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地平の旅人  作者: 白翼冥竜
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Act.81 祝勝会


   Act.81 祝勝会


 ギルティアが目を覚ました次の日、紅色の豪華なドレスに身を包んだギルティアが、宮殿の大広間へと中庭を歩いている。

「勝利を祝う宴…私には似つかわしいものではない気がします…。

 しかし、こんな私についてきてくれた皆には報いねばなりません…楽しまねば、楽しませねば…!」

 更に歩きながら、ギルティアは考え続ける。

「…しかし、やはり…どうしたら皆は喜んでくれるのでしょうか…」

 人と関わるようになってから、余計な事を考える時間が増えたな、と、ギルティアは改めて思う。

「…やれやれ、です」

 ギルティアは苦笑した。

「…全ては、この戦いに真の意味で決着をつけるまでの辛抱です」

 敵の要塞から放出された異形を完全に倒してしまえば、後は危険は無い。

 元々、ルークの封印が解かれたあの事件から、この異変と対峙していなければ、既にギルティアは別の宇宙群に赴いていただろう。

 多少遅れたが、この処理が終われば他の旅人に任せても問題は無い。

 旅人の組合に異形の集まりやすい場所などのデータを渡せば、組織的討伐が行えるだろう。

 後は、インフィナイトが事件を起こした原因を探り、本当の意味での『決着』をつけてから、その後は別の宇宙群に移動する。

 そうすれば、また、今まで通りの一人に戻る。

 今までも、そしてこれからも変わらない、ギルティアが生きて、鍵の使命を果たし続ける限り、ただ、それだけだ。

「あとどれだけ戦い続ければ、私は眠れるのでしょうね…」

 ギルティアはそう言って、寂しげに笑った。

 少なくとも、異形が誕生する以前は、鍵はここまでオーバーワークでは無かった筈だ。

 もしその時代ならば、憐歌も鍵の使命を放棄する必要はなかっただろうし、ギルティアは、きっと旅の果てに辿り着き、終わりの無い眠りに就いていただろう。

 もっと根本的な解決が出来れば良いのではあるが、それを成立するには、少なくとも億単位以上の人間を使用した人体実験によってデータを蓄積する必要がある。

 その時点で既に人道も何もあったものではない。

 そして更に悪い事に、そこまでを成し遂げたとしても、実際にそれを可能にする手段を生み出せるかどうかは疑問だ。

 しかし、その思考を振り払うように、ギルティアは呟く。

「…さぁ、一つの事件が終わるまで、もう一息です」

 ギルティアは、大広間の扉を開けた…。


 中庭と繋がっている大広間では、既に大勢の人々が待機していた。

「皆さん、お待たせしました!では、祝勝会を始めたいと思います!!遠慮は不要です、皆さん、じゃんじゃんやって下さい!!」

 ギルティアの言葉に、その場の全員が歓声で応える。

「…さて、私も…」

 ギルティアが、宴の人の輪の中へ入る。

「ギルティア様!」

 エーリッヒが、ギルティアに駆け寄ってくる。

「どうしました?エーリッヒ」

「昨日の指示通り、ドレス職人のローザ=エルフェイス様をご招待いたしました…こちらです」

 エーリッヒが、後ろに立っていた女性に道を譲る。

 美しい赤紫色のドレスに身を包んだ金髪の女性だった。

「始めまして『赤葉のローザ』こと、ローザ=エルフェイスです」

「ギルティア=ループリングです。先日は勝手にウェディングドレスを拝借してしまい、本当に申し訳ありませんでした…!!」

 そう言って、ギルティアは深く頭を下げる。

 それに対して、ローザと名乗った女性は笑った。

「…良いのですよ、美しいものは、その価値が分かる者が、そしてその美を引き出せる者が着なくては、ただの布と変わりませんからね」

 そして、ローザは話を続ける。

「…ギルティア様がたった一人で宮殿からの砲撃から皆を守った時に、私もそこにいたのです。

 あの時、血塗れのドレスで微笑んだあなたは、こう言うと語弊がありますが…切なくなるほどに美しかったのです。

 あなたならば、私のドレスの美しさを、その限界以上に引き出してくれる、そう確信しました」

 その言葉に、ギルティアは苦笑する。

「はははは…それは、光栄です」

「そして事実、ドレスを作った私自身の想定を遥かに上回る美しさをあなたは引き出しておられる!!

 その姿!まさしく女神!!いやぁ、ドレス作っててよかったです!!」

 ローザは、満面の笑みでそう言った。

「…確かに私好みの服ですが…私自身、そこまで言われるほど美しいとは思えないのですが…」

 ギルティア自身はただ着たいように服を着ているだけだ。

 その言葉に、ローザはものすごい勢いで首を横に振る。

「いえいえいえいえいえいえ!!

 これを美と、芸術といわないのなら、どんな世界のどんな名画も、どんな彫刻も、美ではなくただのガラクタとしか言えません!!」

「は…ははは、は…」

 ギルティアは、ローザに妙な既視感を覚える。そして、数秒後にその既視感の正体に気付く。

 フルメタルコロッセオの世界の、リラ=アルフィン…。

 『白羽のリラ』と呼ばれたバトルスーツデザイナーであり、彼女もギルティアに目をつけていた。

「…同じように私に目をつけた方が、もう一人いらっしゃいますよ」

「ほう…それは中々の審美眼を持った方のようですね…一度お会いしてみたい物です」

 その頃、フルメタルコロッセオの世界では、リラがくしゃみをしたらしい…。


 一方、その頃、厨房の方では、宮殿で雇っているコック長とファラオ店長が喧嘩をしていた。

「そんな下賎な料理をギルティア様に出せるかーっ!!」

 いかにも、といった風貌のコック長の叫びに、ファラオ店長が咆える。

「ラーメンを下賎だと、ふざけんじゃねえ!!」

 そう、ファラオ店長がラーメンを振舞おうとした事に対して、コック長が文句をつけたのだ。

 もちろん、そもそもコック長はラーメンという料理自体を知らない。

 だが、それが大衆料理であるというだけで、食って掛かったのだ。

「一つの世界の一つの帝国の最上級コック風情が、天狗になるのも大概にしやがれ!!」

 コック長は、天狗という言葉の意味は分からなかったが、言いたい事は理解し、反論する。

「黙れ!我らの恩人たるギルティア様には、いつでも最高級の料理を食べて頂くべきなのだ!!」

「嬢ちゃんはこれが好物なんだよ!!」

 ファラオ店長の言葉に、コック長が驚く。

「な、何だと!?」

「恩人の好物も把握しないで、最高級の料理だぁ!?心ってもんが足りねェぞ!!」

 ファラオ店長の言葉に、コック長が押される。

「ぐぐ…!」

 コック長は暫く考え、頷く。

「…分かった。なら、出すといい」

 ただし、と続ける。

「その味で私を唸らせられたらな!!私とて料理人の端くれ、味にはプライドがある…公平な評価を約束しよう。

 それに、その…ギルティア様のお眼鏡に叶った料理、興味が…」

「フ…やはりお前さんも料理人か…良いだろ、なら、しっかり味わいな…これが、俺の料理だ!!」

 ファラオ店長は、コック長にラーメンを差し出した…。


 シリウスは、イージスと二人で酒を飲んでいる。

「…やはり、正体を明かす気は無い、か?」

「ああ、不必要な軋轢は避けたい。そもそも、仲間だったという訳でも友だったという訳でもない以上、正体を明かす理由など存在しないと判断」

「まぁ、確かに、明かす必要も無い、といえば必要は無いのだろうな」

 シリウスは、そう言って苦笑した。

「それに、こうして再会したのも所詮は偶然であると断定…俺は運命というものを信じないのでな。

 出会おうが出会うまいが、俺には関係ない」

「…そうか。もっとも、わしはお嬢ちゃんがお主を恨んでいるようには思えんがな…」

 シリウスは、酒を一気に飲み干す。

「…確かにな」

 イージスは頷き、酒を一気に飲み干す。

「さて、もう一杯行くのか?」

 イージスの言葉に、シリウスは笑う。

「うむ!」

「お、男二人で寂しく酒盛りかよ?」

 言葉に、シリウスが顔を上げる。

「藤木か…」

 レディオスにアルフレッドもいる。

「俺達も混ぜな!戦勝のめでたい席なんだ、寂しく飲むのは無しだ!」

 その言葉に、シリウスは頷く。

「うむ、それもそうだな…イージス、良いか?」

「…構わないと返答…いずれ借りは返す」

「決まりだな」

 そうして、三人を加え、片隅の酒盛りは続く…。


 厨房の方では、コック長が愕然としていた。

「馬鹿な…この味を…大衆料理だと…!?」

「…お前さんは、大衆料理をなめすぎているな。皆に広まっているのは、値段が安いからだけじゃねェ。

 本当に良い料理ってのは、皆が食べられて、それでいて美味い料理さ。

 確かに高級な食材と良い腕のコックが生み出す高級な料理が美味いのは当たり前だ。

 だが、いかにして値段の安いものを美味しく作るか、そこにも、料理人の腕が関わってくるたぁ…思わねえか?」

 その言葉に、コック長は思わず納得する。

「確かに…それは認めざるを得んな…どうやら、私の負けらしい。ギルティア様に、渾身の一杯を、作ってやってくれ」

 その言葉に、ファラオ店長が笑う。

「…お前さん、名前は?」

「…ルドルフ=アインハイト」

「俺はカーメン=T=尾崎だ」

 そして、ファラオ店長は言葉を続ける。

「…ルドルフ、お前も作るんだよ」

 その言葉に、ルドルフは『は?』といった感じに首を傾げる。

「…大広間に出した料理、そろそろ切れるぞ」

「あ、ああ!そういう事か!!」

「俺の渾身の一杯は見せてやったんだ…さぁ、お前さんの渾身の一皿、俺にも見せてくれよ」

 ファラオ店長は、調理用具を準備し、大広間に歩き出す。

 どうやら、大広間で店開きをして直接ラーメンを作るつもりらしい。

「おい、皆、仕事を再開するぞ!!大衆料理人のカーメンなどに後れを取るな!!

 宮廷料理人として雇われた我らの真価、あの大衆料理人に見せつけてやれ!!」

 ルドルフの言葉に、今まで二人のやり取りを、唖然として見守っていた厨房のコックたちが、一斉に動き出した…。


 そして、大広間で、ファラオ店長が店開きを始めると、ギルティアはそこに急いで突っ込む。

「ファラオ店長、ラーメンを作るのですか!?」

「ああ、多分嬢ちゃんもそれを楽しみにしてるんじゃないかと思ってな」

 ギルティアが、ファラオ店長を手伝い始める。

「…手伝います!」

「おいおい、その格好で店開きの手伝いをするんじゃねえよ…」

 苦笑したファラオ店長のその言葉に、ギルティアが手を止める。

「インフィナイトとの戦いは、壮絶を極めた筈だ…こういう日くらい、ただの姫様でいて良いんだよ、嬢ちゃん」

「そう、ですか…」

「ま、ラーメン好きの姫様なんて嬢ちゃんくらいのもんかも知れんがな!はっはっは!!」

 ファラオ店長はそう言うと、店開きを完了し、ラーメンを作り始める。

「…私は…姫などではありませんが…」

「嬢ちゃんが、嬢ちゃんとかお嬢ちゃんとか言われる理由、考えた事あるか?」

 その言葉に、ギルティアが少し考える。

 思えば、確かに、別な人間からも、そして、ルークからも言われた事がある。

「ええ、色々な方から言われましたので。しかし、姫では…別に私は王家の血脈という訳でもありませんし…そもそも鍵には血縁はありませんし…」

「今のこの状況を見ても、そんな事が言えるか?

 一つの帝国が嬢ちゃんに宮殿を与え、それだけじゃない、アルフレッドの所の世界でも、嬢ちゃんは英雄扱いだ。

 今ここにいる皆は、お前を中心にして集まったんだぜ?

 …ほらよ、ツタンカー麺お待ち!」

 ファラオ店長が、完成したラーメンをギルティアに渡す。

「美味そうなもの食べてるじゃないか、ギルティア姫様」

 そのラーメンの香りに惹かれてきたのか、ガザードが、ギルティアの横に座る。

「…俺にもラーメン頼むわ」

「あいよ」

「姫って…」

 ギルティアが苦笑する。

「あんたのイメージを的確に表した、良い言葉だと思うぜ…もちろん、良い意味で、だ。

 まぁ…確かに、実質の、立場上の『姫様』では無いがな。

 だが、考えてみれば、鍵ってのはそもそも、『宇宙群』の娘、いわば『姫様』とも言えるんじゃないか?」

「それは、何となく、分かるような気もします…しかし、私が、姫ですか…」

 ギルティアは、改めて考える。確かに悪い気はしない。しかし、自分なんかが姫と呼ばれていいのか。

 鍵ですらない亡霊が、異形が、果たして、そんな呼ばれ方をするに足るのか。

「うーん…」

 ギルティアが考え込んでいることに気付き、ガザードが苦笑する。

「皆に聞いてみれば分かる事だ。少なくとも、ここに集まっている野郎共は、皆あんたを鍵だと認めてるさ」

「…そう、ですね…」

「へい、ラーメンお待ち」

 ガザードが、ラーメンを受け取る。

「これが、白銀の旅団の噂でも有名なツタンカー麺か…いただきます」

 一方、ガザードがラーメンを食べ始めるのとほぼ同時に、厨房の方から大量の料理が運ばれてくる。

「ほう…あいつめ、本気を出しやがったな…」

 ファラオ店長が、ニヤリと笑う。

「嬢ちゃん、向こうの料理も食べてやってくれ。ここのコックも相当気合入れて作ってる…味は俺が保証するぜ」

「はい」

 ラーメンを食べ終えると、ギルティアは歩き出した…。

「良い娘だよなぁ、彼女は…」

 ガザードが言う。

「全くだ。だが、良い娘過ぎるのが、きっと彼女を苦しめてるんだろうな」

「俺達じゃどうにも出来ないのが辛い所だな…」

「ああ…」

 会話しながら、ガザードがラーメンを食べ終える。

「…おかわりを頼む」

「フ…あいよ」

「お、ファラオ店長、ラーメンを店開き中か。どれ、わしにも一丁頼む」

 シリウスが、共に飲んでいた三人を引き連れて座る。

「…好評のようだな、カーメン。小生にも一丁くれ」


 アルフレッドが、更にそれに加わる。

「あいよ!」

 こうして、宮殿の大広間に似つかわしくないようなラーメン宴会が、大広間の隅で段々と広がり始めた…。


 一方、ギルティアが出された料理を食べていると、ピンク色の豪華なドレスに身を包んだイセリナが、ギルティアに駆け寄る。

「お姉ちゃん!」

「イセリナ…」

「こうして一緒に勝利を祝えるなんて、夢みたいだよね!」

 その言葉に、ギルティアが微笑む。

「ええ、私も、正直、今生きていられる事が不思議です。しかし…誰一人欠ける事無く、無事で良かった…。

 …せっかくですし、一緒に回りますか?」

「…うん!」

 こうして、ギルティアとイセリナは、出されていた料理を二人で食べ歩き始めた…。


 そして、その日の祝勝会は、大好評のまま幕を閉じた。

 とかく、出された料理の質と、ラーメンの味は、皆を感動させる程だったという…。


 一方、その頃、ある宇宙内部の閉鎖空間で、二体の異形が身を潜めていた。

「…オーガティス、傷は完治しましたか?」

「この傷は治療用培養槽無しでじゃこの短期間で完治は無理だよ。

 だが、この程度…気にする事も無いさ…最後の賭けに出るんだろ?」

 オーガティスの言葉に、ヴェルゼンは頷く。

「ええ、インフィナイト様亡き今、この宇宙群の全てを、インフィナイト様への供物にしてくれる…!!」

 その言葉に、オーガティスはケケケッと笑った。

「…で?そこまで言うって事は、具体的な手段は用意してあるのかい?」

「…ええ、切り札を用意してあります。ただし…始めてしまえば、もう、後戻りは出来ません。

 圧倒的な力は手に入りますが、劣勢になっても逃げる事が出来なくなるのです」

「…何をする気だ?」

 ヴェルゼンが、コンピュータの端末と、一枚のディスクを取り出す。

「グランディオスの構築していたデータを分析した結果です」

 一通り表示されたデータに目を通したオーガティスが、頷く。

「ケケッ…成る程、そういう事かよ。相変わらずとんでもない事を考えるもんだなぁ…。

 後戻りができないんだな?なら、俺がやるよ…お前は俺からのエネルギー供給があれば良いだろ?」

「しかし、それでは…!」

 オーガティスは笑った。

「なーにをビビってるんだい。俺の目的は、殺して、殺して、殺しまくり、生きて、生きて、生き抜く…!

 …ただそれだけだ、生きて生きて生き抜く事が出来ても、殺して殺して殺しまくるが出来なけりゃ、今、俺がここにいる理由がねえ。

 本気でやばくなったら、喚き散らしてその隙にでも付け込むさ…このまま何も出来ずに終わりたくは無いだろ?」

 その言葉に、ヴェルゼンが無言で頷く。

「なら、決まり、だな…さぁ、準備を始めようか」

「ま、待って下さいよ!」

 歩き出したオーガティスに、慌ててヴェルゼンが続く。

「さぁ…パーティーの始まりだ」

 歩きながら、オーガティスは静かに呟いた…。


続く


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