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地平の旅人  作者: 白翼冥竜
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Act.88 人類の希望、神の絶望


   Act.88 人類の希望、神の絶望


 ズィルヴァンシュピスが、惑星を牽引しつつ、近場の宇宙へと航行を続ける。

 もちろん、いくらズィルヴァンシュピスと言えど、そこまでの重量の物体を大量に牽引したままでそこまでの速度を出す事は出来ない。

「ふぅ…」

 ジオカイザーのコクピットで、イセリナが一息つく。

「まさか、これだけの惑星を牽引する事になるなんてね…」

「…まぁ、アレだけの質量のもの、俺達の世界じゃ見たこと無いな」

 藤木の言葉に、イセリナが苦笑する。

「…あなた達の世界で言えば、世界自体を丸ごと牽引しているようなものだよ。

 それをこれだけの数牽引するんだから、流石に重いよ…」

 藤木が、腰を抜かす。

「そ、そういう事かよ…全く、『旅人』のする事には、いつも驚かされるな…」

「…技術力の桁が違うな…やはり、外の世界は面白い」

 レディオスが、そう言って静かに笑う。

「皆、無事で何よりです!!」

 エルヴズユンデとアークトゥルースが、遥か後方から合流する。

「イセリナ、これらの惑星を何処に配置するかを決めねばなりません。取り敢えず、艦の中に戻りましょう」

「うん、分かった!皆、艦内に戻るよ!」

「あいよ!」

「了解した」

 イセリナはいつの間にか、レディオスと藤木を指揮していた。この辺りが、イセリナがかつて旅団のリーダーだった所以なのだろう。


 格納庫で、ギルティアがエルヴズユンデから降りる。

「…っ…」

 ギルティアが、よろめく。

 成る程、と、ギルティアは理解する。グランディオスの忠告を聞かなかったら、たぶんここで倒れていただろう。

「…お姉ちゃん、大丈夫?」

 ジオカイザーから降りてきた、イセリナが心配そうに尋ねる。

「…私なら、大丈夫です」

 そして、誰にも聞こえないように言葉を紡ぐ。

「借りができたようですね、グランディオス…」

 そして、ギルティアは歩き出した…。


 戦っていた全員が艦橋にたどり着く。

「…この近くの宇宙の恒星系で、重力場が安定していて、周囲にも危険が無い場所を検索してください」

「そう言うと思って、既に検索は完了しております」

 アルフレッドはそう言うと、検索結果をモニターに表示する。

 ギルティアが、それらを確認し、次々と惑星の配置を決定していく。

「…これで次の航路は決定です。行きましょう、皆!!」

 ズィルヴァンシュピスが、再び航行を再開する。

「…ここはもう大丈夫だから、お姉ちゃんは少し休んで…また無理したでしょ?」

 その言葉に、ギルティアは苦笑する。

「…分かりました。ではお言葉に甘えて、休ませていただきます」

 ギルティアは、自分の船室の方へと歩き出した…。


 一方、その頃、エーリッヒ率いる騎士団は、帝都の地下に広がる巨大な遺跡の調査を続けていた。

「…しかし、ここまで巨大な遺跡とは…」

 機動兵器のコクピットでエーリッヒが呟く。事実、地下は何処までも続いているように思えた。少なくとも、帝都よりも遥かに巨大だ。

 まるで世界の地下全体が遺跡になっているかのような雰囲気すらある。

 それに、下層に行くと、防衛用の大型自律兵器が未だに稼動し、闊歩している。

 それ故に、騎士団の方も機動兵器部隊を率いて調査をしているが、はかどらなかった。

「強行突破し、まずは最下層にたどり着く!諸君、私に続けっ!!」

 エーリッヒは、最下層への強行突破を試みた。進路と思しき通路を、その進路上の自律兵器を蹴散らしながら進む。

「遅れるな!損傷を負った機体はすぐに後退せよ!!」

 エーリッヒの言葉に、部下は一斉に答え、更に進撃を早める。そして、最下層の入り口と思しき扉を見つける。

「…ロックを解除、皆、気をつけていくぞ!!」

 電子音と金属音を立てながら、扉がゆっくりと開いていく。

「これ…は…!?」

 エーリッヒは、その先に広がっていた光景に、自らの目を疑った…。


 惑星を一つ配置する度に、牽引の速度は上がり、同時に、次の配置までのペースは上がっていった。

 そして、全ての惑星の配置を完了し、ズィルヴァンシュピスはロートベルグへと帰還する。

 艦を降りるギルティアの元へ、機動兵器に乗ったエーリッヒが突っ込んでくる。

「エーリッヒ!?一体、そんなに慌ててどうしたのですか?」

「はっ!先日ギルティア様が調査を依頼された事に関して、ですが…大帝国の中枢コンピュータを発見致しました!!」

「…それは、機動兵器に乗っている事と関連があるのですか?」

 ギルティアが尋ねる。

「遺跡深部には自律兵器が未だに稼動中、我ら騎士団ですらも最深部への道を開くので手一杯でした」

「分かりました、つまり、機動兵器で進入しなければ、危険という事ですね?」

「はい、中には騎士団が総力を挙げて突破しなければならないほどに強力な防衛兵器もおりました」

 成る程、相当大変だったらしい。

「…本当に大儀でした」

「その言葉、光栄の至りです…ギルティア様のお望みの時にお申し付けくだされば、その最深部へとご案内いたします」

 ギルティアは頷き、言葉を紡ぐ。

「ええ、ならば、なるべく早い方が良いです…イセリナ、シリウス、藤木、レディオス…一緒に来ますか?」

「うん、どうやら強行突破が必要みたいだしね」

「わしとしても、何があるのか、興味がある」

 イセリナとシリウスが頷く。

「俺も行くぜ…ここまでの戦いの発端を知りたい」

「…俺は、言うまでも無いだろう」

 藤木とレディオスも首を縦に振る。

「だ、そうです…エーリッヒ、今すぐで大丈夫ですか?」

「は!何ら問題ありません!」

「では、皆、準備を…」

 そして、全員が再び機動兵器に乗り込む。

「おいおい、待て待て、俺達も連れてけ」

 ジオカイザーの足元から声がする。艦橋から降りてきたファラオ店長とアルフレッドだった。

「本当は二人には留守番をお願いしたかったんだけど…分かった。けど、内部はかなり危険みたいだから、どうする?」

 イセリナの言葉に、アルフレッドが頷く。

「確かに、生身で行くのは危険ですね…エーリッヒさん、使える機体はありませんか?」

 アルフレッドが尋ねる。

「量産機でよろしいのであれば、すぐに手配できます」

「…了解しました、では、お願い致します」

 アルフレッドは、深く頭を下げた…。


 そして、エーリッヒの案内で、ギルティア達は、帝都地下の遺跡へと足を踏み入れた。

 そこには、沢山の境界空間航行機動兵器の残骸が眠っていた。

「これは凄い…」

 エルヴズユンデの胸部で、ギルティアが呟く。成る程、ここにあるものを戦力として利用し、デストヴァールは侵略を行おうとしていたのか。

「ここにはまだ防衛用の自律兵器はありませんでした。

 戦力を欲していたデストヴァールは、この場所のものを戦力としてかき集め、深部へは自分以外誰も入れなかったのです」

「その理由は?」

「不明ですが、最下層に置かれていたものは、確かに、普通ではありませんでした…最下層に到着すれば、はっきりしますよ」

 エーリッヒの言葉に、ギルティアは頷いた。その直後、だった。

「うおおおおおお!!これは!!」

 後方の部屋から、シリウスの嬉しそうな声がする。

「こりゃ…逸品ぞろいじゃねえか!!」

 藤木の驚愕の声が響く。

「…良い剣だ、これは土産に貰っていこうか」

 まるで舌なめずりをするような、レディオスの言葉が聞こえる。

 どうやら、横道にあった武器庫を目に留めたシリウス達が大はしゃぎしているようだ。

「…エーリッヒ、少し横道に逸れますよ」

「了解です」

 全員で、その武器庫に向かう。

「シリウス…随分とはしゃいでますね…」

「…おお、お嬢ちゃんか!ここの武器は凄いぞ!デモンズ・スローターやフェイト・スレイヤー程ではないが、かなりの逸品が揃っておる!!」

「ここにある武装は、我々が扱いあぐねたものです。もしご入用のものがあれば、遠慮せずお持ち下さい」

 エーリッヒの言葉に、三人が大喜びする。

「おお!そうか!」

「これがあれば、俺とレディオスの機体の武装威力の底上げが出来る!遠慮せず貰ってくぜ!」

 ジェネラルが、そこにあった剣の一本を手に取る。

「…フ、これは持って帰って社員の皆に見せてやらねばな」

 フレアドイリーガルもまた、剣を手に取る。

「…このライフルも良いな、貰っておく」

 更に、ライフルを手に取る。

「アークトゥルースは武装面ではもう完成しておるからな、後で社員達への土産になりそうな武器でも貰うとしよう」

 それらの様子を、ギルティアは微笑ましく見守る。

「…どれどれ…」

 ギルティアも、そこにある武器を物色し始める。

「…これは…」

 ギルティアは、ニヤリと笑う。

「…これ、貰っても構いませんか?」

 ギルティアが指差したのは、巨大な杭打ち機だった。

「お、お姉ちゃんらしいや…」

 イセリナが苦笑する。

「とは言ったものの…今のエルヴズユンデにこれを装備する余地はありませんし…。

 駄目ですね…今のは、保留でお願いします…ははは…はぁ…」

 ギルティアは、寂しげに笑った。

「…さて、皆の装備選びも終わった所で、一気に行きましょう。武装は後でじっくりと品定めできますからね」

「うむ!」

 そして、全員で遺跡の奥へと移動を開始する。


 暫く進むと、未だ稼動している事が確認できる区画に入った。壁を光が右往左往している。

「…ここからは自律兵器が行く手を阻みます、各自、戦闘の準備を!」

「了解です、では、私が前に出ます」

 エルヴズユンデが、前に立って先に進む。少し進むと、すぐにレーザーによる攻撃が来る。

「…この程度!」

 エルヴズユンデは、それを真正面から受け止めながら進む。

「プリズナーブラスター…バァァァァァァァストッ!!!!」

 ブラスターの雨が、進路内の敵を一気に掃討する。

「行きましょう!!」

 一行は、区画内をどんどん進む。

「この距離…世界の規模とは合いませんね…」

 既に、かなりの距離を降りてきた。しかし、先はまだまだあるようだ。

 ギルティアは、少しアクセスして空間情報を調べる。

「やはり、ここの空間は圧縮されているようですね」

「む?それはどういう事だ?」

 シリウスが尋ねる。

「本来はこの世界に、この大きさの地下を包含する程の容量はありません。

 旧『大帝国』は、空間を歪め、この巨大な地下を『作り出した』のです」

 その言葉に、シリウスは頷く。

「何となくは分かった。つまり、袋の中に無理やり大量のパンを詰め込んで入れたようなものか」

「え…ええ?」

 少し考えて、ギルティアが苦笑する。

「ええ…まぁ、かなり端的に言えば、その例えで間違っては…いません…か?」

 ギルティアの言葉に、イセリナも苦笑しながら頷く。

「まぁ…確かに大体そんな感じだね」

 そして、エルヴズユンデを先頭に、更に先に進む。

 防衛用の自律兵器は、エルヴズユンデ相手には全く役に立たず、あっという間に、最下層に通じる扉まで辿り着く。

「…この先です」

 エーリッヒが、扉を開ける。


 その先にあったのは、巨大な空洞だった。

「これは…一体…!?」

 少なくとも、惑星が一つ二つすっぽり入るほどの大きさだ。

 そして、その空洞の中に、非常に巨大な何かの残骸が置かれている。どうやら、戦艦か何からしい。

「…どうぞこちらへ」

 エーリッヒが、その空洞の周囲にある一室に、ギルティアたちを案内する。

 機動兵器では入れず、皆、機体から降りてその部屋に入る。そこには、巨大なコンピュータが安置されていた。

「ここが、ガルデンベルグ大帝国の中枢メインコンピュータです」

「…エーリッヒ、感謝しますよ」

 ギルティアが、その端末を操作し始める。最初に出てきたのは、次元竜ルークに関しての情報だ。

「…今回求めているのは、これよりも前の情報です…!」

 ギルティアは、更に情報の調査を進める。その先のデータには、厳重にプロテクトがかけられていた。

 ギルティアは、自力でそのプロテクトを突破しながら、更に情報を収集する。

 話題が、ルークから、インフィナイト…曙光竜ライズに移り始めた。


 数分後、ギルティアが、端末に表示されている文字の羅列を一通り読み終わる。ギルティアの目から、涙が落ちる。

「…皆、聞いてください。何故曙光竜ライズが、無限夜…インフィナイトになったのか、その原因と思しき情報が見つかりました」

 ギルティアが、端末を操作し、大きなモニターに今ギルティアが見た情報を転送する。

「…ルークの事も、そして、何故インフィナイトが最近までは行動を起こしていなかったのかも、

おおよその全てが把握できました。『大帝国』ガルデンベルグは、『宇宙群を支配する神の手から人類を解放し、真の自由を勝ち取る』という名目で、

インフィナイト、いえ、ライズに対して攻撃を仕掛けたのです」

「…あの要塞に、か?」

 シリウスの問いに、ギルティアは首を横に振る。

「いえ、攻撃を仕掛けた場所は要塞のあった座標とは別の小さな世界です。

 ここのデータベースに要塞に関しての記述が無かった事と、インフィナイト自身から聞いた事を照らし合わせて考えると、

ガルデンベルグが勢力を拡大した頃には、既に彼は要塞を捨てて、その小さな世界でその世界の住人達とともに、

宇宙群の行く末を静かに見守っていた、と考えるのが妥当でしょう。

 インフィナイトには、人を力で支配する気も、敵対する気もなかったという事です…つまりは、これはガルデンベルグ側の一方的な攻撃だったのです。

 しかし、もちろんインフィナイトの…ライズの力は私達も知っての通りです。彼はその世界を守り、大帝国の巨大な軍勢をたった一人で何度も撃退しました」

 皆は、端末に表示された情報を見ながら、ギルティアの言葉を黙って聞き続ける。

「そして…劣勢に業を煮やしたガルデンベルグは、とうとう最終兵器を持ち出しました。

 その名は超巨大要塞戦艦『ジャガーノート』…それが、先程の残骸の正体です」

 そう、先程の空洞は、その戦艦のドッグだったのだ。

「その艦首兵器は究極生命にすらも一撃で致命傷を与えられる程の威力を持っていました。

 しかし、惑星レベルのサイズを持つその戦艦、攻撃前に破壊されては何の意味もありません」

 画面が、戦闘の映像に切り替わる。

「ガルデンベルグは、インフィナイト自身を狙うのをやめ、代わりにインフィナイトが共に住んでいた世界の住人達を人質に取る事で、

ジャガーノートの艦首砲発射までの時間を稼ごうとしたのです。

 しかし、住民達は最後までインフィナイトを裏切る事なく、その結果、全滅しました。

 …インフィナイトは、立ち塞がった全てを圧倒的な力で滅ぼしながら、

ジャガーノートを追い詰めましたが、一撃の差で、艦首砲を至近距離から浴び、そのまま消滅しました。

 いえ…消滅した筈だった、と言った方が良いのでしょうね」

「…しかし、死んではいなかった、と」

 シリウスの言葉に、ギルティアは頷く。

「ええ…しかし、艦首砲を至近距離から浴びたという事は、ただで済む訳もありません…恐らくは、非常に長い休眠を続けていたのでしょう。

 今もルークが休眠を続けているのと同じで、究極生命は休眠によって深い傷を治癒します。

 もしそこまでの深手を負ったのならば、非常に長い休眠に入るのも無理はありません」

「けど、それなら、インフィナイトの目的は…」

 イセリナの言葉に、ギルティアは頷く。

「作り直しというその目的は…人類という『失敗作』に対する清算であったと考えられます」

「わしらが、失敗作…か…」

 シリウスが呟く。

「…認めたくは無いが、実際、彼奴にとっては紛れも無く失敗作だったのであろうな。

 確かに、ルークの過去にしろ、インフィナイトの過去にしろ、全ての原因は、人類か…」

「…オーガティスもヴェルゼンもそうです。何処の宇宙群でも、変わらない、という事ですね…」

 ギルティアは、寂しげに笑った。自分で言葉を紡ぎ、そうか、と、ギルティアは思う。

 オーガティスは、インフィナイトに強い共感を覚えたから、インフィナイトに従っていたのだ。

「…インフィナイトを滅ぼそうとした人々の末裔は辛うじて生き残り、インフィナイトと共に生きようとした人々は残さず死んだ…何とも、やりきれない話です」

「何ら変わらぬ人類の営みの『影』の部分…人と人との戦場では決して少なくない事です。

 しかし、それを生み出した者から見れば、きっと、こんな事の為に人類を生み出した訳ではないと感じるのも、無理からぬ事でしょうな」

 その言葉に、ギルティアは頷く。

「…ええ、そして、その事実を、ガルデンベルグは汚点として闇の彼方に封じ、

真実には厳重にプロテクトを掛け、それを知る者も全て消した…忘れたかったのでしょう。

 もっとも、結局人類はすぐに同じ過ちを繰り返し、ガルデンベルグは滅びたのですが、ね」

「ルークの事、か…」

 ギルティアが端末を操作し、更に情報を先に進める。

「…ええ、インフィナイトとの戦いでその戦力の大半を失ったガルデンベルグは、戦力の切り札として、ルークを『兵器』として利用する事を思いつき、

ルークの制御の為の機器や、用済みになった後の処理の為に、ジャガーノートの艦首砲のダウンサイジング版でもある宮殿砲を急ぎ、開発しました。

 ガルデンベルグは、この宇宙群の全てを、人類の統制化に置こうとしたのです。

 戦力が失われれば、統制が乱れる…だから、その少ない戦力で、ルークを目覚めさせた…」

 そして、と、ギルティアは続ける。

「その結果は、皆さんの知っての通りです」

「…救いようが無いな」

 レディオスが、ボソッと言う。

「過去は過去、現在は現在、というのは簡単だが、同じ『人類』であるという事実はどうやっても変えられぬ…」

「今の宇宙群全体の技術力は、究極生命と相対する事が出来る程高くは無い。

 だから、まだそのような事態が再発してはいないが、この先の未来、もう二度と起こらないと保証してやる事は、『現在』生きている俺達には出来ないからな…」

 シリウスとファラオ店長が、溜め息をつく。

「…しかし、一つだけ言える事は、それは未来に起こり得る可能性であり、

少なくとも、今私と共にいる皆は、宇宙群を守るという私の使命を誇りに思わせてくれた、という事です…私は、守った事を後悔してはいませんよ」

 ギルティアは、そう言って微笑んだ。

「…だから、ここから先の未来、もしインフィナイトが生きていたとしてもこの宇宙群を滅ぼしたいと思わなくても良い、そんな宇宙群にしてほしいと思います」

「所詮老い先短い身…わしがそれを保証してやる事は出来んな…」

 シリウスは、そう言って苦笑した。そして、ファラオ店長がそれに頷く。

「…思えば、ここに集まった面子は殆どが年寄りばかりだな」

「ふ、不安になるような事を言わないで下さいよ…」

 ギルティアが、二人の意見に苦笑する。しかし、と、ギルティアは続ける。

「…きっと、大丈夫ですよ。だって、皆、私を受け入れてくれましたから。本当に大丈夫かは分かりませんが…私は信じます。

 それに、私にできるのは、未来がどうなるにしろ、人類の命をその未来に繋ぐために、戦う事だけですから…私は、私の使命を果たすだけです。

 その果てに、私が人類に滅ぼされるのなら…それもまた、仕方のない事です…たとえそうなったとしても、私は、きっと後悔しませんから」

 事実、彼女自身が一度そうなっている…皆は、その事実を知っていた。それでも、ギルティアは、信じると言ったのだ。

「お姉ちゃん…」

「…イセリナ、過去の私の故郷にも、あなたのような人もいたんですから…そう、暗いだけのものでは無い筈です」

 ギルティアは、そう言って微笑んだ。

「しかし、ジャガーノートの砲撃の直撃を受けてもインフィナイトは辛うじて生きていた…」

 ギルティアが、少し考える。

「…いえ、確かに、あの時私は彼を倒した筈…」

「お嬢ちゃん、どうした?」

「…ジャガーノートの砲撃の直撃を受けて無事だった頑丈さは、アクセス能力の付加と異形の力による強化によって、更に強化されていたはず…。

 …ならば果たして、私の先日の攻撃で、本当に倒せたのでしょうか…?」

 ギルティアが、嫌な予感を感じる。

「…そして、もしあれで倒せなかったと言うのならば、私には勝利する為の具体的手段がありません」

「…あれで倒されている事を願う他無いな」

 ファラオ店長の言葉に、ギルティアは頷いた…。

「…さて、せっかく最下層に来たのです、ここも少し見ていきますか?」

 ギルティアは、そう言って笑った。

「賛成だよ!」

「うむ、わしらも断る理由は無い。人の身で神を討とうとしたその技術、わしも少し見てみたくなった。

 恐らくは、以前わしがインフィナイトと対峙した時に、

『とうとう、この領域に帰ってきたか』と言った『この領域』とは、ここにある技術のレベルの事なのだろうからな…」

 その他の皆も賛同し、それぞれがバラバラに見て回る事にした。


 ギルティアは、ジャガーノートの残骸の艦橋へと足を踏み入れていた。巨大な艦橋のまるで玉座のような艦長席には、艦長の名前の刻印がされている。

ガルデンベルグ大帝国、皇帝…レイヴァール=ガイオ…!!」

 ギルティアが、驚愕する。

「…ガイオ…ライン…!?」

 レイヴァールの名前は先程の記述にも何度も出てきたが、その下の名前に、ギルティアは聞き覚えがあった。

「デストヴァール…まさか…!!」

 そうだ、デストヴァールのフルネームは、デストヴァール=ガイオラインだった。

 ルークの大暴れの時に、どこかに落ち延びた皇帝の血族がいたならば、ルークの事やここの事を知っているのも無理はない。

 同時に、防衛用自律兵器がいるにも拘らず彼一人でこの最下層までたどり着けたのは、彼が、ここの本来の主の血族だったからなのだろう。

 …これで、全ての情報が繋がった。

「やれやれ…本当に、この大帝国と言うのは、この宇宙群を危機に陥れた真の元凶ですね…」

 ギルティアは、艦橋から外に出る。

「ねーねー!あの金ピカで無茶苦茶かっこいい機動兵器って、何?」

 メインコンピュータ近辺の部屋から、イセリナの声が聞こえる。

「未完成でして、機体名称は存在しません。記録によると、かつてのガルデンベルグで、皇帝専用機として開発されていた機体なのだそうです。

 その完成時のスペックは不明ですが、どうやら、動力部分の…確か高出力の次元連鎖…何とかが未完成で出力が安定せず、

ルーク様との戦いの際に出撃する事も出来ずに、肝心の主である皇帝ごと帝国は滅び、今に至る、との事です」

 エーリッヒが説明している。

「次元連鎖…うん、多分、次元連鎖式縮退炉だね…アルフレッド、整備の準備できる?」

「準備は出来ますが…何をする気です?」

「その手の動力の整備ならアルフレッドの十八番だしね…この機体、動かしてみたいんだ。ここで眠らせておくには惜しい機体だよ…かっこいいしね」

 会話を聞きながら、ギルティアは苦笑する。

 そんなにかっこいい機体なら、一目拝見したいと、ギルティアは、その機体が置かれた部屋の扉を開けた。

「…これは…!」

 そこにあったのは、黄金色の、全身が刃のように鋭角的な機動兵器だった。ギルティアが、数秒間沈黙し、口を開く。

「・・イセリナ、見事な審美眼です…これは確かに良いです。しかし…イセリナ、この機体、何処と無く黒騎に似ていませんか?」

「そういえば…」

 機体の尖り方が似ている。

「ああ、その事でしたら、ここにあるコンピュータの履歴を見るに、デストヴァールは以前ここに来た際にこの機体の起動を試み、失敗していたようです」

「「ああ」」

 エーリッヒの言葉に、イセリナとギルティアが同時に納得する。

「ここに、この機体以外に、最近構築された設計図も存在しました…黒騎の設計図でした。

 どうやら、黒騎はデストヴァールがここで製造したもののようです。もっとも、乗りやすいように大幅な性能調整を行ったようですがね」

 つまり、機体自体の性能も下げて動かしやすくした、という事だ。

「つまり、黒騎はこの機体の劣化版、と言う事ですね?」

「然様、どうやら、機体性能が高いにも関わらず、操作インターフェースや機体性能が、パイロットに対して非常に大きな負担を強いるものだったようです」

 しかし、その下がった性能でアレだけの戦いをしていた、という事は、この機体の性能はどれほどのものなのか、確かに、ギルティアも興味を感じた。

「…確かに、戦力になりそうですね」

 ギルティアの言葉に、イセリナも頷く。

「でしょ?で、ここにある機動兵器を修理すれば、今後、この帝国首都をこの宇宙群の旅人の活動拠点として使えると思うんだ。

 どの道、デストヴァールの干渉とルークの復活で、この世界のオーバーテクノロジーは目覚めちゃったからね。

 今更それを裏側に押し込めるのは無理だし、それなら、最大限活かさないとね」

「…エーリッヒ、大丈夫なのですか?」

 ギルティアの言葉に、エーリッヒは笑顔で頷いた。

「ギルティア様という存在そのものが、既にこの世界の救世主として認識されています。

 …絶対的権力を持つ皇帝が不在の今、我々はギルティア様の意向に従います」

 ギルティアが苦笑する。しかし、もしそれが成し遂げられれば、組織的討伐は更に効率良く行う事が出来る。

 …もちろん、鍵の不在など十二分に補える。ならば、躊躇う必要などなかった。

「…分かりました。では、具体的な事はまた後程考えましょう」

 そしてその後も、色々物色し、ギルティアたちは地上へと戻る。


 そして、培養槽で眠っているルークの元をギルティアは訪れていた。

「…ギルティアか…」

 眠っていたルークが、目を開ける。

「インフィナイト…いえ、曙光竜ライズが、この宇宙群を作り直そうとした理由が分かりました」

「…!」

 ギルティアは、先程メインコンピュータから得た情報を、ルークに伝える。

「そうか…彼奴も我と同じく…人間とは何故いつもこうなのだろうかな…」

 ルークの問いに、ギルティアは苦笑する。

「私も、そう思いますよ…しかし、私は皆を信じます」

「フ…確かに、今我々が共に旅をしている皆は、我も信頼できるがな…彼らが、これからも決して人間達に潰されない事を祈ろう」

「ええ、私も、それを強く願います」

 ギルティアは、そう言って微笑んだ…。


 一方、紅竜もまた、ヴェルゼンの起こした異変を察知し、アルセントへと到着していた。

「ただならぬ異変を察知して戻ってきたのは良いが…事態は姫様が既に解決したらしいな」

 ガザードが苦笑する。その横で、アイギスが無言で何かを考えている。

「…データを…」

「ん?どうしたアイギス」

「俺から回収したデータを抹消する必要があると判断…この宇宙群に残留していると思われる残存敵四将の優先捜索、討伐を提案する」

 その言葉に、ガザードは首を傾げる。

「だが、お前、先日ここを離れる時にはそんな事一言も言っていなかったじゃないか」

 その言葉に、アイギスは頷く。

「肯定。インフィナイト亡き今、例えデータが存在しても意味はないと推測していた。

 しかし、今回の事件は、そのデータが、例えインフィナイトがおらずともここまで危険な事を可能とする事を証明した。

 …もしも、俺のデータをまだ悪用する者、及びそれが可能な者がいるのならば、それらは抹消の対象であると認識」

「成る程な…お前の言いたい事は分かった…四将の居場所についての心当たりはあるのか?」

「幾つか、インフィナイト達にとっての補給基地と思しき場所、及びその場所への航路を記憶。

 もっとも、彼らは本拠地から直接行動していたが故に、恐らくそれは遥か昔、要塞を建造する際に用いられていた資材置き場なのだろうと判断」

 その言葉に、ガザードは頷く。

「成る程、要塞があった時には襲撃しても意味はなかったが、拠点が失われた今、そこを利用して活動している可能性は高いだろうな」

「少なくとも、その航路上で遭遇できる可能性は決して低くはないと推測する」

 ガザードはアイギスの言葉に頷くと、通信回線を開く。

「って訳だ、この宇宙群に隠れてる四将が持ってるデータが、放出された異形以上にヤバいらしい!!野郎共!きっちり後始末して後腐れなく旅を続けようぜ!!」

 その言葉に、艦内各所から賛同の声が上がる。

「よし!決まりだ!行くぜ野郎共!!」

 そして、紅竜は、一つ目の補給基地へと移動を開始した…。


ギルティア日記

明らかになった真相は…決して明るいものではありませんでした。

想定はしていましたが、インフィナイトも、きっと何かを守りたかったのでしょうね…。

しかし、私も、皆を守って戦った事に、後悔はありません。

…これで、良いのです。


そして、デストヴァールはかつての大帝国皇帝と縁のある者だったようですね…。

…これで、全ての事情が繋がりました。

大帝国…この宇宙群の全ての悲劇の発端は、やはり人間でしたか…。


しかし、今回、最大の懸念材料が浮き彫りになりました…。

…あの時、私は果たして、インフィナイトを完全に倒せていたのでしょうか…。

今回の情報は、私を不安にするには十分でした。

…もしも倒せていなければ、あとは、私には彼を倒す手段はありません。

アレだけの力を以ってしても倒せない相手…究極生命とは、恐ろしいものです。

…倒せている事を、祈るだけです。


倒せていないとしたら…私は、どうすれば彼を倒せる…?

どれだけの力を手に入れたとしても…やはり、私の命では足りないのでしょうか…。


続く


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