Act.79 たくさんの罪の彼方で
Act.79 たくさんの罪の彼方で
エルヴズユンデとインフィナイトが、同時に突進する。剣と剣が、真正面から激突する。
金属音ではなく、まるで、雷が落ちた時のような、鋭く、激しい音が響く。
それは、剣に込められた、凄まじいエネルギーが激突する音だった。
行き場を失ったエネルギーが、容赦なく周囲に飛び散る。
研究施設の培養槽が割れ、内部の指揮個体異形もまた、そのエネルギーに耐えきれずに砕け散る。
剣と剣がぶつかる度、文字通り、周囲の全てが、崩壊していく。
エルヴズユンデがやや力負けをする。エルヴズユンデが一歩退いて剣を受け流し、そのまま背後に回り込む。
「そこです!」
エルヴズユンデが、剣を横薙ぎに振り払おうとする。
「させぬ!」
インフィナイトが、背後を確認せずに創盾を剣を振った音にぶつける。
エルヴズユンデの剣が、盾と激突し、盾に深い傷がつく。
盾をぶつけた勢いのまま、インフィナイトが剣の柄でエルヴズユンデを殴る。
更に、剣を振り戻してエルヴズユンデを斬ろうとするのを、エルヴズユンデはインフィナイトの胸部を蹴り飛ばしてバランスを崩す事で回避する。
「ディストレス・ストームッ!!!」
衝撃波を乗せた羽ばたきが、至近距離からインフィナイトを飲み込む。
しかし、インフィナイトはその衝撃波を物ともせずにエルヴズユンデに体当たりを叩き込む。
「く…っ!!」
エルヴズユンデが吹き飛ばされる。
「ミッドナイト・ハウリング!!」
更に光の竜がそれに何度も追撃をかける。エルヴズユンデが、研究施設の壁に叩きつけられる。
「…まだまだ…!」
エルヴズユンデがすぐに体勢を立て直す。
光の竜に食いつかれた箇所も、既に再生が開始されている。
この程度で、倒されはしない。
「プリズナーブラスター…バァァァァァァストッ!!!」
ブラスターの雨が、インフィナイトに降り注ぐ。ダメージがないのは、既に承知の上だ。
「これでッ!!」
エルヴズユンデが、左腕の爪から放たれるレーザーを刀身として固定し、再びインフィナイトに突っ込む。
「無駄ぞ…今の余の力は、既に汝の持つ力を大幅に上回っている!!」
インフィナイトが、その翼に衝撃波を乗せて羽ばたく。
「それでも…私は負けるわけには行きません…!!」
エルヴズユンデが、それに飲み込まれるが、エルヴズユンデもまた、それを強引に突破してすれ違い様に一閃を叩き込む。
「ぬうっ…!!」
インフィナイトの胸部と左肩に、深い傷がつく。
しかし、衝撃波は容赦なくエルヴズユンデを傷つけ、装甲がズタズタになる。
再生は開始されているが、損傷は広域に及ぶ為、すぐには再生が間に合わない。しかし、エルヴズユンデは反転し、攻撃を続ける。
「アトネメントプライ…チャージ!!」
胸部に凄まじいエネルギーが集まり始める。
「フィニィィィィィィィィィィッシュ!!!!」
そして、空間すらも喰らう黒い光が解き放たれる。
「エンドレス・ハウリング!!」
インフィナイトの周囲に、光弾が展開され、それが、舞い散る黒い翼と重なり、一つに集まって黒い光の竜になって解き放たれる。
二つの絶大な力が、正面から激突する。
しかし、押し勝ったのは黒い光の竜だった。
「く、あああああああああああああああーっ!!!!」
黒い光の竜が、エルヴズユンデを噛み砕く。
そのまま、エネルギーの奔流がそれを押し流し、研究所の壁をいくつも突き破って吹き飛ばす。
「…う…うう…」
エルヴズユンデは、右肩のアーマーは全壊、同じく腕の方も剣を握るのがやっとの状態だ。
胸部アトネメントプライ発射口も、撃つ事は出来るがかなりの損傷、もちろんその奥の核にも、損傷が及んでいる。
まるで、初めてインフィナイトと戦った時だな、と、ギルティアは思う。あの時も、まるで歯が立たなかった。
だが、あの時のような助けも、あの時のような戦闘の中断も、今回は期待出来ない、いや、期待してはならない。
こんな危険な存在に対峙するのは、自分だけで十分だ。そして、その為に、ギルティアは生まれ、そしてここまで来た。
もしここで負けては、異形の力も、自らの今までの旅も、憐歌が託してくれた力も、全てが無意味なものになる。ここで負けるわけには行かない。
勝利への具体的な手段を、ギルティアは必死に考える。異形の力…いや、異形の力は現在引き出し得る限界まで引き出している。
アクセス…ふと、ギルティアは考える。現在、アクセス率は百パーセント、つまりは、全面的に外部アクセスキーである剣に頼っている。
ならば、今、自分の体内のアクセス機能も使用すれば、どうなるのだろうか…その力を、今の自分の力に上乗せ出来ないだろうか。
本来、それは鍵の仕様には無い事は、外部アクセスキーから得た情報で分かる。
異形の力を以って新たにその為のシステムを構築する事は、果たして不可能だろうか。
だが、その力でインフィナイトと互角以上に戦えるかどうかは分からない。
そして、自らが内に持つ異形の力が、そのシステム構築に耐えられるかどうかも分からない。
失敗すれば、良くてアクセス失敗、最悪、能力の限界を超え、自己崩壊、という事も考えられる…分からない、か。
ギルティアは、静かに笑った。
「…ならば、元より、私に選択肢などありませんね」
そうだ、憐歌に、結末はまだ定まってはいないと叫んだのは、他ならぬギルティア自身だ。
ならば、このまま劣勢で戦い続ける事、そう、結末が敗北に定まっている状況に意味はない。
「…多重アクセスプログラム、構築開始…!!」
奇跡は二度は起きない。ならば、二度目は自分で起こせばいい。
「インフィナイト…まだ、私は戦えます!!」
エルヴズユンデが立ち上がり、紅の翼が、再び羽ばたく。
「まだ、立ち上がるか…!!」
「私は、最期の瞬間まで諦めはしません…!!」
「フ…汝のアクセスキーを奪う事を考えていたが…気が変わったよ。
…余もこの力を十二分に扱えるようになった。そして何より、汝はそのまま散るほうが幸せであろうな…ここで散るがいい!!」
インフィナイトが、剣の一振りで衝撃波を起こす。
「何の!!」
エルヴズユンデが、左腕の爪で光学シールドを展開し、それを防ぐ。
「はああああああああああーっ!!!」
一気に踏み込み、剣を叩き込む。インフィナイトの肩に傷がつくが、すぐに再生する。
「その程度で、余を倒す事など不可能ぞ!!」
「…承知の上です!そして、たとえそうだからといって、私はこの宇宙群の未来を諦めるわけには行きません!!」
そして、エルヴズユンデは羽ばたく。
「クライング・フェザー…ブレェェェェェェェェェイクッ!!!!」
ブラスターが飛び散る翼に乗り、紅の矢となってインフィナイトに襲い掛かる。
「不可能だと言っている!!」
インフィナイトが、衝撃波を乗せた羽ばたきで、その爆発すらも吹き飛ばす。
「ならばあなたは、不可能ならば自らの目的を諦められるのですか…!!」
ギルティアの言葉に、インフィナイトはニヤリと笑い、頷く。
「成る程…確かに、汝の言うとおりだ…その覚悟は同じ、という訳か…」
インフィナイトが羽ばたき、空中にいたエルヴズユンデとの距離を一気に詰める。
「ふんっ!!」
インフィナイトが、エルヴズユンデに剣を叩き込む。
しかし、エルヴズユンデはそれを右下に回避し、左腕の爪をインフィナイトの胸部にぶち込む。
「ぐうっ…!!」
更に、爪を外側に切り払う。そして、渾身の体当たりでインフィナイトを押し飛ばす。
ギルティアが、プログラム構築を続ける。プログラム構築率五十パーセント…行ける。
ギルティアが、そう思った、直後だった。ギルティアの左腕に、脈打つような激痛が走る。
「…う…ぐ!?」
紅のラインが走っていた左腕の爪に、同様の紅の光のヒビが走り、血が滴る。
エルヴズユンデの左腕にも、同様の症状が現れているようだ。
「フ…何をしようとしたかは知らぬが、汝、その様子だと、異形の力を使いすぎたな…!」
なるほど、これが、異形の力の限界を越えた、という事なのか。構築が停止する。
「…あと少し…なのに…!!」
激痛を堪えながら、ギルティアが呟く。
「我が身が砕け散ろうとも…構わないと言った筈です!!この戦いが終わるまで…持ちこたえて見せなさい!!」
ギルティアは、自らに叫ぶ。それに応えるように、左腕の痛みが更に強くなる。
左腕の、血が、止まらない。しかし、プログラム構築が、再開される。
「インフィナイト…私とて、この使命を果たす事に今まで、命を賭けてきました…!
あなたを倒して、一つの、宇宙群の危機が終わりを迎えると言うのならば…私は喜んでこの身を捧げましょう…!!!」
エルヴズユンデが、再び一歩を踏み出す。
「その覚悟、見事、と言っておこう…ならば、その目的が成就する前に、余は汝を滅ぼして見せようぞ!!」
インフィナイトが、剣を構える。
「ナイトレイド・リヴェリオォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!」
黒い光を宿した剣が、エルヴズユンデに迫る。
異形の力を全てプログラム構築に使用している今、これに対抗しうる攻撃を使用する事は出来ない。
ギルティアが、目を閉じる。
「……」
刃の放つエネルギーが、エルヴズユンデに影響を及ぼす、その直前ギルティアは目を開ける。
「今ですッ!!!」
エルヴズユンデが、剣の振り下ろしを回避して、跳躍する。
「何ッ…!?」
空振りした凄まじいエネルギーが、爆発を起こす。
一瞬でも跳躍が遅れたら、爆発に巻き込まれ、かなり深い傷を負っていただろう。
「はあああああああああああああああああああああっ!!!!」
エルヴズユンデが、爆発に巻き込まれて仰け反ったインフィナイトの顔面に、飛び蹴りを叩き込む。インフィナイトが、仰向けに倒れる。
構築率、七十パーセント。
痛みが更に強くなる。左腕のヒビが、どんどん酷くなっている。
「う、ぐ…まだまだ…!!」
「流石は異形の力を扱う鍵ぞ…まさか、その状況でここまでの戦いをするとはな…だが、汝の力では結末は変わらぬ!!」
「自分の目に見えているものだけで…私を計ると…今に後悔しますよ…!!」
そう言って、ギルティアはニヤリと笑った。
八十パーセント。
「フ…言いおる…ならば、形勢が逆転する前に、決着をつけねばならんな…!」
「それが出来るのならば…やってみせなさい!!
クライング・フェザー…ブレェェェェェェェェイクッ!!!!」
飛び散る羽根にブラスターが乗り、紅の矢の雨が眼前の全てをなぎ払う。
そして、エルヴズユンデは、舞い続けている。
「…美しい舞いだが…悪いが、余に踊りの趣味はない!!」
その言葉と、矢が着弾するのは、ほぼ同時だった。
インフィナイトは、爆風の中央を強行突破する。
「ふんっ!」
インフィナイトの剣を、エルヴズユンデはそのまま回避する。
そして、回転運動のまま、インフィナイトに剣を叩き込む。
「ぬっ…!」
更に、至近距離から、矢が直接インフィナイトに叩き込まれる。
「ぐううっ…!!」
いくらインフィナイトといえど、防ぎきれずに吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。
「…ぬうっ!」
既に、研究施設は全壊、研究施設だった場所は、二人の戦闘で、巨大な空洞になっていた。
九十パーセント。
「うっ…ああ、あ、あああああああああああああああっ!!!!」
身を失う痛みには慣れている筈のギルティアが、叫び声をあげる程の、そう、身を切られる事すらも超えた痛み。
「…既に限界なのではないか?汝は、良く耐えたとも…その痛み、今断ち切ってやろうぞ!!」
「あ、うぅ…プログラム構築完了まで、残り、十秒…!」
「何ッ…!?」
インフィナイトが、ギルティアが何かを成立させんとしている事に気づく。
しかし、動くには時既に遅かった。
九、八、七、六、五、四、三、二、一…そして、彼女の望んだ奇跡は、形を成す。
「多重アクセスプログラム構築完了…!!」
エルヴズユンデの肩パーツが上に、そして横に開き、脚部に装備されたブースターが、羽根を広げるように開く。
「オーバーアクセス…アクセス率百五十パーセント!!アクセス『レベル2』…発動!!」
そして、その開いた部分から、紅の光が放たれる。
「はああああああああああああああああああああああああーっ!!!!」
エルヴズユンデの放出した根源的エネルギーが、凄まじい紅の光の柱となる。
更に、剣の放っていた閃光がどんどん大きくなり、遥かに巨大な紅の光の刃となる。
それと同時に、左腕に走っていた紅の光のラインが、中央に集まり、集まった部分に、紅の水晶のようなものが形成される。
それは、ギルティアの異形としての力が、最高位異形の力へと進化した事を意味していた。
最高位異形の力に進化しても尚、流れる血と、激痛は治まらない。
しかし、涙を流しながら、ギルティアはその痛みを捻じ伏せ、叫ぶ。
「…インフィナイト…勝負です!ここで、決着をつけます!!この宇宙群は…私が守ります…守ってみせます!!」
「またも戦闘中に自らを書き換えたか…だが、余は、負けぬ!!」
インフィナイトが、剣を構えて突っ込んでくる。エルヴズユンデが、それを真正面から受け止める。
今度は、やや押し勝ったのは、エルヴズユンデの方だった。
「ぬ、ううう…!!」
「やああああああああああああああっ!!!!」
エルヴズユンデは、幾度も剣に剣を叩きつけ、どんどんインフィナイトを押していく。
「何の!!」
インフィナイトが、その翼に衝撃波を乗せて羽ばたく。
「シールド展開!!」
衝撃波を、エルヴズユンデは左腕の光学シールドで防ぐ。
「…シールド、攻勢転換!!」
ギルティアの言葉と共に盾は効果を反転し、インフィナイトに、迫る壁となって襲い掛かる。
「ぐうっ!!」
それは、インフィナイトに真正面から直撃し、創盾や創壁を使う隙もなく吹っ飛ばされる。
インフィナイトが、壁に叩きつけられる。
「余は、負けぬ…彼女がまた笑ってくれるような世界を、今度こそ、この手で…この手で作るのだァァァァァァァァァァァ!!!!!」
インフィナイトの咆哮に呼応するようにインフィナイトの鎧の各部が開き、そこから、黒いエネルギーが放出される。
「…インフィナイト…!?」
インフィナイトもまた、異形の力を駆使し、自らの究極生命として内包している根源的エネルギーを直接、アクセス能力に上乗せしてきたのだ。
元々ある力を強引に引き出しているだけなのだ、ギルティアの起こした『奇跡』よりも、発動までの時間は遥かに早い。
だが、もちろん、そんな事をするということは、自らの身を蝋燭として火を灯しているようなものだ。
「何故…そこまで…!!」
ギルティアは、『彼女が、また笑ってくれるような世界』という言葉に引っかかるものを感じる。
一体、過去にインフィナイトの身に何があったのか。
だが、彼の目的は誰かの笑顔を、守る事だった…ギルティアは一瞬、インフィナイトが成し遂げたい事が、少しだけ分かった気がした。
しかし、だからこそ、ギルティアは、叫んだ。
「私は…この宇宙群の皆の笑顔を…守らねばならない…!!
たとえ、あなたが何を求めているとしても…この宇宙群に、手出しはさせません!!」
エルヴズユンデとインフィナイトが、同時に踏み込む。
一撃、二撃、三撃、幾度も剣が真正面から激突する。
その力は全くの互角で、両者共に一歩も譲らない。
そして、幾度目か、剣が衝突する。
「クライング・フェザー!!ディストレス・ストーム!!フル・バァァァァァァァァストッ!!!!!」
衝撃波を乗せた羽ばたきに、たくさんの光の矢が乗り、インフィナイトを、至近距離から創壁ごとぶち抜く。
「ぐう、ぬおおおおおおおおおおおおおおおーっ!!!!」
インフィナイトが、その傷を推して、強引に剣を押し切る。
「う、くっ…!」
エルヴズユンデの胸部に、深い傷がつく。
「この程度!!」
エルヴズユンデが、剣の柄でインフィナイトの頭部を殴る。
インフィナイトの頭部の角が、欠ける。
「ぬんっ!!」
インフィナイトが、創盾でエルヴズユンデを殴る。
エルヴズユンデの胸部砲身にヒビが入り、更に、エルヴズユンデがバランスを崩す。
「貰ったぞ!ギルティア=ループリングよ!!」
インフィナイトが、その瞬間をついて剣を、エルヴズユンデの核に向けて突き出す。
「何の!まだです!!」
エルヴズユンデが、突き出された剣を、左腕の爪で掴んで止める。
そして、自らの剣を地面に突き刺し、インフィナイトの剣を両手で掴み、そのまま、インフィナイトを投げ飛ばす。
「おおおおおおおおおおおおおおっ!?」
インフィナイトが、地面に叩きつけられる。
「やあああああああああああああああああああーっ!!!」
エルヴズユンデが、インフィナイトの背を踏みつけ、剣を突き立てようとする。
「させるものか…!!」
インフィナイトが、自らの背に光弾を展開し、光の竜を放つ。
「く、その姿勢でも使用できますか…!!」
それを、エルヴズユンデが、インフィナイトの背から離れ、叩き斬って迎撃する。
「隙あり!貰ったぞ!!」
次の瞬間、起き上がったインフィナイトが剣を構えて突っ込む。
「迎撃が、間に合わない…!?」
シールドの展開が一瞬遅れて、エルヴズユンデの胸部に剣が深々と食い込む。
「う、ぐ…!」
しかし、食い込んだ剣をそのまま奥に振り切るとしても、戻すにしても、一瞬の隙が出来る。
エルヴズユンデは、インフィナイトに剣を突き刺す。
「ぐあああああああああああああああああああーっ!!!」
そして、エルヴズユンデが、インフィナイトの胸部を蹴り飛ばして、距離を離す。
「ぐ、う…まだ、まだ…余は…負けぬ!!!」
ギルティアは考える。このままでは決着はつかない。
必殺技で押し勝ったとしても、インフィナイトに止めを刺しきる事は出来ないだろう。
何か、方法はないか。
…一つだけ、想定できる方法があった…この要塞の動力炉だ。
ここまで大々的に武装を稼動させ、ここまで大々的に異形の研究を行う事が可能なほどのエネルギーを発生させる、強大な動力。
インフィナイトの事だ、縮退炉か、あるいはそれに比肩する高次、上位動力を使用している筈だ。
ならば、そこに向けて、エルヴズユンデの必殺技ごとインフィナイトを叩き込めば、あるいは…。
ギルティアは、すぐにエネルギー反応を確認する。
この『研究室だった場所』から少し離れた場所に、通常ならば計測不能なレベルのエネルギー反応を確認できる。
…そこか。
エルヴズユンデが、そのエネルギー反応と、インフィナイトを挟んで反対側に立つ。
「インフィナイト…これで…決着をつけます!!」
エルヴズユンデが、剣を構える。
更に、左腕の爪から放たれるレーザーを刃の姿にし、閃光の刃と重ねる。
剣の光が、更に強く、そして、刀身が更に長くなる。
「…フ…果たして、出来るかな…!!」
インフィナイトの、暗闇を纏った剣が、暗闇に喰われ、それが、暗闇の刀身となる。
そして、紅と黒の翼が、同時に羽ばたく。
「コンヴィクション…クロォォォォォォォォォズッ!!!!!」
「ナイトレイド…リヴェリオォォォォォォォン!!!!!」
紅の閃きと、暗黒の轟きが激突する。
「ぐ、うおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
凄まじいエネルギーが周囲を容赦なく破壊していく。
「…はああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーっ!!!!!!」
エルヴズユンデの翼が、今一度羽ばたく。
それによって発生する絶大な推進力が、インフィナイトを、押す。
「何…だと!?」
「防御と攻撃の力はあなたに多少劣るとも…推進力は、こちらが上です!!」
剣と剣が激突したまま、エルヴズユンデがインフィナイトを押していく。壁を、何度も突き破る。
そして、インフィナイトはギルティアの思惑にようやく気がついた。
「な…汝…まさか!!」
「その…まさかです!!」
目的の場所に至る最後の壁を、エルヴズユンデが突き破る。そこにあったのは、超大型の高位縮退路だった。
これだけの出力があればギルティアを封印する事すらも可能であろう程に、強大なエネルギーを発生させている。
そして、エルヴズユンデが、そのまま、縮退路に突っ込む。インフィナイトが、縮退路にめり込む。
「インフィナイト…これで、最後です!!」
「ぐう…何の!…こんな…この程度の事で…!!!」
インフィナイトが、創盾と創壁を同時に展開し、すぐにそこを離脱しようとする。
エルヴズユンデの剣の、紅の光が再び強くなる。
そして、エルヴズユンデの胸部に、光が集まる。
「アトネメントプライ…!」
胸部に集まった光が、剣へと流れる。
「ジャッジメント!!」
そして、エルヴズユンデは、剣をインフィナイトに向けて投げつける。
創盾と創壁をぶち抜き、インフィナイトに、剣が突き刺さる。
「ぐ…あ…!!」
「フィニィィィィィィィィィィィィィィィッシュ!!!!!!」
剣に込められたエネルギーが、解き放たれる。
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーっ!!!!!!!」
インフィナイトが、その閃光に飲み込まれる。
エルヴズユンデの手に、光が集まる。
そして、剣は、エルヴズユンデの手へと戻った。
「願わくば、汝の罪が…祓われん事を…!」
その直後、縮退路のエネルギーが暴走し、インフィナイトを巻き込んで爆発を起こした…。
「…勝って、しまいましたか…確かに、私にはまだすべき事が残っていますね」
ギルティアは呟き、エルヴズユンデは脱出を開始する。要塞が、崩壊していく。
「インフィナイトの撃破に成功しました!!要塞が崩壊します!!皆、急いで逃げて下さい!!」
ギルティアは、咄嗟に、皆に通信を入れた…。
その通信に、まず、デストヴァールとラーゼルの本体を探して要塞内部に突入していた、レディオスと藤木が反応する。
「おい、レディオス!」
藤木の言葉を、レディオスが遮る。
「ああ、聞いている…流石だな」
爆発音が響いている。早く離脱しなければ。
「まぁ、それならば、これ以上捜索する必要はないが…」
今、レディオス達の周囲には、異形の入った培養槽が山のようにある。
「何も破壊せずに帰るのは、少々癪に障る…藤木、ぶっ放しておけ」
「おう!!」
藤木も、榴弾砲を放つ。
凄まじい爆発が、その周辺の培養槽を、部屋ごと薙ぎ払う。
「…行くぞ!!」
「おう!」
ジェネラルとフレアドイリーガルが、侵入したルートを脱出する。
一方、外では、要塞からの爆発で、エルグリオとシリウスの戦闘が中断する。
「な、何だァ!?」
「お嬢ちゃんが、お主らの親玉を倒したらしいな…!」
「…!」
直後、グランディオスが、エルグリオに合流する。既にイージスは戦艦まで後退したようだ。
「インフィナイト様は、こうなった時は自分を捨てて逃げろと言っていた…ここは退くぞ!!」
「おいおい…!」
「戦って死ぬのは勝手だが、今逃げなければ、我々も要塞の爆発に巻き込まれるぞ!
…そんな決着で、お前は満足なのか?」
その言葉に、エルグリオは渋々頷く。
「チッ…分かったよ!シリウス、お前も早く逃げろよ…また会う事があったら、その時こそ決着を付けようぜ」
その言葉に、シリウスはニヤリと笑い、頷いた。
「うむ、お主も、それまで死ぬなよ…!!」
「…ギルティア=ループリングに『またいつかお前と踊りたいものだ』と伝えておいてくれ」
グランディオスの言葉に、シリウスは頷く。
「承知した、確かに伝えよう」
「では、さらばだ!!」
「あばよ、シリウス!!」
凄まじい速度で、グランディオスとエルグリオが離脱していく。
今は、追撃する暇も余裕もない。急ぎ、要塞から離れねば。
アークトゥルースの横を、ジェネラルとフレアドイリーガルが抜けていく。
「藤木、レディオス!無事だったか!」
アークトゥルースが、それに続く。
「お嬢ちゃんはまだ脱出できていないのか!?」
「おい、ギルティアちゃんが向かったのはあの馬鹿でかい要塞の最深部だぜ?
…そんなにすぐに脱出できるかよ」
シリウスが、藤木の言葉に頷く。
「そうだな…だが、このままでは、お嬢ちゃんも爆発に巻き込まれてしまうぞ!!」
「…だが、彼女なら、生半可な爆発では死なない気はするがな」
レディオスの言葉に、シリウスが苦笑する。
「まぁ、無傷のお嬢ちゃんならその程度の爆発、容易に防ぎ切れるだろうがな…あの化け物と戦った直後ぞ」
その言葉に、二人が黙る。
「…お嬢ちゃん…無事でいてくれよ…!」
そして、三人がズィルヴァンシュピスに帰還する。
艦橋では、爆発までの時間と、爆発の距離を計算して、ギリギリの速度で後退を開始しながら、要塞の様子を見守っていた。
艦の横では、紅竜も同じように後退している。
「三人ともお帰りなさい…お姉ちゃんは、まだ要塞の中なの?」
要塞各部から、既に、まるで星が砕けるような爆発が発生している。
「ああ、お嬢ちゃんが向かったのは、最深部ぞ。そちらでは、お嬢ちゃんの位置を掴んでおらぬのか?」
「爆発のエネルギー反応が大きすぎて、どれがお姉ちゃんのなのか…」
直後、要塞から、凄まじい量の異形が、バラバラに放出されていく。
「!!!!!」
「お、俺達がぶっ壊したので全部じゃなかったのか!!」
「…どういう事?」
イセリナ達に、藤木とレディオスが、要塞の中で見たものを説明する。
「内部に異形のプラントがあったんだね…あの規模…これは、お姉ちゃんが帰ってきてから、相談してみなきゃね」
「問題は、その嬢ちゃんが一向に出てこない事だな…」
ファラオ店長が、爆発していく要塞を見ながら呟く。じきに、本格的に大爆発を起こすだろう。
その直後、だった。要塞の壁をアトネメントプライでぶち抜き、かなりの損傷を追ったエルヴズユンデが姿を現す。
その姿に、皆の表情が明るくなる。しかし、その直後、エルヴズユンデが、反転する。
エルヴズユンデの紅の翼が、更に強く輝く。
「この百五十パーセントのアクセス能力ならば…!!」
エルヴズユンデの翼が、要塞の周囲を覆う結界となる。
確かに、これだけの規模の爆発が起これば、周囲の境界空間にも少なからぬ影響が出る。
それを、可能な限り抑えようとしたのだ。
「はあああああああああああああああああああああああああああああーっ!!!」
その光は、爆発のエネルギー拡散を、完全に抑え切った。
「…これで、良い…」
ギルティアが微笑む。
「これで…やっと…終わった…これで…やっ…と…」
ギルティアの意識は、言葉と共に、そこで途切れた…。
続く




