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引退魔王道中記  作者:
2/3

勇者は帰れない

勇者視点です

「帰れないってなんでなんだよ!!」

悲鳴にも似た怒鳴り声が神殿に木霊した。

魔王を倒した俺は今ここに来るまでは最高に気分が良かった。

平和な日本という国で平凡な高校生だった俺はある日突然、異世界に勇者として召喚された。

最初は剣を握ることすら拒んだが魔王を倒したら元の世界に帰してくれるという約束のもと、毎日血反吐を吐くような努力をしてきた。

どうしても元の世界に帰りたかった。

なぜなら元の世界にはたった一人の家族、妹がいるからだ。

交通事故で突如両親を失った俺たちは身内らしい身内もいなく、二人だけで支えあって生きてきた。

今考えるとお互いに結構依存していたと思う、けれどもやっぱり俺にはあいつがいないとダメだしあいつも俺を必要としていた。

だからこそ必ず家族のもとへ帰る、そのためには何だってやる、そんな決意がこの世界に来てからの支えになっていた。

魔王を倒したぞ、さあ、約束を守れ。

神殿で出迎えてくれた姫巫女にそう告げても何も言わない、ただ青ざめた顔で俺を見ていた。



全ては嘘だったのだ。

震える声で本当は送還の魔法なんて知らないのだと告げた彼女の声が何処か遠くに感じた。

彼女はできるのは召喚だけであり、送還はできなかったのだ。

この世界の魔法は使える人も少ないのだがそれ以上に一つの属性しか使えないという厄介な特徴がある。

火属性の人は火の魔法のみ、水属性の人は水の魔法のみといったようなぐあいだ。

今まで俺は彼女の魔法は移動に特化した転移魔法の使い手だと聞かされていたが実のところただ呼び出すだけの召喚魔法の使い手だったらしい。

そもそもな話として、もし送還魔法を使えたとしても行ったこともない場所には送れないだろうと言われた。

つまりこの世界には俺を元の世界に帰せる人はいないのだ。

この事実は俺の心をへし折るには十分だった。

先程まで心に渦巻いていた激情が途端に冷えていった。


世界を救うためだ、姫巫女様に非はない。


姫巫女を守るように立ちはだかる神官たちはこぞって俺を非難するような言い訳を浴びせるが、目的も希望も失った俺は心が麻痺したらしく何の感情も抱く気にならなかった。

俺が黙ったのを見て納得したと勘違いしたのか知らないが姫御子を退室させたうえで神官を通し、事務的な話がトントン拍子で進み、手切れ金と言わんばかりに大金を渡されて追い出された。






あれから二カ月たっただろうか、最近は時間感覚も麻痺してるらしく正確な時間はわからないが俺は今、廃人同然の生活を送っていた。

当てもなくフラフラと街から街を歩き回り、酒を浴びるほど飲んだりして小汚く路地裏に転がってることも多い。

衛生面を気遣うのもめんどくさかったのだ。

フケだらけでボサボサになった髪を軽くかきながら路地裏から出て人通りの多い通りを歩く。

今日も酒を飲もうか、いっそのこと女でも買おうかなと考えながら歩いていると人混みの中に紛れる彼女を見て時が止まったような錯覚を感じた。

いや、むしろ止まっていた時が動き出したのかもしれない。

俺は思わず肩を掴んで引き止めた。


愛梨(あいり)!!!」


愛梨、妹はギョッとした顔で俺を見上げた。


「げっ!!?勇者!?」

*魔法紹介*

召喚魔法

魔力の量に応じて発動者が求めるモノを呼び出す魔法。どんな場所であろうと魔力さえあれば呼び出すことができるのだからある意味最強な魔法だが、燃費の悪さもピカイチ。

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