Act.85 突き立てる牙は鋭く
Act.85 突き立てる牙は鋭く
火球と熱線、レーザー、重力震、衝撃波を全身から放ちながら、グランディオスはエルヴズユンデの前に出る。
「グランディオス、一体、何故ここに…!?」
ギルティアが問う。
「…インフィナイト様は、このような事を望んではおられない。
私が構築したデータを悪用する者がいるのならば、それを処断するのは…私に課せられた責任だ」
「黙れ!黙れ黙れ黙れ!!悪用!?僕はインフィナイト様の無念を晴らそうとしているだけだよ!!この裏切り者が!!」
ヴェルゼンの叫びに、グランディオスは返す。
「インフィナイト様の目的は宇宙群を作り直す事だ…お前達がやろうとしているのは、後に何も残らぬ、単なる破壊だ!裏切り者は、お前達の方だと知れ!!
…ギルティア=ループリングよ…まだ戦えるか?」
「…当然です」
左腕のヒビはかなり大きくなり、痛みも更に強くなっている。
グランディオスは、それを確認すると、言葉を紡ぐ。
「…百五十パーセントのアクセスは、一時解除せよ。
この戦い、かなりの長期戦を覚悟しなければならない…それ以上は、負担でお前の身が持たんぞ」
「しかし…それで、後方の星々を防ぎ切れるのですか?」
「…既に手は打ってある。あと五分程度か…それまで持ちこたえられれば、問題はない。
後は内部に突入し、オーガティスの核を破壊するだけだ…その時まで、力は温存しておけ」
エルヴズユンデの切られた左足の再生も、かなり進んでいる。その言葉に、ギルティアは頷いた。
「…その言葉、信じて良いのですね?」
「ああ…後は、戦いによって身の証を立てるだけだ…ヴェルゼン、オーガティス…覚悟せよ!!」
グランディオスは咆哮すると、ヴェルゼンとオーガティスに向けて突進する。
「馬鹿め…いくら最高位異形、そして四将最強の力を持つグランディオスといえど、究極異形たる今の僕に…勝てると思っているのですか…?」
ヴェルゼンが、グランディオスへと突進する。
「ケーッケッケッケェェェェェェェ!!お前の強さに怯えてた俺が馬鹿みたいだよなぁぁぁぁ!!今じゃお前も塵にしか見えないよ!!」
大量のオーガティスが、グランディオスに襲い掛かり、同時に、その横を通り抜け、後方の惑星へ向かう。
「エルヴズユンデ、アクセス、レベルダウン、百パーセントに移行」
エルヴズユンデの各部のパーツが再び閉じる。
「本来ならば私一人で守りきらねばならなかったもの…私は…」
と、言いかけた所で、ギルティアは自分の言葉を遮る。少なくとも、それは今考える事ではない。
「…今は、成すべき事を成す、ただそれだけです」
そして、エルヴズユンデが剣を構える。
「…グランディオス、あなたの言葉、信じますよ」
エルヴズユンデが、ヴェルゼンとの距離を詰める。
「クライング・フェザー…ブレェェェェェェェイクッ!!!!」
紅の矢が、オーガティスの群れを爆散させる。
グランディオスとヴェルゼンが衝突する。
「…成る程、言うだけの事はあるか…!」
グランディオスが、鎌を右腕の牙で受け止める。
「フフ…止まって見えますよ!!」
直後、ヴェルゼンが残像を残し、グランディオスの背後に回る。
グランディオスは、尾から収束された重力震を放ち、ヴェルゼンを迎撃する。
「な…!?」
その一瞬の隙を突いて、グランディオスが反転する。
「ぬんっ!!」
体中からの一斉射撃が、至近距離からヴェルゼンを飲み込む。凄まじい爆発。
「フフ、フフフフ…所詮は最高位異形…その程度、ですね」
爆風を突き破って、投擲された鎌がグランディオスを襲う。
鎌は、自在に弾道を変え、グランディオスを切り刻む。
「ぐ…!」
「貰ったぁぁ!!!」
戻ってきた鎌を、グランディオス目掛けて振るおうとする。
「コンヴィクション…クロォォォォォォォォォズッ!!!!」
「な!?」
エルヴズユンデ渾身の一撃に、ヴェルゼンが背後から真っ二つになる。
しかし、ヴェルゼンは咄嗟に爆心から距離を離し、下半身が消滅するだけで致命傷は免れる。
「…グランディオス、無事ですか!?」
「この程度…何という事はない」
その言葉の通り、グランディオスの傷は、既に修復が開始されていた。
「オーガティス!修復のエネルギーが不足しています!」
「あいよ!」
ヴェルゼンに、オーガティスが再びエネルギーを供給する。
「…フフフ…」
ヴェルゼンの下半身が瞬時に再生する。
「ケッケッケ…」
「やはり、宇宙を捕食したオーガティスの核を破壊しなければ致命的ダメージには至らないか…だが、そろそろだな」
グランディオスの目が、微かに笑った。
「…な…!?」
「待たせたな、グランディオス!!」
聞き覚えのある声が響く。
「来たか…!」
銀色の甲殻甲冑、両腕の剣。ギルティアがその名を呼ぶ。
「…エルグリオ…!?」
そして、エルグリオが立っていたのは、これまた見覚えのある巨大な戦艦の甲板だった。
「お嬢ちゃん、救援に来たぞ!!」
「お姉ちゃん…無事で本当に良かった…!」
それは、銀の槍の名を持つ戦艦、ズィルヴァンシュピスだった。
「…グランディオス、これはどういう事ですか…!?
最高位異形のエルグリオはともかく、残りの戦力ではオーガティスとの消耗戦には…!!」
「策がある、と言ったぞ。その策のためには、あの艦の推力がどうしても必要だったのだ…重力アンカー、惑星に向けて射出!!」
「任せて!」
ズィルヴァンシュピスが、大量の錨のような形状の物体を、境界空間に浮かぶ惑星に投下する。
それは、それぞれの惑星の海に落下し、地表に深く突き刺さった。
「アルフ!ズィルヴァンシュピス、推力最大!!」
「了解しました」
ズィルヴァンシュピスが転進、凄まじい推力で、惑星を牽引していく。
「成る程、重力アンカーを惑星に打ち込んで、ズィルヴァンシュピスの推力で牽引する事で別の宇宙まで惑星を避難させるのですか…」
重力フィールドによって物体へと確実に突き刺さる錨が重力アンカーだ。それを使用すれば、推力次第では惑星を牽引する事も可能だろう。
ギルティアが、グランディオスの策に納得する。しかし、と、ギルティアは続ける。
「あの数の重力アンカーは、どうしたのですか…?」
「かつて資材を要塞に輸送する際に使用されていた重力アンカーだ。
…この宇宙群各地に存在する我らの補給基地に、まだいくつも残されているのでな」
成る程、確かに、アレだけ巨大な要塞を作り出すのには、莫大な資材を輸送する必要がある。
それに使われたと言うのならば、納得は出来る。そして、その様子を唖然としてみていたヴェルゼンが、我に返ったように言葉を紡ぐ。
「オーガティス!」
「あいよ!」
オーガティスの群れが、惑星の方へと向かう。
「何の、行かせはしませ…!」
ギルティアの言葉を遮るように、刃の嵐と一筋の閃光が、オーガティスの群れをなぎ払う。
「惑星の護衛はわしらに任せよ!」
アークトゥルースが、デモンズ・スローターを構えていた。
「このまま水際で守ってても、戦況は好転しねェ!護衛はこっちに任せてオーガティスの核を叩け!!」
「そういう事だ!こちらはわしらが引き受けた!!」
そして、迫りくるオーガティスの群れへと、アークトゥルースとエルグリオが突撃していく。
「シリウス…エルグリオ…!」
一方、戦艦の方にも、フレアドイリーガルとジェネラルが護衛についている。
「艦の護衛も問題ないぜ!」
「…前線に出られないのが少々癪だが、この非常時だ、止むを得ん」
「藤木…レディオス…」
そして、ようやく修理が終わった斧を構えたジオカイザーが出撃してくる。
「お姉ちゃん、こっちは心配ないよ、遠慮せずに戦って!!」
その言葉に、ギルティアが苦笑する。
「皆…私の役目を削らないで下さいよ…」
「…ギルティア=ループリングよ…行けるな?」
その言葉にギルティアは頷くが、しかし、と続ける。
「核の位置が特定できなくては…」
「私はこの異形空間のプログラムデータを修正し、組み立てた張本人だ…私ならば、核の位置を特定する事が出来る」
その言葉に、ギルティアは驚愕するが、改めて頷く。
「ならば…完璧です」
ギルティアはニヤリと笑う。これによって、攻めと守りが逆転したと言っても良いだろう。
「…行きましょう、グランディオス!!」
「ああ!」
エルヴズユンデとグランディオスが、オーガティス目掛けて突進する。
「そうはさせない!!」
ヴェルゼンが、それを止めようとする。
「待てって、ヴェルゼン!中なら他の連中の邪魔は入らないよ!!
…邪魔の入らない中におびき寄せて一気にひねり潰せば良いのさ!!」
「…!」
ヴェルゼンが頷くと、グランディオスとエルヴズユンデを追ってオーガティス宇宙の内部に突入する。
同時に、オーガティスが凄まじい量のオーガティスの群れを、惑星の方へと射出する。
「…さーて、こっちは俺達の仕事だ」
エルグリオがニヤリと笑う。
「うむ、大見得を切ったのだ、しっかり守りきらねばなるまい」
シリウスが、それに同じ笑みで応える。
「…行くぜ!」「…参る!」
二人が同時に叫び、オーガティスの群れへと突進した…。
そして、エルヴズユンデとグランディオスは、オーガティスの内部に突入してすぐに、夥しいオーガティスの群れの手荒な歓迎を受けていた。
「ケーッケッケッケ!ようこそ俺の宇宙へ!!内部だとこいつらは免疫みたいなもんだ、際限なくいくらでも出せるのさァ!!さぁ…怯えろ!泣け!喚け!!」
「そういう事です。さぁ…突破できますか…!?」
オーガティスの群れの前に、ヴェルゼンが立つ。
「…フ」
グランディオスの目が、微かに笑う。
「…ギルティア=ループリングよ、血路は私が開こう。後はその先に存在するオーガティスの核を破壊すれば、この戦いは終わる」
そう言って、グランディオスはエルヴズユンデの前に出る。
「…了解です」
エルヴズユンデが、剣を構える。
「行くぞ、私に続け、ギルティア=ループリングよ!!」
グランディオスが、身体全体の口から一斉に攻撃を放ち、一つの方向へ向けて前進する。
「ヴェルゼン、オーガティス…このタイプの異形には、異形にしか不可能な対処方法が存在する…見るが良い!!」
突進してきたオーガティスの胸部を、グランディオスの腕の牙がぶち抜いた。いや、噛み砕いた、と言った方がいいかもしれない。
「な…根源的エネルギーを供給しても再生出来ない、だって…!?」
噛み砕かれたオーガティスは、ボロボロと崩れる。
「ふんっ!!」
二匹、三匹、グランディオスは、体中の牙でオーガティスの胸部を的確に噛み砕いていく。
その姿に、ヴェルゼンが、ようやく気付く。
「ま、まさか…オーガティスを…捕食…している…!?」
「馬鹿な…そんな事が…!?」
「ご名答、だ…この系統の異形に核は無いが、根源的エネルギーが収束する場所はある。
…そこを喰らえば、根源的エネルギーごとこちらの物だ」
次々にオーガティスを撃ち抜き、喰らい、グランディオスは前進していく。目の前に巨大な壁がある場所まで、グランディオスが到達する。
「それ以上は…!!」
ヴェルゼンが、グランディオスの前に立ち塞がる。
「そう焦らずとも、お前の相手はこの私だ…グラウンド・ゼロ…!!」
「なっ…!?」
射出されていた全ての攻撃が、グランディオスの頭部から放たれた重力塊に収束していく。
「エリミネェェェェェェトォ!!!」
そして、それらが収束した一筋の閃光がヴェルゼンを襲う。
ヴェルゼンは咄嗟に回避するが、エネルギーの乱流に巻き込まれ、吹き飛ばされる。
その一撃は、そのままその先の壁に風穴を開ける。そして、グランディオスが、エルヴズユンデにデータを送信する。
「私が同行できるのはここまでだ…私はここでヴェルゼンを食い止める。
流石にかなり距離はあるが、出てくるのはオーガティスの群れだけだ…ある程度は無視しても容易に突破できるだろう?」
ギルティアが、送信されたデータを受け取り、確認する。
流石に宇宙を取り込んだ規模、空間距離でいけば数千光年以上の距離はある。
「…ええ、任せて下さい」
ギルティアの言葉に、グランディオスは満足そうに頷く。
「…それでこそ、我らの目的を潰えさせた最強の鍵だ」
グランディオスが、先程開けた穴を背にして立つ。
「行け、ギルティア=ループリングよ…行って、見事この宇宙群を危機から救ってみせろ」
「ええ…グランディオスの方こそ、ご武運を…!」
グランディオスの横を、エルヴズユンデが抜けていく。
それを確認し、グランディオスがヴェルゼンに向けて言葉を紡ぐ。
「ヴェルゼン、元よりお前が私を快く思っていなかった事は知っている…初めからこうしたかったのだろう?」
「グランディオス…お前はいつもそうだ!一人で何もかも分かった気になって…!!」
ヴェルゼンとグランディオスが、改めて対峙する。
「…インフィナイト様からも特別の信頼を勝ち得て…僕が…僕こそがインフィナイト様の最高の忠臣!!
オーガティス!グランディオスは僕が相手をする!お前はあの魔女の始末の方に集中して下さい…頼みましたよ!!」
「あいよー!」
オーガティスの群れが、グランディオスの横を抜けていく。
「グランディオス…四将のリーダーとして相応しいのが一体誰なのか、ここではっきりさせましょう…!!」
ヴェルゼンが、大鎌を構える。
「…フ、良いだろう、お前の方が四将のリーダーに相応しいと言うのならば、真正面からそれを証明して見せよ…力ずくでな…!
さぁ、来ると良い…今からお前に、異形の力の本当の意味を教えてやろう…!!」
グランディオスの咆哮が、オーガティスの体内を揺るがす。
今、インフィナイト四将最強の最高位異形と、最高位異形を超越して変異した究極異形との戦いが、始まろうとしていた…。
続く




