Act.97 賢聖の真意
Act.97 賢聖の真意
エルヴズユンデとアイギスは、境界空間を更に進み続ける。
「エルグリオがシリウスと戦っている今、残る四将は…グランディオスだけ、ですね…」
「肯定…奴は強い。出来る事ならインフィナイトと戦う為に貴様の力を温存したい所だが、加減せずに一気に決めた方が消耗を抑えられると推測」
「…ですね」
そして、アイギスが続ける。
「もしそれでも駄目ならば、最終的には俺がグランディオスの相手をする事を提言。
多少厳しいが、貴様がインフィナイトを倒すまでの時間稼ぎくらいならば可能であると推測する」
「…くれぐれも、命を粗末にはしないで下さいね」
その言葉に、アイギスがため息をつく。
「絶えず粗末な運用方法をしている貴様に言われる事ではない、と理解」
「…粗末にしているのではなく、元より私の命はその為にあるのです」
「俺とて兵器だ…よって、俺の命の使い道は貴様と大差は無いと返答」
ギルティアが苦笑する。
「…確かに、そう答えられると困りますね。一体、どうしたものでしょう…」
ギルティアの困った表情を見て、アイギスが言葉を紡ぐ。
「勝利する時は勝利する、敗北する時は敗北する。俺はただ兵器としての持てるポテンシャルを最大限用いて戦うだけだ。
…当然の事ながら、そうそう敗北するつもりはない」
「…それなら良いのです」
「もしや貴様は、俺がこの戦いで破壊される事を望んでついてきたとでも思っていたか?」
その言葉に、ギルティアは黙る。
「…成る程な、貴様の言動の意味を理解。だが、俺はこのまま稼動し続ける事に執着も無ければ、機能を停止する事にも執着は無い。
人間と一緒にしてもらっては困る…俺はあくまで兵器に過ぎん。使い潰される事や他者に廃棄される事こそあれど、自分が自分の処理について何かを望む事は無い」
「…アイギスらしいです」
ギルティアは安堵し、そして、すぐに境界空間の先を睨む。
「…いますね、間違いなく」
「肯定…既にこちらは相手に捕捉されているだろうな…」
直後、境界空間に、空間すらも揺るがすような咆哮が響く。
「来ましたか…グランディオス!!」
そして、その次の瞬間、凄まじい閃光がエルヴズユンデとアイギスを呑み込む。
「これは…!!」
それは、先日のオーガティスが発生させていたものと同じ現象のようだった…。
凄まじい光が収まると、研究室然とした風景の真ん中に、グランディオスが立っていた。
恐らくは、これはグランディオスの記憶が形を成した風景だ。
「来ると思っていた…ギルティア=ループリングよ。そして、まさかお前まで来るとはな…アイギス」
「出来る事ならば、貴方とは戦いたくなかったのですが、ね」
「…私としても、まさかまたお前達と戦う事になるとは思っていなかった。
だが、私の目的の成就が見えた今、私は躊躇いはしない…ここから先は、一歩も通さん!!」
その言葉に、ギルティアが叫ぶ。
「宇宙群を滅ぼしてまで、貴方は一体何を果たそうというのです!!」
「…これは私が自分自身で果たすべき事だ、今、お前に多くを語るつもりは無い。さぁ、二人がかりで構わない…私と、一曲踊っていただこう…!!」
グランディオスの目に宿る覚悟に、ギルティアは頷き、エルヴズユンデは剣を構える。
「先程言った通り、あまり時間がかかるようならば、ここは俺に任せ、貴様はインフィナイトを止めろ」
「ええ、しかし、ここは可及的速やかに決着をつけます…アクセス率百五十パーセント…アクセス…『レベル2』!!」
エルヴズユンデの機体各部から、紅の光が放たれる。
「…グランディオス、勝負です!!」
「よろしい…来い!!」
直後、エルヴズユンデが突進する。
「はあああああああああああああーっ!!!」
「何の!!」
エルヴズユンデの渾身の一振りをグランディオスは回避し、そのまま両腕から火球を叩き込む。
「くうっ…!」
エルヴズユンデが仰け反る。
「ターゲットに隙を確認…フル・バースト!!」
グランディオスが火球を放つ一瞬の隙を突いて、アイギスが大量の弾薬を一斉にグランディオスに放つ。
「ぬ…!」
「今です!!ディストレス・ストーム!クライングフェザー…ブレェェェェェェェェイクッ!!!」
至近距離から、凄まじい衝撃波がグランディオスを飲み込み、更に、そこに光の矢が突き刺さる。
「アトネメントプライ…フィニィィィィィィィィィッシュ!!!!」
畳み掛けるように、エルヴズユンデの胸部から、黒い光が解き放たれる。
「まだだ、この程度で…私は退かん!!」
衝撃波と光の矢が発生させた爆風の彼方に、グランディオスの黄金の眼が輝く。
「グラウンド・ゼロ!エリミネェェェェェェェェェェェトッ!!!!」
グランディオスの全身から放たれたありとあらゆるエネルギーが、一点に収束し、凄まじい光となる。
そしてそれが、アトネメントプライの黒い光と正面から激突する。エネルギーの爆発が、周囲を白で染める。
「これで、倒しきれませんか…!」
「言った筈だ…私には、成し遂げねばならない事がある、とな…!!」
爆風の中から、グランディオスが突っ込んでくる。
「グランディオス…その姿は…!!」
見ると、右腕の頭部から、剣が生えたような状態になっている。それは、エルグリオの剣と良く似ていた。
「これがエルグリオの協力で完成した…グランディオス・タイランティックフォームだ!!さぁ…踊りを続けよう!!」
ギルティアは、違和感を感じる。あれだけの攻撃を受けながら、グランディオスは何故無傷なのか。
先日の戦いでヴェルゼンと戦ったと時は、確かに傷を負っていたはずだ。そして、同時に、今の戦いでも、グランディオスは確かにダメージを受けていた。
ならば、何処からかのエネルギー供給で再生しているのか。いずれにせよ、攻撃を続けて倒すだけだ。エルヴズユンデが、グランディオスと斬り結ぶ。
「これで!!」
エルヴズユンデの左腕から、紅の光の刃が放たれる。
「何の!!」
グランディオスが、左腕の牙で光の刃を止める。
「はあああああああああああああああああああーっ!!」
グランディオスが、全身から熱線と火球、レーザーを放つ。
「くっ!!」
エルヴズユンデが、直撃を避けて距離を取る。
「援護する!」
飛来する攻撃の雨を、アイギスのシールドが吸収する。
「カウンターブラスター…発射!!」
吸収した熱量が、グランディオス目掛けて解き放たれる。
「ぐ…!」
グランディオスが大きく吹き飛ばされる。
「今が好機と判断!!ギルティア!!」
「ええ…これで決めます!!」
エルヴズユンデが剣を構え、グランディオスに突進する。左腕の紅の刃を、構えた剣と重ねる。
「これで最後です!コンヴィクション…クロォォォォォォォォォォォォォズッ!!!!!」
剣が、紅の光を放ち、その一閃が、グランディオスを両断する。
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーっ!!!!」
「…願わくば、汝の罪が祓われん事を…!」
真っ二つにされたグランディオスは、そのまま光に飲み込まれて消滅する…筈だった。
「まだだ…これしきで、私の罪を祓えはしない!!うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーっ!!!!!」
エネルギーの嵐の中、咆哮と共に、グランディオスの傷が繋がる。
「な…!?」
「言った筈だ…私の願いの、私の贖罪の為…ここから先へは一歩も通さん!!」
そう言って、グランディオスが今一度咆哮する。
「あり得ない…一体、何が起こったというのです…!!」
「私のこの姿は、戦う為ではなく、目的を達するまで『生き延びる』為のものだ…戦闘能力はその副産物に過ぎない。
よって、今まで貯蓄してきた根源的エネルギーを使えば、この程度の芸当は出来る!!」
グランディオスが再生する時、一瞬、常軌を逸した量の根源的エネルギーが観測された。どうやら、グランディオスが言っている事は本当らしい。
「…ギルティアよ、やはりここは俺が引き受ける事を進言する」
「しかし…!!」
「迷っている時間は無い…グランディオスの真意はどうあれ、インフィナイトの目的を果たさせる訳には行かないだろう?」
アイギスのその言葉に、ギルティアは一瞬考えると、無言で頷いた。それを確認すると、アイギスがグランディオスに突進する。
「フル・バースト!!」
凄まじい両の弾薬が、グランディオスを飲み込む。
「今だ、ギルティア!!」
「…行きます!!」
「行かせるものか!!」
グランディオスが、爆風を突き破り、強引にエルヴズユンデの進路を遮る。
「く…!!」
「はあああああああーっ!!」
グランディオスが、全身から一斉に熱線と火球、レーザーを放ち、エルヴズユンデを吹き飛ばす。
「言ったはずだぞ、一歩も通さん、とな!!もし通りたいのならば、この私を斬り伏せて行く事だ!!できれば…だがな」
エルヴズユンデが、再びグランディオスと向き合う。
「…分かりました、それがあなたの目的を果たす為に不可避だというのなら、私も…真正面から斬り伏せて通ります…!!」
「それで良い…来い!!」
エルヴズユンデとグランディオスが、再び剣を交える。
「インフィナイト様のプログラム展開率七十パーセント…データ解析率八十五パーセント、プログラム構築開始…!
もう少しなのだ…もう少しで、私の長い贖罪は終わる…!!」
「そこだ!」
アイギスが、グランディオスの頭部の眼に向けて狙撃を敢行する。
「ぐおおうっ!!」
銃弾が直撃し、グランディオスの眼から血が吹き出す。
「今だ!もう一度一撃を決めろ!」
「…え、ええ!」
ギルティアはプログラムの構築という言葉に引っかかるものを感じながらも、距離を取り、再び左腕の紅の刃を右手に携えた剣と重ねる。
「コンヴィクション…クロォォォォォォォォォォォォォズッ!!!!!」
「何の…!」
グランディオスが剣を構えてそれを止めようとするが、エルヴズユンデはその剣ごとグランディオスを両断する。
「ぐ…う…まだ…まだだ!!うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーっ!!!!」
再び、グランディオスが強引に再生する。
「また、ですか…!!」
再生してはいるが、今度は再生が追いつかず、グランディオスは、エルヴズユンデの剣の放ったエネルギーの嵐によってボロボロになっている。
「イ、インフィナイト様のプログラム展開率八十パーセント…データ解析率九十五パーセント…プログラム構築率五十パーセント…。
ここで負けては…今までの尊い犠牲が全て無駄になる…プログラムが完成するまでは…死ぬ訳には行かない!!
…過ちの連鎖を…ここで終わらせる為に!!」
グランディオスが咆える。
「…まだまだ、この程度で私は倒れん!!」
グランディオスが、再び剣を構える。一方、エルヴズユンデの左腕にヒビが入り、血が流れ出す。
「…ぐ、う…!!」
「ギルティア…く、時間がかかりすぎたか…!」
「…だ、大丈夫…です…!」
ギルティアが、グランディオスを睨む。
「…宇宙群の命運よりも優先される程に重い罪、あなたは…一体何を背負っていると…!!」
再び剣と剣が激突する。
「…数多の宇宙群に広がり、数多の命を喰らい、数多の鍵を終わらぬ戦いの旅へと堕としたもの、それは何か…!!」
沢山の鍵が、異形を討伐して世界から世界へと渡り歩く孤独な旅を強いられてきた。
ギルティアの旅はそれとは異なる理由だったとはいえ、少なくとも、グランディオスが言った言葉が、異形を指す言葉である事は理解できる。
「…異形…!!」
「後は自分で考える事だ…もっとも、分かりようもない事だがな…それは私が背負うべき罪、私は懺悔などしない!!
…この罪は、私自らが清算せねばならないのだ!!」
グランディオスが押し勝つ。
「はあああああああああーっ!!」
グランディオスが更に追撃をかけようとする。
「そうは行かん…!」
アイギスが、ライフルを、グランディオスの体中の眼に向けて放つ。
「があああああああああああああああーっ!!!!」
グランディオスの体中から、血が吹き出す。
「…その、程度…!!」
「今です!」
エルヴズユンデが、再び剣を構えなおし、右と左の刃を重ねる。
「確実に効いている以上、このまま押し切ります!!コンヴィクション…クロォォォォォォォォォォォォォズッ!!!!!」
再び、渾身の一撃が、グランディオスを両断する。
「まだ…だ…これしきの事で…!!」
グランディオスが再び強引に再生するが、再生しきれずに腰部に深い傷が残る。
「インフィナイト様の…プログラム展開率八十五パーセント…データ解析…九十八パーセント…プログラム構築率八十パーセント…!
後…少しだ…ここでインフィナイト様の邪魔をさせる訳には…!!
インフィナイト様が展開したプログラムからデータを取らねば、私の目的は達成されない…!!」
グランディオスが膝をつくが、剣を杖にして、再び立ち上がる。
「まだ、通すわけには…いかん…!!」
グランディオスの眼は、しっかりとエルヴズユンデを睨みつけていた。その姿に、ギルティアは思わず涙を流す。
「何故…何故…!」
グランディオスはその罪を自分で背負うと言った。そして、これ以上多くを語る事は無いだろう。しかし、それでも、思わず口から、何故という言葉が出る。
今、ここで、何故グランディオスと戦わなければならないのか、ギルティアには、どうしても分からなかった。
以前のヴェルゼンとオーガティスとの戦いで、グランディオスもエルグリオも、ギルティアに力を貸してくれた。
それは、彼らが、この宇宙群の滅び自体を望んでいた訳ではない事の証拠だ。それでも、尚、グランディオスは立ち上がる。決して退かない。
グランディオスが、何かを成し遂げようとする、鋼よりも強固な信念の元に此処にいる事は分かる。
しかし、それでも、ギルティアは、グランディオスの背負うものを、少しでも理解したかった。グランディオスが、微かに笑う。
「やはり、お前は優しいな。だが…だからこそ、お前はただ、この宇宙群を守る為に一生懸命であれば良い…私の背負うものまで、背負おうとする必要は無い」
グランディオスが、再び剣を構える。
「…だから、遠慮は不要だ…来い!!」
「グランディオス…」
エルヴズユンデが、再び剣を構えて応じる。
「…きっと、私はあなたをも救おうと願っているのでしょうね…あなたはそれを望んでいない…それは分かっています。
しかし、あなたがどう思おうとも、この願いは…願いだけは捨てられません!!
だから、あなたの為に、せめてこの痛みだけは…この涙だけは背負わせて下さい!!」
エルヴズユンデが、グランディオスに突進する。
「フ…お前らしいな。ならば、その想いはありがたく受け取っておこう!!」
グランディオスが、それを受け止める。
「今だ!!」
アイギスが、再びグランディオスの眼に向けてライフルを放つ。
「何度も同じ手は食わん!!」
グランディオスは、エルヴズユンデから一歩離れつつライフルを回避し、そのまま重力波をアイギスに放つ。
「ぐっ!!」
「追撃させてもらう…!!」
収束された衝撃波が、アイギスの機体を幾重にも貫く。
「ぐおおおっ…!!」
「そこです!!プリズナーブラスター…バァァァァァァァストッ!!!」
エルヴズユンデから放たれたブラスターの雨が、グランディオスを襲う。
「…!」
更に、続け様に左腕の爪から拡散レーザーを放ち、距離を詰める。
「はああああああああああーっ!!!」
左腕の一閃、続けて右腕に携えた剣を振り下ろす。
「ぬうっ!!」
グランディオスの胸部に深い傷がつく。
「…まだまだ!!」
グランディオスが、頭部から重力塊をエルヴズユンデに直接叩きつける。
「…ぐ!?」
そして、そのまま、グランディオスは全身から火球、熱線、衝撃波、重力波を放つ。それらが、エルヴズユンデに叩きつけられた重力塊に向けて集まる。
直撃。大爆発がエルヴズユンデを飲み込む。
「これならば、どうだ!!」
「ギルティア…!!」
爆風の中に、エルヴズユンデの眼の紅の輝きが見える。
「…あなたがここで退く訳には行かないのと同じように、私もここで負ける訳には行かないのです!!」
エルヴズユンデは、左腕の爪で光の盾を展開し、耐えていた。
「インフィナイト様のプログラム展開率、九十パーセント。データ解析、完了…プログラム構築率、九十パーセント…。
そろそろ、この舞踏会もフィナーレか…もう少し…もう少しだ!!」
グランディオスが、一際大きな咆哮を上げ、エルヴズユンデに向けて突進する。
「もはや問いません…しかし…これで最後です!!」
エルヴズユンデが、再び剣と左腕の光の刃を重ねる。
「…行きます!!」
エルヴズユンデが、グランディオス目掛けて加速する。
「援護する!」
アイギスが、再び全身から砲撃を放つ。グランディオスは剣でそれらを叩き落しながら、全身から火球、熱線、衝撃波、重力波を放つ。
「プログラム構築率、九十七、九十八…グラウンド・ゼロ…エリミネェェェェェェェェェェト!!!!!」
それが、頭部から放たれた重力塊に収束し、剣の切っ先と重なる。
「コンヴィクション・クロォォォォォォォォォォォォズ!!!!!」
凄まじいエネルギーが、真正面から激突する。閃光が、全てを飲み込む。そして、閃光が、爆発に変わる。
「がああああああああああああああああああああああーっ!!!!!」
グランディオスが、その爆風から吹き飛ばされる。全身から、血が吹き出している。恐らく、傷は核にも届いているだろう。
「プログラム構築率百パーセント…ギルティア…ループリングよ…私の目的は、そしてインフィナイト様との約束は、今、果たされた…!」
そして、グランディオスが言葉を続ける。
「…もしインフィナイト様を止めるというのならば、時間はあまり残されていない…行け」
「え…!?」
エルヴズユンデとアイギスの機体に、グランディオスからデータが送信されてくる。
そのプログラムの内容に、ギルティアは驚愕する。
「これは…まさか…異形に対してのリカバープログラム…!?」
そう、それは異形を人間に戻すためのプログラムだったのだ。
「そうだ…これの完成こそ、私の目的…人間へ戻ることを拒絶する、あるいは戻れない状態の場合、対象を自壊させるプログラムとして作用するようにしてある。
もっとも、高位の異形には、せいぜい再生を止めるくらいの効果しか与えられないがな」
「何故…話してくれなかったのですか…?
あなたの目的がこれならば、戦わずに、双方が傷つかずに済む方法もあった筈です…そんなに…ボロボロになってまで…!!」
ギルティアのその言葉に、グランディオスは笑った。
「…このプログラムが完成したのは、インフィナイト様の協力のおかげだ。ならば、私がインフィナイト様の為に戦う事に、何の疑問がある?
インフィナイト様の目的を成就させるために、ここでお前達の力を削り、足止めすることに、一体何の疑問がある?」
そう、グランディオスは、今の戦いも、インフィナイトとの約束を果たす為に、全てを承知で戦っていたのだ。
「ならば、どうして今私を通すと…?」
「インフィナイト様の目的が成就すれば、この宇宙群そのものが、私が構築したプログラムとは違った意味での、異形に対してのリカバープログラムとして機能するようになる。
そうなれば確かに、私の目的は達成される…だが、犠牲は少しでも少ないほうが良かろう?」
その言葉に、ギルティアは驚愕する。
「な…!?」
「もう、十分に血は流れた…私は、もうこれ以上無駄な血を流したくはない。
元より、私の目的が成就した暁には、この宇宙群に住まう命の為にインフィナイト様と対峙する、
インフィナイト様と私は、お互い、最後には対峙する事を承知で協力してきたのだ。
本来ならば、完成したプログラムと持てる力の全てを以って、私自身がインフィナイト様と対峙するつもりだったが…。
…私の想定を上回るお前の攻撃で、それは不可能になったよ…約束を守るとは、大変なものだな」
「そうまでして…あなたは…何故…!」
その言葉を、グランディオスは遮る。
「…私は、懺悔などしないと言った筈だぞ。これは、私が果たすべき事だった、ただ、それだけだ…それ以上、お前に語るつもりはない」
グランディオスは、言葉を続ける。
「今、インフィナイト様と対峙できる力を持つのはお前だけだ。よって…この後、この宇宙群がどうなるか…それはお前とインフィナイト様次第だ。
…早く行け、ギルティア=ループリングよ。たとえ結果がどうなろうとも、願わくばこの宇宙群の未来に光あらん事を」
ギルティアは、インフィナイトがグランディオスを四将のリーダーにした理由が、分かった気がした。
「…分かりました」
ギルティアが静かに頷き、移動を開始しようとする。
しかし、その次の瞬間、何かがエルヴズユンデの背後に姿を現す。
「ギルティア=ループリング!!貴様をインフィナイト様の所へは行かせない!!」
それは、聞き覚えのある声だった。
「死ぃぃぃぃねぇぇぇぇぇぇ!!この滅亡の魔女めがぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「なっ…まさか…ヴェルゼンッ!?」
その姿は紛れもなく、オーガティスとの戦いの際に、その崩壊に巻き込まれて死んだ筈の、閃伯のヴェルゼンそのものだった。
エルヴズユンデが咄嗟に一撃目を回避するが、大きくバランスを崩す。
「…ッ!」
「ギルティア!」
アイギスが、ライフルを構える。
「遅い!」
ヴェルゼンは、アイギスがライフルを構えるよりも、一瞬速く踏み込んでいる。
「貰ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
ヴェルゼンが、二丁の大鎌を振りかざす。
「…くうっ…回避が間に合わない…!?」
しかし、次の瞬間、何かがエルヴズユンデとヴェルゼンの間に割り込み、鎌はそれに深く食い込む。
「…ぐ…う…」
「グラン…ディオス…?」
ギルティアが、思わず名を呼ぶ。そう、グランディオスが、身を呈してエルヴズユンデの盾になっていたのだ。
「ほう、貴様が盾になりましたか…丁度いいですね…グランディオス…この、裏切り者が!!」
「まさか…あの崩壊に巻き込まれて…生きていたとは…な…」
ヴェルゼンが、大鎌を引き抜き、グランディオスを蹴り飛ばす。
「が…はっ…!!」
大量の血が噴出し、グランディオスが倒れる。恐らくは、核に致命的な傷を受けているだろう。
「グランディオス!!」
「…僕はインフィナイト様の目的を成就させるまで…決して倒れはしません…そのまま、血溜りの中で朽ち果てるが良い!!」
その言葉とほぼ同時に、グランディオスが展開していた閉鎖空間が消滅し、そのまま別の閉鎖空間が展開される。
どうやら、ヴェルゼンが展開したもののようだ。それは、グランディオスの展開したものとは別の研究施設のような風景だった。
「さて、次は貴様らの番です…貴様らをインフィナイト様の所には行かせない…皆、ここで八つ裂きにして、終わらせてやる!!」
と、言葉が終わるか終わらないかのうちに、アイギスが、ヴェルゼンにライフルを叩き込む。
「その程度の弾丸、今の僕には通じない!!」
ヴェルゼンが、大鎌を回転させて銃弾を叩き落す。
「止むを得ません…行きます!!」
エルヴズユンデが、ヴェルゼンに向かって突進する。剣と大鎌が衝突する。しかし、次の瞬間、ヴェルゼンが離れ、再びエルヴズユンデの背後を取る。
「来る事が分かっていれば、その程度…!!」
エルヴズユンデが、前方に急加速、そのまま急反転してヴェルゼンを正面に捉える。
「プリズナーブラスター…バァァァァァァァァストッ!!」
「効かないと言って…ぐっ!?」
大鎌を回転させてブラスターを防ぐが、背後に銃弾を受ける。
「…俺の存在を忘れていたか?」
更に、エルヴズユンデの放ったブラスターの雨が、大鎌を避けてそのままヴェルゼンに襲い掛かる。
「その程度の火力で…笑わせる!!」
ヴェルゼンが、凄まじい衝撃波を展開する。ブラスターの雨が、衝撃波にかき消されて消える。
「ならば、これで!クライング・フェザー…ブレェェェェェェェイクッ!!!」
紅の光の矢が、ヴェルゼンを射抜かんと迫る。
「そうは行くものか!!」
ヴェルゼンが、大鎌を投擲する。
「ふんっ!!」
更に両腕の爪を振ると、凄まじい衝撃波の嵐が、紅の光の矢を相殺する。そして、投擲された二本の大鎌が、エルヴズユンデに襲い掛かる。
「まだまだ!!」
エルヴズユンデが、剣の一振りで大鎌を叩き落すが、それとほぼ同時に、血が流れ始めていたギルティアの左腕に、激痛が走る。
「ぐ…う…このままでは…!!」
アイギスの機体単機では、今のヴェルゼンの常軌を逸した運動性能に対応できない。
どうやっても追撃が来る。このままでは、手遅れになる。ギルティアが冷や汗を流す。
「インフィナイト様、あなたの望む未来を阻むものは、僕が全て排除します。心置きなく…望むままにその未来を示してください…」
ヴェルゼンが、インフィナイトの目的達成を確信し、笑う。
しかし、その次の瞬間だった。ヴェルゼンの背後から、宇宙群全体すらも揺るがすかのような咆哮が響き渡ったのだ…。
―私の目的はたった一つ…『過ちを終わらせる事』…。
沢山の宇宙群を巻き込んでしまった悲しみの鎖を断ち切る事…。
その為に生きて、ここまで戦い続けてきた。
そして今、それが叶おうとしている。
どの道、この傷では私はもう長くはあるまい。
だが、私はまだ動ける…まだ戦える。
ならば、黙してただ静かに死を待つなど、考えられない事だ。
さぁ、我が命、力、全てを賭して、我が最後の目的を達しよう……行こうか!!
続く




