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地平の旅人  作者: 白翼冥竜
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Act.82 ハッピーエンドの裏に


   Act.82 ハッピーエンドの裏に


 祝勝会の次の日の午後、エルヴズユンデは憐歌のいる宇宙へと飛翔していた。

 隣には紅竜が、並んで航行している。

「重ね重ね、今回の支援に心から感謝します…おかげで、私の損害が少なくて済みました」

 ギルティアの言葉に、紅竜の艦橋から、ガザードの返答が来る。

「いいや、俺達にとっての障害が、犠牲もそれ程出さずに取り除けたのは、姫様のおかげだ…感謝しなければならないのは、俺達の方さ」

「そうですか…」

 そして、ギルティアは続ける。

「…では、そちらの航路上の世界、宇宙の異形討伐はお任せしますよ」

 その言葉に、ガザードが頷く。

「ああ、任せときな!そっちも、お仲間によろしく言っといてくれよ!」

「ええ、分かりました」

 午前の間、ギルティア達は、異形の拡散分布を確認し、組織的討伐の準備を進めていた。

 紅竜は、ギルティアの故郷の方面に飛散した異形を、その本来の目的の航路に沿って討伐する事になった。

 そして、ギルティア達は、今旅をしている宇宙群を含む、それ以外の方面の異形を、それぞれで討伐する事になったのだ。

「それじゃ、俺達はこれで失礼するぜ。縁が会ったら、また会おう!!」

 そして、イージスが通信に割り込む。

「さらばだ、ギルティア=ループリングよ!正義が呼べば、また会うこともあるだろう!!」

 イージスは相変わらず棒読みだったが、ギルティアは微笑んだ。

「ええ、イージスも…願わくば、汝に正義が共に在らん事を。

 そして、紅蓮の旅団の皆さん…願わくば、皆の旅に、幸多からん事を…」

「ああ、姫様も達者でな!さて…紅竜、転進!本来の航路に復帰するぞ!!」

 そして、艦橋に、了解!という言葉が響き渡ったと同時に、通信は途切れる。

 紅竜は、転進してエルヴズユンデから離脱していった…。

「さて、私も行きましょうか…エルヴズユンデ!」

 ギルティアの言葉に答えるように、エルヴズユンデは加速した。

 インフィナイトを倒してから、翼は、黒い四枚の翼ではなく、それ以前の翼の構成へと戻っていた。

 ギルティア自身の翼もまた、同様だ。それらはまるで、ギルティアが異形の力を捻じ伏せた事を現しているかのようだった…。


 一方、白銀の旅団のメンバー達とシリウス達は、周囲の世界、宇宙に散った異形を討伐しながら、まだ帝国首都に滞在していた。

 イセリナが合流したとはいえ、一時的に白銀の旅団が再会しただけでしかない。

 インフィナイトの撃破という目的が達成された今、後処理の後にどうするかをまだ決めあぐねていたのだ。

「そういえば、イセリナ様は解散後は何をやっていらしたのですかな?」

 アルフレッドの問いに、イセリナは苦笑する。

「何…と言われてもね…解散前と何も変わらないよ…ただ、旅を続けてきただけ」

「そうでしたか…となれば、またズィルヴァンシュピスは封印ですかな?」

 その言葉に、イセリナは頷く。

「せっかく起動したのにまだあんまり活躍して無い気がするのが悲しいけどね」

「だな…ズィルヴァンシュピスの力があっても援護くらいしかできないとは…まぁ、まだ活躍できる程度にも戦ってはいないがな」

 ファラオ店長の言葉に、イセリナが頷く。

「まぁね…けど、お姉ちゃんにも会えたし、もう、私が旅を続ける理由も無くなっちゃったなぁ…」

「そうか…そういえば、イセリナ様が旅をしていた本当の理由は、ギルティアさんといつか再開する事だったのでしたな…」

「うん、唯一の願いも叶っちゃったから…本当、これからどうしよう…」

 しかし、イセリナは、とりあえず、と続ける。

「まぁ、取り敢えず、要塞から散った異形を完全に処理してしまう事が先決かな。

 それに、あの要塞にいた異形が、本当に飛び散った異形と、要塞の爆発だけで消えたのかも、まだ分からないしね。

 もし、それで全部じゃないなら、この戦い…まだ、終わらないよ…ズィルヴァンシュピスの封印は、その後になるでしょ」

 その言葉に、ファラオ店長とアルフレッドが頷く。


 そこから少し離れた場所で、シリウス達も今後について協議していた。

「んじゃ、お前はこのまま旅を続けるんだな、シリウスよ」

「うむ、お嬢ちゃんについて行くかはともかく、まだ、見足りないのだ。

 アークトゥルースも、せっかくここまでの力を手に入れた…まだ、戦い足りぬ。

 …それに、エルグリオとの決着も、まだ付いておらぬからな」

 その言葉に、レディオスが頷く。

「俺もそれが良いと思うぞ。今のフレアドイリーガルのパワーでは、この宇宙群の未来を賭けた戦い、足止め程度しかできない事が分かったからな…。

 俺はこの戦いが終わったら、フルメタルコロッセオに復帰しながら、フレアドの社長、社員と協力してお前の剣を超える武器を開発してみようと考えている。

 俺が旅に出るとしても、それが完成した後だ…先に行って待ってろ」

 レディオスの言葉に、シリウスは笑った。

「フ…お主らしいな…藤木はどうするんだ?」

「おいおい、俺はお前と違ってまだ現役の社長だぜ?部下を放っぽり出して旅は出来ねえ。

 ま、社長を引退する時までに、お前の武器に対応できる最終兵器を作っておくさ。

 旅するにしても、それからだ…それまでは、ま、行くとしても近所だろうな」

「ゲーセン目当てか?」

 その言葉に、藤木は苦笑する。

「…ご名答」

「だろうな…」

 まぁ、と、藤木は再び言葉を紡ぐ。

「この事件が終わるまでは付き合ってやるさ。俺達の世界にも無関係な事件じゃないからな」

「ああ、それまでは、パワー不足だが今のままで行くしかないだろう。

 …それに、多少のパワー不足は、相手に対するハンデだ」

 レディオスは、そう言ってニヤリと笑った。

「フ…言いおるな、流石はレディオスか…さぁ、もう一頑張りだ、きっちりと決着をつけようぞ」

 シリウスの言葉に、二人は無言で頷く。

「そろそろ私達も今日の異形討伐箇所の宇宙に行くよー!!」

 ズィルヴァンシュピスへ向かいながら、イセリナが呼んでいる。

「っと…お呼びがかかったか…さて、行くとしようぞ!」

「おう!」

「フ…腕が鳴る、と言っておこう…!」

 そして、三人はズィルヴァンシュピスの方へと歩き出した…。


 ギルティアは、憐歌の家の前に辿り着いていた。

「……?」

 そこには『売家』の看板が立っている。

「…憐歌、どうしたのでしょうか…」

 ギルティアは、取り敢えず、晴夜の家へと歩き出す。

 そして、晴夜の家の前に来た時に、ギルティアは、憐歌の家が売家になっていた理由を理解した。

「憐歌!」

 晴夜の家の玄関を、憐歌が箒で掃いている。

「ギルティア!?」

「…家に行っても売家の看板があって、一体どうしたのか心配しましたよ」

「あの後、色々あってせーやの家に居候する事になってね」

 そう語る憐歌は、本当に幸せそうだった。

 ああ、本当にハッピーエンドになったようで良かったと、ギルティアは微笑んだ。

「幸せそうで何よりです…こちらも、インフィナイトを倒す事ができました」

「…!」

「…私の方は、残念ながら『成仏』には至りませんでしたけど、ね」

 そう言って、ギルティアは苦笑する。

 その直後、玄関の戸が開く音が聞こえる。

「…ギルティアさん…?」

 戸を開けて出てきたのは、晴夜だった。

「晴夜さん…ですか」

「帰ってきたって事は、全部終わったんだな?」

 ギルティアは、首を横に振った。

「…一段落はつきましたが、私の…鍵の戦いに終わりが無い事は、憐歌の言葉から、知っている筈です」

「…そう、か…」

 ギルティアは、憐歌に向き直る。

「しかし、最も危険な相手は倒しました…今日は、アクセスキーを返却しに来たのです」

 その言葉に、憐歌は苦笑した。

「私に返してどうするのよ…持ってたって余計な戦いに巻き込まれるだけでしょ。

 私には不要の、そして、ただ邪魔になるだけのものよ。

 だから、その力はあなたが使いなさい…あなたの命尽きる、その瞬間までね」

 その言葉に、ギルティアは少し考え、頷く。

「…分かりました、ありがたく使わせて頂きます」

 憐歌は少し考え、言葉を紡ぐ。

「…うーん、あなたの機体の名前に合わせるなら、『憐鍵刃バルムヘルツィヒカイト』って所かしら?」

「え?」

 首を傾げるギルティアに、憐歌は笑った。

「アクセスキーは剣だから…あなたの事だし、名前が必要かなと思ってね」

「…成る程…!」

「バルムヘルツィヒカイト…慈悲とか慈愛とか…確か、そんな意味よ。

 憐れみの歌の名を持つこの私のアクセスキーに、そして、敵の罪すらも祓おうと願うあなたには相応しい名前だと思うけど?」

 その言葉に、ギルティアは微笑んだ。

「…そう、ですね…」

 そして、ギルティアは言葉を続ける。

「…そういえば、憐歌…一つ聞きたい事があります。

 この宇宙群のクリエイターの…インフィナイト、曙光竜ライズの身に起こった事について、心当たりはありませんか?」

 その言葉に、憐歌は少し考え、口を開く。

「…私が生まれたのは既に彼が『死んだ』後よ…それまで、何度かこの宇宙群の鍵は殺されているわ。

 少なくとも、この宇宙群の人類は、鍵や究極生命を危険視、あるいは利用しようとしていた事は確かね」

 その言葉で、ルークの身に起こっていた事をギルティアは思い出す。

「インフィナイトは、一体何を望んだのか…それを調べているのです」

「倒した相手の戦った理由を探すなんて…相変わらず、本当、優し過ぎるわね。

 けど、そういう事なら、情報があるとすれば、恐らく旧『大帝国』のデータベースね」

「…大帝国?」

 憐歌は頷き、言葉を続ける。

「ガルデンベルグ大帝国…宇宙群全体に侵略の手を伸ばした巨大な帝国よ。

 私が生まれた頃には、既に完全に壊滅していたけど…」

 ルークが滅ぼした件の文明の事か、と、ギルティアは理解する。

「分かりました、心当たりがありますので調べてみます」

 そして、ギルティアは続ける。

「ところで、この宇宙に足を運んだついでに、今晩、先日の戦いでこの宇宙に飛来した異形を討伐するつもりなのですが、憐歌、一緒にどうです?」

 その言葉に、憐歌は苦笑する。

「あのねぇ…今の私はただの普通の女の子なのよ?出ても役に立たないって。

 それに、先日のあなたとの戦いで、もう戦いは懲り懲りよ」

 その言葉に、ギルティアは笑った。

「ですよね…流石に今のは軽い冗談です…どのみち、今の私の力ならば、私一人で十分ですから。

 しかし…憐歌、私に後を全て押し付けたのです、晴夜さんとちゃんと幸せにならなければ、許しませんよ」

「心配しなくても、十分幸せよ。ね、せーや!」

「ま、そういう事だな、心配しなくても大丈夫だ…ギルティアさん、俺達は上手くやってるよ」

 その言葉に、ギルティアは満足そうに頷くと、言葉を続ける。

「それなら良かった…きっと、憐歌には鍵よりも人の方が向いています。

 今のこの結末は、今の私が導き出し得る最善の結末です。しかし、今後もそれを守れるかは、あなた方二人次第です」

「ああ、ギルティアさん、あんたには感謝してるよ。けど、あんたも、いつかは…」

 その言葉を、ギルティアは遮る。

「その先の言葉は不要です。これが最善の結末…だから、私はこれで良いのです。

 …その『いつか』は、私には存在し得ません」

 その言葉に、晴夜は苦笑する。

「頑なだなぁ…」

「…存在意義を果たす事しか出来ない亡霊が、そこから先の言葉を聞いたところで、虚しいだけですから…私なら、大丈夫。

 さて、異形討伐の準備もありますし…そろそろ、私はお暇しますよ。

 もし、まだ私が生きていれば、いつかまた来ます…どうか、幸せに」

 そう言って寂しげに微笑み、ギルティアは歩き出す。

「ただの…普通の女の子、か…私には無縁な言葉です。

 さぁ…私のただ一つの存在意義を、果たしに行きましょう…!」

 そう言って、晴れない心を強引に振り払うと、ギルティアは既に夕暮れの赤に染まり始めている町を駆け出した…。


続く


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