Ａｃｔ．８６ ＧｒｏｕｎｄＺｅｒｏ
Ａｃｔ．８６ ＧｒｏｕｎｄＺｅｒｏ
ヴェルゼンが、グランディオスへと、尋常ならざる速度で突進する。
「ぬんっ！！」
グランディオスが、全身から火球を放つ。
「そんなもの！！」
ヴェルゼンが、鎌の一振りでそれを掻き消す。そして、そのままグランディオスに向けて距離を詰める。
「グランディオス！八つ裂きにしてくれる！！」
「何の！」
グランディオスが、ヴェルゼンを殴り飛ばそうとするが、ヴェルゼンは、それよりも速く鎌による一閃を叩き込んでいた。
「ぐうっ…！！」
グランディオスの左腕が飛ぶ。
「まだまだまだまだぁぁぁぁぁ！！！！」
ヴェルゼンが、更に幾度も追撃をかける。
「このまま四肢を絶ち、核を抉り出してやる！！」
「それは遠慮したいものだな…！！」
グランディオスの周囲から、凄まじい衝撃波が放たれ、連撃を叩き込んでいたヴェルゼンが吹き飛ばされる。
「くうっ！？」
「…追撃させてもらう！！」
吹き飛ばされたヴェルゼンに、グランディオスが頭部からの重力塊を叩き込む。
そして、身体全体からレーザー、火球、熱線、衝撃波を放つ。それらが、ヴェルゼンを捕らえた重力塊目掛けて、一斉に収束する。
「ぐあああああああああああああっ！！！」
「どうした、まさかこれで終わりではあるまい？」
「黙れ！」
爆風を突き破って、大鎌が投擲される。
「ふんっ！！」
グランディオスが、火球を纏った右腕で、大鎌を殴り飛ばす。
「その隙を待っていた！！」
ヴェルゼンが、グランディオスの背後に回り込む。
「その程度…！」
グランディオスの尾の頭部から放たれる重力震が、衝撃波の刃による攻撃をかけようとしたヴェルゼンを吹き飛ばした。
「フフ…最高位異形にしては、中々頑張りますね…流石は、四将のリーダーを自認するだけの事はある、といった所ですか…」
再び、炎がヴェルゼンの周囲に集まる。
「しかし…まだまだ根源的エネルギーはたっぷりと供給できる…あなたには、万に一つの勝ち目もありませんよ！！」
鎌が二本に分かれ、その姿が更に鋭角的になる。そして、ヴェルゼンが、先程を遥かに上回るスピードでグランディオスに襲い掛かる。
「この速度…あなた如きに…捉え切れる訳がない！！」
そして、ありとあらゆる角度から、グランディオスを滅多斬りにする。
「くっ…成る程、確かに、この速度では私の反応速度では捕捉不能だな…だが！！」
グランディオスが再び、凄まじい衝撃波を発生させる。
「言った筈ですよ…あなた如きに捉え切れる訳がないと！！」
ヴェルゼンが、衝撃波の発生よりも速い速度で、衝撃波の射程外に離脱する。
「…ほう、速さによって全てを補ってきたか…」
グランディオスが、ヴェルゼンが離脱した方向に向けて、一斉に火球を放つ。
「その程度！！」
火球の間を縫って、ヴェルゼンが再びグランディオスに接近する。
「やああああーっ！！！」
ヴェルゼンが、二本の鎌を同時に投擲する。同時に、ヴェルゼンの両腕が鎌状の爪へとその形状を変え、その一振りが凄まじい衝撃波の嵐となって、グランディオスを襲う。
グランディオスが放つ衝撃波よりも、強力なものだ。
「…ぐっ…！」
グランディオスが衝撃波によりズタズタになっていく。
「バラバラになって死ぬがいい！グランディオス！！」
更に、投擲された鎌が、グランディオスを幾度も斬り裂く。
「くう…確かに…この力、衝撃波の放出では破れないか…ならば…これでどうだ！！」
グランディオスが、身体各部の口から一斉に熱線や火球を吐き出す。
「そんな、破れかぶれの攻撃など！！」
ヴェルゼンが、自分のほうに飛んできたそれらを叩き落す。しかし、熱線や火球は、あらゆる方向に放出されている。
「誰が、お前を狙うと言った…！！」
グランディオスの頭部が開き、重力塊が射出される。すると、一斉に、火球や熱線が、グランディオスの方へと反転する。
「何ッ！？」
そして、凄まじい爆発が、衝撃波ごと、満身創痍のグランディオスを飲み込んだ…。
「な、何だ…自爆しただけですか…は、ははは、は…僕の勝ちで…！！」
その、直後だった。
「…変異！グランディオス・オーガティックフォーム！！」
咆哮が、爆風を破る。そこには、炎を纏う槍を右腕に構えたグランディオスが立っていた。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーっ！！！！」
グランディオスが、ヴェルゼンへと突進する。回避し損ね、ヴェルゼンの左腕がぶち抜かれる。
「…勝ちで、の続きはどうした？」
「グ、グランディオス…その右腕は…まさか！！」
グランディオスの姿に、ヴェルゼンが唖然とする。
「そうだ…突進力と近接戦闘用の長物が欲しかったのでな、先程捕食したオーガティスのデータを再現させて貰った…。
…これぞ、グランディオス・オーガティックフォームだ！！」
見ると、グランディオスの右腕の頭部の口から、槍が『生えた』ような形になっている。
また、左腕の頭部も、まるで盾のように大きくなっている。その装備は、まさしくオーガティスの再現としか言いようのないものだった。
「馬鹿な…捕食した相手のデータを、しかも瞬時に再現するなど…在り得ない！！」
「これが異形の持つ本当の力…自らの望むものになる力だ…！
確かに、ただ漠然と願うだけでも、それは形を成す。
…だが、取り込んだ物自体の破片が一つくらいあれば、そのデータからそれをより正確に再現する事など容易だ…！！」
そして、グランディオスは、槍を構える。
「…さぁ、続けようか！！」
「い、いくらオーガティスの力を模したところで、力の差は埋まりません！！」
再び、ヴェルゼンが突っ込む。グランディオスが、それに応じ、距離を詰める。
「どの道、あなたはこれから、一方的に攻撃されて敗北するのです！！」
ヴェルゼンが、瞬時にグランディオスの眼前から消える。
「……」
グランディオスが、肩の頭部から火球を放ち、その反動によって瞬時に左に移動する。
「な…外し…！？」
ヴェルゼンの初撃が空振りする。そして、直後、ヴェルゼンの腰部に激痛が走る。
「馬鹿…な…！？」
ヴェルゼンに突き刺さっていたのは、グランディオスが突き出した槍だった。
「確かにお前は速い、だがその速さに振り回されている。ならば、直接捕捉が出来ずとも、軌道を予測して回避、反撃する事は不可能ではない…！！」
槍から解き放たれた爆炎が、容赦なくヴェルゼンを焼く。
「これで…どうだ！！」
そのまま至近距離から火球、熱線、レーザー、重力震の一斉放火を浴びせる。
「ぐ、があああああああああああああああああああーっ！？」
ヴェルゼンが、何とかグランディオスから距離を離す。そして、再び根源的エネルギーの供給を受け、再生する。
「フフ…まさかここまでやるとは…しかし、決定力不足です」
今のヴェルゼンの尋常ならざる機動性を考えると、グランディオスの切り札であるグラウンド・ゼロは難なく回避されてしまうだろう。
「…手が全く無いとは言わないが、元より、この時点で決着がつけられるとは思っていないさ…。
確かに、ギルティア＝ループリングが、オーガティスの核を破壊しない限り、幾らこの私と言えど、勝算は極めて薄い…だがな」
グランディオスの目が、微かに笑う。
「…生憎、私は負けるつもりも無い…！」
「愚かな…オーガティスがあの魔女を仕留めれば、あなたは終わりです。いえ、決着の時を待つまでも無い…今、ここであなたは終わりです！！」
ヴェルゼンが、再び突進する。グランディオスは、それに応じるように大きく咆哮し、槍を構える。
「もしそうなるというのならば、それも止むを得まい。
だが…果たしてオーガティスに、彼女を止める事が出来るかな…？
そして、ヴェルゼン…果たしてお前に、この私を止める事が出来るかな…？
さぁ…共にその問いへの答えを求めよう…踊りを、続けようか！！」
そして、グランディオスは、ヴェルゼンへと突進していった…。
一方、エルヴズユンデは、行く手を遮るオーガティスを文字通りぶち抜きながら、グランディオスが教えた地点へと凄まじい速度で移動を続けていた。
そして、二つ目の壁に差し掛かる。
「一気に撃ち抜きます…アトネメント…！」
エルヴズユンデが、アトネメントプライで壁をぶち抜こうとする。
「その一瞬を待ってたよーッ！！」
胸部が展開した一瞬の隙を突いて、周囲の壁から沢山の触手がエルヴズユンデの四肢を貫き、そのまま絡みつく。
「…ッ！？」
触手はコクピット内部まで侵入し、ギルティアの四肢を絡め取る。
「ケーッケッケッケッケェ！！わざわざ声を潜めて待ってた甲斐があったねぇ！！ここまで良く諦めずに来たと思うが、ここで終わりさ…！！」
オーガティスの笑い声が響く。巨大な爪が、エルヴズユンデの胸部コアを掴んでいる。
「…末路でも選ぶか？俺に命乞いをして、お前の仲間が殺されるのを見守り、そのままここで俺の一部になるか、それとも、このまま今ここで握り潰されるか！
ケーッケッケッケッケッケェェェェェ！！！」
「…フ、フフ…」
ギルティアが、ニヤリと笑う。
「何だァ？余りの恐怖に気でも触れたかい？」
「笑わせてくれますね…私はそのどちらも選ぶつもりはありませんし、選ぶ必要もありません…ディストレス・ストーム！！」
ギルティアが、エルヴズユンデが、渾身の力で羽ばたく。
「な、今そこで使ったら、お前自身も…！！」
「元より、その程度、承知の上ですよ…！！」
凄まじい衝撃波が、エルヴズユンデとギルティアを、絡み付いていた触手ごと飲み込む。
「はあああああああああああああああああああああーっ！！！！」
衝撃波が発生させた爆風を、アトネメントプライの黒い光が撃ち抜き、目の前の壁に風穴が開く。
そして、その中央を、満身創痍のエルヴズユンデが堂々と突破していく。
「無茶苦茶しやがるな…命が惜しくはないのかい？」
「他人の命を粗末に扱うあなたが言える事ではありません！！
他者の命を、他者の心を恐怖で弄びながら、あなたは…その先に一体何を望むというのです…！！」
血まみれになりながらも、ギルティアが問う。
「ケッ…俺の望みは、殺して殺して殺しまくり、生きて生きて生き抜く…そう、『正しく』生きて、生き延びる、ただ、それだけさ」
「正しく…！？あなたは…他者の命をただいたずらに奪う事が、まさか『正しい』とでも言うつもりですか！！」
「ケケッ…まぁ、その反応が普通だよねぇ…けど、果たして、本当にそれは間違った事かい？
大体、他人の命も大切に守り続ける、お前のような『正義の味方』の末路は、往々にしてろくなもんじゃないよね？」
その言葉と同時に、棘の一斉射撃から、一斉にオーガティスが突っ込んでくる。
「…！」
自らの過去、そう、かつて人類に封印された過去が、ギルティアの脳裏をよぎる。
「お前だって、インフィナイト様だってそうだろう？
インフィナイト様を倒し、この宇宙群を守り、お前は、今本当に幸せかい？それとも、お前の目の前には希望が見えているのかい？」
大量のオーガティスが、エルヴズユンデの進路上を満たす。
「使命を果たす為だけに生まれてきたお前には分からないかもしれないけどね、誰だって、自分の身は可愛いものさ…。
自分の利益のために他人を陥れ、利用し、踏み潰し…！！
自分以外の他者の幸せを、そして時には命さえも奪い、そうして自分の幸せを掴む、それが、人として自然の行動…そういう奴が、生き延びる。
そうじゃない奴は大概、死ぬか不幸になる…かつての俺が、そうだったように、な」
「オーガティス…」
エルヴズユンデが、更に加速する。そして、剣の一閃で強引にオーガティスの群れを突破する。
「もし不幸になるんなら、もし死ぬんなら、それは正しい事だと言えるのかい？
生き残って、幸せを手にしてる連中が、正しいんじゃないかい？
…だから、争いは無くなりゃしないよ…争い、奪い合う事が、正しいんだからね」
成る程、こういう考え方だったか、と、ギルティアは思う。
ならば、平然とリスクが多い選択をして戦う、シリウスやエルグリオの事を嫌っている理由も理解できる。
しかし、何故だ。何故こんな考え方に至ったのだろうか。
「ケケケッ…だから、俺は生きる事を、そして、他者から奪い続ける事を選択した。
だから、殺して殺して殺しまくり、生きて生きて生き延びる…それだけさ…」
かつての俺、と言うオーガティスの言葉が気になりながら、ギルティアは静かに言葉を紡ぐ。
「…確かに、あなたの言っている事には一理あります。
悲しい事ですが、正しい事と、その辿る結末は…必ずしも呼応する訳ではありません。
そして、事実、私自身救われる事の無い道を歩んでいる事も、承知の上です。
しかし本来は、正しい事を行ったものが幸せになるのは、当然の権利です。
そして、私は私の使命を果たす事で、正しい者が幸せになれる世界への道を、いえ…その世界へ至る『可能性』を守ってきました。
インフィナイトの望んだのも、きっとそんな世界だったのだろうと、私は思います」
エルヴズユンデが更に加速し、オーガティスの群れを突っ切っていく。
「…そして、私はそれが正しい事だと信じます…！！」
もうすぐ、オーガティスの核が存在する地点に到達できる。
「オーガティス、ここで、決着をつけましょう…！！」
最後の壁だ。アトネメントプライが、壁を撃ち抜く。内部から、光が漏れ出す。
「ああ、良いよ…俺は、お前を殺して生き延びるだけさ」
「やれるものなら…やってみなさい…！！」
エルヴズユンデは、その光の中へと、突入していった…。
続く
