黄金様の憂鬱で平穏な日常~旧友視点~
春。公園の桜並木も満開を迎えた頃、俺はそいつと出会った。
いや、出会ったというより「また出会ってしまった」と言った方がいいか。
久しく四百年は経っているだろう。此奴の顔をまともに見るのは。
「いよう建御名方。久方ぶりじゃのう!」
やけに懐かしい顔だと思った。俺が四国くんだりまで遠征に赴いた
際に、伏見神社で見知った奴だ。
油揚げが誰より好きで、その上酒まで嗜みやがる此奴のことを
嫌が応にも忘れ難かった。
「あ?……お前、まさか伏見の稲荷神か?」
「いかにも!!儂こそが伏見稲荷大明神、黄金様じゃ!」
見栄を切る仕草をする此奴を見て、ああ、やっぱりあの時と同じだ、と
少し安心した。
「いやー……あん時と全然変わってねえなぁ」
「そう云うお主こそ、四百年前からちっとも変わっとらんな。
特にその見栄えの悪い格好。他の土地神からも冷やかされて
おったろうに」
たしかに、俺は他の神連中より見かけに気を遣う方ではない。
今日もトレーナーとジャージ姿で、公園を闊歩している最中だった。
「人の服装にいちいちいちゃもんをつける為に、手前は此処に
来たのか?」
「とんでもない、ここの土地神であるお主に用があってのう。
どうじゃ、祝い酒とでもしゃれこまんか?」
にんまりと無邪気に笑う姿も、あの時と一緒だった。
「……へっ、落ちぶれた俺を笑いにでも来たのかと思ったぜ」
「何を言うか。今回のお役目には、土地神であるお主の力が
不可欠なのじゃ。
それに、ここで会うたのも何かの縁。一杯酌み交わすくらいしても
罰は当たらんじゃろうて♪」
「応、そうだな。」
俺は此奴――黄金を我が家へと招待してやった。
最近は土地神に対する信仰も信心も失われつつある為、傍目から
見れば只の廃屋にしか見えないが。
「のう御名方よ、いつ頃からここは斯様にみすぼらしくなったのじゃ?」
「言ってくれるな。つい最近だ。」
「……ということは、ざっと百年ほど前になるかのう?」
トタンの屋根と木の板で組まれた空間の中で、中心にあるちゃぶ台を
隔て俺達は座った。
「ま、祝杯と言ってもこんなもんしか無いが、遠慮せず飲んでくれ」
俺は予め用意してあった缶ビールを黄金に渡すと、飲み口のタブを捻った。
「くっくく、再会の杯がこれほど安っぽいのも、お主らしいのう」
「安っぽい言うな!俺は倹約家なだけだ」
「その様子じゃと碌に物も食っておらんな?」
「だからその話題に触れるな!
大体、俺達神々は飲まず食わずでも生きてゆけるだろうに!
お前は直ぐそうやって他人をからかう癖があったな!」
「まあまあそうカッカするでない。儂がお主と出会えて嬉しいのは
紛れもなく事実じゃ。神に誓ってな!」
「……それ、単なる冗談と受け止めて良いか?」
「なっ!?お主も儂が不信心者だと受け取るのか?心外じゃのう!」
手渡したビールをがぶ飲みした後、黄金はむくれた顔をしてみせた。
「ぷっ、ハハハ…お前その顔はなんだ?新しい宴会芸か?」
「な、なにおう!!」
益々顔を赤く染める黄金と、暫し語らい会った俺は、この世界も
まだまんざらでもないと思うのだった。
しかし、奴が帰り際に話した事が本当に起こりうるのなら
俺もここの土地神として気を引き締めなければならぬようだ。
そういえば、何時も夜に公園付近を見回りに来る警官、今日は
来なかったな。
珍しいことも有るものだと、旧友との再会に重ねて思い出す俺であった。
==了==
読者様の評価が無いのは書き足りないからだと思い、続編を
投稿しました。
今回は、旧友であり土地神、建御名方神を中心に書いてみましたが
何だか要領を得ない感じに収まってしまいました;
いつでも構いませんので、ご意見ご感想頂ければ
嬉しい限りです。それでは。