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第三章 アフィリエイトに挑戦する
1 駿河屋のアフィリエイト
ある日、学校でみほがこんなことを言い出した。
「修一、アフィリエイトって知ってる?」
「アフィ……あぁ、聞いたことがあるな。確か、ホームページとかブログでどっかの商品を紹介するんだろ。で、誰かがそこを経由してアクションを起こすと、報酬がもらえるってあれな」
「知ってるんだ、やるじゃん!」
「だてに暇人はやってない。んで、もしかしてアフィリエイトやりたいっての?」
「うん、やりたい!」
「……それって駿河屋の?」
「そうよ。だってわたしたちだいぶ駿河屋のこと知ってきたじゃない。駿河屋がいいお店だって、もっといろんな人に知ってもらいたいわ」
「でも、そうすると雑貨の福袋とか買えなくなるかもしれないぞ。価格も上がるかもしれない。それだけ人気だったら九百八十円でもいいかぁ、なんて思うんじゃないか」
「でも、それでもわたしが駿河屋から受けた影響は大きい。わたし、駿河屋に恩返ししたいのよ」
「マジか……なんだか悔しいかも」
「えっ?」
「いや、別に。なんでもない」
アホか、俺は。店に嫉妬してどうする。人じゃねぇ、店にだ。
……あ、嫉妬? 嫉妬ってなに言ってんだ、俺。
「――どうしたの?」
「え、あぁ。マジでなんともねぇって。それよりアフィリエイトのやり方って知ってるのか?」
「それが……よくわかんないんだよね」
「俺も調べといてやるよ。今日は……水曜日か。だったら土曜日、お前んち行ってもいい? それまでに調べておくから、アフィリエイトのこと」
「うん、お願いする!」
話題は駿河屋ばっかりだな。……あぁ、俺もはまっちまったよ。駿河屋の魅力にな。
――土曜日。
ピンポーン……。
「よう」
「おう」
短な言葉でご挨拶。そして家の中、部屋の中へ。
「調べてきたぞ、アフィリエイトのこと」
「わたしも調べたよ。とりあえずウチのお父さんの名前で登録した。一応お父さんの言葉も参考にしてるから、これでいいんだよね」
「いいんじゃねーか。すべての判断は運営側が決めることだが……それでも心配だったらオヤジさんに記事書いてもらえ。一部だけでも」
「うん。……じゃあさっそくなんだけど、どうしよっか?」
「登録はしてあるんだろ。だったらちょっと貸して……あ、またパソコン借りるぞ」
パソコンを起動。駿河屋のアフィリエイト画面に行く。
「メアドとパスか。これはみほが入力してくれ」
「はいな、まあその辺は最低限のマナーとして……どうぞ!」
「ん、ありがとう。で、ブログだな。お気に入りに入れてる? どこ?」
「シーサーブログにしてるよ」
「シーサーか。いいね、あそこはアフィリエイトするには最適だよな。……おっと発見。じゃ、クリックと……おぉ、もうログイン状態か。クッキーが効いているな」
「クッキー?」
「あぁ、記憶してるんだ、ログイン情報が。最後にログインしたときに情報を保存するかって表示があっただろ。するってしたとき、こうなるんだよなー」
作っているブログは一つか。シーサーは五つまで作れるからな。まったく、便利なブログサービスだぜ。中には極悪なブログサービスもあるからな。広告がクソほど多いところや、ちょっとしたことですぐに一方的にブログを削除するところもあるらしい。
「なにを紹介する? ……特にこれといってなかったら駿河屋のショップ自体を紹介するか。だったら簡単だ」
「うん、それでいい。駿河屋最高だって」
「わかった。じゃあ目立つように記事の上に自由形式で固定しておこう。そうするにはデザインをいじってだな……」
予習がとても役立った。設定が終わり、更新ボタンを押してみる。
「――これでたぶん、アフィリエイトリンクが貼れたはずだ。見てみるか」
ブログの確認。そして思っていた通りにアフィリエイトリンクは貼れていた。
「わぁ、すごい……。ここを経由して誰かがなにかを買ったり売ったりすれば報酬がもらえるのね」
「あぁ。でもなかなか厳しいらしいぜ。アフィリエイトリンクってあんまりいい印象持ってないからさ。クリックしてくれるかが第一の課題だ」
「アフィリエイトが悪い印象? なんで?」
「過去……いや、今でもいるんだ。そういうタチの悪いアフィリエイターがさ。とにかくリンクを踏ませようとして、うざいってぐらいアフィリエイトリンク貼るやつ。偶然、そこを訪れた人はどう思う? なんか嫌な気持ちにならない? 買え買えって言われてるみたいでさ」
「あ! そういうブログ知ってる! そっか、あれってアフィリエイトだったんだ」
「そういう一部のアフィリエイターがいるから、アフィリエイトリンクに敏感になってんだ、皆が」
「そっか……なんか悪いことしてるみたいだね」
「でも、みほの場合はそうじゃないだろ。本当に駿河屋のことが好きで店を紹介してるんだ。今までの記事を読んだらそれがわかるよ。だからさ、アフィリエイトリンクは最小限にしたほうがいい。一応、バナーよりテキストリンクのほうがクリックされやすいし、うざがられないからそうしておいた」
「やるじゃん、修一!」
「へへっ。ちなみにお前のサイトってアクセスどんなもんだ。そういうの確認してる?」
「えぇと……十ぐらい」
「十? 十人相手にアフィリエイトかぁ……」
「たくさん記事を書いていけばもっとアクセスも集まるって。……それに最近ちょっとサボリ気味だし」
「サボりって……話題には事欠かせないだろ。駿河屋ネタは得意中の得意じゃん」
「うん、でも最近はヤフオクのほうばかりに力を入れてて」
「手続きとかするの俺だろ。みほは見てるだけじゃないか。もしかしてあんまりアフィリエイトする気ない?」
「そんなことない! 売って売って売りまくってやるわ!」
「じゃあ、記事数をもっと増やせよ。今のところ、十記事? 百ぐらいまで増やせない?」
「百ぅ? あんた、それわたしにコピペでもしろっての?」
「いいじゃん、コピペ。それでやろうぜ」
「ごめん、勢いで言ったけどコピペってなにをコピペするの? 2ちゃん?」
「2ちゃんか。あれはあれでけっこう面白いけど、それは2ちゃんだから面白いんだと思う。よくあるまとめブログなんかはやり方さえ学んだらできると思うよ。でもそれじゃあ決定打にはならない。せっかく本気で駿河屋のアフィリエイトをするんだ。お前にしかない、このブログにしか出せないものを表現したい。記事を増やす、コピペ……そう、評判だ! 駿河屋の評判をコピペしたらいい!」
「評判って、遅延だとかあの店は最低だとかそういうの?」
「そう。駿河屋の評判を見ると、きれいに二つに分かれるんだ。いい店だった。悪い店だった。いい評価なのは品揃えが豊富で値段が安いところだよな。悪いところは多くが遅延。また、遅延でクレームの連絡を入れてもスタッフはすぐに対応してくれない。だってそれが駿河屋なんだから」
「そ、それって悪口?」
「悪口じゃない。駿河屋の特性を知っていると、遅延で怒ることはなくなるんだ。世の中すべての人が」
「確かに……わたしたちも駿河屋の遅延に、今では慣れているけど最初のほうはそうじゃなかった。そうか! だったら遅延は当たり前。そのつもりで駿河屋を利用すべし! そう紹介したらいいのね!」
「あぁ、でもいいところばっかり書いても駿河屋信者とか言われるだけだから、悪く評価された内容についても書こう。俺たちもPS2本体が壊れていたこともあったし」
「あのとき、ちゃんと言い出していれば駿河屋は保証してくれた」
「あぁ、そうだよ。いろいろ問題はあるけど、駿河屋は最後まで客の面倒を見てくれる。だろ?」
「うん、なんか書けそうな気がしてきた」
「ますは口コミだ。駿河屋の口コミが書かれているサイト……たぶん三つや四つはある。駿河屋は買取もしているからな。買取サイトにもいろいろ書かれているはず。まずそれは全部コピペだ!」
「それじゃあとても百記事なんかじゃ収まらない」
「いいんだよ、それで。コンテンツが充実する。カテゴリの設定を忘れるな。『駿河屋の評判』なんてどうだ?」
「ねぇ、でもコピペなんかするとブログ削除されない? もしくはグーグルがサイト自体を表示させない……つまりペナルティを課すなんてことは?」
「シーサーはブログでアフィリエイトOKだと謳っている。どこぞのせこいブログサービスなんかじゃない。シーサーを信じよう。グーグルだって昔は厳しかったみたいだが、過去に多くのブログを圏外に飛ばした。無法者のアフィリエイターたちを排除するためといっていい。そのとき、多くのアフィリエイターが引退したという。アフィリエイターは禁断の技を使ったんだ。それはアフィリエイトツール」
「知ってる! よく宣伝しているよね。空いた時間で月十万を超すとか」
「そう、もっとひどい場合なんかは一月で百万円稼げるなんてことも書いてる。なんの根拠もないのにね。でも、未だそれを信じてしまう人たちがいるんだ。だからアフィリエイトツールはなくならない。使ってもすぐに圏外に飛ばされるか、ブログを削除されるだけなのに」
「アフィリエイトツールを売っている人たちってもちろん使うリスクは……」
「あぁ、知っている。知ってて売っているんだ。……ひどいよ。まるで詐欺だ」
「そういうのもアフィリエイターが嫌われる理由?」
「あぁ、金を稼ぐためなら手段を選ばないってやつだな。……思いきり脱線してしまった。さあ、コンテンツの充実化に図ろう」
「うん!」
――後日。
「なぁ、みほ。お前ってツイッターとかやってる?」
「え? ……うん、一応やってるけど」
日曜日、俺はまたみほの家に来ていた。昨日は帰ってからアフィリエイトのことをまた少し調べてみた。近道を探しているわけじゃないけど、やったほうが有利なことや、これだけはやってはいけないこと。そういう決まったルールがあるはずだ。それらを知ることは悪いことではない。むしろ知るべき。――で、俺がこれはいいなと思ったアフィリエイトのやり方がある。それについてみほの意見を聞きたかった。
「フォロワー、どれくらい?」
「五十人ぐらいだけど」
「じゃあフォローも同じ感じか」
「うん。やりとりしてるのって同じ学校の友達か、地元の子ばっかりだから」
「五十ね。そうか、まあそんなもんだよな。……なぁ、その五十人に駿河屋のこと紹介したらフォロワーの皆はどう思う?」
「え……ふーん、で終わるんじゃないの」
「うん。俺もそう思う。駿河屋、つまり通販を利用する人間って基本的に大人だ。高校生も利用するかもしれないけど、クレジットカードとかそういうのあるからな。だからまあ代引きっているシステムが存在するわけだが、まあ基本大人だ。駿河屋はアダルトも商品も多いしね」
「うん……それで?」
「だったら大人に呟いてみたらどうだろう? もちろん今のみほのツイッターアカウントに、大人のフォロワーはいない。いても数人だろ。それも身内や、身近にいる人。せいぜい十人ってとこだ」
「うん」
「ツイッターはなにもアカウントを複数持っていてはいけないなんていう決め事はない。もちろん十個も二十個も作れば目をつけられるだろうが、二個ぐらいは問題ないんだ」
「ツイッターでアフィリエイト用のアカウントを作るってこと?」
「そういうことだ。そこで駿河屋のアフィリエイトリンクを含めたつぶやきをすればいい。フォロワーは多ければ多いほどいいな。今の時代、ブログよりツイッターのほうがいい集客ができる。ブログとツイッターを連携すればさらに強いアフィリエイト媒体になる。やろう! これならいけるかもしれない」
「待って、でも一体誰をフォローするっていうの?」
「そうだな、ゲームやマンガなんかは他のショッピでも買えることができる。それも悪くないんだが、俺としては断然同人誌を勧めたいね」
「同人誌? ……でも、なんで?」
「同人誌が通販で買えるショップ……そんなの駿河屋以外で聞いたことがあるか?」
「ヤフオク? ぐらいしか知らないかな……。でも、同人誌なんて売れるの?」
「売れるさ! たぶんな、俺もその道には詳しくないけど、確かに熱い市場だ。駿河屋のレビューの中にも同人誌を買っている人は多い。そして、売っている人も多い」
「あ、ホントだ……気づかなかった」
「ツイッターで『同人誌』で検索してヒットしたアカウントを片っ端からフォローするんだ。そしたら十人に一人はフォロワーになってくれるぜ」
「でも、そんなに一度にフォローしたらアカウント凍結されてしまうわ。せいぜい一日に十人が限界……」
「そう考えると、一日につき一フォロワーか。一か月でも三十人か。ちっと少ないな。千とか二千とか、フォロワーのついているアカウントも闇で売買されているらしいが、そういうのには手は出さないでおこう」
「当たり前じゃない!」
「昔はもっとフォローできたって話だがな。そう、一日に百人とか二百人フォローしても凍結されなかったが今はやばい」
「……わたしにいい考えがある」
「なんだ、それは?」
「へっへー、ちょっと時間かかるけど、うまくいけば爆発的にフォロワーが増やせるわ」
「まさか、ツールを使う気か? それは危険だぞ」
「まさか。修一がヒントをくれたじゃない」
「俺が……この会話の中でか?」
みほはなぜかそのやり方を教えてくれなかった。理由は俺を驚かせたいかららしい。なんだ、それは?
しかし、楽しみでもあった。俺がこれ以上口を出すことも、少々やりすぎとも言える。……だったら、お手並み拝見といこうではないか。
――一か月後。
この一か月、俺はみほの家に呼ばれることはなかった。学校でも駿河屋の話を全然しない。俺からたまに声をかけるが、いつもとてもしんどそうにしていた。
……なにやってんだよ?
駿河屋の話はしないし、ブログの話もしないし、アフィリエイトの話もしない。話自体なにもしない。これはおかしい!
いても立ってもいられなくなり、俺は学校でみほに問い詰める。
「みほ! いい加減にしろよな。自分が今、どんな状態なのかわかっているのかよ? こんなに目にクマなんて作りやがって」
「修一? ……あぁ、そうね。そろそろいい頃合いかもね」
「なんの……ことだ?」
「ツイッター。わたしね、この一か月がんばって……フォロワー一万超えしたよ」
「一万? マジか、それ?」
「うん。今日、放課後見に来ない。……って、別にここでも見れるか。ここで見せてあげるよ」
みほがケータイを取り出して、ツイッターの画面を見せてくれた。でも……。
「フォロワーが五百しかいってねぇ。これだけでもすごいが、一万には遠く及ばないぞ」
「ふふ、一応これがアフィリエイト用のメインのアカウント。つまり一番手ね」
「一番手? だったらもしかして、二番手、三番手……複数のアカウントを作ったってのか?」
「そう。二十個も作っちゃった。いつ全アカウントが凍結されるか、削除されるかヒヤヒヤしていたんだけどね。でも大丈夫だった。今は一つのアカウントで一日、二十人フォローしてる。知ってた? フォロワーがある程度あったら、それぐらいのフォローはしてもペナルティにならないよね。実体験……こればっかりは自分でやらないとわかんないよね」
「お前……それ、めちゃくちゃ大変だったろ。その、毎回アカウントを変えてフォローするんだろ。それも二十アカウント分を」
「うん。まあね、時間さえかければ誰にでもできるけど……でも、精神的にやっぱりきつかったなぁ~。同じことの繰り返し。十人フォローしても一人もフォロワーになってくれないときもあった。それに、常にアカウント凍結の恐怖……あはは、おかげで最近全然寝てないや。でも、もうこれでいいかな。だって合わせて一万フォロー、いったんだもん」
すげぇ……並大抵の気力じゃあこんなことはできない。これを……みほは一か月も続けたってのか。
「なにが……お前をそうさせた? なぜ、こんなにがんばれる?」
「初心を忘れたの? それは駿河屋を愛するが故によ」
そうか……そうだったな。
こいつ、根っからのスルガイヤーだったってことかよ。
「う……」
「おっ、おい、みほっ?」
みほは突然、椅子から横に倒れそうになった。俺は彼女の肩を抱えた。
「あ、ごめん。ちょっと気が抜けちゃった」
「ほとんど寝ていなかったんだろう。その緊張感が一気になくなったんだ。今日は一日寝ておけよ」
「え? だって授業が……」
「こんな状態だったら授業もなにもねぇだろ。早退……いや、今のお前を家に帰らすなんてできないな。目をつむったまま自転車走りそうだ。おっかねぇ」
「あはは、そんなわたしドジっ子じゃ、ない……」
「そう言いながら寝ようとするな。……じゃあ保健室だな。おい、立てるか?」
「むにゃ、立てないよぅ……」
「世話のかかる奴……。ほれ、肩を貸してやるから。行くぞ、まさかお姫様抱っこして保健室行くわけにはいかねぇだろ」
「むにゃむにゃ、また駿河屋で福袋買いたいなー……」
「目ぇつむったままでいいから。その代わり足動かせ、足」
子どもみてぇだ。足を引きずるようにして保健室を目指す。……ひゃー、そういや階段、どうやって下りよう。
俺の耳元にみほの寝息がかかる。……なんか嬉しいな。俺を信用してくれるっていうか、頼りにしてもらってるっていうか。
「駿河屋ぁ……」
「はいはい、俺たちは駿河屋を愛するスルガイヤー。福袋は帰ってから何個でも買え。どうせ雑貨の福袋だろ。四百八十円だ、安い安い!」
――昼休み、みほは欠伸をしながら教室に戻ってきた。
「ふわぁ~、あ~、よく寝た」
「爆睡したみたいだな。少しはスッキリしたか?」
「あ、修一。……ありがとね、助かったよ」
「あんまり無茶すんじゃねーぞ」
「うん……あのさ、今日ウチに来なよ」
「おぉ、もしかしてあれか。とうとうアフィリエイトリンク入りのつぶやきをするとか?」
「まあね。最初っからアフィリエイトリンク乗せてつぶやいていたらさ、誰もフォローしてくれないと思ってまだやっていないんだ」
「あー、そうか。フォローとかフォロワーの話ばっかだったが。確かにツイートもある程度しておかなくちゃいけないよな。なんのつぶやきもしていないアカウントなんて、誰もフォローしたがらねーよ。じゃあ二十アカウントすべてにそこそこの記事を……」
「うん、やった。すっごい大変だった」
「そりゃ疲れもたまるわ。それ、ずっとやり続けるわけ?」
「フォロワーを増やそうと、無理にフォローはしていかないつもり。フォロー返しのツール使ってるの、実は」
「あぁ、俺も知ってるよ。確か、ツイッターを提供している会社でもそのフォロー返しツールは確か公認だったんだよな?」
「そう。だからちょっとずつだけでフォローとフォロワーの数も増えると思う。そのためにはなにか得するようなつぶやきしなくちゃね!」
「でも、二十アカウントすべてにつぶやき……しんどいぞ」
「ふふ、実はこれも試してみたの」
「なにを? だよ」
「ボット」
「ツールじゃねぇか! お前、ツールは使わないんじゃなかったのかよ?」
「ツールっていってもしていいものと悪いものがある。……たぶんボットはグレーゾーン」
「自分で言うな」
「でも、これまで使っていても凍結の対象にはならなかった。それにつぶやく間隔も六時間ほど空けてる。そうじゃないと複数アカウントなんてとても扱えないわ」
「そりゃあ二十アカウントだもんな……ホント、よくやったよ、お前は。ま、凍結されないならやったらいいさ。やってやれ、お前の駿河屋の気持ち、思いきりぶつけてみろ!」
――で、放課後はみほの家へ。さすがに教室で、「駿河屋が!」とか「アフィリエイトが!」なんて会話はできない。いや、ノーマルなテンションならやるが。でも、今回は駿河屋のアフィリエイトを本格的にやる特別なことなんだ。とても普通のテンションでいられる自信はない。絶対叫ぶ。そっちの自信はあった。
「ボット……便利だよな。十パターンのつぶやきを登録するのか?」
「うん、メモ帳なんかでまとめておくの。で、自動でボットをしてくれるサイトがあるからそこで複数行を選択。そうすると、一行が一つのつぶやきになるんだ。これだったら十回登録するんじゃなく、一回の登録で十パターンつぶやいてくれる。それもランダムで」
「で、同じ十パターンを二十アカウントでつぶやくわけか……考えたな。仮に一日四回つぶやいたとしても、二十アカウントで八十ツイートだ。それも自動でやってくれる。でもさ、ずっと同じつぶやきだったらさすがにフォローしてくれている人も飽きるだろ。その対策は考えているのか?」
「うん、確かに十パターンだけだったらすぐに飽きると思う。だから百パターンぐらいにするの。……格言なんてどうかしら?」
「あぁ、あるある。有名人のとか、恋の格言とか。……そうかぁー、そういうのを一定の間隔でつぶやいていた人ってボットを使っていたんだな」
「たぶんね。で、たまにアフィリエイトリンクを含んだつぶやきをするの。その割合は二割ぐらいがいいかなって思ってるんだけど……?」
「あぁ、問題ないと思うぜ」
「じゃ、登録しようか。二十アカウントっていっても、二十分もあったらできちゃう。ボットのつぶやき登録はとても簡単よ」
「なるほどなー、今までの苦労が報いてくれたらいいな」
「駿河屋の良さはよく知っている。知ってくれたら、皆だって買うよ」
「へへ、楽しみ」
つぶやきの登録が終わると、みほが福袋を買うなんて言い出した。まあこれは前によくあったこと。――でも、今回はちょっと違った。
「うわっ! ちょっ! これ、これすごい!! ギガ福袋っ!!!」
「あ……なに言ってんだ?」
「すご、これ。駿河屋、勝負に出た。勝負に!」
「いつも勝負している店だろ」
「違う、これ見て。うまい棒千本セット!!」
「千本? ……たはぁー、やられたっ! また想像の上を超されてしまったかー」
「千本よ? 百本じゃないのよ。……一体いくらだっていうのよ。定価で買うと一万円じゃない。うまい棒、一万円まとめ買いする人なんている? いたら変態だとしか思えない。ないない! 絶対あり得ない!!」
「ギャグにも程があるだろ」
価格は六千九百八十円。けっこう安い。
「十円のうまい棒が七円ってとこか。うまい棒って一本いくらで仕入れてるんだ? それで儲けが出てるってこと? いや、今回は完全にネタに走ったな。たぶん売っても駿河屋には利益はないぜ。あっても数百円ぐらいじゃないか。本当に客を楽しませる会社だな。……おい、どうした?」
「これ、これは……買えってこと?」
「なにが? ……まさかお前、この福袋買うつもりなんじゃないだろうな? これは今までの福袋とは違うぞ。中身はわかっている。福袋という言葉に惑わされるな!」
「いや、それこそ違う。これは正真正銘の福袋……。わたしをきっと試しているんだわ」
「んなわけないだろ」
「駿河屋がネタに走ったってことは、駿河屋を愛するわたしはこのネタを受け止めなければいけない!」
「おい、冷静になれ。ジョギングでもしてこい。千本だぞ? 誰もこんなの買わねーよ。ほら、よくあるじゃんか。二〇一四年だから二千十四万円のダイヤの福袋とか。そういうノリだよ。主催者側も売れることを期待していない。話題性を狙っているんだって」
「でも、買える。六千九百八十円なら買える……」
「買える……そうだな。確かに買えるな。だがな、うまい棒千本買いました。お前の親はどう思う? お前の友達は? ……俺もお前がこれをマジで買うと引くぞ。完全に」
「周りなのことなんて関係ない。駿河屋がわたしを試している。買う! 買わなくちゃ! いくつ……いくつ買おう?」
「待て! ……お前、今いくつって言ったよな。百歩譲って千本買うのはわかる。それでもお前はやばい奴だ。心からそう思うよ。でも、まだ許せる。だが、『いくつ』? そんなもん一つに決まってるだろうが。わかってるのか? 一つで千本セットだ」
「わかってるわよ。だからいくつ買おうか迷っているんじゃない」
「まさか……二千本買う、とか?」
「それじゃあインパクトがあまりないかもね。スルガイヤーとしては駿河屋でさえ、あっと驚かすようなそういうアクションを取りたいわ」
「おい……お前は今、ギャグで言ってんのか? あぁ? 俺を困らせて楽しんでんだろう?」
「なにを……そんなこと少しも考えたりしない」
「ギャグって言ってくれよ。もうこれ以上ついていけない。お前が壊れていくところを見たくない。千本だぞ……俺がそこらのコンビニで百本かき集めてこようか? それの十倍だ。二千本ならその二十倍。実物を見れば千本の多さがわかるだろう。そっちのほうがまだ被害が少ない。行ってくるよ、だからそれまで買おうとするな」
「ダメ……よ。駿河屋の福袋の特徴として、いいものはすぐになくなる。この福袋ももうすぐ売り切れになるわ」
「ならねぇって! セールが始まってもう何時間もたっている。でも、まだ売れ残ってんだ。その意味がわかるか? これはネタ! 買おうとする奴なんていない!」
「日本で誰一人買わなくても、わたしは買うわ」
「ちくしょう!」
勘弁してくれ。こいつをここまでさせた原因として、俺が助長させたのも事実だ。
とうとう壊れやがった。
「今、あるお金……三万円ちょっとある。駿河屋の雑貨福袋で稼いだお金。ヤフオクで転売したお金。これを全部使おう。やった、ギリギリで三つ買える。三千本だ。やった……クリック、注文しなくっちゃ」
みほの手がマウスの上に移った。
「やめろっ!!」
俺はその手を払いのける。幸い、駿河屋のサイトでは一クリックで注文はできない。少なくとも四クリックはする必要があった。途中ならどのタイミングでも、ページを閉じれば未購入となる。
「なにするの? 邪魔しないでよ」
「買わせねぇよ。あとで後悔するのはてめぇだ」
「わたしがなにを買おうたって勝手でしょ。それにこのネタをブログやツイッターに書いたら人気も出るわ。一石二鳥じゃない」
「誰が信じる? うまい棒を三千本買っただなんて……画像でもアップするのか? それなら信じてもらえるが、わたしは変態ですって言っているようなもんだぜ」
「買わして! うまい棒!」
「いいや、買わせない! せめてっ! せめて千本にしろ。三千本はまずい。学校でも問題になるぞ。お前はここの地域で生きていけない!」
「わたしは駿河屋を愛する、者……わたしが買わないと駿河屋のうまい棒の在庫も溜まるし……」
「向こうはそういう大きな倉庫持ってんだよ! でもお前んちは普通の家だろ! うまい棒、部屋に三千本入れんのか? あぁんっ? お前が病院に入れられちまうぞ!」
「それでも、わたしは買うの」
「……勝手にしろっ!」
俺は部屋を出るときにこう言った。
「お前はもう俺の理解できない領域に入った。俺はもうついていけねぇよ。俺はスルガイヤーでもなんでもねぇ。二度と俺の前で駿河屋の話をしないでくれ」
「修一、あなたは忘れたの? 駿河屋で買った福袋の数々。あのドキドキを忘れられるの? ……もっと深みにはまりたいと思わない? 駿河道は奥が深い。これからも駿河屋だったらきっとなにかしてくれる。もっと、もっと駿河屋の魅力を……」
聞いていられなかった。俺はみほの言葉を遮り、家を出た。




