Act.84 宇宙の黄昏
ったく、最後まで残ったのは数十人だけかよ。
全く…こりゃ、戦いが終わらない訳だ。
皆、こんな無茶な事に付き合わせちまって、本当にすまんな。
沢山集まった同志も、殺されそうになると次々に寝返り、残った連中は、お前ら数十人と来た。
それに…国の扇動で集まった暴徒は、もうすぐそこまで来ている。
きっと一人も生きては帰れないだろうな。
命は大事なもの、自分の命も、他者の命もだ。
それなのに、何故、人はそうまで他者の物まで奪いたがるのか。
…人間って、貪欲な生き物だよなぁ…。
…もし、正義ってものが本当に存在するなら、どうか、俺達を守ってくれ。
俺達がもし間違ってないと言うのなら、俺達は最後の一人の最期の瞬間まで諦めはしない。
一番最後に正義は勝つんだろ?
…だから、俺はそれを信じるよ。
―沢山の骸の中に埋もれた、炎に焦げた手記の一部
Act.84 宇宙の黄昏
異形の骸が散らばる閉鎖空間の中央に、剣を携えたギルティアが立っている。
「…これで、この世界の異形はほぼ全て討伐ですね…残りの戦力で人に害を及ぼす事は無いでしょう」
憐歌のいる宇宙から帰還してから四日が経過し、ギルティアは再び、異形討伐を再開していた。
既に、八つの世界と一つの宇宙の異形を根こそぎ討伐し、更にそのペースを上げ続けている。
閉鎖空間が解ける。
「来なさい…エルヴズユンデ!!」
ギルティアが、エルヴズユンデを喚ぶ。
魔法陣が展開され、ギルティアの頭上にエルヴズユンデが姿を現す。
「…さぁ、次の宇宙へと移動しましょう」
ギルティアが胸部に乗り込むと、エルヴズユンデは境界空間に飛び立った…。
一方その頃、今ギルティアが移動中の進路から少し外れた宇宙、青色超巨星の前に、二体の異形が立っていた。
「いよいよ、決行です…」
「ケケケッ…どれだけ殺せるか…わくわくするねぇ…!」
オーガティスが笑う。その槍には、どす黒い黒が宿っている。
インフィナイトの要塞内部から持ち出してきた異形空間の一部を、槍の内部に宿しているのだ。
「どれだけ殺せるか、ですか…もし、あの忌まわしき魔女、ギルティア=ループリングを始末する事が出来れば、この宇宙群、全ての命が思いのままです」
「…勝てれば、な」
オーガティスは、ヴェルゼンに聞こえないように呟き、そのまま言葉を続ける。
「…後は俺達次第、って訳だな」
「そういう事です、期待していますよ、オーガティス」
その言葉に、オーガティスはニヤリと笑った。
「本気になりゃ、俺は負けないさ…そう、今までそうだったように、俺は殺し、生きる…ただ、それだけだ…ヴェルゼン、始めようぜ!」
その言葉に、ヴェルゼンは頷く。
「…ええ、さぁ、黄昏時の始まりです、オーガティス!!」
「あいさ!この最低な、果て無き世界の連なりに、幸あれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
オーガティスが、黒を纏った槍を構え、恒星へと突進していった…。
その瞬間、目的地に向けて境界空間を飛び続けていたエルヴズユンデの胸部、ギルティアの左腕が、まるでただならぬ異変を察知したかのように、ドクン、と脈打つ。
「…これ…は!?」
今まで感じた事の無い感覚だった。強敵との戦いの時とは違う焦燥感、緊迫感といった感覚が、ギルティアを襲う。
「…目標地点、変更です…急ぎましょう、エルヴズユンデ!ただ事ではありません!!」
何が起こっているのかは分からなかった。
ただし、ただならぬ事が起こっている、それだけははっきりと分かったのだ。
エルヴズユンデは、方向を転換し、一気に加速した…。
目的地がどんどん近付く。そして、ギルティアは、目の前に見えてきた光景に、愕然とした。
「何て…事…!!」
それは、宇宙の黄昏とも形容できるような光景だった。
そう、今、ギルティアの目の前で、一つの宇宙が、喰われようとしていたのだ。
宇宙が、巨大な紅に、まるで爪に握り潰されるかのように侵食されている。
まだ、人の居住する惑星に被害は出ていない、しかし、これは尋常ならざる事態だ。
ギルティアが、宇宙内部に突入する。既に、宇宙の半分近くが紅に侵食されている。
エルヴズユンデが、紅と黒の境界線に立つ。
「…これは、まさか…!!」
紅の領域に入った瞬間に、ギルティアは理解する。
この事態は、異形の力によって、あるいは、異形を生み出す空間によって、発生したものだ。
同時に、それならば、ギルティアの『異形の部分』の疼きの理由も分かる。
しかし、この状態、異形に『喰われている』と形容するほうが相応しい。
「…何とかしなくては…憐鍵刃バルムヘルツィヒカイト…顕現なさいッ!!」
ギルティアの右手に、光が集まる。
黄金の閃光の刃を持つ大剣が、ギルティアの手に降りる。
ギルティア自身が、そして、エルヴズユンデが光に包まれる。ギルティアの服装が、変わっていく。
そして、ギルティアが剣を核に突き刺すと、エルヴズユンデの右手に光が集まり、黄金の閃光の刃を持つ、ギルティアが手にした物と同じ大剣が姿を現す。
「祝福されし世界よ…この宇宙群の未来を、切り開く力を…フル・アクセス!!!」
紅の翼が、光を破る。
「まずは、侵食を食い止めねば…はあああああああああああああああああああああああああああーっ!!!!」
凄まじい攻性エネルギーが、エルヴズユンデから放出される。
赤の侵食の速度が緩む。
「ケーッケッケッケッケッケェェェェェ!!そうか、来たのか、だろうねぇ、ギルティア=ループリング!!!」
宇宙全体に響くかのように、聞き覚えのある声が響く。
「…その声…!」
「ギルティア=ループリングよ、滅びるが良い!!」
何かが、凄まじい速度で突っ込んでくる。
「何の!!」
エルヴズユンデが、クライングフェザーでそれを迎撃する。
突っ込んできたのもまた、見覚えのある相手だった。ギルティアは、覚えを言葉にして紡ぐ。
「…ヴェルゼン、そして、オーガティス…!!!」
「フフ…飛んで火に入る夏の虫とはこの事…!」
「宇宙ってのは、美味いものだねぇ!!」
「…この宇宙を喰らう気ですか!オーガティス!!」
声の主は姿を現していなかったのではない。最初から、ギルティアの目の前に存在していた。
宇宙を喰らう紅、その全てが、オーガティスそのものだったのだ。
「ケーッケッケッケ、そうさ、ギルティア!
…おい、ヴェルゼン、冥土の土産だ、説明してやりなよ」
「…グランディオスが残したデータにより、異形空間は飛躍的に高度化した…。
この力を利用すれば、青色超巨星を喰い、そのエネルギーで空間を連鎖的に捕食、宇宙一個を丸ごと喰らい、更に進撃、宇宙群、
そしてこの果て無き世界の連なりそのものを捕食する事も、不可能ではないのです!!
そう…全てを…全てを滅ぼして差し上げましょう!!
インフィナイト様を否定したもの全てを…そう、ありとあらゆる世界、宇宙、宇宙群…この果て無き宇宙の連なりに生きるもの全てを、この手で滅ぼしてくれる!!」
ヴェルゼンが、笑いながら続ける。
「手始めにあなたを倒すつもりだったのですよ…まさかこうまで早く遭遇できるとは思いませんでしたがね」
インフィナイトの目的、アクセス能力と併用すれば宇宙群を書き換えられる程に高度化した異形空間は、
そのデータを応用する事で、アクセスとの併用が無くとも、これほどの事が可能なのか。
改めて、危険だ、とギルティアは感じた。
「…ならば!!」
エルヴズユンデの肩パーツが上に、そして横に開き、脚部に装備されたブースターが、羽根を広げるように開く。
「…見せて差し上げましょう、この私の力を!!」
かつてのギルティアでは、たとえ百パーセントのアクセスが出来たとしても、この状況下で、全てを救う事は不可能だっただろう。
しかし、今のギルティアには、インフィナイトとの戦いで使用した切り札がある。
「オーバーアクセス…アクセス率百五十パーセント!!…アクセス『レベル2』…発動!!」
そして、その開いた部分から、紅の光が放たれる。
エルヴズユンデの放出した根源的エネルギーが、凄まじい紅の光の柱となる。
更に、剣の放っていた閃光がどんどん大きくなり、遥かに巨大な紅の光の刃となる。
「生命体居住惑星の絶対座標をロック、次元壁破砕率、計算開始…ヴェルゼン!インフィナイトを倒した私を…侮ってもらっては困ります!!」
インフィナイトとの戦いの際と同じく、左腕を激痛が襲うが、ギルティアはそれに怯む事無く、己が成すべき事を続ける。
「まずは…被害を最小限に抑えます…!!」
既に宇宙の侵食は取り返しのつかないレベルにまで及んでいる。
よって、被害を最小限に抑えるという事は、宇宙中に存在する生命体、及びその居住する惑星を守るという事だ。
「はああああああああああああああああああああああああーっ!!!!」
エルヴズユンデが剣を掲げる。
同時に、生命体が居住する惑星が、巨大なフィールドに包まれる。
「な、何ッ…!?」
「境界空間へのゲート、解放!!」
そして、エルヴズユンデが、一際強く羽ばたく。
まるでその羽ばたきに押されるかのように、それぞれの惑星は、その進路を変え、その後ろに開かれた境界空間への巨大な門に吸い込まれるように進入していく。
「これが…インフィナイトを倒した、この私の…力です!!」
今のギルティアが扱える力は究極生命に匹敵する、つまり、世界や宇宙を創造できるレベルなのだ。
惑星程度ならば、内部に影響を及ぼさずに境界空間へと押し出すことも出来る。
精密な誘導は無理だが、一度動かしてしまえば、あとは自然とこの宇宙から離れてくれる筈だ。
もっとも、惑星内部では住人達が大混乱しているだろうが、そこは、この非常時、止むを得ないだろう。
「…さぁ、次はどう出ますか?」
「…成る程、僕達の想定が甘かった部分があったのは認めましょう…しかし!」
ヴェルゼンが、爪を構える。
「やはり、そう来ますか…さぁ…覚悟しなさい!!」
後は、ここで踏みとどまり、可能な限り宇宙の侵食を遅らせる事で、惑星達がこの宇宙から離れるまでの時間を稼がなければならない。
エルヴズユンデが、剣を構える。
「ケーッケッケッケッケ…その強気、いつまで続くかねぇ…?」
宇宙を侵食していた紅から、巨大な骸骨の…オーガティスの顔が浮き出し、にやりと笑う。
「これでどうだい!!」
紅の中から、大量のオーガティスが飛び出してくる。その数、数十、数百。
「なっ!?」
「…フフフ、どうやらオーガティスも、与えられた力の意味が分かって来たようですね」
「これいいなーっ!ヴェルゼン、相手がいくら奴でも負ける気がしないぜ!!」
オーガティスの群れが、一斉にエルヴズユンデに襲い掛かる。
「私は、負けません!!クライングフェザー…ブレェェェェェェイクッ!!!」
翼が紅の光槍の嵐となり、オーガティスの群れを射抜き、爆散させる。
「ケーッケッケッケ…救世主さんよ、痛くも痒くもないって言葉、知ってるかい?」
「…!」
爆散したオーガティスの破片が、次々と再生する。
「まさか…成る程、そういう事ですか…!!」
そう、オーガティス自身が、件の特殊異形としての力を手に入れ、自らを量産してきたのだ。
侵食した宇宙の根源的エネルギーは、その生産プラントとして利用されている。
本体の規模が大きい。具体的に何処に核が存在するのか、ここまでの規模だと、いくらクライングフェザーを連発したとしても、核をいぶり出すのは不可能に近い。
これは本体の場所が分からない以上に、性質が悪い。
成る程、この侵食を何処までも、そう、他の宇宙にまで広げていけば、最終的には、この宇宙群どころか、全ての宇宙群を喰らい尽くす事も出来る筈だ。
「…これは、少々きついですね…!」
百五十パーセントのアクセスを維持した状態では、長く戦い続けるのは危険だ。
しかし、既に、後には退けない状態だ。
「ギルティア…全ては貴様がいけないんだ…インフィナイト様の崇高な目的を阻むから!!
インフィナイト様の目的が阻まれる世界なんて、存在する価値もない!!」
オーガティスの群れの中央から、ヴェルゼンが突っ込んでくる。
「何故…何故あなたはそこまで…!!」
エルヴズユンデが、それに相対して突っ込む。
「人間に生贄にされたんだよ、僕は!!」
振り下ろされた爪を、エルヴズユンデが剣で受け止める。
「…生贄…!?」
「そう…僕の故郷は、貴様の故郷と二つに分かれた、もう一方の片割れの宇宙群さ…!!
その一つの世界に、異形の力を研究して我が物としようとした権力者がいた…!!」
ヴェルゼンが、一歩離れ、背後に回り込む。
エルヴズユンデが、振り向き様に剣を叩き込む。
それを回避し、ヴェルゼンがエルヴズユンデに爪をぶち込む。
「くう…!」
「権力者は実験台を求めていた…自分達が実験台にされる事を怖れた住人は、孤児だった僕をその権力者に売ったんだよ!!」
続けて、二撃目を叩き込む。エルヴズユンデが、左腕の爪で、それを受け止める。
「…それが、あなたの過去ですか…!」
「そうさ…そして、僕は異形を生み出す空間に放り込まれた」
オーガティスの群れから、棘の一斉砲撃が来る。エルヴズユンデが、それから離れる。
「異形となってからも、僕はその権力者の実験台にされ続けた…!!
実験が原因か、それとも恨みが原因か、僕は人としての理性を失わずに僕でいられた…!!
けど、皆は、僕を人として扱ってはくれなかった…誰も、僕を受け入れてはくれなかった!!」
離れたエルヴズユンデに、ヴェルゼンは追撃を掛ける。エルヴズユンデが、ブラスターを放つ。
衝撃波を纏った爪でブラスターを叩き落しながら、ヴェルゼンはエルヴズユンデとの距離を詰める。
「いつしか、僕はその権力者による拘束を、自らの力で…最高位異形の力で打ち破った…!!
もちろん、僕を生贄にした奴らは皆殺しにたよ…許してくれ、だの、あの時はこうするしかなかったなんて言ったけど、僕は忘れない!!
実験されて変わり果てた僕の姿を、そう、中身は変わらない僕のままの僕を、皆がどんな目で見ていたか!!」
ヴェルゼンの目からは、涙が流れていた。
「…否定のしようがありませんね…しかし!!」
エルヴズユンデが、クライングフェザーを放つ。凄まじい爆発が、ヴェルゼンを飲み込む。
「それならば、既に復讐は果たされているではありませんか!!」
しかし、直後、沢山のオーガティスが突っ込んできて、エルヴズユンデを取り押さえる。
「フフ…確かに、一度は復讐は果たされたさ…そして、最高位異形は、人の形態に戻る事すらも可能…僕は、自由にはなる事が出来た。
けど、結局、そうして復讐を果たした僕を、誰も受け入れてはくれなかった…むしろ、僕を危険な異形として、討伐しようとした!!
僕はただ、当然の復讐を果たしただけなのに、僕の言葉を聞く人間はいなかった!!
生き延びる為に、立ち塞がる全てを倒せば倒すほど、人は躍起になって僕を倒そうとした…!!」
「……」
エルヴズユンデが、拘束を強引に振り切る。ギルティアの目からも涙が流れる。何も言えなかった。
周囲のオーガティスを迎撃し、そのままヴェルゼンに斬りかかる。
「沢山の旅人から追われ、追われ追われ追われた末に、僕は、まだ傷ついて動けない頃のインフィナイト様に出会った…!
インフィナイト様は、その結果自身の居場所がばれる危険があったのに、
僕をその隠れ場所に匿ってくれた…僕に自分の夢を語り、共に歩もうと手を差し伸べてくれた!!」
剣の振りを回避し、ヴェルゼンが再び爪を叩き込む。
エルヴズユンデがそれを回避し、蹴る。
「ぐうっ…!!」
既に、宇宙の八十パーセントほどが侵食されている。
「……」
何も、言う事など出来なかった。
インフィナイトよりも先に自分と出会っていれば、と、ギルティアは感じた。
そして、彼に手を差し伸べたインフィナイトの心に、恐らくは利用しようという魂胆は無かっただろう。
やはり本来は心優しい存在だったのだろうな、と感じた。しかし、もう、こうなってしまっては、何もかもが手遅れなのだ。
これ以上、被害を拡大させる訳には行かない。エルヴズユンデが、ヴェルゼンに突っ込む。
「あなたの願いを間違っていると言うつもりはありません…しかし、奪われる罪の無い命を、見過ごす訳には行きません!!」
「罪が無い?裏で起こっている事を何も知らずにのうのうと生きている、それが…そう、罪が無い事そのものが罪ですよ!!
…オーガティス、援護しなさい!!」
「あいよー!」
棘による波状攻撃から、一斉にオーガティスが突っ込んでくる。
「ディストレス・ストームッ!!」
エルヴズユンデの羽ばたきが発生させた凄まじい衝撃波が、棘を一斉になぎ払う。
そして、更に強く羽ばたき、突っ込んできたオーガティスの群れを、まるで紙切れのように吹き飛ばす。
「その一瞬を、待っていました!!」
衝撃波が途切れた一瞬を、ヴェルゼンは見逃さなかった。衝撃波を纏って、エルヴズユンデに突っ込む。
「…ッ!!」
エルヴズユンデが、左腕の爪から光の刃を展開して迎撃する。しかし、更に、そこに沢山のオーガティスが再び突進してくる。
「まだまだ!!」
ブラスターの雨が、突進してくるオーガティスを撃ち抜くが、更に多くのオーガティスが襲い掛かってくる。
そして、撃ち抜かれたオーガティスもすぐに再生し、突進を再開する。
「くうっ…!」
「終わりですよ!磔刑に処されて死ぬがいい…この、滅亡の魔女が!!」
ヴェルゼンが離れると、次の瞬間、オーガティスの群れの構えた槍が、全方向から一斉にエルヴズユンデを貫く。
「う、あ…!!」
そのオーガティスごと、後ろのオーガティスがエルヴズユンデを貫く。
「…で、大爆発、と」
そして、エルヴズユンデを貫いたオーガティスが、一斉に大爆発を発生させる。
「あああああああああああああああああああああああああああああーっ!!!!!」
爆風の中に、満身創痍のエルヴズユンデが漂っている。
「…う、く…まだまだ!ヴェルゼン…亡霊である私が、磔刑程度で死ねると思っているのですか!!」
胸部の核も損傷しているが、異形の力を完全に制御し、レベル2のアクセスを発動している今のエルヴズユンデに、その程度の損傷など問題にならない。
「あなた方の恨みで…宇宙群を…全てを滅ぼさせる訳には行きません…!!」
エルヴズユンデの損傷が、見る間に再生していく。
同時に、エルヴズユンデの左腕に紅色のヒビが入り、ギルティアの左腕の痛みが強くなる。
きっと、もう暫くすれば、また血が流れ出すだろう。
「…フフ、しかし、時間切れのようですよ」
ヴェルゼンの言葉に、オーガティスが続く。
「ケケ…ごちそうさま、だ!」
オーガティスが、宇宙を完全に捕食したのだ。宇宙の形状が、どんどん捻じ曲がっていく。
恒星、そして人が居住していない惑星が、どんどん、その形を変えていく。
不気味な、脈動するかのような星々、それは、それら一つ一つが、オーガティスの血肉となった証拠でもある。
空間だった部分が、どんどん、目に見える形状を成していく。
広がっていくのは、まるで生き物のように脈動する、壁。
それはまるで、巨大な生物の…そう、異形の体内にいるかのようだった…。
「…可能な限りの時間は稼ぎました…!!」
オーガティスが完全に宇宙を捕食したのであれば、後は外部の星々を守らねばならない。
エルヴズユンデが後退し、境界空間に出る。
宇宙が、下半身が炎に包まれた巨大なオーガティスのような形状へと変化している。
一方、後方には、脱出させた星々が確認できた。
すぐには攻撃できない程度の距離は確保されている。
「何とか、距離も稼げたようですね…後は…あなた方を倒すだけです!!」
エルヴズユンデが、再び剣を構えた…。
一方、全く別な場所で異形を討伐していたズィルヴァンシュピスも、異常事態に気付き、オーガティスが捕食した宇宙に向けて航行していた。
「異形が、宇宙を捕食なんて…前代未聞、だね…けど、急がないと、いくらお姉ちゃんでも…!」
艦橋で、異常事態に関するデータを見守りながら、イセリナが呟く。
「お嬢ちゃんの力ならば、あの程度の奴らに遅れは取るまい…だが、お嬢ちゃんの後ろにあるアレには、人が住んでおるのだろう?」
シリウスの問いに、イセリナが頷く。
「そう、あの星々には全て、幾億以上の人々が暮らしてるよ」
「お嬢ちゃんは、それらを全て守りきる気だ…きっとかなり不利な戦いになるに違いない」
「そうだね…お姉ちゃん…どうか、無事でいて…!」
イセリナが、心配そうに呟いた…。
オーガティスの笑いが、境界空間に木霊する。
「ケケッ…分かってるんだよォ?お前はあの惑星を守りながら戦ってんだろう?」
オーガティスが、ニヤリと笑う。
「なら、あの星々を狙うだけさ!!」
再び、オーガティスの群れが姿を現す。
「お前一人で、果たして守りきれるかい!?」
狙いを惑星へと変更したオーガティスの群れが、広範囲に広がりながら迫る。
「…守り切れるか、ではなく、守り切るのです」
ギルティアは、静かに笑った。
「…それが、私の使命なのですから。クライング・フェザー…ブレェェェェェェェイクッ!!!!」
飛び散る翼が光の矢となり、凄まじい爆発が、オーガティスの群れを薙ぎ払う。
「鍵は…本来は一人で戦うべき存在、まして、私ならば…尚更です」
オーガティスが一体でも到達してしまえば、惑星の一つや二つ、易々と壊滅してしまうだろう。
同時に、今ギルティアが対峙している相手は、今までギルティアと共に旅をしてきた皆であろうと、犠牲が出る事は避けられない、そんなレベルの敵だ。
そして、ギルティアはただの鍵ではない、ギルティアは、ギルティアだ。
そう、百五十パーセントという、常軌を逸したアクセス能力を行使できるギルティアを、一体誰が助けられるというのだ。
「そう…後ろにある守るべき全ての為に、私は一歩も退く訳には行かないのです…!」
「けど、あなたはここで負ける…そう、僕達に負ける!!」
ヴェルゼンが、オーガティスの群れの先頭に立って突っ込んでくる。オーガティスも、大量のオーガティスを放出する。
「その程度で…私を突破する事は出来ません!!」
エルヴズユンデが羽ばたき続け、光の矢を延々と撃ち続けている。オーガティスの群れは、再生する前に次々と爆風に消える。
「隙あり…!!」
ヴェルゼンが、エルヴズユンデの横を通過しようとする。
しかし、直後、ギルティアはすぐにそれに対応する。
「無駄です!ディストレス・ストームッ!!!」
エルヴズユンデが、光の矢を放ち続けると同時に、衝撃波でヴェルゼンを迎撃する。
「ぐあああああああああああっ!!」
ヴェルゼンが吹っ飛ばされる。
「ヴェルゼンッ!!」
「私は…負ける訳には行きません!!」
しかし、直後、ギルティアの左腕の痛みが強くなる。
「…ぐっ…!!」
左腕の痛みは強くなり続けている。しかし、同時に、オーガティスのエネルギー総量が、少しずつ削られている。
オーガティスも、自らの一部を完全に消滅させられると、流石にダメージはあるらしい。
「ふ、ふふ…どちらが先に力尽きるか…ヴェルゼン、オーガティス!勝負です!!」
「…馬鹿だねぇ…まだ、自分が救世主だと信じてるのかい?」
オーガティスが笑う。
「救世主であろうと無かろうと、私は私の務めを果たすだけです…!」
オーガティスが、巨大な盾でエルヴズユンデを殴る。
もちろん、宇宙を取り込んだオーガティスの盾のサイズがどれだけかは、推して知るべし、だ。
「…ぐ、うううう…!!」
宇宙の大きさと比べれば、塵のようなサイズのエルヴズユンデが、それを受け止める。
「ケーッケッケッケ!!これを喰らえ!!」
受け止めた隙を突いて、オーガティスが同じく巨大な炎槍をエルヴズユンデに突き出す。
その圧倒的質量と、槍が纏った炎の嵐に飲み込まれ、エルヴズユンデが吹き飛ばされる。
「今だ!ヴェルゼン!!」
ヴェルゼンが、惑星の方に向かおうとする。
「行かせはしませんっ!!」
エルヴズユンデが吹き飛ばされながらも、ブラスターでヴェルゼンを捉える。
「く、っ…!」
「貰ったァ!!!」
オーガティスの群れが、ブラスターを喰らったヴェルゼンの横を抜けていく。
「まだまだ!!」
姿勢を整えたエルヴズユンデが、クライングフェザーでそれを一掃する。
「くっ…流石はギルティア=ループリング…一筋縄では行きませんか…オーガティス!!」
「お、いよいよアレをやるんだな?任せろ!!」
オーガティスの身体から放たれている炎が、ヴェルゼンの周囲に集まり、ヴェルゼンを包み込む。
「フフ…まさかこうも早く変異する事になるとは…しかし、相手が貴様である以上、それも止む無し、ですね…。
見るが良い、ギルティア=ループリング…この僕の力を!!」
そして、その炎が閃光に変わり、その中央から、一筋の閃光が、エルヴズユンデに一閃を叩き込んだ。
エルヴズユンデの腰部に、深い傷がつく。
「…ッ…!?」
その閃光の正体は、姿を変えたヴェルゼンだった。
形状はより攻撃的になり、以前爪だったものと同じ形状の大鎌を携えている。
「オーガティスからのエネルギー供給で、僕自身も更に変異する事が出来た…そう、僕達は最高位異形を超えた…いわば…究極異形だ!!」
「究極異形…ですか…」
成る程、相手が強気だった理由は、この切り札を隠していたからか。
「…上等、です」
ギルティアが呟いた直後、再びオーガティスが、盾でエルヴズユンデを殴る。
「ふんっ!!」
エルヴズユンデが、剣の一閃でオーガティスの盾をぶち抜く。
「な、何だと!?」
「その隙を逃がしはしない!!」
ヴェルゼンが、大鎌を振り下ろす。
「何の!」
左腕のクローからのレーザーを刀身とし、大鎌を受け止める。
「オーガティス!今です!!」
「ケーッケッケ!あいよ、ヴェルゼン!!」
「ッ!?」
オーガティスの群れが、エルヴズユンデの横を抜けていく。
「絶対に…護ってみせる!ディストレス・ストームッ!!!」
「うぐっ!?」
衝撃波がヴェルゼンを吹き飛ばす。
「行かせはしません!!」
エルヴズユンデが、ブラスターとクライングフェザーでオーガティスの群れを攻撃する。
「愚かな、その程度の衝撃波で、今の僕は止められない!!」
「ぐ、っ…!」
大鎌の薙ぎ払いが、咄嗟に回避したエルヴズユンデの左足を斬り落とす。
そして、オーガティスの群れが、まだ二体ほど残っている。
「し、しまった…!」
一瞬の隙を突いて、更にヴェルゼンが追撃をかける。鎌を剣で受け止める。
「まだまだ…!!」
エルヴズユンデが、左腕から拡散レーザーを放って二体のオーガティスを仕留める。
「はあああああああああああああああああああああーっ!!!」
強引にヴェルゼンを押し飛ばす。
「そう、守るべきものがある事が、鍵の、そしてあなたの最大の弱点です!!今ですよ、オーガティス!!」
「あいよ、オラァ!!」
「!?」
オーガティスが、槍をエルヴズユンデの背後から叩き込む。
「ぐ…ぅ…!」
更に、続けて盾で殴りつける。
「…か…はっ…!」
その圧倒的質量が、もろにエルヴズユンデに直撃する。
エルヴズユンデの装甲各部にひびが入り、火花が散る。
「オーガティス、良いタイミングです!」
「ケーッケッケッケェェェェェ!!これからお前は何も守れずに死ぬんだよ!今だ、ヴェルゼン!!」
「貰ったぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
ヴェルゼンが、大鎌を構えてエルヴズユンデに突っ込む。
「くっ、迎撃が間に合わない…負けられ…ないのに…!!」
直撃でも何とか持ちこたえられるだろうが、その状態で巻き返すのは厳しいだろう。
大鎌がエルヴズユンデの核を薙ぎ払おうとした、次の瞬間だった。
「そこまでだ!ヴェルゼン!オーガティス!」
境界空間全体を揺るがすような咆哮と共に、夥しい火球がヴェルゼンに襲い掛かり、ヴェルゼンが吹き飛ばされる。
「…今の…は!?」
皆の視線の先にいたのは、見覚えのある白い異形だった。
「…グラン…ディオス…!!」
吹き飛ばされながら、ヴェルゼンはその異形の名を呟いた…。
続く




