「三千円? ……三千円?」

 二回、口にして確認してしまった。三千円? これで三回目だ。

「少女コミックが五百冊で三千円かぁ……一冊いくらになるんだよ。十円どころじゃねぇ。八円ぐらいだな」

「いや、八円だと×五百冊で四千円。七円でも三千五百円だから……」

「「ちょうど六円???」」

 ……はもってしまった。それもきれいに。

 六円かよ。どんなに安いんだ? 景気がいい……いいのか? いいのか悪いのか……やっぱりよくわからん。

「しかし、こんな変態価格……駿河屋以外でもこういう店ってあるんだな」

「駿河屋よ、これ。この特集ページ」

「駿河屋かよ? ……かーっ、なに考えてんだあの店は。他の店の一歩も二歩も進みまくってんな!」

「未来に生きているわね」

「まったく。他の店が潰れても駿河屋だけは潰れそうにない。発想が斬新すぎだ。……発送じゃクソ遅いくせにな」

「このページってたまたま、まとめサイト見ていて見つけたんだけど、どうやら冬の福袋セールやるみたいよ。ちょっと覗いていこうか」

「あぁ……でも、俺少女コミックには興味ないかなって、うおおおおおおおおおおっっっ!!!!!」

 なんじゃ、こりゃ? あり得ねーぞ、マジで。

 少年コミックの福袋もあるし、青年コミックもある。ライトノベルもあるし、アニメ雑誌や一般小説、新書なんてもんもある。でもムックってなんだ?

 とにかくマンガのセット売り祭りだ。気になる値段は……?

 安い。少年コミック五百冊だと四千五百円。一冊十円もしなかった。やべぇ、興奮する。なんだ、この胸の高鳴りは?

「か、神ショップ……」

 そう思わず漏らしてしまった。駿河屋は最も神に近い店だ。

 俺もみほもモニターに釘付けになった。

「お、おい。クリックしてくれ。次のページへ……こりゃあとんでもない。世紀の大発見だな」

「やばいよ、百冊、三百冊なんてのもある。百冊だと、まずはお試しってことなのかな。お試しでもありすぎるよ。最低が百冊からだなんて」

「でも……それが少女コミックなら千円ちょっとじゃねーか。安い……安すぎる!」

「ゲームの福袋もあるの? 見てみようか?」

「頼む……」

 カテゴリが多いな。おお、こんなもんまで扱ってんのか。パズル? カード? カレンダー? ……なんでもありだな。この店は。

 ゲームの福袋ページに行くと、それはもう大変。

 PSP本体とソフトのセット。DSの本体のソフトとセット。そんなものがたくさん掲載されてあった。

 これ、定価で買った人、マジでかわいそう。ちなみにDSのセットは売り切れになっていた。当然だろう。安すぎだ。

「あぁ、俺も欲しかった。DSのセット!」

「一万円切ってるからね。わたしだってほしいよ。……よし、福袋買っちゃおう」

「買おって……金、ないんじゃなかったっけ?」

「親にクリスマスプレゼントで買ってもらう」

「どこにクリスマスプレゼントに駿河屋の福袋頼む女子高生がいるんだよ」

「だって気にならない? 本当に五百冊送ってくるのかしら?」

「送ってくるだろ、それが駿河屋だろ? ……どっち買うんだよ、少女? 少年? 青年のほうはもう売り切れてるのか」

「少年! デスノート狙い! 早く買わないとこっちも売れ切れちゃう~、お母さ~ん!」

 駆け足で部屋を出るみほ。母親にねだりに行ってるんだろうな。母親もかわいそうに。「はぁ?」とか絶対言われてるよ。

 ――五分後。

「許可取れたっ、買お♪」

「おう……」

 クリスマスプレゼントって言っていたが、駿河屋は注文から発送まで五日はかかる。ましてや、今の時期なら一週間……いや、正月も挟むからもっとか。いつ届くんだ、それ。


 十二月が終わり、結局届いたのは一月八日になってからだ。

 この日はちょうど始業式だった。例のごとく、俺はみほの家に招待された。みほが家を出たと同時にドライバーさんが来てくれたんだとよ。……ドライバーさん、でかいダンボール箱を必死になって運んで、見ているだけで重かったそうだ。マンガ五百冊。相当重かっただろうな。

 母親も玄関先で荷物を受けて大変だったろう。女性一人であんな重たい荷物運べるものなのか。

「――修一、今日は一緒に帰ろ」

「まあ、いいけど……その、なんだ。荷物持ちじゃないが、引っ越しするから手伝ってみたいな感じか。マンガをお前の部屋まで持っていくっていう」

「うん、わたし重たいの嫌だから!」

 はっきり言うな。誰だってそうだ。しかし、俺も五百冊コミックには興味がある。はっきり言って開けるところを見てみたい。

「よし、わかった。放課後、すぐお前んち行くぞ!」

 周りから見たら俺たち、どんなに仲のいいカップルなんだとか思われてるんだろうな~。


 ――放課後、予定通りにみほの家に着いたぞ。

「さ、入って~」

「お邪魔します。――うおっ!」

 いきなりかよ。ダンボール箱がそのまま玄関入ったところに置いてあるぞ。すげぇ大きさだ。それが四つか。確かにこれなら五百冊入ってそうだ。

 これ、送料とか駿河屋はどれだけ負担しているんだろう。ゆうパックか……一般人が頼んだら一箱千五百円ぐらいはかかりそうだな。それが四箱だろ。それだけで六千円!

 や、やはり業者だとかなり割り引いてくれるんだろうな。そうじゃなかったらこんな値段でとても商品を提供できん。

「悪いけど、運んでくれる? てっ……一人で大丈夫よね?」

 手伝おうか? と、言おうとして咄嗟にやめやがった。いいだろう。それぐらい持ってやるよ。

「じゃ、ちょっと離れてな。……あ、おばさん。こんにちは。お邪魔しています」

 奥からみほの母親が出てきた。優しくて常識のある人だ。

「こんにちは、中村君。……ごめんねぇ、みほったらまたなんか買ってきたみたいで。マンガ五百冊だったかしら? まったくこの子は……」

「いいじゃないの。ものは試しでしょ。お母さん、クリスマスプレゼントありがと!」

「はは、今年もよろしくお願いします」

 深く腰を下ろして荷物を運ぶ。そのとき……。

「ぐっ……!!」

 あ、あれ? 重たい。異常に重たい。

 こんなの、ドライバーさんはよく運んでこれたな。この重さ、普通にやばい。

「修一? 大丈夫? 持てるよね? 男子なんだから」

 軽く言うなよ。こちとらそんなに運動もしてねぇ高校生だ。男は皆が力持ちなんじゃねーよ。うっ、しかもおばさんも見てるんだよな。これで、「持てません」と言うのはあまりに頼りないか。それに、「モテません」みたいでちょっとかっこ悪いな。「手伝って下さい」……これも自分の非力を認めるみたいで嫌だ。あ、俺、非力なんだっけ。

「もしかして持てない? 手伝おうか?」

 ニヤッと口元を歪め、小悪魔のような態度。……このままだと明日、学校で言いふらされそうだ。中村修一はダンボール一つも持てないので、女の子のわたしが助けてあげました的な。

 大丈夫だろう。人間、限界を感じると本来持つ力が出せないものだ。この歳でギックリ腰もないだろう。……ないと願おう。

 火事場のクソ力という言葉もある。精神を集中。そして、ハッ!

「ぐっぐぐ……!」

 なんとか、持てた。でも、すぐにでもこの荷物を下ろしたい。

「みほ! お前、先に部屋に行って、ドアを開けててくれ」

「うん、でも……大丈夫? 死にそうな顔してんだけど?」

「いいから早く」

 ほんの何メートルの移動がこんなに辛いとは。一番辛かったのは荷物を下ろすときだ。前のめりになって危うく、そのまま前転しそうになった。……これをあと四回か。骨が折れるとはこういうことを言うんだな。骨がマジで折れそうだぜ。

 必死になっての重労働。ようやく四箱のダンボール箱をみほの部屋の中に入れた。

「ありがと、修一。ご苦労様♪」

「お、おう……これしき」

「じゃあ、さっそく開けようか。あとでブログに載せるかもしれないから写真撮っておこうっと」

 パシャ、パシャ。

 禁断の……いや、禁断じゃないがこれで五百冊の正体がわかる。まるで伝説の宝箱でも開けるようだ。

「いくよ……ビリッ!」

 ビリって自分で言うな。……新聞紙? 一番上は新聞紙か。このぉ、じらしやがって。さすが駿河屋だぜ。

 ささっと新聞紙を払いのけるみほ。そして、中身は……。

「お、おぉ……マジで入ってやがる。ギッシリだ」

「コナンに烈火……パプワも入ってる」

 コナンはいい。まだ連載中だし、探偵物はけっこう好みだ。烈火は前に読んだことがあるな。途中で挫折したけど。パプワは……アニメしか知らん。再放送で観たのかな、けっこう古いぞ。

「まあまあなんじゃねーの? 本の状態は?」

 俺は一冊、コナンを手にとって確認してみた。……うん、まあ日焼けはあるが。そんなにひどくないレベルだ。有りだろう。

「もっと見ようぜ。ほら、早く」

「ま、待ってよ。今全部見るからぁ~」

 一応、これを買ったみほにこの箱の中身を権利があるからな。早く全部見たいが、このワクワクこそ福袋の醍醐味! それを奪うほど俺は野暮ではない。

「遊戯王、シャーマンキング……ジャンプ系が多いね」

「けっこう有名どころが多いな。もしかしてこれ、けっこう当たり箱かも。デスノートも期待できるな」

「うん!」

 一箱全部開けてみた。さすがのボリュームだ。あと三箱開けて、中を確認するだけでもけっこう大変だぞ。

「二箱目……開けるか?」

「も、もちろん……ふぅ」

 ちょっと息切れしてるし。まだ半分もいってないんだぞ。

 二箱目を開封。――すると、一番上にはインパクト抜群のあいつが並んでいた。

「キン肉マン? ……レアじゃねーか。しかも四冊か。きれいで全巻揃ってたら高値で売れるぞ」

「あっ! ハンターハンターだ。しかも新しい! 嬉しいっ!」

「マジ? これって、今でも普通に高いんじゃねーの? 二百五十円はするだろう。なんでこれが福袋に入ってんだ? 駿河屋のサービスか? ……あ」

 理由がわかった。ページがえぐれている。

「どういう衝撃を受けたらこんなんになるんだよ。間違ってミキサーの中にでも入れたか」

「読めないことはないんだけどね。えぐれてる以外はきれいだから……」

 なんかおもしろいぞ、駿河屋。このワクワク感は普通の福袋じゃ味わえねぇ。中古だから、駿河屋だから味わえるワクワクだ。

「るろうに剣心っ! 当たり箱っ! ……うっ!」

 なんだ、そのボディにパンチでも食らったような声を出して。

「るろうに剣心なら当たりだろう。どうした? またページがえぐれていたとかか? ……うっ!」

 ――なるほど。表紙がないわけだ。

「ここ、比古清十郎が剣心に奥義を伝授する、めちゃくちゃおもしろいところなのに」

「さすが駿河屋……といったところか」

 こんなことはあったものの、二箱目の内容はかなり当たりだ。デスノートが三冊入っていたし、ヒカルの碁も入っていた。ブリーチに、銀魂……やはりジャンプ系が多い印象。

 ワンピースも一冊だけ入ってる。ちょとシミが目立つな。これが福袋の中身入った理由か。

「けっこうよかったな、二箱目」

「うん、デスノートが三冊入ってたしね。……あと九冊入ってないかな?」

「希望はある。よし、三箱目、見てこうぜ」

 三箱目開封。

「ん……? なんだ、これ。野球マンガ?」

 かなーり昔のマンガだ。もちろん裏表紙にバーコードなどない。本がパッカリ割れている状態だった。

「背表紙のほうを持つと……あらら、ページが降ってくるぞ」

「これも五百冊のうち、一冊かぁ。ジャンク本だね」

「ハズレだな。希少本なら当たりかもしれねぇが、そこまでは古くないか」

 三箱目は集英社でないものが多い。ようやく小学館、講談社のターンだな。……とは言っても、俺もみほもジャンプしか読まないからここらへんはよくわからないな。おっ、けっこう新しそうな本もある。二年前の本か。新しいな。

 古く長編マンガが二十冊ぐらい入ってあった。……読まねぇ。中途半端にセットになっているのはキツイな。

 金田一少年が入ってたのは嬉しい。二十冊近く入ってた。

「最後の四箱目だな。長かったな」

「うん。そうだね」

 ワクワクできるのもあと一回だけか。そう思うとなんだか寂しくなる。

「最後は俺が開けさせてくれないか? 俺もこのドキドキ、体験したいんだよ」

 さっきまではすべてみほが開けるのは当然だと思っていた。でも、俺も感じたい。テープを破るだけでいい。……くっ、精神がどうかしちまってる。どうしたんだよ、俺。

「いいよ。最後は修一が開けて」

「すまん。じゃあ、開けるぞ……」

 なぜかこの箱だけガムテープが十字に貼られていた。他の三箱は綴じ目のところに貼られていただけなのに。

 もしかしてこの箱が本命なのか? だから十字なのか? 期待、できるな!

「いくぞ、それっ!」

 勢いよくテープを剥がす。まずは恒例の新聞――のはずだったが。

「ん? なんだこれ。いきなり本?」

 新聞紙は入っていなかった。しかもマンガはすべて裏向きだった。

「……なぜ?」

 みほも首を傾げる。なぜ、これだけが……。

 考えれば簡単なことだった。この箱だけ裏返しだったのだ。つまり、向こう(駿河屋)が発送のときに間違って裏返したまま郵便業者に頼んだか、それとも郵便局側がなんらかの理由で裏向けた。……なんだ。十字の秘密はてんで大したことはなかった。

「犬夜叉にゴーストスイーパーか……けっこういいかも。サンデー系か。今日から俺は、に……天使な小生意気。完全にサンデーだな」

 うしおととらがやけにきれいな状態だった。まるで新品みたいだった。……なぜ?

「ハヤテのごとくは読んでみたいと思ってたんだよな。あとで借りよう」

 カメレオンというマンガの表紙に、「中身違い」と書かれた紙が貼ってあった。その字はかなり雑。

「これ、どういう意味?」

 言葉の通りなのか。こんなもんでも一冊と計算されるのか。中身はなんだ?

 このドキドキ感、やはり駿河屋でしか味わえないな。

 ペラッ……。

 ――はじめの一歩だった。

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