Act.90 イージスの正体
Act.90 イージスの正体
異形をただひたすらに討伐する変わり映えのしない毎日に戻り、ギルティアはようやく普段の調子に戻りつつあった。
「…よし、この調子です」
異形の骸を背に、ギルティアは呟く。誰かと一緒に戦う事に慣れてしまっては、一人に戻る日が辛くなる。
この宇宙群を離れる前に、また自分を独りに慣らさねばならない。
「放出された異形の残量は、もうすぐ四分の一程度…もっと頑張らなくては!」
ギルティアの背後に、エルヴズユンデが姿を現す。
「…さぁ、次の目的地へ急ぎましょう」
そして、エルヴズユンデは境界空間へと飛び立った…。
一方、エルヴズユンデの進路と交差する境界空間座標で、凄まじい爆発音が、境界空間に響いていた。
「四将リーダー、賢聖のグランディオスを捕捉…ようやく見つけたぞ…やはりこの航路上にいたか…排除を開始する!!」
黒色の重機動兵器が、全ての火器を白い異形に向けて放っている。
「アイギスか…!」
「アイギスより紅竜へ、支援砲撃を要請…!」
「こちら紅竜、了解!巻き込まれんじゃねぇぞ!!」
後方から、紅竜が主砲の照準を定める。
「…む…!」
グランディオスが、己目掛けて降り注ぐ砲撃の雨を、右腕で叩き落とす。
「一体、何が目的だ…?」
「…俺の目的は、俺から回収されたデータの抹消だ」
その一言で、グランディオスは、全てを理解する。
「…成る程な。しかし、私とて私の目的を達する為に、まだこのデータを手放す訳には行かない」
「その返答は想定の範囲内だ。故に、貴様ら四将の存在ごと、データを抹消する」
そして、再びアイギスの機体は砲撃体勢に入る。
「無用な戦いは避けたかったが、止むを得ん…良いだろう、賢聖のグランディオス、参る…!!」
グランディオスが、全身から熱線や火球を放ち、アイギスの機体の砲撃を相殺する。
そして、グランディオスが全身から攻撃を放ちながら、アイギスとの距離を詰める。
「ふんっ!!」
グランディオスが、火球を纏った右腕を、アイギスの機体へと叩き込む。
「左腕部ライフルを排除、武装を近接戦闘用ソードブレイカーブレードに換装…!!」
アイギスの機体が、左腕に装備されていた大型ライフルを排除し、腰に差していた、短剣のソードブレイカーと良く似た剣を引き抜く。
「迎撃する…!!」
グランディオスの左腕を、その剣で受け止める。
「…今回は、あの時のように行くと思わない事だ…!!」
「あの時はヴェルゼンとオーガティスの勇み足の収拾に私が赴いた…三対一だ。もちろん、私とてあの時のように上手く行くとは思ってはいないさ…!!」
グランディオスが、至近距離から、熱線と火球をアイギスの機体へと叩き込む。
「ミラー・オブ・アイギス発動…!!」
アイギスの機体に直撃した熱量が、まるで霧のように拡散し、その熱が、アイギスの機体の胸部に集まる。
「…ッ!」
「カウンターブラスター、発射…!!」
胸部から解き放たれた熱量が、グランディオスを吹き飛ばす。
「…流石、と言っておこう…!」
「このまま、仕留めさせて貰う!!」
グランディオスが、吹き飛ばされた一瞬に、紅竜からの支援砲撃の第二波の直撃を受ける。
「ぐ…!」
しかし、グランディオスには目立ったダメージは無い。
「やはりこの程度の攻撃では、グランディオスに決定打を与える事は出来ないと理解。艦長、艦首超収束ビッグバンブラスターの使用は可能か…?」
「使えるが、チャージには相応の時間がかかるぞ?」
「…ならば、チャージを要請する。それ以外で、今の我々の攻撃力でグランディオスに勝利する手段は無い」
その言葉に、ガザードは頷いた。
「分かった。野郎共!久しぶりに派手にぶっ放すぞ!艦首超収束ビッグバンブラスター、スタンバイ!!」
紅竜の艦首に、熱量が集まり始める。それは、どんどん熱く、鋭くなっていく。
「全ブースター出力最大、近接戦闘に移行する…!!」
アイギスの機体が、グランディオスに突進する。
「良いだろう、その勝負、応じよう…!!」
グランディオスが、アイギスの機体に突進する。アイギスの機体が、右腕に高出力光学ブレードを構え、二刀流の構えを取る。
左の一振りを、グランディオスは右腕の角で止める。右の一突きを、左腕の火球を纏った拳で止める。
「ふんっ!!」
そして、グランディオスが、アイギスの機体に頭突きを叩き込む。
「ぐ…っ!?」
バランスを崩した隙を突いて、更に、拳を左右交互に繰り返し叩き込む。
「はああああっ!!」
そして、そのまま胸部を蹴り飛ばし、アイギスの機体を吹き飛ばす。
「何の…!!」
姿勢を崩しながら、アイギスの機体が体中のミサイルを一斉に放つ。ミサイルの直撃が、グランディオスのバランスを崩す。
そして、再びアイギスの機体が一気に距離を詰め、剣を叩き込む。
「…ッ…!!」
迎撃しきれず、グランディオスの胸部に傷がつく。
「そのままで終わるものか…!!」
グランディオスの尾から、収束した重力震が放たれる。
「…ぐ…!」
直撃が、アイギスの機体の右肩の装甲を吹き飛ばす。姿勢を制御し、アイギスの機体が再び距離を詰める。
「損傷率十パーセント…戦闘続行に支障はないと判断…!」
アイギスの機体が、両腕に構えた剣を振るった瞬間、グランディオスはその一振りを回避し、凄まじい衝撃波を放つ。
アイギスの機体が、その衝撃波に飲み込まれる。
「そこだ…!!」
更に追撃に、収束した重力震がアイギスの機体に直撃する。
「…損傷率、四十五パーセント…まだか、紅竜…!!」
直後、ガザードから通信が入る。
「待たせたな、アイギス!チャージ完了!!」
「…!」
アイギスの機体が、体勢を整えざまにミサイルを放つ。
「何の!」
衝撃波が、ミサイルを全て撃墜する。
「…今だ!!」
「おう!艦首超収束ビッグバンブラスター…発射!!」
紅竜の艦首に収束された桁違いの熱量が、解き放たれる。眩い閃光が周囲の空間を歪めながら、グランディオスへと迫る。
「…これは、回避は間に合わんな…正面から迎え撃つのみ…!」
グランディオスが、全身の火器を一斉に放つ。
「グラウンド・ゼロ…エリミネェェェェェェェェェェェトッ!!!」
それらが、グランディオスが頭部から放った重力塊へと収束し、二つの閃光が、真正面から激突する。
そして、境界空間を移動していたエルヴズユンデが、その衝突を感知する。
「このエネルギー反応…一体、何が…!?」
凄まじい閃光が見えている。距離はまだかなり離れているにもかかわらず、ここまではっきりと光が見えると言う事は、それだけ強大なエネルギーだと言う事だ。
「とにかく、急がねば…!!」
エルヴズユンデがその閃光めがけて加速する。
グラウンド・ゼロと、ビッグバンブラスターが激しくせめぎ合う。
「私は…ここで負ける訳には行かない…負ける訳には行かないのだ!!」
グランディオスが、紅竜のビッグバンブラスターを一気に掻き消す。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」
「何ッ…!?真正面から、このビッグバンブラスターを押し戻すんて、ありえねぇ!!」
「悪く思うな、この私に戦いを挑んだのだ、それ相応の代償だ!!」
グラウンド・ゼロの閃光が、紅竜に迫る。
「…く…ミラー・オブ・アイギス最大出力…!!」
アイギスの機体が、全身に鏡の破片のような光を纏い、グラウンド・ゼロの射線上に割り込む。
グラウンド・ゼロの閃光が、バラバラに拡散する。
「アイギス!!」
アイギスの機体は外部アーマーが砕け、内部の機体が見えている。
「く…外部アーマー大破…機体損傷率八十パーセント…」
「まさか…グラウンド・ゼロを止めるとはな…」
グランディオスが驚愕する。
「…俺は負ける訳には行かない。俺という存在を処分してくれる者が現れるまで、俺は死ぬ事を許されない…。
そして、俺の力を悪用しようとする者は、全て抹消する…それが、俺に課せられたプログラムだ…!!」
「良いだろう…ならば、私がお前を処分してやろう。お前の、長き長き旅に、今こそ終止符を!グラウンド…!!」
「…外部アーマー強制排除…!!」
アイギスが、機体の外部アーマーを強制排除する。巨大な盾が特徴の、黒い細身の機体が、その姿を現す。
「まだ、負けん…!」
巨大な盾が、先程防いだグラウンド・ゼロのエネルギーを集束し、黄金の輝きを放っている。
「カウンターブラスター…オーバーブラスト…報いをその身に受けろ…グランディオス!!」
収束したエネルギーが、グランディオスに向けて解き放たれる。
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーっ!!!!」
発射の瞬間に直撃を受け、グランディオスが吹き飛ばされる。
「やはり、お前から回収したデータは所詮カタログ上のもの、お前の真価とは違っていたという事か…」
爆風から、グランディオスが出てくる。かなりの深手を負っている。
「…まだまだ、勝負は、これからだ…!」
グランディオスが、再び一歩を踏み出す。
「…その言葉に同意、まだ、勝負はついていないと判断…!」
アイギスの黒い機体が、一歩を踏み出す。その、次の瞬間だった。
「…レーダーに反応!これは…!!」
アイギスが、機体の接近に気付く、ものすごい速度だ。
「…まさか、ここで鉢合わせとは…!」
グランディオスもアイギスも、その機体の主を知っていた。
そう、エルヴズユンデ、ギルティアが、戦闘していた空域へと突入してきたのだ。
「グランディオス、紅竜…それに…!?」
戦況を確認するギルティアの表情が、驚愕に変わる。
「あれは…あれ…は…!!」
黒い機体、見覚えがある。決して忘れはしない。
「アイ…ギス…!」
ギルティアが、その名を呟く。それはかつてギルティアを封印した戦士の愛機、EWZ-999『アイギス』だったのだ。
「一体…何故…!?」
その時のギルティアの気持ちが、そのまま口を突いて出る。疑問は尽きなかった。
ギルティアの故郷に宇宙群に向かったはずの紅竜が、何故ここにいるのか。
何故、アイギスが紅竜と一緒に行動しているのか。
何故、ここでグランディオスと戦っているのか。
そして、最大の疑問があった。
何故、イージスの機体の装甲の残骸の中心に、アイギスがいるのか。
推測できる答えが一つであるが故に、ギルティアは混乱していた。まさか、と、考えにも上らなかった事だ。しかし、それ以外に思い当たる答えがない。
一方、紅竜の方でも、突然のギルティアの登場にパニックになっていた。
「おい、何で姫様のご到着に今になるまで気付かなかった!!」
ガザードが、索敵班へ叫ぶ。
「先程の凄まじいエネルギーの衝突の影響で、レーダー機能が完全に麻痺しておりました!!」
「やれやれ…姫様がいるなら最初から無茶はしなかったんだがなぁ…」
ガザードは、ため息をついた…。
ギルティアは、未だに混乱していた。
「…久しぶりだな、ギルティア」
アイギスが、言葉を紡ぐ。
「ええ…アイギスも、まさかまた会えるとは、思っても見ませんでした」
「…俺の事を…恨んではいないのか?」
アイギスの言葉に、ギルティアが苦笑する。その問いが、ギルティアの疑問に対する答えに繋がったのだ。
「…まさか、それを気にして、正体を隠して私に接触したのですか?ミラーナイト・イージス」
ギルティアの問いに、アイギスは頷き、静かに言葉を紡ぐ。
「…その問いに、肯定、と返答」
そして続ける。
「…余計な軋轢を避けるため、正体を隠して接触させてもらった。それが更なる誤解を招いたのであれば、この場を借りて謝罪する」
「…いえ、今はその答えだけで十分です」
ギルティアの目からは、涙が流れていた。
そう、役目を終え、本来ならばその機能も停止していてもおかしくない筈の彼が、まだ生きていてくれた事が、嬉しかったのだ。
そして、次にギルティアは、グランディオスに言葉を紡ぐ。
「…事情を説明して頂きましょう、グランディオス」
その言葉に、グランディオスは頷く。
「彼が、私の持つデータを求め、攻撃を仕掛けてきたのだ…私は、ただそれに応戦しただけに過ぎない」
「つまり、仕掛けたのはアイギスの方、と、そういう事ですか?」
その言葉に、グランディオスは頷く。
「それは、どういう事ですか?」
「…現在の俺の目的は、俺から回収されたデータを悪用されぬように抹消する事だ」
「あなたから、回収されたデータ…!?」
その言葉に、アイギスは頷く。
「肯定する。かつて、インフィナイトはこの俺を捕らえ、俺からデータを回収した」
機械と融合した異形について、アイギスの言葉で全て繋がる。まさかある訳が無いと思っていた事が、現実だったのだ。
そう、機械と融合した異形の雛形となっていたのは、他ならぬアイギス自身…ギルティアは、ようやく理解した。
「最初は、どの道今そのデータを相手が所持していても大して被害は無いと推測。
しかし、先日この宇宙群で起こった緊急事態は、隣の宇宙群にたどり着いていた我々ですらも感知する程に危険なものであったと理解。
…よって、これ以上の悪用を許す訳には行かないと判断」
その言葉に、ギルティアは頷き、そのまま言葉を紡ぐ。
「…アイギス、確かにあのデータは悪用されると危険なデータですが、少なくとも、あの事件を引き起こしたのは、グランディオスではありませんよ」
その言葉に、アイギスは尋ねる。
「…事の経緯の説明を要請しても構わないだろうか?」
「ええ、その代わり、そちらも説明して頂きますよ」
「…その申し出を承諾」
アイギスのその答えを確認すると、ギルティアは再びグランディオスに言葉を紡ぐ。
「ここは退きなさい、グランディオス…事情は私から説明します」
「…分かった」
しかし、と、ギルティアは続ける。
「しかし、あなたの目的が分からない以上…これはあくまで、今は見逃す、という事です。
…もしも、あなたが再び宇宙群に仇を成し、私の前に立ち塞がるのならば、今度こそ、私はあなたを討ちます」
「…元より、私も覚悟の上だ。もしその時が在らば、その時こそ、決着をつけるとしよう」
その言葉に、ギルティアは頷いた。
「ならば、行きなさい。願わくば、その戦いが、決して起こらぬ事を」
「…フ…さて、な。さらばだ、ギルティア=ループリングよ」
グランディオスは、そう言うと、凄まじい速度で離脱していった…。
ギルティアが、紅竜に通信する。
「…少しそちらに着艦します」
「了解した、ハッチを開ける」
エルヴズユンデとアイギスが、紅竜に着艦する。アイギスから、その乗り手が降りてくる。
左腕が機械化された黒髪の男、その姿は、かつてギルティアの四肢をダガーで磔にして封印したアイギスと、寸分の変わりは無かった。
「…見ての通りだ、ギルティア」
「…良く、無事で…!」
ギルティアの反応を、アイギスは理解できないようだった。
「理解不能…何故、貴様は泣いているのだ?」
「…あなたが生きていた事が、嬉しいからです。私を封印して、もしあなたがあのまま処分されていたら、悲しすぎます」
その言葉に、アイギスは驚いてしまった。
「…まさか、俺を恨んではいないというのか…?」
「恨む?それがあなたの存在意義であった以上、あなたを恨む事は出来ません。
もし存在意義を果たしたあなたを恨むと言うのならば、あなたの存在そのものを非難する事と等しいのですから」
アイギスが、やれやれ、と言った反応をする。
「貴様の反応は、俺の理解の範疇を逸脱している」
「でしょうね…しかし、私は本当に嬉しいのですよ」
ギルティアの言葉に、アイギスは微かに笑った気がした。
「では、あまり使われていない作戦室を借りて事情を説明させて貰う事を提案」
「…私は構いませんよ」
「了解、では、俺について来い」
アイギスが歩き出す。本当に、作戦室はあまり使われていないようで、その周囲には人気すらない。
「…ガザード、作戦室を借りるぞ!」
アイギスの通信に、ガザードが応答する。
「おう、どの道そこは使い道も無い、安心しな!」
そのやり取りに、ギルティアは苦笑する。
「作戦室…使ってないんですか?」
「…ここの連中が、そんな緻密に作戦を組むような奴らに見えるか?と問う」
「です、か」
アイギスが、作戦室の扉を開ける。本当に、全く使われている形跡は無い。
「…では、早速本題に入る。ギルティア、何に対する返答を希望する?」
「あなたが、何故ここにいるのか、まずはそこからです」
その言葉に、アイギスは頷く。
「あの戦いの後、宇宙群の政治基盤は崩壊し、俺を処分する権限を持った人間は全員死亡した。
結果、俺は廃棄もされずに、宛ても無く彷徨う羽目になった。そして、長い長い時間旅し、この宇宙群に到達した」
ギルティアは、黙って言葉を聞いている。
「しかし、この宇宙群に到達した直後、俺はヴェルゼンとオーガティスと交戦、
追い詰めたものの、その直後突如現れたグランディオスに押し負け、そのまま捕獲されてしまった」
「成る程、それでインフィナイトの側にあなたのデータがある、と言うのですね?」
その言葉に、アイギスは頷く。
「肯定する。機械と融合した異形、及び、それから派生したものは全て俺のデータが元になっている」
「そこまでは理解しました…それからどうなったのです?」
「俺は隙を見て脱出した。しかし、追っ手の集中砲火を浴び、深手を負った。その時に、この紅蓮の旅団の連中に助けられたのだ。
俺自身もまた、俺のデータを、機密を悪用する者は消さねばならない…利害の一致から、協力する事になった」
その言葉に、ギルティアは満足そうに頷いた。
「それで、経緯ははっきり理解できました。ともあれ、無事で本当に良かった…」
「…本当に、貴様は俺の理解を逸脱した奴だ。人間ならば、普通なら恨むようなものだと、俺でも理解できる事だぞ」
その言葉に、ギルティアは苦笑する。
「同じ、存在意義を果たす為だけに生まれた私が、あなたを咎める事は出来ませんから。
それに、私のせいであなたが生み出された…その責任は、私にありますから」
「…そうか」
そして、アイギスは言葉を続ける。
「余計な軋轢を避けるため、イージスを名乗って接近したが、どうやら無用な心配だったらしい、と推測」
「ははは…あれは誰の発案ですか?」
「ガザード艦長だ。貴様が好きそうだと言っていた」
その言葉に、ギルティアは思わず笑ってしまった。
「…見事ですね」
「ああ、俺もここまで上手く接近できるとは思わなかった」
さて、と、アイギスは言葉を続ける。
「では、そちら側で起こった事も説明してもらおうか…別宇宙群からでも観測できる、かなりの異常事態だったと認識」
その言葉に、ギルティアは頷いた。
「あれは、四将のヴェルゼン、オーガティスが共謀して起こした、私への復讐です。
宇宙一つを捕食する事で私に対抗する力を得て、私ごと全てを滅ぼそうとしたようです。
…我々と、グランディオス、エルグリオが協力して、これを撃破しました。
オーガティスは私が完全に撃破、ヴェルゼンはグランディオスとの交戦中に、崩壊するオーガティスの残骸に飲み込まれて行方不明です」
その言葉に、アイギスは頷く。
「成る程…では、グランディオスとエルグリオが、異形に関するデータを集めている理由について説明を求む」
「私も詳しい事は把握していません。しかし、少なくとも彼らは、ヴェルゼン、オーガティスとは違う目的の為に行動しているようです。
また、グランディオス自身が、本来の目的とは違う悪用を止める為、
この宇宙群中にある、インフィナイトやグランディオス自身が集めたデータの断片、そしてバックアップを、全て回収するする為に行動中のようです」
その言葉で、アイギスは、グランディオスと今遭遇できた理由をはっきりと理解する。
「成る程、それで今回はここまであっさりと遭遇できたという訳か…」
「…ええ、どうやらそのようですね」
「どうやら、余計な事をしてしまったらしいな…謝罪する」
その言葉に、ギルティアは笑った。
「いえ、旅人の間ではよくある事です、仕方の無い事ですよ」
「では、俺は起こった事をガザードに報告してくる」
その言葉に、ギルティアが頷く。
「私も行きますよ、ガザード艦長に挨拶しておかねばなりませんからね」
「了解した」
そして、ギルティアとアイギスは艦橋へと歩き出した…。
ギルティア日記
まさか、イージスがアイギスだったとは!!
生きていてくれて、本当に良かった…!!
…しかし、私が、彼を恨んでいる、ですか…。
確かに、きっと普通の人間なら、恨むのでしょうね…。
しかし、彼は私と似ています。私が彼を恨む事など出来ませんよ…。
紅蓮の旅団は、この宇宙群の騒動が完全に落ち着くまではこちらにいるそうです。
わざわざ、こちらの危機に駆けつけようとして頂いていたようで、
本当に感謝してもしきれません。
…アイギスの旅に、幸多からん事を。
さぁ、私も旅を続けましょう…!
続く




