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地平の旅人  作者: 白翼冥竜
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Act.77 新たなる力


   Act.77 新たなる力


 エルヴズユンデが、アークトゥルースの前に出る。

「…シリウス…無事でしたか…!!」

「お嬢ちゃんか…約束どおり、生き延びてみせたぞ…!!」

 シリウスは、そう言って笑った。

「ふふ…強がりを…私がアトネメントプライで加勢していなければ、次の瞬間に死んでいたでしょう。

 やはり、この宇宙群の人類は、まだ一人でやっていける程強くはありません。私が…誰かがいないと、守ってあげないと…!!

 …シリウス、後は私に任せ、撤退しなさい」

「仕方あるまい…この損傷では本当に足を引っ張ってしまうからな。

 お嬢ちゃん、先日は決闘の邪魔をしてしまって、本当にすまなかったな」

「いえ…私がここにいられるのは、皆が邪魔をしたせいです。

 もうあんな事はごめんですが…皆に、私が感謝していたと伝えて下さい」

 そして、インフィナイトを睨む。

「…さぁ、続けましょう!!」

 エルヴズユンデが、右手に剣を、左腕の爪にも紅のレーザーを刀身として固定して、構える。

「良かろう!!」

 インフィナイトが、剣を構え、突っ込む。

「…お嬢ちゃん…頑張れ、よ」

 シリウスは呟き、ズィルヴァンシュピスへと帰還していく。

 前のインフィナイトとの戦いでは、何も出来なかった。

 しかし、今回は『何か』が出来た、それが、嬉しかった。

 一方、エルヴズユンデは、インフィナイトの剣を両手の剣で受け止める。

「ミッドナイト・ハウリング!!」

「プリズナーブラスター…バァァァァァァストッ!!!」

 竜と熱量が食い合う。先日は押し負けたが、今回は全く押し負けてはいない。

「ぬぅ…やはり、思った以上に力が上がらんな…やはり、すぐにこの力を完全に引き出すのは不可能か…!!」

「…!!」

 やはり、ギルティアの想定通り、インフィナイトはまだアクセス能力を完全には使いこなせていない。

 それどころか、自身の想定以上に力を使いこなせずにいるらしい。

 一方それとは逆に、ギルティア自身は、先日の戦いでインフィナイトに決定的ダメージを与えられたであろう力を、今回は自在に使いこなす事が出来る。

 …今ならば、そう、今ならば勝てるかもしれない。

「ならば!!」

 エルヴズユンデが、強引に剣を押し返し、インフィナイトがバランスを崩した隙に、蹴りをぶち込む。

 そして、吹き飛ばされた先に、幾度もブラスターと拡散レーザーが叩き込まれる。

「ぐ、うっ!!」

 創壁と創盾を以ってそれを防ぐが、バランスを崩していたため、完全にカバーしきれずに、一部の攻撃が通る。

「何の!それでも、汝に遅れは取らぬ!!」

 爆風の中から、インフィナイトが強引に突っ込み、創盾でエルヴズユンデを殴る。

 エルヴズユンデが、左腕の爪で光学シールドを展開する。盾を、盾が受け止める。

「…シールド、攻勢転換!!」

 エルヴズユンデの展開した光盾が、攻撃を止めるのではなく、逆に迫る光の壁となってインフィナイトを吹き飛ばす。

「ぐうううっ!ミッドナイト・ハウリング!!」

 エルヴズユンデがインフィナイトを吹き飛ばした一瞬の隙を突いて、光の竜がエルヴズユンデを襲う。

 エルヴズユンデの左足が、食い千切られる。

「まだまだ!!」

 エルヴズユンデが強引に追撃し、一閃を叩き込む。

 インフィナイトの胸部に、深い傷がつく。

 インフィナイトが、斬り返す。

 左腕の爪が、それを受け止める。

 血が、流れる。

 もちろん、その血は、ギルティア自身が流す血でもある。

「はあああああああああああああああーっ!!!!」

 エルヴズユンデが、インフィナイトに頭突きを叩き込む。

 更に、剣の柄でインフィナイトの、胸部に先ほどついた傷の部分を、思いきり殴る。

「ぐ、お…何の、これしき!!」

 インフィナイトが吹き飛ばされるが、今度は瞬時に体勢を立て直し、逆に斬り込む。

「私は…負けません!!」

 剣と剣が激突する音が響く。双方が、瞬時に離れ、再び激突する。

 金属音が、幾度も、暗黒の空に木霊した…。


 一方その頃、憐歌は晴夜のベッドに寝かされていた。

「憐歌…」

 命に別状は無い、と、ギルティアは言っていた。

「…頼む、目を覚ましてくれ…!!」

 晴夜は、憐歌と唇を重ねる。

 晴夜は、自分で思う。何を考えているんだ。おとぎ話のお姫様を目覚めさせるのとは違うのだぞ。

 …いや、どう違うのか。可能性があるなら、どんな事でもする…だから、お願いだ、目を覚ましてくれ。晴夜は、そう強く願った…。

「…せー…や…?」

 憐歌が、ゆっくりと目を開ける。

「憐歌!憐歌…!!」

 晴夜が、涙を流す。

「…せーや…そっか、私…」

「ギルティアさんが、お前をここまで連れ帰ってきてくれたんだ!!」

 そして、ギルティアが話した、戦いの後に起こった事を、晴夜は憐歌に告げる。

「…私が…人間に…!?」

 憐歌が、驚愕し、自らの体を色々と確かめる。

 改めて確かめてみると、力はどんどん小さくなっている…じきに力は完全に失われるだろう。

「…そっか、私…本当に、使命から自由になれたんだ…」

「ああ…」

 だが、と、晴夜は続ける。

「…なぁ、俺達は、彼女に何もしてやる事はできないのか?」

「せーや…」

「彼女は、お前を助け、彼方の空で、今も戦ってるんだ…。

 お前も、俺も、皆を守る、皆を幸せにしてみせる、ギルティアさんは、そう言ってた。

 このまま、彼女が行ってしまったら、きっと、俺達は本当の意味で幸せにはなれない…!!」

 ギルティアが言ったという言葉と、先程言った助けた理由が、食い違っている。

 それはギルティアの、憐歌に対する、ギルティア自身のせめてもの意地悪だったのだろう。

 …素直じゃないなぁ、と、憐歌は思った。

 憐歌は少し考える。

 まだ、力は完全に失われてはいない。

 そして、その手が無いわけではない。

 じきに、自らの力が全て無くなってしまうと言うのならば、もしかすると、出来るかもしれない。

 晴夜が、それを望むというのなら…。

 …憐歌は、言葉を紡いだ。

「…前に、私がそれをやると死ぬかも、と言った手、使ってみるわ」

「な!?」

「少し、確認しなきゃ…もしかすると、力を失っている今なら、死ななくて済むかもしれないから」

 憐歌が、立ち上がり、外へと歩き出す。

「…力は持ってあと数十分…お願い、間に合って…!!」

 空間を閉鎖し、ヴェネディクスの核にアクセスする。

 数分間データを見ていた憐歌が、頷く。

「やっぱり…これなら、リスク無しであの手が使えるわ…晴夜、見てて」

「ああ…目を逸らさずにしっかり見守ってる!安心しろ!!」

「…ありがと、せーや。ギルティア、私すらも救おうとしてくれたというのなら、その借りは返すわ…!!」

 憐歌の背に、翼が輝く。翼は、既に散り始めていた。


 一方、インフィナイトとエルヴズユンデは、未だに戦い続けていた。

「ミッドナイト・ハウリング!!」

「プリズナーブラスター…バァァァァァストッ!!!」

 襲い来る竜をブラスターが迎撃するが、竜の数は徐々に増え、迎撃しきれない。

「まだ!」

 エルヴズユンデが、左腕から拡散レーザーを放って、辛うじて迎撃する。

「フフフ…どうやら、ようやく力を引き出せるようになってきたようだ…!!」

「くっ…!」

 確かに、インフィナイトは徐々に力を強めてきている。

「さぁ、抗えるというのならば抗ってみせよ!!」

 インフィナイトの剣に、黒いエネルギーが集まっていく。

「ナイトレイド・リヴェリオォォォォォォォン!!!!!」

 インフィナイトが、剣を両手で構えて、エルヴズユンデに突っ込む。

「プリズナーブラスター…バァァァァァァァストッ!!」

 エルヴズユンデの剣の刀身に、熱量が集まっていく。

「アブソリュート!コンヴィクション…スラァァァァァァァァァァッシュ!!!!!」

 左腕の紅の光の刃を、右手の剣と交差させ、インフィナイトの剣と激突する。

「お、おおお…!!」

「う、くううう…!!」

 凄まじいエネルギーの正面衝突。

 閃光が、周囲を白に染める。

「私は…皆を…幸せまで…導いてみせる…!!」

「余は過去の過ちを清算し…新たなる未来を…導く!!

 …うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーっ!!!!!!」

 インフィナイトの力がエルヴズユンデを圧倒し、エルヴズユンデを吹き飛ばす。

「…く、う…うう…」

 満身創痍のエルヴズユンデに、インフィナイトが迫る。

「…負けられ…な…い…のに…!!」

 エルヴズユンデが、吹き飛ばされた剣に手を伸ばす。

 しかし、直後、剣に光の竜が喰い付き、剣を噛み砕く。

「…!」

「汝に負けられぬ理由があるように…余にとて、負けられぬ理由がある…!!」

「わ、私は…諦めは…しません…!!」

 …左腕は、まだ動く。エルヴズユンデが、再び姿勢を整える。

 機体各部に爆発が発生し、左腕からも血が流れ続けている。しかし、ギルティアは、相手をしっかりと睨み付けていた。

 …その直後、だった。

 白い光が、暗闇で満たされた空間を飲み込む。

「…!?」

「何だ…!!」

 その光が放たれていたのは、ヴェネディクスの核だった。

「な…アクセス能力を奪われた核など、ただの石ころ同然の筈!!何が起こっているというのだ…!!」

 インフィナイトが唖然とする中、エルヴズユンデに通信が入る。

「苦戦しているようね、亡霊さん!」

 その声に、聞き覚えがある。

「…憐歌!目を覚ましたのですか!?」

「おかげさまで、ね。王子様のキスで、目を覚ましちゃった…今は、最高の気分よ!

 …今こうして通信ができるのは、鍵としての力の残滓よ」

 成る程、インフィナイトが最初、思うように力を引き出せていなかったのは、インフィナイトがまだ完全に力を自分の物にしていなかっただけではなかったのだ。

 そう、まだ憐歌の方に力の残滓が残っており、インフィナイトが扱える力が更に圧迫されていた。

 ならば、思ったよりも力を引き出せずにいたのも頷ける。

「だから…あなたが、全てを終わらせて成仏できるように、力を貸してあげる…この私の奥の手、受け取って!!」

 ヴェネディクスの核から放たれる光が、エルヴズユンデの胸部に集まる。

 そして、核の、ギルティアの前にその光が集まって姿を現したのは、一本の小さな鍵だった。

「…これ、は…!?」

「今まで使われなかったから、恐らくインフィナイトも知らない、鍵の能力…ギルティア、あなたの首元の宝石に、その鍵を当てて!!」

「…!」

 ギルティアが言われた通りにすると、紅の宝石が輝き、鍵がそこへと吸い込まれていく。

 直後、ギルティアの脳内に、沢山の情報がなだれ込む。

「…これは…!」

 その情報から、ギルティアはこれが何かを理解する。

「この宇宙群の力…あなたに託すわ…!!」

 憐歌の言葉に、ギルティアは頷く。

「…分かりました、ありがたく、使わせていただきます」

 通信が、少しずつ途切れ途切れになっていく。

「…間に合ってよかった」

「憐歌…私は、あなたの幸せを願います…だから、私は、この事態を私の全てを賭けて終わらせてみせます!!」

 その言葉に、憐歌は笑顔で頷いた。

「私も、あなたが使命を完遂して成仏できる事を願ってるわ…またね、お節介焼きの亡霊さん」

 その直後、通信は途切れ、ヴェネディクスの核は飛び散った…。

「…使命を果たすための力…私は…全てを終わらせる!!」

 ギルティアが叫びと共に、ギルティアの右手に、光が集まる。

 光の中から姿を現したのは、黄金の閃光の刃を持つ大剣だった。

 ギルティア自身が、そして、エルヴズユンデが光に包まれる。

 ギルティアの服装が、変わっていく。

 白と金を基調にした服に、弾力性のある金属の美しい装飾、そして、先程まで首の装飾についていた美しい紅の宝石は、胸元のリボンの中央に輝く。

「祝福されし世界よ…私に、この宇宙群の未来を切り開く力を!!フル・アクセス!!!」

 エルヴズユンデの紅の翼が、包んでいた紅の光を破る。

 ギルティアが、剣を核に突き刺すと、核に一瞬、紅のラインが走る。

 そして、エルヴズユンデの右手に光が集まり、黄金の閃光の刃を持つ、ギルティアが手にした物と同じ大剣が姿を現す。

「何が…何が起こったというのだ…!!」

 インフィナイトが、目の前で起こっている事に、目を、耳を、己が感覚の全てを疑っていた。

 間違い無い、ギルティアは百パーセントのアクセスを、成立させている。

 しかも、相手が手に持っているその剣こそが、そのアクセス成立の原因だ。

 一体、あの剣は何だ。そして、先程、一体何が起こったというのだ。

 何より、今の力は恐らく、互角か、ギルティアの方が上だ。

 まさしく、形勢が逆転した、という言葉が、相応しかった。

「インフィナイト…この力で勝負です!!」

 エルヴズユンデが、インフィナイトに突撃する。

「インフィナイト…データを取っていたのが私では無く彼女であったならば、この能力の存在には、あなたも気付いたでしょう。

 私には、鍵としての記憶も、能力もかなり欠落しています。

 そして、この力は、純粋に鍵である彼女だけが知っていた力…アウトプット・アクセスキーを他者に委譲する能力です!!」

 剣と剣が激突する。

「外部アクセスキー…だと!?」

 エルヴズユンデが、強引にインフィナイトを押し返す。

「はあああああああああああああああああーっ!!!」

 そのまま、強引に剣を振り切る。インフィナイトが、吹き飛ばされる。

 そう、ギルティアは、先程憐歌から託された力から、その力の全貌を理解した。

 鍵にもし万が一の事があり、自らの力を発揮できなくなった状態の時、鍵は、自らのアクセス能力を、他者に預ける事ができる。

 鍵以外の種族に対しては、武器として完全に外部からその力を与える。

 鍵に対しては、先程のように、その武器をその鍵の能力、装備として追加、自由にそれを行使可能にするのだ。

 しかし、リスクも存在する。

 外部アクセスキーを生み出した鍵が外部アクセスキーよりも先に死んだ場合、外部アクセスキーには影響は無い。

 だが、逆に、その外部アクセスキーの所持者が、そして、その武器が破壊された時、その能力を委譲した鍵もまた死ぬのだ。

 だから、勝算があるかも分からないギルティアに、この力を託す訳には行かなかった。

 しかし、状況に変化が生じた。

 そう、インフィナイトが、憐歌自身が内に持つアクセスキーを奪った。

 その結果、憐歌は鍵としては『死亡』したと認識された。

 それ故に、外部アクセスキーと憐歌とのリンクは解けた。

 そして、インフィナイトの内に持つアクセスキーとも、既に干渉は発生していない。

 かなり特殊な事態だったが、その結果、外部アクセスキーを託すリスクは消滅した。

 それ故に憐歌は、残った力を使って、心置きなくギルティアに鍵を託す事が出来たのだ。

「ぐ、ぐう…まさか、そんな隠し球があったとはな…!」

「…私は、負けません!負ける訳には行きません!!」

 そして、と、ギルティアは続ける。

「私は…もう負けません!!クライングフェザー…ブレェェェェェェイクッ!!!」

 エルヴズユンデの周囲に、翼が舞い散る。

 舞い散った翼に、ブラスターが激突し、紅の矢となってインフィナイトに襲い掛かる。

 凄まじい爆発が、インフィナイトを飲み込む。

「ぐうおおおおおおお!!!」

 この技は、ギルティアが、百パーセントのアクセスを発動していて初めて、使用が可能になる攻撃、

かつて封印される以前に、宇宙群を守る為に使って以来、使われていなかった攻撃だ。

 憐歌が先程の戦いで使用していた同種の技の、エルヴズユンデ版であるとも言える。

「何の!エンドレス・ハウリング!!」

「アトネメントプライ…ファイア!!」

 黒い竜と黒い閃光が激突する。

 竜が正面から撃ち抜かれ、インフィナイトに、閃光が直撃する。

「ぐ、が…これしきの事で!!」

 閃光を突き破って、盾を構えたインフィナイトが姿を現す。エルヴズユンデが、剣を構える。

「…インフィナイト…この一撃で…勝負です!!」

 左腕の紅の光が、右手に携えた大剣と重なると、大剣の刀身の黄金の閃光は、紅の閃光へと染まる。

「…良かろう!!」

 インフィナイトが、剣を構える。

 その剣に、黒い光が集まる。

 そして、エルヴズユンデとインフィナイトが、同時に突進する。

「コンヴィクション…クロォォォォォォォォォズッ!!!!!」

「ナイトレイド…リヴェリオォォォォォォォン!!!!!」

 凄まじいエネルギーが、真正面から激突する。

「願わくば…汝の罪が…!!」

 エルヴズユンデが、インフィナイトを完全に押す。

「祓われん事をぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーッ!!!!」

 そして、インフィナイトが吹き飛ばされ、エネルギーの乱流に飲み込まれる。

「ぐああああああああああああああああああああああああああああああああああああーっ!!!!」

 しかし、ボロボロになりながらも、インフィナイトはエネルギーの乱流に持ちこたえる。

「フ、フフ…見事だ…まさか、ここまでの反撃を受けようとは…」

「まだ…動けるのですか!?」

「…やはり、完全にこの力を自分の物にするには、今少しの時間が必要か…」

 そう、ギルティア自身も、今のインフィナイトの力が、少しずつ強くなっているとはいえ、本来想定していた力の半分にも満たない事には気付いていた。

「…ギルティアよ…ここは退こう。しかし、必ずや余は目的を達してみせようぞ!!」

 インフィナイトの言葉と同時に、インフィナイトの作り出した世界は崩壊を始める。

 二人の戦いで、既に崩壊寸前だった世界は、インフィナイトが少し干渉しただけで、崩壊を始めたのだ。

 この世界を何とかしなければ、すぐ近くにある憐歌がいる宇宙に被害が及ぶ。

 ギルティアは、剣を高く掲げ、世界の崩壊による被害を抑える。

 全てが、光に包まれる。

 しかし、そこには既に、インフィナイトの姿は無かった。

「…またも、逃がしてしまいましたか…」

 しかし、その直後、だった。

 突如、ズィルヴァンシュピスの方から、データが送信されてくる。

 座標データのようだ。その内容を見て、ギルティアは驚愕した。

「これは…!!」

 それは、インフィナイトの、本拠地のデータだった。

 そして、そのデータに添えられた最後の一言から、それが誰からのものか、理解する。

『貴公の、健闘を祈る』

「…ルーク…ええ、ここで終わらせてみせましょう。

…インフィナイト…あなたの目的を、ここで終わらせます!!」

 そして、エルヴズユンデは、猛然と、移動を開始した…。


 一方、その頃、ズィルヴァンシュピスには、アークトゥルースが帰還していた。

「これはまた派手にやられましたなぁ…」

 アークトゥルースを見上げ、アルフレッドが呟く。

「何、この程度は問題は無い。それよりも問題は、お嬢ちゃんだ」

「…ですな。あの航路の先には、航路図を確認しても、何も無い…目的地は恐らく、インフィナイトの本拠地…。

 ズィルヴァンシュピスも推進装置の復旧は何とか出来ましたが…今の小生達が出ていっても、足を引っ張ってしまうでしょう。

 今の小生達の戦力では、主砲と次元閉鎖破砕砲で、遥か後方から援護射撃するくらいしか出来ないでしょうな」

「お姉ちゃん…無事だといいけど…」

 イセリナが呟く。

 直後、シリウスが、何かを思い立ったように走り出す。

「…そうだ!!」

「シリウス社長!?」

「少し、助けのあてがある!!隠れていたあの状況での通信は危険だったが、今ならば!!」

 シリウスは、通信室へと突っ込む。

「…艦はお嬢ちゃんの向かったルートを追跡、敵本拠地の方へ移動を頼む!!」

「り、了解しました…!」

「なら私は艦橋の方に行くよ!」

 アルフレッドとイセリナが艦橋に戻ると、ファラオ店長が一人で留守番をしていた。

「アフターバーナー点火!急いでギルティアさんを追ってくれ!!」

「了解!どうやら、何か手が見つかったらしいな?」

 ファラオ店長がニヤリと笑うと、アルフレッドが頷く。

「小生にも分からんが、シリウス社長に何か考えがあるらしい」

 通信室では、シリウスが、ある人物宛てに、通信を連打していた。

「イージス…いや、アイギス!応答せよ!!」

「こちら、紅蓮の旅団、アイギス…その声紋は記憶にあり。シリウスであると判断」

 通信への応答がある。黒髪の男が通信に応答する。アイギスだった。

「…その声色からして、緊急の用件と判断…用件を聞こう」

「…つ、通じて良かったぞ…お嬢ちゃんが、撤退するインフィナイトを追って、単身、インフィナイトの本拠地へと向かった」

「!!!!」

 その言葉に、アイギスは頷く。

「…連絡の理由を理解、それは最重要事項であると把握。

 紅蓮の旅団のリーダーに報告し、すぐにそちらと足並みを合わせよう…何か必要なものはあるか?」

 シリウスは、今までの事の顛末をアイギスに告げる。

「…よって、何とか艦の修理は終わっているが、こちらはまだ機動兵器が万全ではない。

 人員の不足も激しいのでな…修理用の人員は欲しい所だ」

「了解、手配しよう。そして…イセリナか…まだ旅を続けていたとはな。

 …面倒ごとがあると厄介だ、俺はイージスの姿でいさせてもらうぞ」

 そして、アイギスが続ける。

「合流場所は追って伝える…また後で会おう」

「…承知した。では、また後でな」

 通信が切れる。

 シリウスは、そのまま艦橋へと走る。

「わしのちょっとした知り合いに通信しておいた。確か所属は…『紅蓮の旅団』と言っておったが…」

 その言葉に、イセリナが反応する。

「ぐ、紅蓮の旅団!?それって、昔の白銀の旅団に匹敵する勢力を持ってる、今のこの宇宙群最強の旅人の集団じゃない!!」

「そうなのか?…それは僥倖だ」

 シリウスは、ニヤリと笑う。

「修理用の人員についても要請しておいた…決戦だ、大盤振る舞いで参ろうぞ!!」

 その言葉に全員が応え、それぞれの作業に戻っていった…。


 同じ頃、アイギスも紅蓮の旅団の母艦、紅の巨大戦艦の艦橋に報告をする為に足を運んでいた。

「ガザード…緊急の用件だ」

 その言葉に、艦長席に座っている、ガザードと呼ばれた紅髪の男が応える。

「アイギス、先ほど通信があったようだが、その事なのか?」

「その問いに肯定と返答、『彼女』が、撤退したインフィナイトを追って、単身インフィナイトの本拠地に向かったそうだ」

 その言葉に、ガザードは驚愕する。

「一人でか!?」

「ああ、この宇宙群の鍵からアクセス権限を強奪したインフィナイトを、単身で撃退したようだ」

「そいつは…!!」

 アイギスが、シリウスから聞いた全てをガザードに告げる。

「成る程な、白銀の旅団の面々と行動を共にしているのか…その男は。

 フ…白銀の旅団と言ったら、旅人の間に語り継がれる伝説の旅団だ、出会えるというのならばとてつもない光栄だな…。

 …分かった、ではすぐに我々も彼らに合流しよう!!」

 そして、ガザードは艦内全体に通信する。

「野郎共!無茶苦茶強いお嬢さんがインフィナイトに一人で喧嘩を売りに行ったらしい!!いよいよ、待ちに待ったパーティーの始まりだ!!

 しかも、その嬢ちゃんのバックに、俺達の憧れ、白銀の旅団までついてるらしい!!

 こいつぁ、燃えてこない方がおかしいってもんだ!そうだろ!!」

 艦内全域から、歓声が響く。

「さぁ、彼らと合流し、インフィナイトをギャフンと言わせてやろうぜ!!

 この宇宙群の未来は、俺達のもんだ!『紅竜ぐりゅう』全速前進!!」

 『紅竜』と呼ばれた紅の巨大戦艦は、前進を開始する。

 その様子を、アイギスは見守りながら、人間とは面白い生き物だな、と思った。

「…俺は、出撃準備をしてくる」

 そして、アイギスは機動兵器の出撃準備のために歩き出した…。


続く


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