Act.89 近づく別れと
Act.89 近づく別れと
遺跡最深部でギルティア達が真相を知った次の日、皆は大広間に集まっていた。
「そろそろ散った異形討伐を再開しましょう…まだ、飛び散った異形はかなり残っています。
被害が出る程では無い場所も、今の内に討伐するに越した事はありませんからね…皆、頑張りましょう!」
「また、お姉ちゃんは一人で行くの?」
イセリナの問いに、ギルティアは頷く。
「今回の戦いのように私が苦戦するレベルの相手であれば、皆さんもその存在に気付くでしょう。
それに、今の私ならば、一人の方が異形討伐の効率はいいです」
「そうか、お嬢ちゃんが一人旅するのならば…せっかくだ、今度はわしも一人で旅してみるか」
そう言ってシリウスが笑う。
「シリウスは、それも良いかもしれませんね…この事件が完全に解決しても、シリウスは旅を続けるのでしょう?
ならば、一人旅に慣れておいた方が良いです」
ギルティアの言葉に、シリウスは頷いた。
「うむ…お主らはどうするのだ?レディオス、藤木よ」
「そうだなぁ…シリウスが一人で行くなら、俺達はイセリナちゃん達と一緒に行くさ…それで良いな?レディオス」
「俺は一人でも構わんが…まぁ良い、藤木…今回はお前の決定に従おう」
レディオスの言葉に、藤木が満足そうに頷き、イセリナのほうを向く。
「という訳で、もう暫くお世話になるぜ」
「うん、旅は人数が多いほうが楽しいしね!」
「楽しい…ですか…」
ギルティアは、寂しげに笑う。確かに、楽しい旅路だった。仲間がいる事は、きっと幸せな事なのだろう。
しかし、ギルティアは、鍵であり、使命の為に生を受けた生まれもっての亡霊でもある。いつまでも、皆と共に行動する事は出来ない。
ギルティアは、ファラオ店長とアルフレッドに、言葉を紡ぐ。
「…お二方はイセリナに同行するのですね?」
「ああ、今後の事は、取り敢えずこの事件が解決してからだ」
「そういう事です…当面は旅を続けますよ」
その言葉に、ギルティアは頷く。
「ルークの傷が回復するまで、ルークを頼みますよ…それと、ファラオ店長、少し屋台を借して頂けますか?」
「ん?」
「以前の約束通り、私の作ったラーメンを披露させて頂きます」
その言葉に、ファラオ店長が思わずニヤリと笑う。
「おお…そいつぁ、嬉しいな…遠慮せず使いな」
その言葉に、ギルティアが頷き、大広間の隅に置いてある屋台の方へ向かう。そして、自分の旅道具を取り出し、調理に取り掛かる。
「…行きます!」
その手並みは、ファラオ店長に勝るとも劣らないものだった。
「待って待って!私にも一杯お願いするよ!」
イセリナの言葉に、ギルティアは笑顔で頷く。
「分かっていますよ、以前、イセリナとも約束しましたからね」
「…どれ、わしにも頼む」
皆が、一斉に屋台に集まる。
「元々皆の分を作る予定でした、任せてください!」
ギルティアが、一杯一杯次々に完成させていく。それぞれ、微妙に具や盛り付けが違う。
「…これは?」
「それぞれ、皆さんの好みそうなものを見繕って作ってみました」
ギルティアは、そう言って笑った。
「ほう…」
ファラオ店長が、食べ始める。他の皆も、それに続いて食べ始める。
「…ほう…これは確かに、これは低く見積もっても一級以上だな…!
流石…あちこちの世界や宇宙を巡って食べ歩いてきただけの事はある」
ファラオ店長が、驚きをあらわにする。
「お姉ちゃん…これ本当にお姉ちゃんが作ったんだよね!
凄い…カーメンの作るラーメンに引けを取らないラーメンは久しぶりだよ!!」
「ふふ…ありがとうございます」
「本当に…この味は、カーメンに引けを取りませんよ」
皆がファラオ店長を引き合いに出すので、ギルティアが苦笑する。
「流石に、本業のファラオ店長の味には負けますよ」
「…嬢ちゃん、それは違うぜ」
ファラオ店長が、言葉を続ける。
「確かに俺もラーメンの味に関しては研究し尽くしているが、嬢ちゃんのラーメンには、俺のラーメンには無い繊細さがある…恐らく、こいつは俺には作れん」
「そうだね、ファラオ店長のラーメンは食べた相手をニヤリとさせるラーメンだけど、
お姉ちゃんのこのラーメン…食べた相手が笑顔になるって気がする…優しさ、かな」
イセリナの言葉に、ファラオ店長が頷く。
「…ああ、その言葉が適切かもしれないな」
二人の言葉に、ギルティアが少し照れくさそうにする。
「…そ、そこまで褒められると…ちょっと…反応に困ります」
「俺は味に関しては過大評価も過小評価もしないぜ?それだけのレベルだって事だ」
ファラオ店長の言葉に、ギルティアは苦笑する。
「…そ、そうですか…?」
ギルティアの言葉に、皆が頷く。
「は、ははは…」
そして、時間は過ぎる。
「…さて、そろそろ出発しますか」
「うん、そうだね…皆、出発準備よろしく頼むよ…私は、少しお姉ちゃんに用があるから」
その言葉に、ズィルヴァンシュピス乗船メンバー達が頷く。
「…どうしたのですか?」
「うーん、ここじゃ流石に話し辛いなぁ…」
その言葉にギルティアが頷き、イセリナの手を取って跳躍する。
二人が、宮殿の屋根に降りる。
「…ここなら、邪魔は入りませんよ」
「ありがとね、お姉ちゃん」
そして、イセリナは言葉を続ける。
「…お姉ちゃん、いきなり約束を消化して、どうしたの?まさか、また一人で何処かへ行っちゃうつもりなの…?」
「何故、そんな事を聞くのです?」
「お姉ちゃんが仲間の為に何かしようとするのは、いつも、別れを覚悟してる時だよ。
前に、スイーツ巡りした時だって、あの後、もし鍵の人が協力してくれてたら、きっと、お別れになってたんでしょ?」
その言葉に、ギルティアは苦笑した。
「イセリナ…流石に、あなたは誤魔化せませんでしたか…この異形討伐が終わったら、私はまた別の宇宙群に旅立つつもりです。
そうなれば、いつまた会えるか分かりません…もう、会えないかも知れないのです」
「やっぱり…黙って行く気だったんだね…」
「ええ…本当に終わった事を確認してから、ですがね。
皆と一緒にいると…私はその温もりの中にずっといたいと願ってしまう。そう在れるなら…きっと私は救われるのでしょうね。
しかし、それは私には不要なもの…私には幸せも救いも…希望も不要です。
だから…別れが辛くならないように、黙って行くつもりでした…『今度』がまだある内に、約束を果たしておきたかったのです」
ギルティアは、寂しげに笑った。
「お姉ちゃんらしいや。けど、分かってる…今度は止めないよ。止めたらお姉ちゃんがもっと辛くなる…頑張って」
その言葉に、ギルティアは頷く。
「ええ…私とて、この力を手に入れた以上、簡単に死ぬつもりはありません…必要な力を手に入れた以上、私はまだまだ戦えます。
しかし…もしこのまま終息へと向かえば、きっと、これでまたお別れです」
「お姉ちゃん…」
イセリナがギルティアに抱きつく。ギルティアが、それを自然と抱きとめる。
「…願わくば、お互いの未来に、幸多からん事を。そして、この宇宙群で起こった事件が、このまま終息へと向かわん事を」
イセリナの頭を、何度も撫でる。
「お姉ちゃん…嫌だなんて言えないよ…けど…けど、必ず…必ず生きて、また会おうね…」
「…保証など出来ません。あなたはもう私に縛られる必要はありません…どうか、幸せになって…。
あなたは、不死であれど、人間です。私のように、何かの存在意義の為に生まれた存在ではありません…あなたは、自由なのですから」
ギルティアは、そう言って微笑んだ…。
そして、ズィルヴァンシュピスは飛び立つ。
エルヴズユンデの胸部に立つギルティアと、アークトゥルースの肩にたったシリウスが、それに手を振って見送っていた。
「…嬢ちゃんは、行くつもりなんだな?」
ズィルヴァンシュピスの艦橋で、ファラオ店長が尋ねる。
「何だ、カーメンも気付いてたんだね…」
「嬢ちゃんがいきなり何かやる時は、何かを覚悟している時さ…だから、大体は分かる」
「ですな…」
その言葉に、イセリナが苦笑する。
「…何だ、皆分かってたんだ」
「分かっていても、そして、止めても彼女は止められませんからな」
「まあ、そういう事さ…」
その言葉に、イセリナは頷いた。
「悔しいけど…私達にはこうする事しか出来ないよ…皆、行こう」
その言葉に、皆が一斉に頷いた…。
「再会…か…確かに、もし私に、私自身の為に何かを願う事が許されるのならば…私も…」
境界空間に姿を消すズィルヴァンシュピスを眺めながら、ギルティアは、誰にも聞こえないように呟いた…。
ズィルヴァンシュピスが完全に離脱したのを確認すると、シリウスが機体に乗り込む。
「…さて、わしもそろそろ行くか…」
「シリウスも、くれぐれも気をつけてくださいね。いくら旅人の力は強大とはいえ、一人旅は危険です…。
非常に強い力を持っていても、意外な程にあっさりと命を落とす事も少なくありません」
その言葉に、シリウスは頷く。
「承知した、肝に銘じておこう…お嬢ちゃんも、くれぐれも死ぬなよ」
アークトゥルースが飛び立つ。
「では、さらばだ!願わくば、いつの日か再び巡り会わん事を!!」
シリウスの言葉に、ギルティアは笑いながら手を振る。
「…分かっておるよ、お嬢ちゃん…達者でな」
境界空間へと進入する瞬間、シリウスは静かにそう呟いた…。
アークトゥルースの姿が見えなくなってから、ギルティアが静かに苦笑する。
「…あの口ぶり…気付いていたのですか…」
どうやら、バレていたらしい。侮れないなと思いつつ、ギルティアもエルヴズユンデに乗り込む。
「エーリッヒ、後は頼みましたよ!」
「は!お帰りをお待ちしております!!」
エーリッヒが、後ろの部下と共に敬礼する。
「では、ごきげんよう!」
そして、エルヴズユンデもまた、境界空間へと飛び立っていった…。
続く




